3.魔法の適性と魔道具…のお話
「おおぉぉぉ……」
門が開いた先の光景に俺は感動と興奮を覚えた。
これぞファンタジー……。
なんだかようやく異世界って感じがする。
遠くに貴族の館のようなものも見えるし。
「おぉ…街だ……」
「予想以上に賑わってますね……」
「えぇ…とても栄えています……」
「興奮するマーガレットちゃん可愛い……」
1人別の感想が混ざったが、みんなどうやら予想よりしっかりした街である事に驚いてるようだ。
さっき聞いた噂なら賑わっていても不思議じゃないと思うんだけど……。
門をくぐってすぐ、道の端に馬車を止め俺はテレフォンオーブの見学…もといディッグさんの連絡事項を済ませに通信室に向かっているところである。
「さっき聞いた噂なら賑わうのもおかしくないのでは?」
さっきのみんなの反応が気になった俺は、思ったことをそのまんま聞いてみた。
「いやいや驚くさ。なんたってこの街、というよりこの塔が出来たのがまだ2月前だからね。本当はあんな噂が流れてくるのも珍しいことなんだよ?むしろマーガレットちゃん、なんでそんなに落ち着いてるの?」
「えっ、いや〜ほら、街ってこうなんだ〜って思って……」
「街が初めてなマーガレットちゃんよりも私たちがはしゃいじゃってたのね……」
ケランさんの質問に咄嗟にそれらしいことで返したらメイカさんがちょっと遠い目をしてしまった。
「私たちがもう少し落ち着いていれば、はしゃいでる姿に、そのあとハッとなって恥ずかしがるマーガレットちゃんが見れたかもしれないのに…惜しいことをしてしまった…!」
うんやっぱこういう人なんだな。
まだ少ししか交流してないけどなんとなくメイカさんのキャラが分かってきた気がする。
そこに他の兵士と門番の交代をしてきたゆるい門番さんが自慢げに話しかけてきた。
あ、でも門番交代したし、《元》門番さんかな。
「ふっふっふ〜、お嬢ちゃん。実は俺たち元は王国の兵士だったんだぜ〜?兵士であることに嫌気がさしちゃってさ〜。噂を頼りに知り合いも誘ってここに来たんだけどまぁ〜ここが楽しくて楽しくて!今はもう王都に戻る気なんかこれっぽっちもなくなっちゃって…」
「おい、ヨシュア…あんまり王都を悪く言うなよ…どこで誰が聞いてるか分からないんだぞ…?」
「え〜?でもさ〜ここと王都とじゃ比べるまでもなくここの方が楽しいのは本当だし〜。それともラディは王都に戻りたいのか?」
「そうは言ってないだろ。俺はただ……あ……」
へー、真面目な門番さんがラディさんで、ゆるい門番さんがヨシュアさんって名前なのか。
などと考えてるうちに真面目さんが、俺たちがいることを思い出し気まずそうにこちらに顔を向ける。
「すまないっ!また見苦しいところを…」
「あーいえいえ大丈夫ですよ。」
「ぷぷっ、小さい子に気ぃ遣われてやんの。」
「お前……後で覚えとけよ……?」
「は〜い、ここがテレフォンオーブのある通信室ですよ〜」
思ったよりそこそこ広い兵舎の中を歩きながら門番さんたちの会話を聞いていると、どうやら目的の通信室に着いたようだ。
真面目さんが鬼の形相でゆる門さんを見てるが、ゆる門さんは華麗に流している。
強い。
「じゃ、俺とモーリッツで報告してくらぁ、ちっと待っててくれ」
「えぇ、お願いね」
あれ?てっきり一緒に入るもんだとばかり思ってたのに、まさかの留守番?
「あの〜、ディッグさん?私そのテレフォンオーブって物を見てみたいのですが……」
「あー…後でな、後で。ちと急ぎで内緒の話をしなくちゃいけないからな。」
「むぅ……」
内緒話かぁ……。
気にはなるけど仕事の話とかだったら無理に聞くわけにもいかないし仕方がないかぁ……。
大人しく待つとしよう。
「さ、マーガレットちゃん。こっちで僕たちと話しながら待っていよう」
「むー…分かりました、ケランさん達に聞いてみたいこともありますし大人しくしています。…でも、後でちゃんと見せてくださいね?」
「おぅよ!約束するぜ!じゃ、行ってくらぁ。」
約束を交わしてディッグさんと商人さんがテレフォンオーブがある部屋に入っていく。
というか商人さん…モーリッツって名前だったのか……。
「じゃあ行きましょうか、ケランさん。メイカさんも…って…」
「ふ…ふふ…むくれるマーガレットちゃんの可愛さに、私としたことがやられてしまったわ…。すぐ戻るから先に行って待っててくれる?」
「あ、はい」
そう言ってメイカさんは鼻を抑えながら、馬車の方に去っていった。
「とても…愉快な人ですね……」
「いいよマーガレットちゃん……無理に気を使わなくて……」
俺が苦笑いしながら当たり障りのない感想を言うと、ケランさんはそう言いながらため息を吐いた。
お疲れ様です。
「ごほん…それで?聞きたいことってなんだい?」
「あ、えっとですね…ケランさんの職業は神官で間違いないですか?」
「いや、僕自身は無宗教でね。ただの僧侶だよ。まぁ確かに、この服神官っぽい見た目だけどね。でもどうしてそれを?」
「いえ、神官やそれに準ずる職業なら魔法を使えたりするかなぁって……」
「うん、使えるよ。というか、僕が治癒魔法を使ってるところを見たことがあったはずだけど……」
「あぁいえ、ここまでは確認で…!」
危ねぇぇ!
