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異世界で少女とまったりするために頑張る  作者: レモン彗星
第1章…迷宮都市での基盤づくり
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34.誰が為の処世術…インパクトの塊によるありがたいお言葉付き

フルールさんとメリーちゃんの服を買うために服屋に来た。


さっきの野良オークション会場から徒歩数分の距離のそこは、オシャレながらも親しみやすい外観の、なかなかいい雰囲気なお店だった。


ここならこの2人にバッチリ合う服が見つかるだろう。


だがその前に…


「ハルキさん…今から買う予定の服は、外着を2着ずつと部屋着を1着ずつにパジャマも1着ずつ。下着もここで合わせていくのでそれも買っていく予定です。…軍資金はあるのは知っていますが、本当に大丈夫ですか?」


無一文の俺は、出資者のハルキのお金が心配だ。


この2人を147万で落とし、軍資金の残りは50万あるのは知っているが、服というのは存外高い。


シンプルな服は安めなのだが、少しでもオシャレな服となると一気に跳ね上がるのだ。


それを2セットずつともなれば、オーバーすることはまず無いとしても、かなりのお金を失うのは確実。


恐らくだが、ハルキの言う軍資金はかなりギリギリのところまで絞って持ってきたものだと思う。


それをすでに4分の3使ってしまっているので、俺は今ハルキのというよりは、この迷宮都市の財政が心配なのだ。


さすがにそこまで無茶はしていないと思ってはいるが、先程のハルキの人助けに対する無鉄砲さを見てしまったので、その思いも今かなり揺らいでいる。


そういうわけなので俺はハルキに本当に大丈夫なのかを、出費予定の物を並べ聞いてみた。


「大丈夫だよ。それにちゃんとみんなの分の給料とか、大事なものには触れてないから」

「ふぅ…良かった…さすがにそのぐらいの理性はありましたか」

「ははは…ホントごめん…もう大丈夫だから」

「信じますよ?こっちはあなたに頼らないといけないので、少しでも危ないと思ったら言ってくださいね?じゃないとララさんに怒られますよ?」

「うっ!?それは怖いね……大丈夫、ちゃんと言うよ」


本当に大丈夫かねぇ……?

一応俺も値段に気をつけつつ、目的を達成することを大目標として設定しておこう。


なんとなく、今日のハルキは心配だ。

…やっぱり俺が何かしたのかなぁ……?


「マーガレット?どうしたの?」

「ん…いえ、なんでもありません。さ、それじゃあ入りましょうか」


まぁ、今はとにかく服を探そう。

あれこれ考えるのはその後だ。


「いらっしゃいますぇ〜♡」


俺たちが店に入ると、なんだか野太い声がキャッピキャピな口調で出迎えてくれた。


「…ハルキさん、このお店に来たことは?」

「…無いね、確かまだ出来てからそんなに経ってないから、挨拶に来れてないんだ。だから、ついでに挨拶も済ませておこうと思ってここにしたんだけど……」


(?なんで2人ともそんな遠くを見つめて話しているんですか?)

(お約束の気配を察知したからだよ)

(オヤクソク?)


そんな会話をしている俺たちの前に、先程の声の主が姿を表した。


「あら?可愛い子だらけじゃない!いらっしゃいますぇ!今日は何をお探しかしるぁ?」


野太い声から予想はしていたが、やはり出てきたのは筋骨隆々のナイスガイ、が可愛らしい服を着ている、そういう人だった。


「「(…………)」」


マグと後ろの2人が絶句している中、予想通りでむしろ安心を覚えた俺とハルキはその人に要件を伝える。


「初めまして、僕はハルキと申します。これでも一応この街で商人をしております。本日はご挨拶と、後ろの2人に服を買うためにここに来させていただきました」

「んまっ!これはご丁寧にどうも!ワタシはローズ、気軽に「ローズちゃん♡」って呼んでくれていいわよ?」

「あ、あはは…ありがとうございます…ローズさん…」

「あら、良いって言ってるのにぃ…シャイなんだから♡」

「は、はは…すいません……」


頑張れハルキ。

多分もう少しでこっちに向かってくるから。


「それで?この子たちは…ってあら?あらあら?」


ほらきた…と思ったのも束の間、ローズさんは俺を見て何やら目を輝かせている。


そして次の瞬間、


「!?」

(ひっ!?)


俺のすぐ目の前まで顔を寄せてきたローズさん。


…びっくりした……。

びっくりしたし、マグが怯えてるからやめてほしい。


「あなた、もしかしてマーガレットちゃん?」

「えっ?なんで分かったんですか?」

「やっぱり!黄色い髪にギルドの制服を着た小さい女の子を見たって、昨日来たお客さんが話してったのよぉ!」

「へぇ〜」


そんな噂されるようなことしたかな……?


んー……したなぁ……。

厳密には俺の格好が目立ってたんじゃないか?

