299.聖歌…と、突然のピンチ
翌日。
今日もメリーを連れて冒険者ギルドに行くと、そこには昨日と同じように囲まれている聖歌隊の姿があった。
そんな集団を眺めながらカウンターへと向かっている途中で、集団の中に友人がいるのを発見した。
コウスケ「ショコラ、パメラ」
ショコラ「あっ!マグ〜!」
パメラ「おはよ〜♪」
コウスケ「うん、おはよう」
メリー「……おはよう」
モニカ「おはようふたりとも♪」
リオ「おはようさん。なに話してたんだ?」
ショコラ「おてつだ〜い!」
パメラ「聖歌隊のみんなに街を案内することになったの」
コウスケ「へぇ、そうなんだ」
教会に泊まっていったから、そのままの流れで…って感じかな?
まぁふたりとも冒険者ギルド勤務だし、他のギルドの場所も知ってるからな。
隠密ギルドは…まだこの子らには早いから教わってないそうだけど。
今さらだけど、俺はともかくマグはよかったのかな……?
おかげでロッサ村の調査とかいろんなコネとか出来たからありがたい限りなんだけどさ。
などと考えていると、ショコラちゃんとパメラちゃんの後ろから聖歌隊の制服を着た、マグたちと同じくらいの歳と思われる女の子がひょっこり現れ話しかけてきた。
???「あっ…昨日の子だ~」
コウスケ「ん?」
パメラ「あっ、そうそう。マグ、紹介するね。この子は 《ミハク》。見ての通り聖歌隊の子だよ」
ショコラ「昨日の夜にお友だちになったの~♪」
コウスケ・マグ「(へぇ~……)」
相変わらずコミュ力が高いなぁ……。
ミハク「おはよ~、マーガレットちゃん~」
コウスケ「ん、おはよう…ミハクちゃん?」
ミハク「うん、ミハクだよ~♪」
なんだかだいぶのんびりした子だな~。
そう思いながらぼんやりと観察。
見た感じは…人間族かな。
淡い緑色の瞳と、目じりの下がった優し気な目の形は、見るものにぽやっとした印象を与えてくる。
腰まで伸びる真っ白なキレイな髪を三つ編みにし、その先の方には赤いリボン。
体つきは…すこしゆったりした聖歌隊の制服を着ているのでよくは分からないが、特段変わったところは無いように見える。
つまりマグの標的にされず、パメラちゃんとも良好な関係を築ける…というわけだ。
ミハク「ふたりからね~、あなたのこといろいろ聞いたの~♪」
コウスケ「そうなの?」
ミハク「うん~♪」
変なこと言ってないよな……?
ミハク「なでなでしたりぎゅ~ってしたりするのが上手だって聞いたよ~」
コウスケ「ん…まぁ…喜んではくれてるみたいで……」
ショコラ「すごく上手なの~♪」
パメラ「ふわふわ~ってなるよ♪」
ミハク「だって~?」
コウスケ「あ、あはは…恐縮です……///」
初対面の子に言われると恥ずかしいが……まぁ、このくらいなら言われててもいいか……。
パメラ「でも気をつけてねマグ」
コウスケ「なにを?」
パメラ「ミハクはね…ぽやぽや~ってしてるからか、結構危なっかしいの」
コウスケ「そうなの?」
確かに、ぼんやりして何か落としちゃったーとかありそうだなぁ。
しかし出会って一日経たずにそんなこと言われるなんて相当だぞ?
パメラ「昨日なんか、ミハクが座ったイスの足が急に折れちゃって…」
コウスケ・マグ「(えっ)」
パメラ「しかも全部」
コウスケ・マグ「(全部!?)」
パメラ「おかげですとーんって下に落ちただけだったけど、あれ後ろに倒れてたら床に頭をぶつけちゃうところだったよ~」
ミハク「危なかったね~」
パメラ「当の本人はこんな感じだから余計にね……」
コウスケ・マグ「(…………)」
マグ(そ、そんなことあるんですねぇ……)
コウスケ(ケガが無かったのはよかったけど…凄いねぇ……)
マグ(はい……)
って待って?
