300.上機嫌な彼女…と、聖歌
さて。
突然の自身の存在の危機に肝を冷やしたものの、特に問題なくこれをクリア。
聖歌隊一同、並びに街の案内を任されたショコラちゃんとパメラちゃん。そしてナバロさんと別れ、俺たちは先んじて医療ギルドに着いた。
コウスケ「さてと。そいじゃあまた許可を…」
リオ「おっ?あれサフィールじゃないか?」
コウスケ「えっ?あっほんとだ」
リオが指した方を見ると、医療ギルドのスタッフと何か話しながら…あの~なんか…紙を留める板のやつに留めてある紙に何かを書いているサフィールちゃんがいた。
なんかちょっとご機嫌よさげなサフィールちゃんがそこにいた。
メリー「……うれしそう?」
コウスケ「だねぇ。なにかいいことあったのかな?」
リオ「まぁ聞いてみりゃ分かるだろ。行こうぜ」
コウスケ「そうだね」
病院…みたいなもんである医療ギルドの中で大声を出すのも走るのもアレなので、落ち着いてゆっくり距離を詰めていく。
話しが終わったのか、医療ギルドの人が去っていった。
それを見送ったあと、こちらをチラッと見たサフィールちゃんが俺たちを発見。
すると、もともとご機嫌よさげだった表情をさらに綻ばせ、「あっ♪」と嬉しそうな声を上げて慌てて口を抑えるという可愛いムーブをしてくれた。
そして恥ずかしそうにはにかむというオマケも付けてくれた。
コウスケ(可愛いがすぎるね)
マグ(キュンキュンしますね)
冷静にメロメロになりながら歩くこと数歩、サフィールちゃんと合流。
コウスケ「サフィールちゃんもおはよう」
サフィール「おはようございます。マーガレットさん、モニカさん、リオさん、メリーさん」
モニカ「おはよ〜♪」
リオ「あぁ、おはよ」
メリー「……おはよう」
コウスケ「何話してたの?」
サフィール「マスターへの報告を頼まれたんです。あの方はこれからまた別の患者さんの健診に行くので、私のような見習いの人が代わりに報告を頼まれることが結構あるんですよ」
コウスケ・マグ「(へぇ~)」
まぁ、病気かもしれないって不安でここに来てる人の健診に見習いの子を充てるわけにゃいかないもんな。
サフィール「余裕がある時は勉強のために同席させてもらったりも出来るのですが……」
リオ「ですが?」
サフィール「…その……私の体を見てくる方も中にはおりまして……」
コウスケ・マグ・リオ「(「あぁ~……」)」
サフィール「それが、チラッという感じならまだいいんですけど……」
コウスケ「…ジロジロ見られたり?」
サフィール「……(こくり)」
モニカ「わぁ……」
リオ「それは……う~ん……」
発育の良さが仇となってるなぁ……。
そういや、前の世界でもそういう人が一定数いるって聞いたことあるな。
で、発育が早い子は何かと苦労するって話も聞いた気がする。
人に見られるとか友だちに揉まれるとか。
…………。
マグとパメラちゃんにしっかり言い聞かせとこ。
リオ「確かにそれじゃあ勉強どころじゃないよなぁ……」
サフィール「…そうなんです……」
リオの問いに、どこか含むところのある感じのサフィールちゃん。
そこにメリーが切り込んだ。
メリー「……さわられた?」
コウスケ・マグ・モニカ・リオ『(!)』
切り込みすぎじゃね?
