323.エルフっ娘の誕生日…気合いも使いよう
翌日以降も隙を見ては人形製作の様子をちょくちょく見に行き、子どもたちとは誕生日会のことを詰めるというのを数日続けた。
ファッションショーのことはシエル以外のみんなと共有しており、そっちはだいぶ形になってきたのでパーティー自体は盛り上がること間違いなしだろう。
ただ、当日ユーリさんたちはお仕事(迷宮探索)があるので最初からの参加はできないのは残念だが仕方ない。
人形の方はというと、日を追うごとにクオリティとコストのバランスが取れていき、そして先日ついに完成した。
バランスが取れたと言っても、クオリティはかなり高く、あくまで製作費用との釣り合いが取れてきたという話だ。
多分市場に出すときはある程度高価になるだろうが、正直それでも妥当だと判断できるほどのクオリティだと思う。
そしてその完成品をふたつ。
シエルへのプレゼント用と発案者としてのアイデア料の一環としてふたつもらった。
しかも人形の体にはパチモン流出対策として商業ギルドのマークと識別ナンバーが目立たないところに刻まれているのだが、その部分にマグとシエル、それぞれの名前がこれまたひっそりと刻まれているのだ。
つまり、識別ナンバーのおかげですべてがオンリーワンな人形の中でもさらに希少なネームドドールというわけだ。
死ぬほどテンションが上がる。
マグは発案者である俺の名前じゃないのが少し残念がっていたが、俺が堂々と表に出られない以上彫られても困るだけだ。
嬉しくないと言えばそれはウソになるが、マグの名前が発案者として刻まれていることに対する喜びの方が大きいので問題ない。
というかミュイファさんにコソっと謝られたときに初めて気づいた。
最初何に対しての謝罪なのかまったく分からなかったもの。
「えっ?」て凄い間抜けな声出ちゃったよ。
でもあの時のミュイファさんの「へっ?」て顔を見れたのはなかなかよかった。
ただまぁ、あんまり自分を「マーガレット」として捉えすぎてると、今回みたいに周りの気遣いを無駄にしてしまうのはいただけないな……。
これでもわきまえてる方だと思ってたんだけど…もう少し気をつけないとだな。
……わきまえてたよな……?(思い出す数々の子どもには早いであろう行為たち)
ま、まぁともかく気をつけよう……うん……。
さて、自らの行いを顧みたところでそろそろ回想を終わらせよう。
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はい、そんなわけで誕生日パーティー当日。
パーティーはお昼過ぎ。
昼に白兎亭で食事してから我が家でパーリィーしてそのままお泊り会開催…と、シエルには伝えているが、俺を含めた他の子どもたちには別に作戦を伝えてある。
ショコラ「マグ、来たよ!」
ミハク「おはよ~♪」
コウスケ「うん、おはようミハクちゃん。よく来てくれました」
ミハク「シエルちゃんのお誕生日なんでしょ~?当然だよ~♪」
コウスケ「ふふっ、ありがとう♪よし、じゃあさっそくで悪いけど、リオとメリーを手伝ってあげて」
ショコラ・パメラ・ミハク「「「は〜い♪」」」
まず、シエルとの合流前にウチに集合。
ミハクちゃんにはショコラちゃんとパメラちゃんに伝言をお願いしてこうして作戦に参加してもらった。
そんな感じで到着した子を順々に部屋に送り、ファッションショーの準備を済ませていく。
まぁ準備といっても部屋の飾り付けぐらいなのだが。
フルールさんが毎日こまめに掃除をしてくれているようで、部屋の中はとてもキレイだった。
いつも本当にありがとうございます。
もう毎秒お礼を伝えるしかないかもしれないな。
逆に迷惑だろうからそこまではしないが。
ともかく、他のメンバーも続々と到着し、部屋の飾り付けに参加させる。
チェルシー「マギーちゃ~ん!」
コウスケ「おっ、来たねチェルシー。おはよう」
チェルシー「うん、おはよ~!他のみんなは?」
コウスケ「もう来てるよ。チェルシーで最後」
チェルシー「ありゃ、ごめんね~!」
コウスケ「大丈夫。いうてそこまで時間経ってないからさ。ほら、行こ?今日のパーティー会場までご案内するよ」
チェルシー「うん、お願いしま~す♪」
チェルシーの手を取って俺たちも部屋へと向かった。
モニカ「あっ、チェルシーちゃん来た!」
ミハク「いらっしゃ~い♪」
チェルシー「あっ!ミハクちゃんおはよ~♪来れたんだね♪」
ミハク「うん~♪友だちのお誕生日会なら参加してあげて~って送り出してくれたの~♪」
チェルシー「そうなんだ。やったねぇ!」
ミハク「うん~!」
ピッカピカの笑顔を浮かべるミハクちゃんがとても眩しいぜ……!
