28.実験の成果…油断しまくりモーニング
身支度を整え、忘れないうちに洗濯機を起動。
時間は…30分ぐらいと。
そこそこかかるな。
それまで中庭で体を動かして、魔法の練習かな。
んじゃ、まずはラジオ体操から…
〜倍速〜
ふぅ…運動不足だなこりゃあ……。
本を読むのが好きって言ってたもんな…マグもインドア派だというわけだ……。
まぁとにかく、次は柔軟、ストレッチっと……。
筋トレ…は無理しすぎない範囲で……。
〜倍速ぅ〜
さすがにまだ子供だし女の子だしということで、運動不足なマグの体でも元の俺の体よりも遥かに柔らかく思ったよりは楽に終わった。
ストレッチは……。
問題は筋トレの方で、さっきのラジオ体操の時点で若干疲れたマグの体は、腹筋、背筋、腕立て伏せをそれぞれ10回ずつで息が上がってしまった。
「はぁ…はぁ…つかれた…はぁ……」
俺はその場で座り込み息を整える。
しっかし…本当に体力が無いな……。
まぁ前世の俺の体力もざこざこのザコなんだけどさ。
そういや、今何時だ?
洗濯機を回し始めたのは確か5時55分だったから…6時25分過ぎに終わるはず。
俺はリビングを覗き込み時計を見る。
えーっと…?今は…6時…12分ぐらい…?じゃあまだだな。
そいじゃあ魔法の練習をちょいっとやるかな。
〜倍速!〜
……なんか…出来たわ…全部……。
とりあえずいつもみたく手のひらの上を指定して、「各属性のスーパーボールみたいな感じのやつ出ろ!」って感じの詠唱を唱えてみたらいけたわ。不思議。
雷は出来るの分かってたけど、まさか他の属性もいけるとは…俺の仮説は正しかった?
…そういやどうやって説の立証を確かめるんだろう……。
目に見えねぇし、確かめる術が無いじゃん……。
俺も詰めが甘いの……フッ……。
「あれ?マーガレットちゃん、おはよう。今日は一段と早いね」
一人ちょっと黄昏てると、後ろからケランさんの声が聞こえてきた。
「おはようございます、ケランさん。ちょっといろいろ試してみたいことがあったので」
「試したいこと?」
「はい。あ、その前にケランさん。ケランさんは魔法って何属性使えるんですか?」
「えーと、僕の適性は光属性だからそれと、あとは小さい火とカップ一杯分の水を出すぐらいかな」
おっと…一応聞いといて正解だったっぽいなこれ……。
もし俺が全属性できましたとか言ったらまた大変なことになりそうだ……。
「ん?ケランさん、回復魔法は光属性の分類なんですか?」
「いや、各属性ごとにあるらしいけど…一番オーソドックスなのは光と水属性かな。風属性も何回か見たことがあるけど、他の属性はまだ見てないなぁ」
「へぇ〜」
俺が知ってる魔法の分類は、《攻撃》、《回復》、《支援》の3種類。
攻撃と回復は言わずもがな。支援は、バフ、デバフ系が主。
異世界物のおなじみ、《鑑定》もこの分類だと俺は考えている。
ただ、この世界にスキルという概念があるかどうかでかなり変わってくる。
スキルがあるなら、《魔法レベル3》みたいな感じで、スキルあっての魔法になってるかもしれないし、なんなら今ちょっとそう思えてきてしまっている。
まぁなんにせよ、魔法の分類に関する俺の考えは当たっているようで安心した。
「あれ?でもマーガレットちゃん、その手の本は結構読んでるって言ってなかったっけ?」
「あぁいえ、まぁ…ほら…ここ最近忙しかったし……」
俺が異世界の人なので知りませんでしたなどと言うわけにもいかず、さりとて良さげな言い訳が思いつかなかった俺は、察してオーラを出して答える。
が、どうやらあの村での事を思い出したようでケランさんは凄い勢いで謝ってきてしまった。
「!ご、ごめん!そうだよね…あんなことがあったんだし……」
「え?…あ!いや!違くて!いやでも確かに少しはそうかもしれないですけど!私が言いたいのはこの街に来てからのことで……」
「そ、そうなんだ…ごめん…早とちりしたみたいだ……」
「いえいえ、私の言い方も悪かったですし…あ、そうだ、ケランさん今何時ぐらいですか?」
俺は慌てて訂正し、話を逸らしたのだが…確かに今のはそう思われても仕方ないよなぁ……。
迂闊だった……。
「え?えーと…6時半だね」
「あっじゃあ洗濯物終わってますね。ちょっと見てきます」
「そうなの?じゃあ僕も手伝うよ」
「ありがとうございます、助かります」
そうして俺はケランさんに手伝ってもらって、洗濯物をサクサク干していき、無事に2日分の洗濯物を干し終えた。
いやぁあぶなかったな。
俺の力じゃ洗濯カゴが持ち上げるのがやっとだったから、ケランさんに手伝ってもらえたのは嬉しい誤算だった。
こっちの世界の服って素材の問題なのか少し重たい。
まさかこんな盲点があったとは……。
うーん…朝から油断しまくりだなぁ……。
「ありがとうございます、ケランさん。まさかカゴを持ち上げられないとは思いませんでした」
「さすがに大人3人分の服が入っていたからね。あれは子供には重たいよ」
「ケ、ケラン……!」
「「ん?」」
ケランさんにお礼を伝えていると、後ろからメイカさんの狼狽した声が聞こえてきた。
シンクロした動きで俺たちが後ろを見ると、やっぱりメイカさんで、やっぱり何か焦っている。
「メイカさん?どうしました?」
「ケラン…あなた…マーガレットちゃんと洗濯物を干したの……?」
「え?えぇ…一人では大変でしょうし……」
「……ずるい……」
「え?」
「そんな仲良しな事をするなんて…ずるい……!」
何を言い出してんだろうこの人は?
