333.目撃報告…緊急会議
〔ハルキ〕
ダニエル「…という知らせが入った」
ハルキ「そうか……翡翠龍が……」
グリム「姿を見たという話はおよそ二ヵ月ぶりだね……」
ジル「そうだな……それ以降出現報告はなかったが……」
ミュイファ「この街に来た商人たちや他の移住者たちに聞いても所在が分からなかった翡翠龍が、まさかナージエで確認できるとはね……」
マル子『はい……それも……ナージエのさらに北にある村…… 帝国との国境に最も近く、ノスノ男爵の領地内であるタッキ村の焼失と同時に……』
ガリオン「……その村の生存者がいるのを願うばかりだな……」
全員『……』
ナージエに送った斥候…コウスケが仲良くなったエリーゼとフレデリカというふたりの女の子の護衛に付けた隠密ギルド員からの報告書。
ダニエルに呼ばれたときは嫌な予感がしたし、それが他のギルドマスターも呼ばれてると聞かされてさらに強くなった。
そしてその予感は見事に的中した。
マル子も参加出来るよう魔道具を設置してある迷宮内の特別な会議室。
そこで知らされたのはマーガレットちゃんの故郷、ロッサ村を焼き払った元凶である翡翠龍の出現。
それと同時に確認された、タッキ村の焼失。
この迷宮都市からは遠く離れているものの、ヤツは2ヶ月間隠密ギルドが必死に捜索しても見つからないまま、新たな犠牲者を生み出した。
次にいつ姿を現すか…そしてその標的がどこなのか……。
それが分からない以上油断はできない。
グリム「出現の予兆は?」
ダニエル「なし。ただ、ナージエの術士共がその日の夜に学園全体に大規模な睡眠魔法をかけていたようだ。耐性のあるアクセサリーを付けていたからウチのメンバーは大丈夫だったがな」
ハルキ「その魔法はいつもかかっているものなの?」
ダニエル「いや、向こうに着いてから初めてだそうだ。翌朝にエリーゼの嬢ちゃんが「夜中に起きたことがないから新鮮な夢だった」と言っていたらしいから、恐らく今回が初めてと見て間違いないだろう」
マル子『それは…信用できる情報として扱っていいんですか……?』
ミュイファ「まぁ子どもの言うことではあるけど、その子が聖女の妹で、魔法に対して耐性が出来る《加護》持ちなんだから、割と信用できるかもよ?」
ジル「《加護》持ち、なぁ……」
しみじみと言ったジルさんにみんなの視線が集まる。
ただ言いたいことはよくわかる。
グリム「まさか、第二王女と聖女の妹がお忍びでこの街に来るなんて思わなかったよ」
ジル「ほんとにな。最初に知らせを受けたときは耳を疑ったぞ」
ハルキ「僕だってそうですよ。でも、どうしたもんかと悩んでる間に偶然通りがかったコウスケが対応してくれて助かったよ……」
ミュイファ「しかもお友だちになってくるというオマケ付き♪」
ダニエル「おかげでそこまで苦労することなくナージエの学園内に入り込めたわけだ。ありがたいことだぜ」
グリム「うちのシエルとも仲良くしてくれてるしね。そういえば、君のところのリオくんはその後どんな様子だい?」
ガリオン「……それがな……」
グリムさんの質問に重苦しい雰囲気を出し始めるがガリオンさん。
それにただならぬものを感じた僕たちは少し身構えた。
えっ、なに?