ってかジルさんも他の人もいるわけだし、さすがにそんな命知らずは…
サフィール「…………はい」
いた。
コウスケ「処そ」
マグ(処しましょ)
サフィール「だ、大丈夫です!もうマスターや他の皆さまが病室送りにしましたから……!」
モニカ「びょ、病室送り……」
リオ「う~ん、さすがだ」
メリー「……(こくり)」
コウスケ(病室送りかぁ。その人次は心労で倒れそうだな〜)
マグ(ボコボコにしてきたギルドの皆さんにお世話されるのってどんな気持ちなんでしょうね〜)
コウスケ(かわいそう〜☆)
マグ(ですね〜☆)
なんてマグと笑い合っていたが、今はそんな適当なことを言ってる場合ではないのを思い出したのでササッと本題へ。
コウスケ「そうだ、サフィールちゃん。あのね…」
俺たちは先ほど冒険者ギルドであったことを話した。
コウスケ「というわけで、そのうち医療ギルドにも顔を出すはずだから、隠れるなら今のうちだよ」
サフィール「なるほど…教えてくださりありがとうございます。ですが…やはり、頑張ってみたいんです」
コウスケ「ふむ……」
リオ「大丈夫か?無理はしてないよな?」
サフィール「はい。それに…その……今なら、なんでも大丈夫!って感じなんです!」
コウスケ「…そっか。わかった」
ジルさんのおかげだな。
ふふ、それならもう応援だけさせてもらおう。
コウスケ「そういうことなら、新しく友だちになった聖歌隊の子と、サフィールちゃんもお友だちになれるね」
サフィール「ミハクさん…でしたね?」
コウスケ「そっ。ショコラとパメラが1日でお友だちになった子」
サフィール「ふふふ♪おふたりらしいですね♪」
コウスケ「ほんとにね」
あのコミュ力、見習いたいわぁほんと。
と、そこでメリーがサフィールちゃんの服の裾を引っ張った。
メリー「……(くいくい)」
サフィール「?どうしましたか、メリーさん?」
メリー「……サフィール、ごきげんだった」
サフィール「えっ?」
リオ「あぁそうだ。サフィール、なんか機嫌良さそうだなって思ってたんだよ。何か良いことでもあったのか?」
サフィール「あっ、え〜っと…そうですねぇ……♪」
聞かれたサフィールちゃんはその時のことを思い出しているのか、少しニヨニヨし始めた。
サフィール「実は…昨晩、マスターが一緒に寝てくれまして……」
コウスケ・マグ「(えっ!)」
リオ「マジか!」
メリー「……お〜!」
コウスケ(あんなに恥ずかしがってたジルさんが!)
マグ(んふふ〜♪やっぱりサフィールちゃんが心配だったんですね〜♪)
サフィール「えへへ♪マスター、私のことをぎゅってしてくれて…とても暖かくて、今日もぐっすり眠れました♪」
リオ「よかったじゃないか!」
コウスケ「そっかそっか〜。ジルさんがね〜♪」
これでサフィールちゃんがジルさんのことを頼りやすくなったし、ジルさんもサフィールちゃんに具体的な気の掛け方を覚えたはず。
安心感がグッと高まったんじゃな〜い?
サフィール「リオさん。リオさんの言葉に勇気をもらって、こうしてマスターと歩み寄れました。ありがとうございます」
リオ「いいっていいって。俺がしたのはただの身の上話だからさ」
サフィール「それでも、ありがとうございます」
リオ「うっ…お、おう……///」
メリー「……てれてる」
リオ「て、照れてねぇし!」
コウスケ・マグ((わかりやす〜い♪))
わかりやすく照れてるリオにニマニマする俺たち。
そこに医療ギルドの人がやってきた。
医療ギルドの人「あ〜、楽しそうなところ悪いんだけど……」
俺たち『?』
医療ギルドの人「お話するなら、もうちょっと人の少ないところでお願いできるかな?」
俺たち『あっ』
そうだ。
ここロビーからちょっと行っただけのところだった。
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キチンとごめんなさいをしたのち、俺たちはジルさんに報告があるサフィールちゃんに着いて行ってジルさんの元へ。
