31.ハルキに相談…新たな仕事
「というわけです」
「なるほど、それは良かったね」
「はい」
あの後、いつも通り露店で朝ご飯を済ませそれぞれの仕事に向かった俺たち。
無事に午前の部を済ませ、現在昨日と同じように顔を出したハルキと昼ご飯を済ませたところで、俺は今朝の話をした。
ちなみに制服はハルキが用意してくれた新しいやつだ。
故に背中は開いていない。
やったぜ。
今ここにいるメンバーは俺とハルキ、ララさん、珍しく早起きしたらしいチェルシー、そして初めましての獣人のお姉さんが2人だ。
彼女たち2人は冒険者。種族は猫の獣人で、同じ村出身の幼馴染みだと教えてくれた。
元気系で黒猫の獣人がエストさん、クール系で白猫の獣人がシャールさんという名前らしく、彼女たちの左手薬指にはハルキハーレムの証がしっかりはめられていた。
なので俺は遠慮なく今朝の話を出来たというわけだ。
それはそれとして、ハルキ爆発しろ。
そんな俺たちが今いるのは、俺が最初この街に入ってきた東門とは逆方向、つまり西門方面の大通り…の脇の脇の脇の道にある、昨日と同様ハルキの関係者がやってる静かな店だ。
なんとこの店には箸が置いてあった。
そしてメニューを見てまたびっくり、なんとラーメンの項目があった。
しかも種類も豊富だった。
俺は迷った末、醤油ラーメンを頼んだ。
初めて見る食器と料理に興味津々なマグに説明しつつ、俺は醤油ラーメンを堪能した。
ちなみにハルキの話だと、厳密には醤油や味噌ではないらしい。
単に似ているだけだそうだ。
その話を聞いてちょっとテンションは下がったが、美味しかったので満足した。
お腹いっぱいでしばらく動けそうにない。
なのでお話を始めた次第でございました。
解説終わり。
「で、ハルキさんや、ちょっとご相談したい事がございます」
「ふむ、聞かせてもらおうか?」
「ありがたき幸せ」
「ねぇララ…この人たちはいつもこうなの?」
「そうなのシャールゥ…昨日私が言ったこと分かった…?」
「ん、これは羨ましい」
「エストもご主人様とあんなお話したいですぅ……」
「ん…シャールも……」
「あたしもしたいぃ〜……!」
俺たちの会話に周りのハルキガールズがなんやかんやと話し始めた。
それに俺とハルキは顔を合わせると苦笑する。
たったそれだけにすら彼女たちは「あっ!?うぅ〜……」と羨んでくる。
ちなみにちなみに、ハルキのハーレムはリンゼさんともうひとりいるらしく、全員で6人のメンバーがいるらしい。
…リンゼさんもそうだったんだなぁ……なんとなくそうかな?と思ったことはあるけどさぁ……あー…
「ハルキ爆発しないかなぁ…」
「心の声が漏れてるよ」
「おっと失礼。美女ハーレム築きやがってこのやろうとか思っちゃってつい」
「まだ漏れてるっ!?」
「ご主人様は爆発させませんよっ!!」
「あぁごめんなさいエストさん、ただの軽口なのでそんな睨まないでください」
「エストは純粋だから、あんまりそういうことは言わない方がいいよ?」
「ニヤニヤしてないで先に言ってくれ……」
まったく…危うく敵判定されるとこだったわ……。
「ま、冗談はこのくらいにして…相談事って?」
「あぁ、今借りてる第3寮舎のことなんだけどな」
「何か問題があった?」
「いや、設備面は問題無い。むしろハイテクすぎてほとんどの魔道具が分かんないってぼやいてるぐらいだよ」
「…説明書あげるね……」
「サンキュ。んで、問題はそこじゃなくて、人手のこと」
「確かに人手はいつも足りてないけど……あぁなるほど、第3寮舎に新しい人が欲しいってこと?」
「そゆこと」
昨日寝る前に書きだした問題点のひとつ…寮の人手不足。
本当は今朝の話し合いの折にメイカさんたちにも言うつもりだったのだが……
(さすがにあの空気の中じゃ言い出せないんだぜ……)
(すごく…綺麗にまとまってましたもんね……)
とてもいいセリフをもらった矢先に、別の相談もあるので座ってくれ、なんて言えないのである。