すとーんとキレイに落ちて無事って…それ、ほぼ同じ高さになる形で折れたってことじゃね?
4本全部が?一斉に折れて?
…………。
それ誰かがいたずらでぶった切ったとかじゃないよね?
だって折れたってことはその部位のバランスも悪くなってるはずだし。
まさか平たくスパッと折れたわけじゃないだろうし……。
……まさかねぇ……?
リオ「マーガレット?」
モニカ「どうしたの…?マーガレットちゃん…」
メリー「……?(こてん)」
頭がこんがらがってきた俺のもとに、一応聖歌隊と距離を置いていたリオたちがやってきた。
俺らが楽しく話していたから大丈夫そうだと判断したのかな?
ミハク「お友だち~?」
ショコラ「うん、そうだよ!」
パメラ「こっちのウサギさんがモニカで、この子がリオで、こっちがメリー」
リオ「どうも」
モニカ「こ、こんにちは…」
メリー「……(じ~)」
大丈夫だと判断したので普通にあいさつするリオと、まだちょっと警戒している…というよりは、元からの人見知りによって俺の後ろに隠れるモニカちゃんと、それ以上に警戒して同じように俺の後ろから顔を覗かせているメリー。
メリーがぴったり引っ付いている感触があるので、多分モニカちゃんがメリー分のスペースを開けてくれているんだろう。
やさしいね。
でも俺の肩から手は離さないんだね。
かわいいね。
まぁそれはそれとして。
コウスケ「あはは…ごめんね。この子たち、ちょっと人見知りでさ」
ミハク「だいじょ~ぶ~。そういう子は聖歌隊にもいるから~」
そう言ってミハクちゃんは俺に近づいてくると、ふたりを覗き込みながらゆるふわボイスて話しかけ始めた。
ミハク「ミハクだよ~。食べちゃうなんてしないから安心して~♪」
モニカ「う、うん…!え、えっと……よろしく…ね…?」
メリー「……!(ぺこり)」
ゆっくり優しく、臆病な小動物と接するかのような話し方をするミハクちゃんに、モニカちゃんとメリーもなんとなくミハクちゃんがどういう子なのかを理解したのか、おずおずとあいさつを返した。
ミハク「えへ~♪」
それにミハクちゃんが気を良くしたところで、俺は今日ここに来た理由を尋ねてみた。
コウスケ「ねっ。街の案内を頼んだみたいだけど、まず最初にここに来たのはどうしてなの?」
ミハク「えっとね~。ほんとはまだあいさつしてないギルドに行く予定だったんだけど~…」
カダノ「その前に、昨日はボロボロで満足に挨拶が出来なかったので、改めてご挨拶をと思いここを訪れたのです」
ミハクちゃんの言葉に続くように会話に入ってきたのは、聖歌隊の代表であろうカダノさん。
その隣には、ショコラちゃんやパメラちゃんたちロッサ村のみんなを受け入れてくれているこの街の教会の代表者、ナバロさんが付き添っていた。
コウスケ「カダノさん。ナバロさんも、おはようございます」
カダノ・ナバロ「「えぇ、おはようございます、マーガレットさん」」
見事なシンクロ。
マグ(むむ~…?)
コウスケ(どうしたのマグ?)
マグ(いえ…なんとな~くなんですけど、ナバロさんとカダノさんってちょっとだけ似てませんか……?)
コウスケ(ふむ……?)
ん~……言われてみればなんとなく……?
言動とか雰囲気とか……あ~…よく見たら顔のパーツがちょこちょこ似ているような気がしなくもないかもしれない気がするようなしないような……?
あまり確証が持てない俺だったが、次の言葉でマグの感覚が正しかったのだということがわかった。
ナバロ「兄上。マーガレットさんなら大丈夫だと昨日も話したでしょうに」
カダノ「えぇ、それは実際に会って感じましたが……やはり、心配なものは心配なのですよ」
コウスケ・リオ「「あ、兄上!?」」
モニカ「ご兄弟だったんですか…!?」
マグ(やっぱり!雰囲気が似てると思ってたんですよ~!)
