295.手作りデザート…と魅惑の隙間
みんな『ごちそうさまでした!』
サフィールちゃんをあやしながらお昼ご飯を食べ終えた俺と子どもたち。
ちなみにサフィールちゃんはある程度甘やかされて落ち着いたのか、サフィールちゃんは突然俺の膝の上に乗っているのが恥ずかしくなったようで、そそくさと降りてイスへと戻っていった。
おかげで食べやすくなったが…まだ少し甘やかし足りないのでちょっと残念。
モニカ「それじゃあ持ってっちゃうね」
コウスケ「うん、ありがとう」
サフィール「ありがとうございます」
まぁそれはそれとして、モニカちゃんがお店の子らしく、それ持てるの…?という量の食器を持って厨房へと向かっていった。
8人分なのでさすがに1度や2度では持って行けなさそうだが……。
それでも普通に両手で持つだけよりもいっぱい持ってけるから断然早く終わるだろう。
やっぱり、腕の上に食器を載せるっていう飲食店の人の持ち方って凄い。
あれ、落としそうだから怖くて真似出来ないんだよね。
その辺も飲食店のバイトをしたら教えてくれたりするのだろうか?
まぁやらんが。
他の従業員の方も手伝いながら、俺たちのテーブルの上の食器は全部片付けられた。
さて、水も飲んだし……。
おかわりもらおう。
そしてデザートを待とう。
コウスケ「あっ、すみませ〜ん。水のおかわりをお願いしま〜す」
従業員「は〜い、ただいま参りま〜す!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
水を飲みつつみんなと談笑しながら待っていると、お目当てのデザートを持った従業員の方とモニカちゃんがやってきた。
従業員「お待たせしました〜♪」
モニカ「デザートで〜す♪」
ショコラ・パメラ「「わ〜い♪」」
待望のデザートの登場に沸き立つ俺たち。
俺の分はモニカちゃんが持ってきてくれた。
モニカ「はい、どうぞ♪マーガレットちゃん♪」
コウスケ「ありがとうモニカちゃん♪」
今日、私がいただくのは、3種のジャムの5段クレープです。
文字通り5枚重ねられたクレープ生地に、横3方向に添えられた各種ジャムを付けていただくデザート。
クレープの上、中央にはなんとホイップクリームが。
でもこれって確かハンドミキサーが無いと死ぬほど大変なはずじゃ……?
そんな疑問が浮かんだものの、ここ白兎亭にはハルキからの贈り物である魔道具が割とあるので、ハンドミキサーがあったとしても不思議じゃないなと思い直した。
多分チェルシーと友だちでいてくれてありがとうという想いと、自分の食べたい料理を教えて作ってもらおうとか、試供品渡して使い心地を聞いてみようとか、そういう思惑があるのだろう。
まぁそのおかげで美味しい思いを出来るのだから、文句などあるはずもないがな。
そう思ったのが、そこそこ前のこと。
今じゃすっかりリピーターよ。
さらにいえばこの付いてくるジャムは日替わり…どころかその時々で違う。
今あるもの、使いきれそうなものから使っているらしい。
とても合理的な理由である。
一応頼めば好きなジャムを選べるが、全部美味しくいただく俺はこのランダム性を楽しんでいるのだ。
まぁ今回はクレープ生地の方にも若干のランダム性を感じるが……。
形がちょっと歪だったり、小さかったり大きかったり……。
厨房担当のモニカちゃんのお兄さん、疲れてるのかな?
いや、もしかしたらバイトさんが作ったのかもしれないし、ここは流しておこう。
コウスケ「それじゃあモニカちゃん、今日のラインナップは?」
モニカ「今日はねぇ…クランベリーとブルーベリーとラズベリー!」
コウスケ「ベリーのみ!」
モニカ「ベリー系で揃えてみました〜♪」
コウスケ「もはやそういうメニューとしてありそうだよこれ」
3種のベリーのジャム付きクレープ……あるね、確実に。
なんにせよ、美味しいってことは変わりない。
そんじゃまぁさっそく…
コウスケ「いっただっきま〜す♪」
マグ(あっ!ずるいです!)
コウスケ(前のデザートのときは先手譲ったんだからいいでしょ〜?)
マグ(むぅ〜!)
なんて争いをしながらクレープをカットし、ジャムとクリームを程よく載せる。
そしていざ口へと運ぼうとしたところで…
モニカ「……!(じ〜)」
物凄い視線を感じた。
コウスケ「えと…モニカちゃんどうしたの…?」
モニカ「えっ!?う、ううん…!なんでもないよ…!」
コウスケ「そ、そう…?」
その割にはめちゃくちゃ熱い視線を感じたんだけど……。
マグ(コウスケさんにあーんしてもらいたいんじゃないですか?)