と、言ってる場合じゃないな。
俺たちもさっそく準備を手伝おう。
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さ〜て、これで完成かな?
今は何時だ?
あっ。
コウスケ「そろそろモニカちゃんは戻ったほうが良いんじゃない?ほれ」
モニカ「えっ?…あっ、もうこんな時間?」
モニカちゃんのお店を集合場所にしている関係上、モニカちゃんがお店からいなくなっているとシエルに事前準備を勘付かれる恐れがある。
というか単に仲間外れにしてる感を相手に与えたくないからバレたくない。
ミハク「う〜ん?でもまだ約束の時間は先だよ〜?」
コウスケ「いや、モニカちゃんのお店は人気店だから早めにくるかもしれないし、そもそもシエルが楽しみにしすぎて早くくる可能性がある」
ミハク「そうなの?」
リオ「そうだな」
ショコラ「すごいワクワクしてると思うよ!」
ミハク「そうなんだ〜、シエルちゃんかわいい〜♪」
コウスケ・マグ「(でしょ?)」
あの子最近ツンデレ感無いからね。
最近というか、割と最初の方もあんまりツンデレ感なかったねそういえば。
パメラ「ん、なら私たちも準備しとかないとだね」
ショコラ「みんな同じところから来たら怪しまれちゃうもんね」
サフィール「ですね。では、シエルさんに合わせて少し早めに出た感じで行きますね」
チェルシー「アタシもそれで行こ〜っと。マギーちゃんたちは?」
コウスケ「こっちもそんな感じで行こうかな。いい?」
リオ「あぁ」
メリー「……(こくり)」
各自の作戦を決めたところで1度解散。
幸いまだお店には来ていないとのこと。
とりあえず準備フェーズはクリアかな。
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ショコラ「あっ、来たよ〜!」
シエル「おそ〜い!」
リオ「時間的には早い方だろ?」
シエル「そうだけど〜!」
作戦通り時間をずらして白兎亭に向かうと、シエルが頬を膨らませて出迎えてくれた。
マグ(自分の誕生日なのにいつもと変わんな〜い!って思ってそうですねぇ)
コウスケ(多分それであってるね)
安心なさいシエルよ。
この後しこたま楽しませたるかんな。
この後のイベントを考えてほくそ笑んでる間に他の面々も合流。
シエルは特に違和感を感じていない様子なので、これは成功と言っていいだろう。
店に入る際に、シエルにバレないように小さくグッと親指を立てると、みんなも同じように返してくれた。
嬉しい。
アリシア「いらっしゃい♪シエルちゃんお誕生日おめでと〜!」
シエル「わっ…あ、ありがとうございます!」
アリシア「うふふ♪さっ、座って座って!この後もっとお楽しみがあるんでしょ?」
モニカ「お、お姉ちゃん…!」
アリシア「大丈夫大丈夫!内容までは言わないから♪」
そう言ってアリシアさんは楽しそうに去っていった。
モニカ「も〜……」
サフィール「あはは…まぁまぁ、モニカさん。このあとお誕生日会をするのは事実ですし……」
シエル「そうそう。むしろ楽しみが増したわ!もう今から待ちきれないくらいよ♪」
シエルの楽しみが増したのは良かったが……。
アリシアさん……ハードル上げてきやがった……。
いやいや、大丈夫大丈夫……。
ちゃんとシエルの期待に応えられるものになってるはずだ……!