「いや、ずるいも何も、手伝いたかったらもっと早く起きればよかったじゃないですか」
「だって!起きたらもう外からあなたたちの楽しそうな話し声が聞こえたんだもの!私だって!もっと早く起きたかった!!」
「分かりましたから!朝からそんな大声を出さないでください!近所迷惑です!」
「やだぁー!!ケランがいじめるよマーガレットちゃーーん!!!」
「うっ!」
駄々をこねこね、メイカさん。
俺に飛びつき、腹痛し。
言ってる場合じゃねぇ。
駄々っ子モードなメイカさんをなだめる方法を考えなければ。
(……スケ…ん……)
ん?
(コ…ス……ん……)
「?」
「ん?どうしたのマーガレットちゃん?」
「いえ、今何か聞こえたような……」
「え?いや、何も聞こえなかったなぁ…」
「うん、私も」
「空耳かなぁ……」
(…ウ…ケさ……!)
いや、やっぱり聞こえる。
というか俺の名前を呼んでいる……?
(コウス……ん…!)
俺は聞こえる声に集中できるように目を閉じ、深呼吸をする。
そうすると、ぼんやりしていてよく聞こえなかった声が、だんだんとはっきりしていく。
(コウスケさん…!)
(マグ!?)
俺の名前を呼んでいたのは、夢の中でしか出会えないはずのこの体の持ち主、マーガレットだった。
(良かった…!ようやく気付いてくれた…!)
(き、聞こえてるの!?)
(はい!声に出さなくてもちゃんと聞こえてますよ!)
(マグに会いたすぎて聞こえてる幻聴とかじゃなく!?)
(あ、会いたすぎて、て……も、もう!)
(あ、かわいい、本物だ)
(か、かわ……)
(え?でも、どうして?なんでマグと話せるの?)
(こ、こほん!そ、それはですね…私の心がけ次第と言いますかなんと言いますか……)
(?)
「マーガレットちゃん?そんなにコロコロ表情を変えて何を考えてるの?とってもかわいいから見てて楽しいけど、何か悩み事なら教えて欲しいな」
「そうだよマーガレットちゃん。君はここに来てからずっと何か考えてるみたいだけど、もしかしたら僕たちも力になれることがあるかもしれないし、もっと頼ってくれないかな?」
っと、しまった……。
マグと話せることに驚いて二人のことを忘れてた。
しかもめちゃくちゃ優しくしてくれる。
ごめん、ごめんね!二人とも!
さすがに心の中でお話してたなんて言えないよ!変な子判定されちゃうよ!
……いや…
(ある意味ちょうどいいかも……)
(…?………あっ!もしかしてコウスケさん…私たちのことを……)
(うん、隠し通すことも出来なくはないけど、この人たちなら大丈夫だと思うし、それに…ずっと隠し続けるのも心苦しいしね…)
(……そうですね、メイカさんたちは私の命の恩人ですし、いろいろ良くしてくれました。…分かりました、伝えましょう。今の私と、コウスケさんのことを)
(うん…ありがとう、マグ)
(いえ、本当なら私が言い出さなければいけないことなんです。だから…すみません、お願いします…)
(大丈夫、俺はやりたいようにやってるだけ、マグが気にする事はないよ。…さて、そろそろケランさんに返事をしないと…)
「…ありがとうございます、メイカさん、ケランさん。そうですね…どうにも考え始めると周りが見えなくなってしまって…悪い癖ですね」
「そうだよぉ、もっと私たちを頼って頼って♡」
「はい、では頼らせていただきます。ディッグさんが起きたら少しお話をさせてください」
「うん、分かった。なんなら起こしてくるわよ?」
「いやいや、寝てるのを起こすのは可哀想ですよ。ちゃんと朝のうちに起きてくるはずですから、それまでゆっくりしましょう?」
「んもぅ、本当に優しいなぁマーガレットちゃんは♡」
メイカさんが満面の笑みで俺を抱きしめる。ついでに俺の頬に自分の頬を当て、ウリウリと擦り付けてくる。
(…コウスケさん、メイカさんに抱きつかれて嬉しそうですね……?)
(…えーと……ごめんなさい……)
声しか届いていないはずなのに、妙に寒気を覚えた俺はメイカさん、ケランさんとリビングでディッグさんを待つ間、マグのご機嫌を取るのにも苦労するのであった。
ようやくヒロインが表に……やりたかった!
我ながらややこしいことしてるとは思うけど!
やりたかった!
ナビヒロイン!