自分の予想が当たってはしゃぐマグ。
それとは対照的にちょっぴり納得のいってなさそうな子がひとり。
メリー「……似てない」
コウスケ「これこれメリーさんや……」
確かに見た目はあんまり似てないかもだけど、それを本人たちの前で言うのは……。
カダノ「ふふふ、大丈夫ですよ」
ナバロ「えぇ。私どもも似ているとは思っておりませんしね」
そう言ってほほ笑むふたりの聖職者。
コウスケ「あっ…」
モニカ「笑ってる顔はそっくり…!」
メリー「……!(こくこく)」
カダノ「そうですか?」
ミハク「うん~。そっくりの優しい顔なの~♪」
ナバロ「ははは…なんだか照れますね……///」
と、今度は照れくさそうに笑うふたり。
その顔もよく似ていて、俺たちは少しほっこり。
そしてモニカちゃんとメリーのふたりも、怖い人ではないと判断してちょっぴり打ち解けることが出来たのだった。
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ある程度冒険者ギルドでのあいさつ回りが終わったところで、カダノさんがララさんにある頼みごとをした。
カダノ「すみません。少しこの場をお借りして、聖歌をひとつ歌わせてはいただけないでしょうか?」
ララ「えっ?それは構いませんが…ここでですか?広場などの方がよいのでは……?」
カダノ「暖かく出迎えてくださった皆様への感謝と、冒険者の皆様の健康と安全を願って歌わせていただきたいのです」
ララ「なるほど、わかりました。それでは…どこがいいかな……?」
冒険者A「それならここなんてどうだ?」
冒険者B「クエストボードからも迷宮の入り口とも離れてるから邪魔にならないしさ!」
ララ「あっ、そうですね。それでは、あそこでお願いします」
カダノ「承知いたしました」
リンゼ「後列の方のために、何か台を用意いたしましょうか?」
カダノ「ありがとうございます。ですが御心配には及びません。どのような場所でも大丈夫なように、隊列の作り方を心得ておりますので」
マグ(へぇ~。お歌を歌うのも大変ですねぇ)
コウスケ(そんな苦労があるとは知らなんだなぁ)
歌以外のところでも努力するところがあるんだなぁ。
まぁそりゃそうか。
さて、カダノさんとナバロさんが歌を歌う準備をしに行ったので、残された俺らでぼんやりと会話を続ける。
リオ「聖歌かぁ……そういやしっかり聞いたことないなぁ」
ショコラ「ショコラも覚えてないな〜」
パメラ「あんまり歌ってなかったしね〜」
コウスケ(そうなんだ?)
マグ(そうですねぇ。あまり積極的なわけでもなかったですから。村の何人かが覚えてるくらいだったかなぁ)
コウスケ(へぇ〜)
でも確かロッサ村に来たことがあるって言ってたよなぁ、カダノさん。
そのときにあんまり聖歌のことを推さなかったのかな?
なんにせよ、これなら俺がまるっきり知らなくても不思議がられなさそうで安心だ。
マグに教えてもらうのも限界があるからな。
あっ、そうだ。
せっかく聖歌隊所属のミハクちゃんがいるわけだし、この機会に聞いてみるか。
コウスケ「ねぇミハクちゃん」
ミハク「な〜に〜?」
コウスケ「聖歌には魔を滅する的な効果があるとか聞いたことがあるんだけどほんと?」
子どもたち『(っ!)』
俺の質問にリオたちに緊張が走る。
対してミハクちゃんはふわふわな感じを崩さずに…
ミハク「あ〜、聞いたことあるかも〜」
と言った。
マグ(…あるんですね……)
コウスケ(ふむ……)
これはちょっと悪い情報かなぁ……。
でもサフィールちゃんに効果があるとは限らないから希望は捨てないようにしないとな。
ミハク「でもカダノさんも他のみんなも、そんなことしたことないから本当に効くかどうかはわからないの〜」
コウスケ「あっそうなの?」
子どもたち『ホッ…』
そうかそうか。
そういう言い伝えがあるってだけなのか。
よかったぁ……。
ミハク「どっちかというと、アンデッド系の魔物に歌を聴かせて、魂を解放させたりする方が多いかなぁ」
コウスケ「そうなんだ。アンデッドに……」
…アンデッド?