昨日の俺はチェルシーから借りた、羽がある種族でも大丈夫な、背中がガラ空きの特別仕様の制服を着て、外に出てたからなぁ。


それにハルキたち自身が目立つってのもあるだろう。

ララさんにチェルシーにリンゼさんとマグという、美女・美少女揃いの集団など目立たない訳がない。


…まぁ変な噂が立ってなければ良いのだ。


「その話の内容も気になりますけど、私たちこの後予定が入ってまして…申し訳ありませんが少し巻きでお願いしてもよろしいですか?」

「あ、あらワタシったら…ごめんなさいね?他人の噂とかが大好きなの」

「いえ、こちらの都合ですし、「他人の噂は蜜の味」とも言いますし、そこまで気にされなくて大丈夫ですよ」


言ってから、このことわざなんとなく違う気がしたけど、意味合いはあってるだろうから別にいいや。


…というかハルキ、自分からロックが外れたからって空気に溶け込もうとすんな。


「…本当にしっかりした子なのね……。と、ありがとね。じゃあさっそくだけど、その子たちの服を見繕えば良いのよね?」

「はい。お願いしたいのは、部屋の中用と寝る用の服を1着ずつと、外用のを2着ずつです」

「分かったわ。じゃあ貴方達はこっちに来て。ちょっと体を測らせてもらうわよ?」


こちらの要望を伝えるとさっきまでのキャルンキャルンな雰囲気から、できる女のような雰囲気を(まと)い、さっそく仕事に取り掛かるローズさん。


(…さっきまでと別人みたいです……)

(さっすがプロだね)


マグは早くもローズさんに慣れつつあるのか、なんとなく好意的な印象を抱いたような口調で言う。


だが、フルールさんとメリーちゃんはまだ慣れていないようだ。


はちゃめちゃに警戒したフルールさんがローズさんに噛み付いてしまった。


「く、来るなっ!」

「大丈夫よ、すぐに終わるから」

「そんな言葉を信じられるか!」

「うーん…ねぇ、ハルキちゃん。この子たちもしかして、さっき外で賑わってたのと関係ある感じ?」


ハルキちゃんて。


「ハ、ハルキちゃん……。ご、ごほんっ!!そうです、さっき近くで無断でオークションを開いているのを見て、騎士団は間に合いそうになかったので僕が買いました」

「私も見届けました。この後ギルドに報告する予定です」

「そうなのっ!?それなら確かに急いだほうがいいわね!それにこの子の態度も納得だわ。でも…」


若干顔が青いハルキ()()()と、さっきの急接近以外特にダメージの無い俺の説明に納得してくれたローズさん。


だが、ローズさんはフルールさんの方を向くと、厳しい表情を浮かべ言った。


「貴方はもう少し身の振り方を考えた方がいいわ」

「…誰が人間の言葉など……」


ローズさんがフルールさんに忠告をする。

しかしフルールさんは聞き入れようとしない。


…よほど人間に恨みがあるんだろう。

だが…


「貴方の行動ひとつでそっちの子にも危害が及ぶとまだ分からないのかしら?」

「!」

「この子たちにはそんな気は無かったからいいけど、普通の人は奴隷がそんな態度を取れば立場を分からせるか、売り払うかのどちらかよ。ましてや貴方たちは違法な手段で売られたのよ?今言った事よりももっと酷い目に遭うかもしれないわ。それは、そっちの子にも言える事なのよ?」

「それは……!」


そういうことだ。


フルールさんにとって、メリーちゃんが大切な存在なのは見てるだけでも明らかだ。


守りたい存在がいるのは、自分の心の支えになり、自分を強くする。


しかし同時に弱点にもなる。


「貴方がそんな態度ばかりだと、その子を人質にされるのは確実よ。むしろ、面白がって貴方の目の前でこの子を壊してしまうかもしれないわ」

「そんなっ!?」

「例え話よ。でもありえない話でもなかった。分かった?貴方の動きひとつでその子の運命は変わるのよ」

「…………」


ローズさんの言葉に、フルールさんは歯を食いしばり黙り込んでしまう。


…本当は分かっていたのだろう。


競りの場で見た彼女は、虚ろな目でただ成り行きを見守っていた。

あの時点でもう気付いていたはずだ。


なのに今こんな態度を取ってしまったのは、恐らくハルキが甘い人間だと分かったからだろう。

要は、ハルキは舐められているのだ。


物理的に舐められたのなら、俺は爆発しろとしか思わないが、下に見られていると言うのなら話は別だ。


可愛さに基本的に無力な俺でも、友人を馬鹿にされているのならば不快にもなる。


だがフルールさんの場合は少し違う。


彼女はずっと緊張の糸が張っていたのだろう。

それがハルキという優しそうな、そして非力そうな人間に買われたことで緩んでしまった。


それが忘れていたプライドを思い出し、人間への憎しみを思い出させたのだろう。


結局、彼女も必死だったのだ。

そんな彼女を俺は責められない。

恐らくハルキもそうだろう。


だからローズさんがこうしてフルールさんを叱ってくれたことで、失礼ながら俺は安心してしまった。


同時に、自分が言いづらいことを人に言わせてしまったという罪悪感も出てくる。


…俺ももっと勉強しないとな。


「さ!暗い話をしちゃってごめんなさいね?急ぎなのよね?待ってて、良さそうなのをいくつか見繕ってくるから!」


話したいことを話し終えたのか、ローズさんは手をパンっ!と叩き、努めて明るくそう言うと、服を選びに店の奥に向かって行った。


「…………」


俺たちは、未だ押し黙っているフルールさんを気にかけながら、彼…彼女?が戻ってくるのを待った。

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