29.相談事…というか暴露
(さて…どこまで話しても大丈夫だと思う?)
(うーん…メイカさんたちは良い人たちですし、私の命の恩人でもあります。出来れば隠し事はしたくないんですが……隠し事の規模がちょっと…大きすぎて……)
(異世界って言って信じてもらえるかねぇ……)
(しかもその人が私の体を使ってた、なんてメイカさんが知ったら……)
(…………想像は出来ないがヤバそうなのは分かる……)
(私もです……)
メイカさん、ケランさんとリビングでディッグさんを待ちつつ、マグと頭の中で相談をする。
(俺としては、こういうことは早めに切り出しちゃった方がいいと思う。後になるほど、言い辛くなると思うから)
(はい、それは同意見です。問題はどう話すか…ですよね……)
(一応他の話題で誤魔化すことも出来るけど……)
(考える時間は作れても、根本的な解決にはなりませんね……)
((うーん……))
「マーガレットちゃんまた考えてる」
「え?」
「左手。マーガレットちゃん、考え事してる時左手で髪をかき上げて、そのまま頬杖つくんだもん、すぐに分かるよ」
「えっ?そうだったんだ……」
(はい、夢の中で話している時も何度かしてましたよ)
(マジか、全然気付かなかった……)
「それに、考えている事の深刻さもなんとなく分かるよ。今日のご飯のことを考えてる時はどこか遠くを見てて、何か深刻そうな時は眉間にシワが寄ってて、目も細めて、どこか大人びた雰囲気になってるからね」
「そ、そうでしたか……」
(マジで?)
(はい、アイツを倒す計画を話していた時も、昨日奴隷の話をした時も、同じような顔をしてました)
(マジか……)
(でもそれって、それだけ本気で考えているってことですよね?)
(まぁ…生半可な気持ちで聞くような話じゃ無いし……)
(…私は嬉しいですよ?会ってまだ少ししか経ってない私のために、まだ見たこともない奴隷の人々のために、一生懸命考えてくれるの)
(…そうしたいからそうしただけだし、下手したら迷惑になるようなことばかりだぞ?)
(それでも、力になってくれる人がいるだけで救われる人はいるんです)
(……そう)
なんか、最近マグに頭が上がらない気がする。
いや最初から上がる立場じゃなかったけど。
じゃあ変わんないじゃん。
まぁその言葉で、ちょっと覚悟決まったけどさ。
「んー…?どうしたお前ら…ずいぶん早いな……?」
「ディッグさん、おはようございます」
「おう、おはよぅ……ふわぁ〜あ……んで?何を話し合ってんだ…?」
「ディッグ、マーガレットちゃんが相談があるんだって。早く顔洗って支度してきて」
「相談…?分かった…ちょっと待ってろ…」
ディッグさんが身支度を整えている間に、俺は自分の部屋から昨日ララさんにもらったノートとペンを、キッチンからコップを四つと水差しを持ってきてテーブルに置く。
「待たせたな」
「いえ、こちらも準備が整いましたよ。さあディッグさんこちらに…」
「お、悪りぃな嬢ちゃん」
ディッグさんが戻ってきたので、椅子に座るように勧める。
彼が椅子に座ったのを確認すると、俺は自分のコップに水を入れて少し飲んでから、話を切り出した。
「まず、朝早くにお話を聞いてくれてありがとうございます」
「気にすんな」
「そうだよ」
「じゃんじゃん頼ってよ!」
本当、良い人たちだよ、みんな。
「ありがとうございます。それでですね…今回のお話はちょっとショッキングと言いますか、色々と突拍子の無いことを言うと思いますが、そこら辺もちゃんと説明するつもりですので、何かあったら聞いてください」
「う、うん…分かった」
「おう…」
「それは良いけど…無理はしないでね…?」
「大丈夫ですよ、メイカさん。それにちゃんと話しておきたかったので」
俺はそう言いながらノートの一番最後のページを開き、そこに横に細長い長方形を書いてグラフのようにする。
そしてそのグラフの下に時間として数字を書くと、俺は本題を切り出した。
「これは村を焼かれてから昨日の朝までの時間を表したものです」
「「「!」」」
俺があの村の話を切り出したので、驚かれてしまった。
だが俺は気にせず話を進める。
「左端が村、右端が昨日の朝です。この間に私の体に起こったことについてお話したいのです」
「マーガレットちゃんの体に起こったこと……?」
ケランさんが心配そうに呟く。
それを説明するためにも俺は話を続ける。
「まずはこの表を完成させましょう。村から私が馬車で目を覚ますまでの時間がここ、そのあとギルドに着くまでは大した問題は起こってないのでカットします」