コウスケ(ありえる……)
とはいえ、そうだとしてもここまでジッと見つめてくるようなことはなかった気がするけど……。
大体他の子を甘やかしてるときに見つめてくるときくらいだったはず……。
しかし今は誰も甘やかしていない……。
強いて言えば自分を甘やかしているだけだ……。
いったいどうしたんだろう……?
う〜ん……でも本人が言う気がないみたいだし……ここはあまり追及しないであげたほうがいいのかな?
…と、とりあえず…食べよう。
クリームが溶けちゃうし。
というわけで再び口に運ぼうとすると、またしてもモニカちゃんから熱い視線が……。
い、いやいや、ここはあえてこのままいく……!
どうせ聞いても「なんでもない」って返ってきそうだし……大丈夫…なはず……!
パクッ!
意を決してクレープを口に放り込む。
チラッとモニカちゃんの様子を窺うと、モニカちゃんはまだこちらをジーッと見つめ続けていた。
マグ(食べたかったわけじゃないんですね……)
コウスケ(そうだねぇ……)
と、いかんいかん。
モニカちゃんの様子も気になるが、それはそれとしてデザートを楽しまなければ。
もきゅもきゅ…。
コウスケ「うん、美味しい♪」
モニカ「!」
俺の言葉に背筋をピン、耳をぴょこんとさせるモニカちゃん。
なんだかめちゃくちゃ嬉しそう………あっ。
もしかして……?
コウスケ「ねぇ、これもしかして……」
モニカ「ふぇっ!?な、なぁにマーガレットちゃん…!そ、それはお兄ちゃんが作ったものだよ…!」
オッケー把握。
なるほどなるほど……。
う〜ん…そうと分かると、なんかいつもよりも美味しく感じちゃうなぁ……♪
でもなんで隠してるんだろ?
ちょっと釣ってみるか。
コウスケ「そっかぁ、そうだよね〜。凄く美味しいから作った人にお礼したいなぁ〜って思ったんだけど……」
モニカ「い、いいんじゃないかな…!お兄ちゃんも喜ぶよ…!」
コウスケ「それならよかった。でももしぃ…」
モニカ「もし…?」
コウスケ「もしモニカちゃんが作ってくれたんだったら、いっぱいいろいろお礼したのにな〜って思っちゃって〜」
モニカ「い、いっぱい……いろいろ……!」
あらあら♪
目に見えてソワソワし始めて……可愛いねぇ♪
コウスケ「でもリンクスさんにそれをするわけにもいかないから、やっぱり普通にお礼を言うだけにしとくよ〜」
モニカ「あっ…………う、うん…それがいいよ……」
ありゃ、言い出さなんだか。
まぁちょっと言い出しづらいか。
イジワルしちゃったな。
コウスケ「モニカちゃん」
モニカ「なぁに…?」
コウスケ「美味しいよ、ありがとう♪」
モニカ「っ!」
コウスケ「さっ、こっちおいで。私にお礼させて?」
モニカ「……うん♪」
えへ♪えへへ♪…っとでも聞こえてきそうなほど嬉しそうにこっちに来るモニカちゃん。
なんでこの子は軽率に萌え殺そうとしてくるのか。
この謎の真相はジャングルの奥地で見つからないだろうか。
目の前に対象いるのにジャングルなんざ行かんか。
そうか。
モニカ「…♪」
とかなんとか考えてる間に、モニカちゃんが俺の膝に座りご満悦。
可愛すぎるこの動物を甘やかすため、俺は彼女の頭を撫でな始める。
コウスケ「美味しいよ〜モニカちゃ〜ん♪それに作ってくれて嬉しいよ〜♪」
モニカ「えへへ…♪」
コウスケ「でもどうして隠そうとしたの?」
モニカ「あぅ…だ、だって…お兄ちゃんのに比べたら、形はバラバラだし厚さも違うし……」
コウスケ「う〜ん……プロであるリンクスさんと比べたらそりゃ厳しいんじゃ……」
モニカ「わ、わかってるんだけど……やっぱり気になっちゃって……」
リオ「あぁ〜…まぁ気持ちはわかる……」
シエル「自分の腕不足なのはわかってるんだけど、それでもどうしても考えちゃうわよねぇ……」
モニカ「だよね……!」
理由を話してくれたモニカちゃんに共感するリオとシエル。
ものは違えど、作るということ括りで言えば大体同じようなものだからだろうか。
まぁそうだよなぁ……。
あんま比べすぎるのも良くないんだけど、どうしても気にしちゃうよなぁ……。
モニカ「マ、マーガレットちゃん…ごめんね…?」
コウスケ・マグ「(えっ?)」
突然謝られて困惑の我ら。
よくわからないが、モニカちゃんが顔を俯かせてしょんぼりしている。
えっ?えっ?どゆこと?