チェルシーからは何も聞いてないんだけど……まさかまた何かあったとかじゃ……
ガリオン「リオのやつがな……」
みんな『……』
ガリオン「…打ち直しが出来たって嬉しそうに剣を見せてくれてな……!」
みんな『……うん?』
ガリオン「あのリオが……ちょっとずつ鍛冶仕事に戻ってきてんだって…そう思ったら年甲斐もなく涙が出そうになっちまってなぁ……!」
ハルキ「えっと……」
ダニエル「……よかったな……」
ガリオン「おぅぅ……!」
思ってた内容とは違ったが…まぁ、喜ばしいことではあるので誰もツッコもうとはしなかった、
ガリオン「ただなぁ……これもコウスケのおかげだとは分かっちゃいるんだがなぁ……どうしても考えちまうことがあってなぁ……」
マル子『…?何かコウスケさんに思うところが?』
ガリオン「いやな?ウチの娘と仲良くやってんのはいいんだが……今更だってのは承知の上で言うが、アイツら距離感おかしくねぇか?」
ハルキ「言ったぁー!みんな思ってたこと言ったぁー!」
これには他の面々も苦笑い。
グリム「そうだねぇ……私もシエルを預かってしばらく経つけど、あそこまで誰かに甘えてる姿は見たことなかったよ……」
ジル「ウチもだ……しかもアタシんとこに関しちゃ完全に狙いに行ってる……」
マル子『えっ、そうなんですか!?』
ダニエル「あぁ~……ウチのやつらもそんな話してたな……曰く、行動が完全に娼婦が客を捕まえるのに使うようなやつ、だそうだ」
マル子『え~っと……?』
ジル「腕や腰に抱きついて自分の体を密着させてるってことだろ?」
ダニエル「あぁ、多分それであってる」
ミュイファ「えぇ~…?サフィールちゃんってまだ10歳じゃなかったっけ?どこでそんなこと覚えたんだろう……?」
ジル「ダニエル」
ダニエル「…はっ!?俺はなんも言ってねぇぞ!?なんならちょっと避けられてる!」
ジル「まぁ危ないやつには近づくなって言ってあるしな。だがそうじゃなくて、お前んとこに入った、コウスケたちと一緒に暮らしてるらしい狐娘いるだろ?」
ダニエル「うん?あぁ、ユーリか?いやちょっと待て、危ないやつって言ったか今?」
ミュイファ「ダニエル、今はそんなことはいいの。それで?」
ジル「そのユーリって娘とサフィールが話してるのに偶然通りがかったってやつがいてな。そいつの話によれば、サフィールが狐娘に何か相談してたらしいんだが、それの返しが胸をもっと使え的な答えだったそうだ」
グリム「それはつまり……ユーリくんのアドバイスによって、コウスケくんは苦しみマーガレットくんは大はしゃぎ…と?」
ジル「そうなるな」
ダニエル「なにやってんだあいつ……」
ユーリさんはコウスケのことを知っているはずなのに、どうしてコウスケが苦しむようなことを……?
ミュイファ「…まぁ…彼も男の子だからね。なんだかんだおっぱい好きそうだし」
ガリオン「ほんとにやめさせるつもりなら口の回るアイツならすぐにでもやめさせられそうだしな」
グリム「それかサフィールくんに押し負けた、とかかもね。彼あの子たちにめっぽう弱いし」
ダニエル「その嬢ちゃんがちょっとでも楽しそうにしてたら、あいつは多分止めるべきか悩むだろうしな」
ハルキ「この前の聖歌隊が来た時に凄い助けてもらってたってチェルシーが言ってたし、もしかしたらお礼として、ってのもあるかもね」
ジル「あぁ~…そうだな……聖歌隊の連中が来てからはあからさまになった感じだな。なんつーか、それまではちょっと遠慮気味っつーか、それこそ何かの礼って感じで人目を気にしてこっそりとって感じだったんだが、聖歌隊の連中が…いや、聖歌対策が出来てからは余計にというか、今の感じになった感じだな……」
マル子『元々あった好意がより強くなった、ということですね』
グリム「それも友情とは違った好意にね」
ジル「……アタシはどうしたらいいと思う?」
ダニエル「どうって?」
ジル「サフィールの初恋を応援してやりたいけど、相手はすでに恋人持ちとか二重人格とはまた違った感じで1人で2人なやつだからとかそもそもサフィールから見たら同性同士だし…いや性別は割と関係なかったりすることもそこそこあるんだがそれはそれとしてだな……」
ダニエル「わかった。わかったから一旦落ち着け」
ジル「あ、あぁ…すまん……」
ダニエルさんに言われひと息ついたジルさん。
しかし同じ問題を抱えた保護者は他にもいて…
ガリオン「リオがなぁ……見てるとアイツ明らかになぁ……」
グリム「シエルもちょっと怪しいんだよねぇ……誕生日会でもらった人形を時間が空いたら毎回眺めては嬉しそうに微笑んで……でもあの子の宝物が増えたのは喜ばしいことだし……トラウマを少し乗り越えられたのは嬉しいことなんだよねぇ……」
ハルキ「大変だねあなたたち」
まぁ僕には関係ないか、と考え直して紅茶を飲んでると、ミュイファさんが僕に話しかけてきた。
ミュイファ「な〜に他人事みたいに言ってるの?キミのところのチェルシーちゃんもめちゃくちゃ懐いてるんだからね?」
ハルキ「え?いやぁでもチェルシーは…」
ミュイファ「大丈夫って?チッチッチッ…甘いよハルキっち。よく考えてごらんよ?コースケくんの周りにいるのはチェルシーちゃんと同じ年頃の女の子たちばかり……しかもそのほとんどが彼に好意を持っているんだよ?チェルシーちゃんももしかしたら……」
ハルキ「残念ながらチェルシーもコウスケもそういうことはしないと信じてるんで大丈夫です」
ミュイファ「ちょっとくらい動揺してくれてもよくな〜い?」
マル子『ハルキで遊ばないでくださいよミュイファさん』
ミュイファ「ちぇ〜」
やれやれ。
ミュイファさんにも困ったものだ。
確かにチェルシーとコウスケの距離は近いけど、チェルシーはイタズラ感覚だしコウスケも困ってるしでそんな関係になるには……。
……いやこれ超王道のラブコメ始まりそうな関係だな?