そこにちゃっかりお邪魔させてもらってお仕事をしていると、ドアがコンコンとノックされた。
ジル「誰だ?」
シエル「あっ、えっと、シエルです!」
チェルシー「チェルシーで〜す♪」
ジル「そうか、帰れ」
シエル・チェルシー「「えぇぇぇ!?」」
なんてコントもあったが無事に合流。
チェルシーはいつも通りとして、シエルが遅れたのは……ただの寝坊。
本人は恥ずかしがって否定しているが、ぴょいんと跳ねている寝癖が全てを物語っている。
やれやれ。
軽く梳かしてあげよう。
なんてことをしてる間にお昼になりました。
モニカ「来ないねぇ……」
コウスケ「変だなぁ……案内をしながらとはいえ、医療ギルドには午前中に来ると思ってたんだけど……」
リオ「また何か起きてるんじゃないか?」
チェルシー「何かって?」
リオ「そうだなぁ……信者に囲まれて動けなくなったとか?」
シエル「そんなにいるのかしら?」
ジル「割とバカに出来ん数はいるはずだぞ。なんだかんだ人気があるからな」
コウスケ「あぁ〜」
そういえば昨日も今日も囲まれてたなぁ……。
くるるる…
可愛らしい腹の虫が聞こえてきて、思わずそちらを見やると…
モニカ「あっ…えへへ……///鳴っちゃった……///」
と、恥ずかしそうに言うモニカちゃんがいた。
コウスケ(さすが可愛いの権化だわ)
マグ(これはケンカも止まる可愛さですね)
静かにメロメロになっている俺たちをよそに、リオがモニカちゃんのフォローに入るように言った。
リオ「あぁそうか。いつもはもう食いに行ってる時間か」
シエル「うっ…そう考えたらアタシもお腹が空いてきたわ……」
メリー「……ぺこぺこ」
チェルシー「う〜ん……まだ聖歌隊も来なさそうだし、先にご飯食べちゃう?」
サフィール「そうですねぇ……マスターはどうされますか?」
ジル「アタシはいいから食ってこい。ついでに足取りを掴んでくれると助かるがな」
サフィール「はい、わかりました」
ジルさんは来ない、と。
まぁギルドマスターだもんな。
そうホイホイと離れられないか。
ジル「まったく連絡が無いなんて不自然なんだがなぁ……いったいどこで油を売っているんだか……」
リオ「変なことに巻き込まれてなきゃいいけど……」
シエル「ちょっとやめてよぉ……聞いてる感じだと巻き込まれてそうな感じしかしないんだけど?」
みんな『(…………)』
どうしよう。
もうそうとしか思えない。
ジル「…とりあえず、アタシは他のギルドに聞いてみるから、お前たちは飯食ってこい。そのどこかで見かけたら教えてくれ」
みんな『はい……』
一抹の不安を抱えつつ、俺たちは白兎亭へ向かうべく準備を始めた。
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そうして街を歩く俺たちだったのだが、およそ半分ほど歩いたところでサフィールちゃんの様子が少し変わっていることに気づいた。
コウスケ「サフィールちゃん?どうかした?」
サフィール「ん…いえ、何故だか、少し体が重いような気がして……」
シエル「えぇっ?ちょっと大丈夫?」
サフィール「ちょっとだけ…なんですけど……それが何故なのかがまったく検討が付かないんですよね……」
チェルシー「ぐっすり眠れたんだもんねぇ……」
メリー「……ねすぎた?」
リオ「あぁ、逆に?」
モニカ「たくさん眠ることに体が慣れてないってこと?」
コウスケ「忙しさに慣れちゃって体がしっかりとした休息を取ると力を持て余すようになったんだな」
シエル「それやばくない?」
社畜まっしぐらですね。
必ず止めねば。
しかし、サフィールちゃんの容体は歩みを進めるごとにほんの少しずつ悪化していき、ついには頭を抑えてうめき声を上げ始めた。
サフィール「うぅぅ……」
モニカ「サフィールちゃん……」
