325.エルフっ子のトラウマ…地雷踏み抜きマスター
投稿が1日遅れて申し訳ありません!
リビングから扉も閉めずに慌ただしく出て行ったシエルを呆然と眺めていた俺たち。
いち早くハッと意識を戻したのはメイカさんだった。
メイカ「シエルちゃん、外には行ってないわよね!?」
ユーリ「えっ…あっ、はい!上の扉が開いて閉じた音がしたので、多分上にいるかと!」
フルール「そう…とりあえずこの暗い中外に行かなかったのはよかったわね……」
メイカ「えぇ。でもシエルちゃん、どうしたのかしら……」
大人たちが落ち着いて状況を分析する中、子どもたちも徐々に立ち直ってきた。
リオ「シエルのやつ…いったいどうしたんだ……?」
パメラ「着せ替え人形なんてシエル喜びそうなのに……」
モニカ「すごい良いものだって言ってたよね……」
ミハク「うん〜……」
サフィール「ならいったい何が原因なんでしょう……?」
ショコラ「シエル…大丈夫かなぁ……?」
チェルシー「どうしよう…マギーちゃん……」
メリー「……マグ……(ぎゅっ)」
…が、やはり動揺は隠せないようだ。
大人たちほど落ち着いて話すことができず、中には今にも泣きそうなほどおろおろしている子もいる。
俺に救いを求めて視線を向けてくる子もいる。
正直俺も助けて欲しい側なんだが…そんな泣き言を不安がっているこの子たちの前で言うわけにはいかない。
とにかく、今ある情報からある程度の予測を立て、今のシエルに最適な接し方をする必要がある。
…シエルは人形自体は気に入った様子だった。技術もみんなの服も褒めてた。
ってことは人形自体に罪はないはず…だとすれば何が……。
と、ひとり考える俺に、マグが話しかけてきた。
マグ(コウスケさん)
コウスケ(マグ?何かわかったの?)
マグ(なんとなくですけど……シエルは、怖がってたような気がします……)
コウスケ(怖がってた?)
そういえば、なんとなく震えてたような……?
マグ(もしかしたら、シエルは何か同じような感じの嫌なことがあったとかなんじゃないですか……?)
コウスケ(トラウマってこと?)
マグ(はい……)
なるほど……。
それなら確かにあの反応もあり得るか……。
……。
コウスケ(ワンチャン、人形の顔が怖かったとか…ない?)
マグ(ありそうですけど……それならちゃんと口にするんじゃないですか?)
コウスケ(確かに)
じゃあトラウマ路線かな……?
う〜ん…それならどう接するべきか……。
チェルシー「マギーちゃん……」
コウスケ「ん……」
マグと相談していたところをチェルシーに話しかけられたので一時中断。
どうしたの?
そう聞こうとして、すぐに口をつぐんだ。
何故なら子どもたちどころか、ディッグさんやフルールさんたち大人組もこちらを見つめていたから。
あぁ~……しまったな……。
安心させるの忘れてた……。
俺も動揺が大きかったってことか。
と、まぁそれよりもこの子たちを安心させたげないとね。
コウスケ「ん~……とりあえず私が見てくるよ。だからみんなはここで待ってて」
ショコラ「ひとりで大丈夫なの……?」
ミハク「みんなで行った方がいいんじゃ……?」
リオ「いや、こういう時はむしろ少ない人数の方がいい」
サフィール「はい。それに、マーガレットさんはカウンセリングのプロですから、ここはお任せした方が良いかと。もちろん…何もできないというのは心苦しいですが……」
メリー「……でも、マグならだいじょうぶ」
ミハク「そうなんだ……すごいね~マーガレットちゃん~!」
モニカ「すごいんだよ、マーガレットちゃん!」
パメラ「うんうん♪」
コウスケ「…………」
シエルへの配慮は凄くありがたいんだけど……。
出来れば俺の心にかかる重圧の方も配慮していただけたらなぁと……。
マグ(そうです!コウスケさんはすごいんです!むふ~♪)
配慮していただけませんかねぇ…!?
メイカ「…大丈夫?」
コウスケ「大丈夫…大丈夫です……」
ケラン「とてもそうは見えない……」
そりゃまぁほんとはプレッシャーに負けそうですけども……!
ここでやらねば誰がやる……!