モニカ「へたっぴなの出しちゃって……これの分はお金いらないし、お兄ちゃんに新しいもの作ってもらうから……」
コウスケ「んっ!?いやいやいやいや…!」
何を言っとるのんこの子は?
コウスケ「形がちょっと歪んでるくらいでそんな……」
モニカ「で、でも…お客さまに失敗したやつを出しちゃったらお店失格だし……」
コウスケ「そ、れは……!」
お店としては正論だけども…!
コウスケ「だが今はそんなことはどうでもいい!」
モニカ「へっ…!?」
コウスケ「肝心なのはモニカちゃんが、私のために作ってくれたってこと!」
モニカ「で、でも……」
コウスケ「それとも、手を抜いたの?」
モニカ「えっ…!?う、ううん…!そんなことはしないよ…!」
コウスケ「ならいいよ。それに言ったでしょ?美味しいし嬉しいってさ♪」
モニカ「あっ……」
俺がそう言いながらモニカちゃんを抱きしめる手に力を込めると、モニカちゃんはようやく顔をあげて俺の方を向いてくれた。
コウスケ「私は嬉しいよ♪モニカちゃんが私のために頑張ってくれたんだ〜って思うだけでぽかぽかした気持ちになるし、それに心なしかいつもよりも美味しく感じるし♪」
モニカ「そ、そうなの…?」
コウスケ「うん♪あぁ、もちろんいつもリンクスさんが作ってくれるものも十二分に美味しいけどね。でも、私はこっちの方が好きだなぁ♪」
モニカ「す、好き…?」
コウスケ「うん!モニカちゃんの想いがこもってて好きだよ♪」
モニカ「はぅ……///」
モニカちゃんが再び俯いてしまったが、ウサ耳が忙しなくぴょこぴょこ動いているので、落ち込んでるわけではなく照れているのだというのが分かる。
…このぴょこぴょこ動く耳の間に顔を挟んでみたい気持ちに駆られるが、今はまだ真面目な部分なので大人しく自重する。
コウスケ「ねっ、だから自信持って!」
モニカ「…そ、そんなに…好き…?」
コウスケ「うん!大好き!」
モニカ「……そっか………っ〜〜〜♪///」
おぉ……。
耳の動きがより早く……。
もはやパタパタと音が鳴りそうなレベルだ……。
…これはちょっと挟んだら痛いかな…?
どうかな…?
モニカ「ね、ねぇ…マーガレットちゃん……?」
コウスケ「うん、なぁに?」
モニカ「その……もし…よかったら……次からも私が作って…いい…?」
コウスケ「えっ!いいの!?」
モニカ「う、うん…」
コウスケ「やった!ぜひぜひ!」
モニカ「そ、そう…?えへ…♪」
美少女の手作りお菓子がこれから毎日のようにとか、断るやつなんていねぇーよなぁ!?
モニカ「え、えと……(もじもじ)」
コウスケ「?」
モニカ「…い、いっぱい……想い…込めるね…?」
コウスケ・マグ「(ぐはっ!)」
めちゃくちゃ健気なこと言ってトドメ刺しに来たでこの子!
モニカ「えぇっ!?ど、どうしたのマーガレットちゃん…!?」
コウスケ「い、いや……ちょっとキャパオーバーというか、尊みが天井したというか……」
モニカ「???」
コウスケ(今のは効いたなぁ……)
マグ(はい……!あまりの可愛さに火が付くほど撫でるところでした……)
コウスケ(わかる。よく耐えたよ俺たち)
マグ(えぇ。危ないところでしたけどね……)
コウスケ(それな)
危うくモニカちゃんをぎゅっと抱き寄せてウサ耳の間に顔挟むところだったぜ……。
リオ「…マーガレットのああいうところ、ずるいよな……」
サフィール「はい……」
パメラ「ほんと、カッコよくなったなぁ…マグ……」
なにやらこちらを見てぽしょぽしょ言っているが、陰口ではないのはわかったので触れない。
今はそれよりもモニカちゃんを甘やかさないとだからな!