リオ「なぁ、一旦ジルさんのところに戻った方が良くないか?」
シエル「でもだいぶ歩いちゃったわよ…?ここからなら冒険者ギルドの方が近いし、そっちに行って連絡してもらった方がいいんじゃない…?」
メリー「……だめだとおもう」
シエル「え…?」
チェルシー「うん……向こうに近づくほどサフィーちゃんの様子が悪くなってるように見えるから、そっちに近づくことになる冒険者ギルドはやめた方がいいってアタシも思う……」
モニカ「じゃ、じゃあとにかく離れた方がいいかな……?」
リオ「そうだな。とりあえず来た道を戻って様子を見てみよう」
そうと決まればさっそく…といったところで、モニカちゃんのウサ耳が何かを捉えたようだ。
モニカ「ん…なんだろう…?歌が聞こえる……」
シエル「歌?」
モニカ「うん…向こうのほうから……」
モニカちゃんが指した方向は、白兎亭がある方角。
つまり、俺たちが向かっていた方向……。
モニカ「ちょっとずつ近づいてきてるような気がする…」
シエル「歌いながら歩いてるってこと?って、今は歌なんてどうでもよくて…」
コウスケ「待った」
シエル「えっ?」
チェルシー「マギーちゃん?」
嫌な予感がする。
コウスケ「…モニカちゃん。その歌の歌詞ってわかる?」
モニカ「え?えっと……」
そうして、モニカちゃんがたどたどしく教えてくれた歌詞は、俺の知っているものだった。
もっと具体的に言えば、今朝方聞いたばかりの合唱曲……
モニカ「あっ…これって……」
リオ「これ…せい…」
コウスケ「みんな、戻るよ」
モニカ「えっ?う、うん…!」
リオ「お、おう…!」
なんとなく言わせないようにして、俺たちはサフィールちゃんを気遣いながらも素早く来た道を戻っていく。
ある程度歩いたところで、サフィールちゃんが少し落ち着いたようなので、少し路地裏に入って小休止を挟むことに。
モニカ「大丈夫…?」
サフィール「はい…少しだけ楽になりました……」
そうは言うものの、まだサフィールちゃんの顔色はすぐれない。
コウスケ(……特効はしっかり入るんだな……)
マグ(とくこう……?)
コウスケ(特定の相手にだけよく効く効果、ってことさ)
マグ(なるほど。…でも、そうすると……)
コウスケ(…うん……)
サフィールちゃんがずっと恐れていた事態が現実になったってことだ。
これは…ショックだろうな……。
でも、今はそれを気にしてる場合じゃない。
コウスケ「みんな、そろそろ行こう。離したとはいえ、あんまりゆっくりしてると追いつかれちゃうよ」
チェルシー「うん……」
シエル「ま、待ってよ…!追いつかれるって何?サフィールが苦しんでる理由を知ってるなら教えてよ!」
コウスケ「シエル。それはあとで教えるから、今は急ごう」
チェルシー「シエルちゃん……まずはサフィールちゃんが落ち着くところまで連れて行ってから……」
シエル「……あとで……あとで絶対教えてよ……?仲間外れは嫌よ……?」
コウスケ「もちろん。約束するよ。さ、行こ?」
シエル「……(こくり)」
シエルに手を差し出し、彼女と手を繋ぐ。
そして再び医療ギルドへと歩き出す。
その間、誰も喋らなかった。
ただ、みんなで手を繋いで、黙って歩いた。
……みんな不安だろうに、俺を信じてただただ黙って着いてきてくれる。
本当はシエルみたいに取り乱す方が当たり前なのだろう。
そのシエルも、少ない言葉でこうして信じて着いてきてくれている。
…ありがたい限りだ。
そうして俺たちは歩いた。
医療ギルドに向かうために。
聖歌隊から、少しでも離れるために。
急展開。
…ってほどじゃない?
予想できた展開…ですかね?
まぁそれはそれとして、突然の新キャラ…からの突然のシリアス展開。
サフィールちゃんはどうなるのか。
そして聖歌が徐々に近づいてくるのは何故なのか。
その答えは次週!
またお会いしましょう!
ではでは!