キャシャ…げふんげふん、割愛。
よし、冷静になったな。
とにかくまずはシエルのもとへ向かおう。
コウスケ「じゃあいってきやす」
パメラ「お願いね…?」
モニカ「がんばって…!」
コウスケ「うぃ」
コウスケ(よし、行こう)
マグ(はい)
みんなに見送られ、俺たちはシエルが去っていった二階へと上がっていった。
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さて、上がったはいいもののどの部屋に入ったのか分かんねぇやどうしよう問題が発生したが些事なので割愛。
というかまぁ…俺の部屋からボソボソと声が聞こえてきたので一瞬で分かっただけである。
そして俺は今その扉の前にいる。
はぁ……。
何度か子どもたちの相談に乗った…というか、乗れたというべきか……。
ともかく、数回寄り添えた実績があると言えど、いつも上手くいくとは限らないと理解しているせいでこうしてド緊張してしまう……。
下手に調子に乗るのもダメだろうけど、こうして毎回心労が絶えないのも考え物だなぁ……。
……そもそもこんな機会そうそう訪れないでほしいもんだが……。
はぁぁ……。
しかし泣き言を言っていてもしょうがない。
大体、あんな状態のシエルを放置する気なんかも元々無いのだ。
なら、さっさと腹を決めたほうがいい。
コウスケ(いくか…!)
マグ(はい…!)
マグの返事を聞いた俺は、とりあえずまずは扉をノックした。
あんまり強引に行くのはさすがに気が引けるので……。
まぁ非常事態だと判断したら、たとえ自分の部屋の扉であろうとも容赦なくこじ開けて侵入するつもりだが。
コンコン
コウスケ「シエル?」
……。
返事はない。
しかし何事か呟いている感じの声は止まった。
つまり反応はある。
俺の声は届いている。
……届いてるよね?
ちょうど体力が尽きて眠りに落ちたとかじゃないよね?
大丈夫だよね?
コウスケ「シ、シエルさん……?起きてる……?」
シエル「……マーガレット……」
あっよかった、起きてた。
ってそうじゃなくて……。
コウスケ「シエ…」
シエル「ごめん、マーガレット」
コウスケ・マグ「(っ!)」
気を取り直して呼びかけようとした俺の言葉をシエルは遮った。
シエル「ごめん……アタシのために用意してくれたのに……すごく素敵なお人形なのに……ごめんなさい……!」
コウスケ・マグ「(シエル……)」
シエル「ごめんね……大丈夫……すぐ落ち着くから……先戻ってて……」
そうしてすぐにすすり泣く声が聞こえてきた。
コウスケ(…やっぱり、何かトラウマがありそうな感じかな……?)
マグ(そうですね……コウスケさん…どうにかシエルと落ち着いてお話が出来るような状況に持っていけませんか……?)
コウスケ(う~ん……)
普通に頼んでも断られるよなぁ……。
戻ってってやんわり拒絶されちゃってるし……。
ここは…
コウスケ「…シエル」
シエル「ぐすっ……」
コウスケ「何を思い出したの?」
シエル「っ!?なんで……」
コウスケ(当たり)
マグ(ですね)
シエルが明らかに動揺した。
ここですかさず畳みかける。
コウスケ「分かるよ。だってほら……私だし」
マグ(コウスケさん?)
コウスケ(ごめんテンパった)
もっと他にあるだろうに、なぜよりによってこんなうっすい答えを出してしまったのか。
ノープランで追撃は危険行為だということがよく分かったね。
どうしよ。
シエル「…そうね……マーガレットも…そうだもんね……」
コウスケ・マグ((ん?))
やらかし具合に脳の処理が追い付いてきたところで、シエルが何かに納得したような声を上げた。
と思ったら、
カチャ…
シエル「ごめん…マーガレット……やっぱり……側にいてくれる……?」
扉を少しだけ静かに開けたシエルが、戸の隙間からこちらをじっと見つめそう言った。
コウスケ(……なんか上手くいったっぽい……?)
マグ(……ぽいですねぇ……)
…………うん、まぁ、とりあえず、よし!
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部屋に招き入れてくれたシエルと隣り合ってベッドに座ってから早10分。
それが現在の我々の状況です助けて。
当のシエルはずっとどう切り出そうか考え込んでいる様子。
それだけ深刻なことなのだろうと気を引き締めたものの、さすがに10分ずっとは持たず、俺とマグはどうしたもんかと頭を悩ませていた。
コウスケ(こっちから話しかけるのはちょっとなぁ……あんまり急かして良さそうな話題じゃなさそうだし……)
マグ(でもこのまま切り出せずに長引くと、下のみんなが心配して上がってきちゃうかもしれませんよ……?)