若干焦らされつつも、俺たちはとりあえず昼食を選ぶためにメニューを開いた。
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シエル「ふんふふんふふ〜ん♪お菓子までもらっちゃった〜♪」
コウスケ「よかったねぇ」
シエル「えぇ♪」
お店を出る際にアリシアさんにもらったお菓子を上機嫌に眺めながら歩くシエル。
対して俺たちは若干ブルーな気分になっていた。
理由はシエルが喜んでるそれ。
モニカ「お姉ちゃんがごめんね……」
リオ「いや…いいよ……アリシアさんも祝いたかったんだろうし……」
パメラ「でもなんか…ちょっとやりづらくなったというか……」
ミハク「ものすごい期待されちゃってるね〜……」
ショコラ「シエルは喜んでくれる…と思うけど……」
チェルシー「…ちょっと不安になっちゃったねぇ……」
モニカ「ご、ごめんね……」
マグ(モニカちゃんは悪くないよ……)
そうやで…モニカちゃんは気にしなくてええんやで……。
そんな気持ちで背中をぽむぽむしつつ一同我が家へ。
寮の入り口に着いたところで、気持ちを切り替えるべくみんなを鼓舞することにした。
コウスケ「大丈夫。私たちの計画は完璧。シエルは必ず喜んでくれる。だから自信を持とう!」
パメラ「マグ……」
チェルシー「…そうだね!」
メリー「……うん!」
サフィール「きっと大丈夫…ですね!」
リオ「…よし!気持ちを切り替えてこう!」
みんな『(おぉー!)』
シエル「それ本人の前でやっていいの?」
いいんです。
必要なことだから!
よし。
気持ちを切り替えたところで……
コウスケ「突撃ー!」
みんな『(おぉー!)』
シエル「えっ、そんなことしたら……」
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フルール「落ち着いた?」
みんな『はい……』
フルール「じゃあ、今後も気をつけてね」
みんな『はい……』
シエル「まぁこうなるわよね……」
マグ(気合いの入れ過ぎもダメですね……)
コウスケ(だね……)―
フルールさんに叱られて落ち着いたところで、俺の部屋の前へ移動。
コウスケ「あ〜……こほん。ちょっとぐだぐだになっちゃいましたが……とりあえずシエル、お誕生日おめでと〜」
シエル「えぇ、ありがとう」
みんな『わぁ〜』
マグ(テ、テンションが低い……)
まぁ怒られたばっかなので……。
シエル「え〜っと…それで、今日は何をするの?」
コウスケ「ん〜…ここまできたらあんまりもったいぶるのもアレだし、サクッと教えてあげましょう。ズバリ、ファッションショーです」
シエル「ファッションショー?」
コウスケ「イエス」
シエル「そう…ファッションショーね……」
あ、あれ?
反応が薄い……?
も、もしかして思ってたんと違った……?
シエル「ふふ…うふふ…♪いいわね!すごくいい!みんなが選んできたコーディネート、すごく楽しみだわ!」
よかったー!
お喜びだー!
全員でホッと肩を撫で下ろした。
そしてシエルが喜んでくれたことで自信がついてちょっと元気も出た。
この流れでみんなと頑張って飾り付けた部屋に招き入れよう。
コウスケ「よし。それじゃあパーティー会場へごあんな〜い!」
ガチャッ
シエル「わっ…!すご〜い!」
コウスケ・マグ((よしっ!))
シエルの反応に小さくガッツポーズを決める俺。
おそらくマグもしたであろう声も聞こえてきた。
そして振り向くと、みんなも一様にやってやったぜと笑顔が浮かんでいた。
うんうん。
頑張った甲斐があったな。
シエル「これ、マーガレットがやったの?」
コウスケ「むふふ…実はコッソリ集まってみんなで飾り付けしたのだ〜♪」
シエル「えっ!そうだったの!?」
ショコラ「そうだよ〜♪」
パメラ「サプラ〜イズ♪」
ミハク「私もがんばったよ〜♪」
サフィール「喜んでいただけてよかったです♪」
シエル「わぁ〜!みんなありがと〜!」
シエルのお礼にみんな一斉に鼻をこする。
よかった、めっちゃ喜んでくれて。
アリシアさんが上げたハードルをどうにか越えられた。
…いやほんとよかったわ。
コウスケ「よし!じゃあさっそく、ファッションショーをやっちゃいましょー!」
みんな『おぉー!』
今度はシエルも一緒に声を上げ、一緒に拳を突き上げてくれた。
さ〜て、お楽しみの始まりだ!
友だちの誕生日会……。
小学生のころに参加したことがありましたが……まぁ、当時の自分は所詮小学生男子だったなぁとしか……。
もうちょい頑張れ過去の俺、というところでまた次週。
ではでは