知り合った頃の話とかまったく記憶に無いからもっと気をつけないと……。
「私も魔法が使いたいなぁって思ったので、よかったらいろいろ教えて欲しいなって……」
「あぁなるほど。うーん…確かマーガレットちゃんはまだ適性検査をしてなかったよね」
「適性検査?」
「そう、ギルドでお願いすれば無償で調べてくれるから、それが終わってからの方が効率がいいと思うよ」
「うーん、そういう事なら……
あ、ちなみにですけど適性を調べずに魔法を使おうとするとどうなりますか?」
「適性が無ければ何も起きないよ。それに適性があってもすぐにポンと使えるものでもないから特に問題はないけど…魔力が体の中を巡る感覚が分からないとなんの適性があるか分からないから、やっぱり適性検査をしたほうが早いね」
「なるほど……」
ふーむ…これまたお約束が出てきたな……。
適性かぁ…俺的には風とか雷とか使ってみたいなぁ……。
そういや属性とかってどうなってんだろう?
某人気モンスター育成ゲームよろしく、細かく分かれてるのかな?
それとも火、水、風、土の四元素かな?
それなら雷って風属性の枠に大体入ってるから、風が使えれば万々歳なんだけど。
聞いてみたいが、魔法が根付いた世界だから、もしかしたら常識の範囲かもしれない……。
うーん、でも知っとかないと後々困るしなぁ……。
「ふふっ、お待たせマーガレットちゃん、ケラン」
「あ、メイカさんおかえりなさい」
「んふふ、ただいま♡」
そこに先ほどの興奮が治まったのか正直怪しいメイカさんが帰ってきた。
この人、可愛いものが好きなのか、はたまた子供が好きなのかは分からないけど、普通の子供だったら夢に出てるぞ。
悪夢で。
「マーガレットちゃんそろそろお腹空いてない?」
「えっ、あ〜…言われてみれば……」
「やっぱり!さっきの話を聞いてたら私もお腹が空いてきちゃって、ディッグが戻ってきたら何か食べにいきましょう?」
「! はい!」
異世界飯!
作品によって美味いか不味いか結構違うけど、さっきの話を聞いた感じかなり期待が持てそうだし、何より目覚めてから何も食べてないって気づいた瞬間にもう腹が減って腹が減って……。
はっ!いかん、ついがっついた返事を…。
これでは腹ペコキャラになってしまう……。
ちょっと恥ずい…。
これも空腹がいけないんや……。
「終わったぜーっと」
「やはりああいう報告は緊張しますね……」
そこにディッグさんと商人さん…モーリッツさんが出てきた。
「んじゃあ嬢ちゃん、見学に…ってどした?」
「マーガレットちゃんはお腹が空いてるみたいで、メイカさんはいつものです」
「またか…確かに嬢ちゃんは可愛らしいが、お前一言二言話すたびにそうなってちゃ際限が無いぞ?いい加減我慢を覚えろ」
「無理!!」
「はーっ……」
ディッグさんとケランさんのため息も気に留めず、メイカさんは俺の頭をなでてくる。
だがそんなことよりも今は魔道具とそのあとの昼ごはんのことで頭がいっぱいな私だよ。
「えーとディッグさん、この後のご予定は?」
「あぁ、連絡はしたんだが、どうやらギルマスがちょうど外してるらしくてな。
どうせギルドには行くつもりだったし、だったら直接ギルマスに話すっつーことになった」
「ということはこれからギルドに?」
「そうなるが、多分それでも少し待つかもだと」
「じゃあお昼ご飯食べに行きましょうよ!マーガレットちゃんも私もお腹ペコペコなの」
「おおぅ、メイカ…急に戻ってくんなよ……。ま、そういうことなら先になんか食っちまうか!とその前に嬢ちゃん、テレフォンオーブ見るなら今だぞ?」
「では遠慮なく!」
初めての魔道具…どんなんだろぅ?楽しみだねぇ♪
あっ、そういえば属性の種類結局聞いてないや……。
うーんまぁ、後でギルドに行くらしいしその時にそれとなく聞こうかな……。
とにかく今は魔道具だ!
…ところで魔道具は魔力が原動力。魔力の込もってない魔道具は、電気の繋がってない家電製品と同義。
で、そんな状態のテレフォンオーブを見てもただの綺麗なガラス玉なわけで……。
つまりあまり魔道具を見たって感動は無かったわけで……。
まぁ…うん……がっかりしました。