ま、まぁ…コウスケがいつも人妻としての自覚を持って欲しいって愚痴をこぼしてるし、大丈夫だと思うけど……。
……ちょっと、漢を上げようかな……。
ダニエル「まぁそれはお前ら保護者組が考えるとしてだ。そろそろそのお嬢に対してどうするかを決めるべきじゃないのか?」
マル子『そう…ですね……』
そうだ。
その問題があった。
グリム「知らせておくべきだと思うよ。どうせいつか噂が広がってくる。その時に私たちが知っていたかも…という可能性をほんの少しでも持たれたしまえば、そこから不信感に繋がりかねないしね」
ジル「だが今伝えてもアタシたちに出来ることは限られている。それが一般市民として生きてるマーガレットならなおさらだ。それに教えて彼女のトラウマが再発してしまう可能性がある以上、医療ギルドとしては賛成出来ない」
ガリオン「俺は知らせた方がいいと思う。会話ってのがどれほど大事なものか、身をもって知ったばかりだからな……」
ダニエル「なら娘と罵り合わずに話せるようになれよ」
ガリオン「今さらそんなこと…俺もアイツも出来ねぇよ……!」
ダニエル「そうだろうな。で、だ。俺も知らせる派だな。遅かれ早かれ知られるならさっさと教えた方がいいってのもあるが、コウスケの知恵も借りたいってのが1番だな。ハルキもそうだが、どうやらお前たちは龍の倒し方に心当たりがあるっぽいからな。それなら頭は多い方がいいだろう」
ミュイファ「私は反対かな〜。賛成派の意見も分かるけど、マーガレットちゃんにはもう平和に暮らしてほしいよ。他の子達と一緒にさ。コウスケの力を借りれないのは残念だけど…でも、子どもたちを巻き込むのはやっぱり気が引けるからね。こういう時に大人がしっかりしないとでしょ?」
マル子『私は……反対です。彼女にはチェルシーたちと一緒にずっと笑顔でいてほしいんです。それにコウスケさんにみんなのことを支えてもらえれば安心できます。たとえすぐに分かることだとしても……あの子たちの笑顔を少しでも曇らせるようなことはしたくないです……』
ダイン(冒険者ギルドのギルドマスター)「俺は賛成だ。いつこの街が襲撃されるかも分からない以上、少しでも勝率を上げられるならなりふり構っていられない」
ダニエル「賛成4、反対3だな。だが…決めるのはお前だ、ハルキ。どうする?」
各ギルドマスターの意見が並んだところで、ダニエルさんが話を振ってきた。
他のメンバーも一様に僕に注目している。
ハルキ「僕は……」
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〔コウスケ〕
コウスケ「で、こうして教えてくれたわけか」
ハルキ『うん……』
コウスケ「なるほどねぇ……」
マグ(翡翠龍……)
朝のハルキとの通信タイム。
そこで知らされたのはあまりにも衝撃的な話だった。
話だったのだが……それと同時に気付いてしまった。
俺そういやなんの対策も講じてねぇや、と。
いや、まぁほら。
迷宮都市なわけだし?