というわけでデザートを食べ切るまでの間モニカちゃんを甘やかした。
ちなみに、顔をぴこぴこ動く耳の間に置いてみたら、意図を汲んでくれて挟んでくれた。
もふもふの耳に挟まれるのはやはり心地よかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さて。
ちょっと遅くなったかもしれないが、精神的には絶好調なので午後の仕事など恐るるに足らない。
サクサク終わらせる自信がある。
なんて謎の自信を持ちながら鍛治ギルドへ向かう我々子ども組。
モニカちゃんを甘やかしていたので忘れていたが、聖歌隊はまだ街に着いていないようだ。
チェルシー「遅いねぇ……」
シエル「何かあったのかしら……?」
リオ「ありえるなぁ……大したことじゃなけりゃいいんだけどなぁ」
サフィール「…そうですね……」
サフィールちゃんが複雑な表情をしている。
出来れば会いたくないからあまり早く来なくてもいいと思っているけど、だからと言って何か不幸が起こってほしいわけじゃないから早くたどり着いて無事な姿を見たい…って感じかな?
う〜ん…複雑。
???「それなら問題ないよ」
みんな『っ!!?』
突然後ろから話に参加されてビックリする俺たち。
その相手の正体は…
コウスケ「ココさん!」
そう。
ダークエルフのナイスバディなクール系お姉さんこと、隠密ギルドのスーパーエースであり 《絶影》の二つ名を持つココさんだ。
相変わらず突然視覚に現れる人だよこの人は。
ショコラ「ココさんこんにちは〜!」
パメラ「こんにちは〜!」
ココ「えぇ、こんにちは」
が、割と慣れた&コミュ力バリ高なウチの子どもたちは、驚きこそしてもそれをずっと引っ張るようなことはせずに早々に挨拶へと移行していた。
この子らのこの明るさはもはや国宝指定してもいいのでは?
と、そんな俺は置いといて、チェルシーがさっそくココさんに質問をした。
チェルシー「ココさん。問題ないって言ってましたけど、どういうことですか?」
ココ「聖歌隊の動向が分かったから」
サフィール「っ!」
シエル「えっ!そうなんですか!?」
マグ(おぉ、さすがココさん!)
激しく同意。
ココ「道中で魔物に襲われたらしくて、それで遅くなってる。護衛の兵士の中に軽傷者はいるけど、特に問題なさそうだったから…」
チェルシー「なるほど、それで…」
魔物かぁ……。
街に引きこもってるからエンカウントしてないけど、この世界はダンジョンだけじゃなくてそこらの森とかにも魔物が闊歩してる世界だからなぁ。
まぁなんにせよ無事ならよかった。
コウスケ「ん…それなら、もしかして到着予定時刻も分かったり?」
ココ「えぇ(こくり)」
みんね『おぉ!』
サフィール「…!」
サフィールちゃんに緊張が走り、釣られて俺たちも緊張してくる。
そんな中、ココさんは変わらぬ無表情で
ココ「聖歌隊が到着するのは…」
みんな『するのは……?』
ココ「今日の夕方。あと大体4〜5時間くらいだと思う」
みんな『(っ!)』
4〜5時間後……。
帰るときにばったり会わないか心配な時刻だな……。
ふむ……。
もしあれなら、サフィールちゃんを医療ギルドまで届けることも視野に入れるべきか……。
ココ「それじゃあ」
ショコラ「えっ!?もう行っちゃうんですか!?」
パメラ「もうちょっとお話とか…」
ココ「…ごめん。まだ他の仕事があるの」
ショコラ・パメラ「「そっかぁ……」」
伝え終えたので帰ろうとしたココさんを止めるショコラちゃんとパメラちゃん。
しかしココさんは隠密ギルドのエースらしく多忙らしく、断られて2人はしょんぼりしてしまった。
とはいえさすがに仕事があるなら止められない。
ここはお礼だけ言わせてもらおう。
コウスケ「ココさん、ありがとうございました!」
みんな『(ありがとうございました!)』
ココ「ん」
たったひと言だけだが、ちょっと喜んでるような…照れてるような気がした俺です。
そして、俺たちがお辞儀をして、顔を上げたらもういなくなっているココさん。
神出鬼没な方だなぁ……。
とはいえお陰で聖歌隊の動向がわかった。
分かったからには…
サフィール「夕方……4〜5時間後……」
明確なタイムリミットを突きつけられてソワソワし始めたサフィールちゃんを宥めよう。
そんなサフィールちゃんをみんなで支えながら、俺たちは鍛治ギルドへと再び歩みを進めた。
さてさて……吉と出るか凶と出るか……。
なんにせよ、サフィールちゃんは守らせてもらうぜ。
目の前のことに集中出来ない男、それがコウスケ。
さて、ようやく聖歌隊が来そうです。
どうなるかな…?っていうのは、また次週!
お楽しみに〜!
ではでは〜