俺、コウスケ。
元の世界で死んでこっちの世界に魂だけ飛ばされてマグの体に入り込ませてもらっている状態。
いわばゴースト。
そして 《アンデッド》は俺の知る限りだと、ゾンビとかスケルトンとか、あとゴーストとかが該当するものだったはず。
そう、ゴースト。
私、ゴースト。
死者、です、ね。
そう考えると同時に一気に血の気が引いていく。
あれ?
今までサフィールちゃんとメリーの心配ばっかりだったけど……これ、さりげに今生で1番のピンチでは???
マグ(コ、コウスケさん……?)
メリー「……(ぎゅぅ)」
マグとメリーも気づいたようで、俺を心配する声と視線がかけられる。
メリーは服の裾も握っている。
いや、いやいやいやいや待って?
えっ、ウソでしょ?
ここでまさかの成仏かい?
やばい。
やばいやばいやばい!
えっ、ちょっ…ど、どどどどうする!?
どうしよう!?
え〜と、考えよう考えよう……。
まだ時間はある……。
落ち着けぇ…落ち着けぇ……。
ショコラ「マグ?」
リオ「どうしたんだ?顔色が悪いぞ?」
コウスケ「えっあっえっ〜とぉ……」
やばいやばい……!
焦りすぎて表に出てたっぽい……!
…いや、むしろチャンス!
ここでちょっと体調不良を訴えてギルドの2階とか歌が聴こえにくいところに移動出来れば……!
コウスケ「あ、あ〜…ちょ〜っとばかし疲れが出ちゃったのかなぁ?悪いけど、私は上で少し休もかなって…」
モニカ「そ、そうなの…?大丈夫…?」
パメラ「ついて行こっか?」
コウスケ「え〜っと…そこまでじゃないから、みんなはそのまま聴いてて大丈夫だよぉ!」
パメラ「そう…?」
ショコラ「でもぉ……?」
うぅぅ……!
はちゃめちゃ心配してくれるこの子たちにウソをつくのは耐え難いが、さすがに存在の危機だから許してくれよぉ……!
と、ここで救世主が。
メリー「……わたしがいく」
リオ「メリーが?」
パメラ「……!う、うん!そうだね!それがいいかも!」
モニカ「あっ、うん…!そ、それじゃあお願いしちゃおうかな…!」
メリー。
昨日の朝「やばくね?」疑惑が浮上した子。
そんなメリーが離脱すると言えば、他の子は気を使って休むのを許してくれる。
というか、俺がメリーのために休もうとしているのだと勘違いしてくれる!
よし!これなら休め…
ミハク「え?聖歌を聴かないの…?」
コウスケ「っ!」
休めると思ったとき、今までゆるふわ〜な話し方をしていたミハクちゃんがとてつもなく悲しそうな声で聞いてきた。
ミハク「マーガレットちゃんにも聴いてほしかったんだけど……」
コウスケ「うっ……!」
マグ(コウスケさん!我慢ですよ!心を鬼にして!)
コウスケ(わ、わかってる…!自分の命がかかってるんだから、さすがにここは譲れない……!)
コウスケ「えと…その……」
ミハク「いろいろ大変だって聞いた……何か出来ないかなって考えて……でも、これしか思いつかなかったから…だからせめて、精一杯気持ちを込めて歌おうと思ってたのに……」
コウスケ「あぅぅ……!」
マグ(コ、コウスケさん…!ダメですよ…!)
コウスケ(わかってる…わかってるよぉ……!)
マグ(わ、私と代わりましょうコウスケさん!私がお断りをしますから!)
コウスケ(うぅぅぅ……!でも私的な理由で離れるわけだし、俺が直接言う方がぁ……)
マグ(相手にはわかりませんから大丈夫です!さぁさぁ!)
ミハク「…マーガレットちゃんの村の人たちや……お父さんやお母さんが安らかに眠れるようにって…頑張ろうって……」
マグ(ぐふぅっ!)
コウスケ(マグーーー!)
マグもダメそう!
マグ(めちゃくちゃいい子だよぉ……!こんなの断る人は頭おかしいよう……!)
コウスケ(それを今断らなきゃいけないんだよ俺らは……!)