コウスケ(そうなると「やっぱり大丈夫、ごめんね」って切り上げられる可能性があるからなんとしても避けたいところだけど……う~ん…………実は促してほしいとかだったりしないかな?)
マグ(ありえなくはないですけど……賭けですよねぇ……)
コウスケ(だよねぇ……)
う~ん…とふたりして唸る。(シエルに聞こえないように)
下手な事言うわけにはいかないってプレッシャーがなぁ……。
どうしたもんかなぁ……ほんと……。
なんて悩む間もシエルは踏ん切りがつかない様子。
彼女が自主的に話してくれることが1番なんだが、これはやはりこちらからアプローチするしかないか……。
ん〜…とりあえずまずは当たり障りのないところから入ってって、とにかくシエルの緊張を解してあげるところからいこう。
コウスケ「シエル」
シエル「っ!」
すんごいビクッてした。
シエル「あっ、ご、ごめん…話したいって言ったのはアタシなのにずっと黙ってて……」
コウスケ「ううん、いいよ。話しにくいことだっていうのは分かるから」
そう言ってシエルの手にさりげなく自分の手を重ねる。
シエル「あっ……うん…ありがとう……♪」
シエルは重ねられた手を見ると少しだけ表情が柔らかくなった。
よし、この路線でいこう。
俺はシエルの手をさすりながら、極めて優しい口調で語りかけた。
コウスケ「ゆっくり、自分のペースで大丈夫。無理をしないでくれればそれでいいからね」
シエル「うん…………えと…マーガレット……」
コウスケ「ん~?」
シエル「…少し…そっちに寄ってもいい……?」
そう言ってシエルは上目遣いでこちらの様子を窺ってくる。
もちろん断る理由がないので承諾。
コウスケ「うん、いいよ。おいで」
シエル「……うん……♪」
肯定されてちょっぴり照れながらも嬉しそうにこちらに体を寄せてくるシエル。
……うん。
寄ってくるんだから一旦どかした方がいいよなぁ……でも触れてた方が安心するだろうしなぁ…と考えてシエルの背中側に手を回したのが原因だろうか?
シエルがべったり密着してきました。
全然少しじゃないですよシエルさん?
そんな両手を自分のひざの上にお行儀よく重ねてお清楚になっちゃって……。
こんな状況なのに可愛いで俺の頭をいっぱいにしちゃダメでしょシエルさん。
いや俺が真面目にやれ。
とりあえずそっちがその気ならこっちも答えた方がええやろ。
ということで腰に手を回してちょっと抱き寄せてもっと密着感を出してみる。
シエル「っ!?…………♪」
ご満悦。
うん、ダメだ。
長期戦になればなるほど俺の集中力が消えていく。
良い雰囲気の今のうちに仕掛けてみようか。
でもさっき自分のペースでいいよって言っちゃったんだよな。
しょうがない……保ってくれよ俺の集中力!
シエル「……あのお人形ね……?」
コウスケ「んっ?うん」
覚悟決めた瞬間にシエルが話し出した。
うん、まぁ、持久戦にならなくてよかったです、はい。
シエル「あのお人形…本当に素敵だと思う……ちょっと見ただけだけど、それでもすごく良いものだってわかったし……それに、みんなが描いた絵を服にして、着せ替えまでできるなんて本当にすごいわ。あのお人形、わざわざ作ってもらったの?」
コウスケ「うん。商業ギルドにお願いしてね」
シエル「だからあんなにクオリティーが高いのね。でも高かったんじゃない?」
コウスケ「ふふふ…実はアイデア料代わりに試供品をタダでもらったのさ☆」
シエル「あら。それじゃあマーガレットは、人の絵まで勝手に持ち出しておいて、アタシの誕生日にお金をかけなかったってことね?」
コウスケ「んっ!?そ~れは結果論と言いますかなんと言いますか~……」
そう言われると俺が出したのは商業ギルドへの差し入れ代くらいなような……。
シエル「くすくす♪冗談よ。マーガレットがアタシのために手を尽くしてくれたのはよくわかったから」
コウスケ「うっ、おっ…冗談キツいよ~……」
シエル「ふふふ、ごめんごめん♪」
割と本気で焦った俺の姿にころころと笑みを浮かべるシエル。
マグ(シエル、元気になってきましたね)
コウスケ(だね。よかった)
とりあえずシエルを元気付けるのは成功かな?