「いきなりカット……」
「午後にイベントが固まってたので……」
ほんと、午後に畳みかけ過ぎなんだよなぁ……。
「それでここですね、ギルドでハルキさんとチェルシーに出会ったところから、色々と起きました」
「…やっぱりマーガレットちゃんに何かしてたんだ……」
「いいえ、あそこで言った以上のことはされてませんよ。それに関しては彼らは無実です」
「そ、そうなの?」
(まだメイカさんは許してないんだな……)
(あれはハルキさんたちの手段も悪かったと思いますけどね……)
「それでそのあとはまぁ、みなさんと一緒にいましたし、その時間もまたカットして……お風呂から部屋に戻ったところから、寝るまでの間ですね」
「その時間は?」
「魔法の練習をしてました」
「あぁ…そこで無詠唱魔法ができるようになったんだね……」
「はい、なんか…いけました……。こ、こほん、まぁそれはともかくそのあと寝て起きるまでの間、つまり夢の中でも実は色々あったんですが…それはまた後で」
とりあえず出来事を書き終え、俺は水を飲んで軽く息をつく。
そして3人を見やり、特に質問が無さそうだと確認してから話を始める。
「さて、ではここからが本題、今書き出した表の時間の間、私に起きていたことを話していきたいと思います」
そう言うと3人は先ほどよりも真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。
「まずはここ、馬車で目覚めるまでの眠っていた時間、ここの間に大きな変化がありました」
「…何があったの……?」
「……すごく言いづらいんですけど……異世界の人の魂が入りました」
「「「……………は?」」」
ですよねー!!
やめて!そんな何言ってんだこいつって目で見んといて!!
「…嬢ちゃん…こんな時に冗談は……」
「いや、さすがにこの空気で冗談を言うほど私も肝が座ってるわけじゃ無いですよ……」
「でも、異世界なんて言われても……」
「ちゃんとそこら辺も説明しますから、とりあえず話を聞いてください……」
予想していたとはいえ、やはり難色をしめしているメイカさんたち。
とにかく話をさくさく進めよう。
「まず、なんでそんなことを言えるのかということですが、まあこれは簡単、俺がそうだからです。で、それが…」
「ちょちょちょちょっ!??ちょっと待って!?「俺がそう」ってどういうこと!?」
「え?そういうことですよ?メイカさん」
「どういうこと!?」
(…めんどくさくなってません?)
(そんなことないですわよ?)
「俺がこの子の体に入った異世界人の魂だということです」
「「「…………」」」
「で、それがなんでかと言うと…俺がその異世界で死んだからですね」
「「「はっ!!??」」」
「向こうで死んだ俺は、何故かこちらの世界に引き寄せられ、龍に村を焼かれて心を閉ざしていたマグの体に、これまた何故か入った、ここまでは分かりましたか?」
「いや、分かんないよっ!?何ひとつとして理解できてないよっ!?」
ケランさんに叫ばれてしまった。
俺があまりにも軽い口調で話をどんどん進めるので、みんなまったく追いついてないようだ。
でもこれが真実だから…頑張ってついてきて欲しい。
「えーっと、ちょっと待ってくれよ……?つまり…なんだ…?今喋ってるあんたは、嬢ちゃんじゃないってことか?」
ディッグさんが俺の話を理解してくれたようで、そんなことを聞いてくる。
それに俺はあっさり答える。
「はい、そうですよ」
「そうですよって……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?ならマーガレットちゃんはっ!?本物のマーガレットちゃんはどうしたの!?」
まぁ心配だよね。
「大丈夫ですよ、メイカさん。本人の魂もこの中にいますし、なんなら少し回復しましたから」
「ど、どういうこと…?」
「んー…それを話すためにもう少し進めましょうか。馬車で目覚めた俺は最初、転生したのだと勘違いして、この子の体を異世界での自分の体だと思っていました」
「転生…違う体で蘇ったと思っていたってこと?」
「はい、その通りです、ケランさん」
俺が淡々と話を進めるので、みんなも少し落ち着いたようだ。
よかったよかった、これで話をスムーズに進められる。
しかし、ケランさんが「転生」のことを理解してるとは…こっちの世界にもそういうのがあるのかな?