「今いるのが冒険者3人と俺の4人だけ。セキュリティがしっかりしてるとはいえ、日中に誰もいないってのはちょっと心配だし、管理人すらいないのは不便だし、何より家事が出来るのが俺だけってのが問題なんだ」
「なるほどね…確かに大変だ……」
そう、あの人たちは料理が出来ない。
毎日お店で買って食べていることからもそれは明らかだ。
しかもあまり掃除も得意ではない。
身の回りの整理整頓などは出来るのでゴミ部屋にはなっていないが、それでもかなり散らかっている。
これは風呂上がりに次の人を呼びに行った時に判明した。
そしてその時にそのことを聞いてみた。
メイカさん曰く、「冒険者は日常的にすぐに動けるようにしてるから、多少散らかっていてもすぐに取り出せる位置に物があった方が便利なんだよ」だそうだ。
さすがに冒険者本人に「そういうことなのだ」と言われれば、素人の俺は「そうなのかー」と言うほか無い。
かく言う俺も、料理に関しては本当に簡単なものしか出来ない。
「だから、日中寮の管理と炊事洗濯が出来る人が欲しいんです」
「うーん…言いたいことは分かったけど……ギルド自体が人手不足だからなぁ……」
「ん…ララとリンゼ、いつも忙しそう…」
「うんうん、2人とも遅くまで帰ってこないから、エストもシャールも寂しいんだよ?」
「ごめんねエスト、シャール」
「ううん…ララは悪くない。仕事が多いのが悪い…」
「チェルシーはよくエストと遊んでくれるよ!」
「ちょっ!?エスト姉!それは秘密って言ったじゃん!?」
「えっ?そうだっけ?」
「チェルシーちゃん…?」
「ぴっ!?ら、らららららララ姉ごめんなさいっ!!」
何やってんだか……。
まあそれはともかく…
「実はもうひとつあって…」
「うん?」
「お金の問題」
「お金の?でも、あの冒険者の人たちがいるんだし、頼めば欲しいものは買ってくれるんじゃないの?」
「それが問題なんですよねぇ……」
確かにあの人たちなら、高すぎたり、怪しかったりしなければ、頼めば買ってくれそうな気もする。
でも俺としては、出来る限り頼りたくないのだ。
ただでさえ日常生活が甘えまくりなのでこれ以上負担をかけたくない。
その旨を伝えるとハルキは何か考え始めた。
その横のララさんから質問が飛んでくる。
「そんな心配するほどなの?」
「いえ、細かくは知りませんけど、人のお金で我が儘言うのもなんだかなって思っただけなので」
「うーん…マギーちゃんぐらいの歳なら大丈夫だと思うけどねぇ…」
「中身は二十歳の成人なのを伝えましたから、そういうことは余計に言いづらいんですよね……」
「ん…それなら仕方ない…」
「ありがとうございます、シャールさん…」
俺もマグぐらいの歳なら自然だと思っていたが、どうしても俺の中の社会人が出てくるのだ。
すると、まあ落ち着かない事この上ない。
「それなら、僕の仕事の手伝いをしてくれない?」
「ハルキの仕事?商品の検品とか?」
「違う違う、そっちじゃなくて本職の方」
「…あぁ、なるほど」
ハルキの本職…ダンジョンマスターの手伝いか。
「いや、待て。それって俺が手伝えることあるのか?」
「僕の仕事を一番理解してるのは、今のところ君しか知らないんだよ。ララもリンゼも教えれば理解出来るだろうけど、最初からある程度知ってて、向こうの世界の言葉を理解できて、今まさに働き口を探している君の方が適任なんだよ」
「つまり、ダンジョン作りの相談役になれば良いのか?」
「そういうこと」
「なるほど……」
それは確かに他の人じゃ難しいだろう。
それに、ギルドとダンジョンは繋がっている。
これならギルドに戻るのも早いだろうし、逆にハルキの元に行くのも早いだろう。
「分かった。その話、ありがたく受けさせてもらうよ。現役ダンジョンマスターに話せることなんて限られてると思うけどね」
「そんなことないよ。誰かに相談出来るだけでも十分ありがたいよ。ありがとう」
そうして俺は、ギルドの仕事にダンジョンマスターの相談役という役割が追加された。