翡翠龍が襲撃してきたらハルキと協力して迎撃だ!って想定はしてたんだけど……。
どっちかというと、寝床みっけ!準備おっけ!一狩り行こうぜ!の方が可能性としては高いじゃんということに最近気付いたんだよね……。
ウソです。
これも今気付きました。
サバ読みましたごめんなさい。
そんなマッチポンプ謝罪よりも大事なことがあるのでこのくらいにして、俺はマグの様子を確かめる。
マグ(……やっぱり目を抉るところからかな……いや、それよりも羽をどうにかもいで飛んで逃げられなくしてからのほうが……ぶつぶつ……)
すでに狩り方を考えていらっしゃった。
しかも戦法がだいぶエグい。
この子嫌いな相手は効率的に仕留めるタイプだ。
う〜ん……まぁマグがやる気に満ち溢れてるのは良いことだろう。うん。
少なくとも悲しみに暮れるよりはだいぶ良いはずだ。
きっと。
まぁそういうことなら、ある程度こっちでも狩り方を詰めておこう。
コウスケ「ハルキ。迷宮都市の防備は?」
ハルキ『まちまちだね。ダミーフロアの準備は出来てるから、とりあえずはこれで被害を減らせるはずだよ』
コウスケ「なるほどね。それなら仮に襲撃されても多少は余裕を持てるかな……」
ハルキ『うん。ただの身代わりだから、翡翠龍を落とすにはまったく使えないけど、これで少しだけ余裕ができたのは事実だね』
それならよし。
余裕は大事。
ゆとりは超重要案件。
コウスケ「しっかし…反対意見が半数占めてたんだろ?今後その反対派の人たちとは大丈夫なのか?」
マル子『問題ありません。私たちも賛成意見は理解しておりますから』
コウスケ「そっか。マグの心配してくれてありがとね」
マル子『いえ……それくらい当然のことですから』
コウスケ「それを口にしてくれたってのが嬉しいんだよ」
ちゃんと理解してるぞって示してくれるだけでもだいぶ変わるからな。
コウスケ「ん、そうだ。ヤツの拠点が割れたときはこっちから出向くのか?」
ハルキ『出来ればそうしたいね。どの程度の武器なら鱗を貫けるかも試さないとだし、こっちから仕掛けられる状況の方が成功率は高いからね』
コウスケ「通ったとしても、人間とあのデカブツじゃあサイズ感がありすぎて致命傷まで持ってけるか怪しいしなぁ……やっぱなんかドラゴンキラーとか無いとじゃないか?」
ハルキ『ほんと欲しいよねドラゴンキラー。どういう原理でドラゴンに特効乗ってるのかほんとに分かんないけど』
コウスケ「なんかこう……その遺伝子だけを傷つけられる的な?」
ハルキ『だとしたらゲームの特効武器ってだいぶ凄いよ』
コウスケ「異世界なのに夢があんま無いの辛いなぁ……」
ハルキ『結局どうしても現実が付きまとうものなのさ……』
とても悲しみ。
マグ(…遺伝子自体を壊せれば翡翠龍はおろか、たとえ子孫が出来たとしても諸共やれる……?)
いかん。
マグの物騒さに磨きがかかってしまった。
このままだとマグが人の道を踏み外したことを思いつきそうなので別の話題を振る。
コウスケ「あ〜っと……そういえばエリーゼとフレデリカから手紙が来たんだって?」
ハルキ『ん?あぁ、ララから聞いた?』
コウスケ「うん」
ハルキ『ごめんね。一応内容を確認させてもらったんだ。翡翠龍のことが書いてなかったけど、喜んでいいのやら悪いのやら……』
コウスケ「ははは、まぁ子どもたちが巻き込まれなかったのは良いことだしいいんじゃね?それじゃあそろそろ行くよ」
ハルキ『うん。また落ち着いた時にでもゆっくり話そう』
コウスケ「あぁ」
マル子『……いつになるんですかねぇ……?』
コウスケ「不吉なこと言うのやめて?」
確かに今は魔術コンクールが近いけど!
練習時間増やしちゃってるけど!
さすがに翡翠龍対策を優先するから!
あぁでもそれで子どもたちと接する時間が減ると余計な心配かけちゃうか……。
う〜ん…そこのバランスも考えないとだなぁ……。
そんなことを考えつつ、俺はハルキたちと通信を終えて部屋を出た。
マグ(……コウスケさん。お肉に毒混ぜるってアリですかね?)
コウスケ(どうかなぁ……)
マグがだんだん古のハンターっぽい思考回路になってきてる……。
翡翠龍の目撃情報による会議回になりました。
言うて途中で脱線してましたが……。
しかしこうして考えれば考えるほど、某狩りゲームのハンターたちがどれほどの化け物なのかがよく分かりますね……。
今度の作品では何をやり出すのやら……。
そんな話と全く関係ないところに興味を滲ませつつ、今週はこの辺で。
ではでは