最初と比べてだいぶ明るくなってほんとによかった。
シエル「ふふふ…♪……ねぇ、マーガレット」
コウスケ「うん?」
シエル「アタシね…怖いの」
コウスケ・マグ「(怖い?)」
シエル「うん……アタシね、とても大事にしてるお人形があるの」
コウスケ・マグ「(ふむ)」
シエル「そのお人形はね?お姉ちゃんからもらったの」
コウスケ・マグ「(お姉ちゃん?)」
シエル「うん、お姉ちゃん」
コウスケ・マグ((シエル、お姉さんいたんだ))
シエル「お姉ちゃんはすごく優しくてね?魔法もアタシなんかより全然上手で、お料理とかお裁縫も上手で……そのお気に入りのお人形もお姉ちゃんが編んでくれたの……」
コウスケ「へぇ、いいお姉さんだね」
シエル「うん、自慢のお姉ちゃんなのよ?マーガレットよりも魔法が上手で、フルールさんよりも……フルールさんとは…同じくらいお料理が上手だと思うわ、うん……」
コウスケ・マグ((フルールさん強いな……))
俺はあっさり負けたというのに……。
いや、しかしフルールさんならば仕方がないか……。
シエル「と、とにかく!アタシのお姉ちゃんは最高のお姉ちゃんなのよ!…最高のお姉ちゃん…だったんだから……」
コウスケ・マグ「(シエル……)」
こんなにベタ褒めしてるお姉さんに俺たちは会ったことがない。
そしてそもそもトラウマの話からここに繋がっているわけで……。
そうなると、シエルのお姉さんは……。
シエル「お姉ちゃん……アタシのために編んでくれたこのお人形を…私だと思ってって……!ぐすっ……アタシに…言って……戦いに行って……!ぐすっ……!うぅ……ひっく……!」
予想は当たっているらしく、シエルは泣き始めた。
それでも俺に伝えるのを続けてくれるシエルを俺はさらに抱き寄せ、自分の胸に包み込んだ。
シエル「うぅぅ…おねえちゃん……あぁぁぁぁ……!」
それで押し留めていたものがなくなったのか、俺の胸の中で泣きじゃくるシエルを、俺は静かに頭を撫でながら抱きしめた。
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シエル「くすん……くすん……」
長いようで、時計を見る分には実は短かったと分かる時間をしばらく過ごし、シエルはある程度落ち着きを取り戻していた。
シエル「ぐす……ごめんなさい…マーガレット……服汚しちゃった……」
コウスケ「気にしないで。それより、もういいの?」
シエル「うん……もう大丈夫……」
目をこすりながら俺の胸から離れるシエル。
シエル「ねぇ、マーガレット。やっぱりあのお人形、もらっていい?」
コウスケ「え?それはもちろん構わないけど……いいの?」
だって、シエルはお姉さんとの別れの際に託されたせいで、そのお人形とお姉さんが重ねちゃって今みたいに……。
シエル「いいの……やっぱりあのお人形は欲しいし……でも……」
シエルは、少し縋るような目で俺を見つめこう言った。
シエル「マーガレットは……いなくならないでね……?」
マグ(シエル……)
コウスケ「…もちろん。そんなことはしないよ」
シエル「ほんと……?約束よ……?絶対いなくならないでよ……?いなくなったら許さないんだから……!」
コウスケ「うん、約束するよ。ほら、指切りしよ?」
シエル「…ゆびきり……やぁぁ……!」
コウスケ(やっべ…これも地雷だった……)
マグ(コウスケさん……)
再び泣き出したシエルをどうにか宥めながら、俺はどう答えればシエルのトラウマを刺激しないかを考えるのだった。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
私用でバタバタして力尽きてしまいました……。
そういえば予約投稿なるシステムもあるな〜…というのも今日思い出しました……。
まぁ……小説が出来ていればの話ですけどね。
ハハッ☆
はい、すみませんでした……。
来週は木曜日に投稿出来たら…いや、します。
ではでは…