マグ(う、うぅぅ……!これもコウスケさんのため…コウスケさんのためぇ……!)
あかん……!
マグの心労がマッハだ……!
やはりここは俺が言わねば……!
とはいえストレートに言って傷つけたくはないし…何か納得してくれるような理由があれば…………ハッ!そうだ!
コウスケ「…ごめんね、ミハクちゃん……私、ウソついた。ほんとは他の理由があるの……?」
ミハク「……?」
コウスケ「実は……お、お父さんもお母さんも、今も見守ってくれてるんだろうな〜って思って生きているから、万が一成仏されたら…って考えちゃって……それで…怖くなったと言いますか……」
みんな『(!!)』
申し訳ございませんお義父さまお義母さま。
きっと見守ってるのは間違いないと思いますので、ウソは言ってないということで今回はどうか、どうか利用させてくださいお願いします……!
マグ(なるほど……お父さんとお母さんを…さすがですねコウスケさん……!)
コウスケ(マグはそれでいいんか……!?やったやつが言うのもなんだけど、ほんとにいいんか……!?バッチリ利用しちゃってるんだよ……!?)
マグ(えっ?う〜ん……今はコウスケさんが残るのが最優先ですから、お父さんたちを話の種にしてどうにか出来そうならやっちゃわない手はないかと)
お義父さま、お義母さま。
あなたたちの娘は逞しく成長いたしました。
ちょっと責任感じるので改めて謝罪させていただきます、申し訳ございません。
そ、それで?
ミハクちゃんの反応は……?
ミハク「……な〜んだ、そういうことか〜」
コウスケ・マグ「(へっ?)」
な、なんか軽い……?
ミハク「えへへ、大丈夫だよ、マーガレットちゃん。聖歌はね?困ってる魂を助けるための歌なの。だから、強い意志を持って残りた〜いって思ってる魂には効果があんまりないんだよ〜」
コウスケ・マグ「(そ、そうなの?)」
ミハク「うん〜。だからものすご〜く恨みがいっぱいな人は全然帰ってくれないんだけど〜……でもだからこそ、マーガレットちゃんのお父さんとお母さんがマーガレットちゃんを見守りたいって強く思っているのなら、天に帰ることは無いと思うよ〜」
コウスケ・マグ「(そ、そうなんだ……)」
ミハク「うん〜♪……ねぇ、マーガレットちゃんのお父さんとお母さんは〜、優しい人だった〜?」
コウスケ「……」
ここはマグと交代しないとだよな。
コウスケ(マグ)
マグ(…はい)
というわけでバトンタッチ。
そして…
マグ「…うん。とっても優しかったよ!」
断言。
ミハク「…そっか〜♪それなら大丈夫なの〜♪マーガレットちゃん…改めて聞くね?」
それに嬉しそうに返したミハクちゃんは、マグの手を取り、目をしっかりと見つめて尋ねてきた。
ミハク「私たちの歌を…私たちを…信じてくれる?」
マグ「……!」
マグ(……コウスケさん)
コウスケ(うん、大丈夫。俺も同じ気持ちだよ)
マグ(…わかりました)
マグ「…ミハクちゃん」
ミハク「うん」
マグ「…信じるよ、ミハクちゃん」
ミハク「…♪うん、ありがとう〜♪」
マグ(ごめんなさいコウスケさん……)
コウスケ(謝らなくていいよ。俺も同じ気持ちだって言ったでしょ?それに、強い気持ちがあればどうにかなるんでしょ?だったら大丈夫だよ。ね?)
マグ(…………)
言外に強く想っているということを伝えたのだが、当のマグは反応を返してくれない。
コウスケ(マグ?)
マグ(…やです……)
コウスケ(え?)
マグ(ちゃんと、どういう強い気持ちなのか教えてくれなきゃ、や〜です♡)
コウスケ(がくっ…)
なんだよ〜…スベったかと思ってヒヤヒヤしたじゃんかよ〜…も〜……。
……うぅ〜……恥ずいんだけど……。
コウスケ(えっと………)
マグ(うんうん♪)
コウスケ(…マ、マグのことが…好きって気持ちが……(ごにょごにょ))
マグ(えっ?私がなんですか〜?)