「そして、ハルキさんとチェルシーに出会ったとき、俺は眠らされて、代わりにマグが表に出てきました」
「てこたぁ…あの時泣き喚いてたのは…」
「はい、マグ本人です」
「……ちょっといい?さっきから気になってたんだけど、あなたマーガレットちゃんのこと、「マグ」って呼んでるの?」
「あ、はい。本人の許しを得ました」
「本人の許しを得た?どうやって?」
「それがこの後の話です。眠った俺が見たのは、マグが村を焼かれたときの夢でした。そのあとハルキさんと話したときに、俺はこの子の体を借りているだけだということに気が付きました」
「…!そういやあの時、異世界がどうのって聞いてたな!」
「!確かにそうでした!ということはあの人はマーガレットちゃんに起きていることに気が付いていた…記憶を呼び戻したのではなく、本人に体を返そうとしてたのか!」
そういうことだと俺は頷く。
そう、ハルキはなんらかの手段で俺の状態を知った。
そして俺たちがギルドで話した時には、彼とチェルシーは示し合わせたように行動を起こした。
ということは、俺と顔を合わせる前にどこかで知ったということだ。
まぁ、それを考えるのは今じゃないので置いておくとして…
「龍に村を焼かれたのがこの子の身に実際に起きたことだと知った俺は、心を閉ざしてしまったこの子の代わりに行動を起こすことにしました」
「龍に対抗する為に人を集めるって言ってたアレのことね」
「はい」
「でも、こう言ってはなんだけど、あなたは逃げることも出来たはずよ。いくら体を借りているとはいえ、出会ってもない、夢の中でしか見たことがないその子の為に、どうしてそこまでしようと思ったの?」
聞かれるとは思っていたが、まさかそれがメイカさんの口からだとは思わなかった。
いや、考えてみれば当然か。
なんせ相手は龍だ。
そんな危険な相手に立ち向かうなんてこと、本当はして欲しくないはずだ。
だから俺は彼女に誤解されないように、自分の気持ちを嘘偽り無く話す。
「俺も龍は怖いです。そもそも俺の世界には魔法や魔物なんてものは無かったので」
「魔法が無い?それでどうやって生活してんだ?」
「科学と言って、魔法とは違う技術が発達してるんです。まぁとにかく、そういうことなので俺も本当は戦いたくないです」
「なら、なんで?」
「…まずひとつが体を借りていたことへの罪悪感。馬車で起きてからギルドで知るまで、「俺は異世界に来れたやったー!」と浮かれていました。だから、その間この子が苦しんでいたと知って、自分のノー天気さに後悔しました。その罪滅ぼしとして、というのがひとつ」
(私はその時のことは知りませんけど、コウスケさんも知らなかったんですし、しょうがないじゃないですか)
(いや、これはそういうことじゃないんだよ。こうしてけじめをつけないと罪悪感で潰れる。だから…まぁ…これも俺の我が儘だよ)
「ふたつめに俺が異世界人であること」
「うん?そっちには魔物はいないんだろ?なんで異世界人であることが理由になるんだ?」
「確かに俺の世界には魔物はいません。ですが、ゲーム、アニメ、本などである程度の知識はあります」
「ゲーム?アニメ?なんだそりゃ?」
「んー…一言で言うなら…人々の妄想を具現化した物…ですかね」
「妄想?そんなものが頼りになるんですか?」
ま、これだけじゃ説得力は無いわな。
…だからこれだ。
「その知識を使って実際に出来たことがありますよ」
「何?」
俺は手をかざしてこう呟く。
「《ナインエレメンタル》」
すると俺たちの上空に9つの色の球が現れ、プカプカ浮かび始めた。
「こ、これはっ!?」
「9属性全部のボールっ!?しかも一言呟いただけで!?」
「おいおい…全属性使えるやつなんて聞いたことないぞ……!?」
「これが俺たちの世界の、妄想の力の一部です。正直俺も、まさか全部使えるとは思ってませんでしたが……」
適性とかがあるのに、いきなりポンっと全部使えるなんてさすがに思わないからなぁ……。
「まぁとにかく、ああなるかな?こうならないかな?みたいな妄想と、他の様々な知識を組み合わせて作った物が、俺の世界には星の数ほどあるんです」
「そりゃあまた……」
「すごいな……」
「それで、その中に龍に対抗する手段があるってことよね……?」
「はい。とはいえ、いくら凄くても現実と妄想は違います。だから効果的なものがどれかをきちんと見極めなければいけません。だから俺は、ギルドで働きたいと言いました」
「なるほど……そりゃ理にかなってるわ……」
「はい。そしてみっつめですが…これは至極単純なことです」
「単純なこと?」
「はい。俺はただ単純に…」
「(アイツが嫌いです)」
(ですよね?)
(人の決め台詞にハモらないでよ……)
マグ…君もうすっかり元気だよね?
説明回って、難しいですね。