うぅ……楽しんでおられる……!
コウスケ(だ、だから…その……マグのことが……)
マグ(……♡)
コウスケ(…す、好き…!大好き!愛してるから大丈夫ってこと!)
マグ(♡♡♡〜〜〜!!)
うぅぅ……めちゃ恥ずいぃぃ……!
ミハク「…マーガレットちゃん……?お顔が赤いよ〜……?」
コウスケ「え……」
俺がマグに何度目かの告白をしていると、その恥ずかしさが表に出てしまったみたいで、ミハクちゃんに心配されてしまった。
ミハク「…ほんとに大丈夫…?無理してたりとか……」
コウスケ「だ、大丈夫大丈夫!熱とかじゃないから!」
ミハク「それはそれで心配だよ…?」
確かに!
リオ「あ〜…これは大丈夫だ。こいつはたまにこうなるからな」
ミハク「そ、そうなんだ……」
……切り抜けられた…っぽいのはいいんだけど……。
なんか…他のものを失った気がするのは気のせいですか……?
大丈夫?
ミハクちゃんドン引きしてない?
ミハク「でも、それなら聴いてくれる…よね?」
あっ、大丈夫そうだ!よかった!
コウスケ「うん!」
ミハク「えへ〜♪それじゃあがんばるよ〜♪」
コウスケ「うん!ありがと〜!」
最高の笑顔を浮かべて聖歌隊の方に向かって行ったミハクちゃんを見送る。
あぁ〜。
コウスケ・マグ((乗り切ったぁぁ……))
気を抜いたらドッと疲れが襲ってきた。
はぁ〜……まさかこんなところで人生最大のピンチになるとは思わなかった……。
だけど…上手いこといけた。
思い次第でどうにかなるらしいし、ミハクちゃんとも仲悪くならなかったし……上々じゃないか?
あとは実際に聖歌を聴くときに、死ぬ気で踏ん張るだけだ。
マグのことを思い続けて耐えるだけだ。
さっきは恥ずかしかったが……。
己の命がかかってるのならば、そんな恥じらっている場合じゃないので全力を出させてもらうぜ……!
なんて考えている俺に、先ほど助け舟を出してくれたメリーが話しかけてきた。
メリー「……よかった」
コウスケ「ん…うん、そうだね。ありがと、メリー」
メリー「……ん♪」
お礼を言うとメリーはご満悦な表情を浮かべる。
可愛い。
コウスケ「でも、メリーはよかったの?」
メリー「……だいじょうぶ。マグと、みんなといっしょだから♪」
コウスケ「…そっか♪」
なら、その期待に応えられるようにしないとな。
スッと手を差し出すと、メリーは嬉しそうにキュッと握り返してきた。
ん。
これで怖いものなしだ。
お互いに、ね。
カダノ「皆さま、お待たせいたしました。これより、皆さまはのお礼に、皆さまの健康と安全を願って、歌を歌わせていただきます」
さぁ、気を引き締めよう。
急な死の危険など、サクッと乗り越えてやるのだ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
結論から言えば、別に気を張らなくても成仏する気配がなかった。
なんかピクリともしなかった。
で、考えてみたんだけど……。
これ、別に帰さなくてもいい善霊だった場合、なんの効果もないただのキレイな歌扱いなんじゃないか?
だって強い思いが〜って、例えが恨みつらみを募らせた相手だったし……。
メリーも別に何事もなく…強いて言えば、聖歌がとても気に入ったくらいで、体に異常が〜とかはまるでなし。
なんだか拍子抜けだわ。
でもまぁ……
コウスケ・マグ((無事でよかった〜!))
こうして、突然の今生最大のピンチは、思ったよりあっさりと終わったのだった。
コウスケ危なくね?というネタは前々から考えてはいたのですが、ぶち込むタイミングを逃していて……。
どうにか消化できて満足です。
さて、来週はいよいよサフィールちゃんも聖歌を聴きます。
こっちが本命です。
本命よりも命の危機を感じてましたが、こっちが本来の本命ですので。えぇ。
どうか、お楽しみに!
ではでは!




