266.ダンスショー…トラブルと解決も
〔ユーリ〕
ダンスショー。
その名の通り、ダンスで場を盛り上げる催し物だ。
今回私は給仕のお仕事と一緒にこれを受けた。
理由は当然、ダンスに自信があったから。
あとお給料が良い感じだったから。
給仕とダンスのお給料を合わせれば結構な額になるし、友人が依頼人だから安心感があったのも大きい。
だからこのお仕事を受けたんだけど……
ユーリ「イラムスさん……これ…布面積が……」
イラムス「あぁ〜……それはまぁ……少ない方が男連中が喜んで稼げるからね……」
ユーリ「えっ、じゃあもうちょっと削らないんですか?」
イラムス「えっ?」
ユーリ「この服、私の持ってるやつよりも布面積あるので」
イラムス「ユーリ…あなたどんなの持ってるの……?」
えっ、何か違ったかな?
私のやつより布地が多いから、お店を盛り上げるために布を少なく〜っていうなら、もうちょっと少なくてもいいと思ったんだけど……。
…あっ……そうだ……。
私コウスケやマーガレットたちに「エッチな人」って言われたんだった……。
未だに納得はしてないけど……確かにあの服みたいに露出の多い服を着ている人って、酒場で男の人にしなだれかかってる人とか、夜の街で何かの呼び込みをしている人とかくらいしか見たことないし……。
もしかして、普段から肌を出す人って…少ない……?
う〜ん……だから初めて会った頃のコウスケたちによく服のことを言われたのかなぁ……?
…と、それよりも今のことを考えなきゃ。
もっと肌を出しても良いと思ったけど、そもそもこれがこのお店でダンスをするときの制服なんだし、私が何か言うことでもない。
よし。
ユーリ「あ〜、ごめんなさい。今言ったことは忘れていただけると……」
イラムス「えっ?あ、あぁ……わかったわ。これ以上布面積減らすと他の踊り子たちに文句言われちゃいそうだしね」
そうなんだ。
…それが普通なのかな?
踊り子さんはみんな私の持ってるものくらいの露出が普通だと思ってたんだけど……。
イラムス「ま、とにかくそういうことなら服は問題ないかな?」
ユーリ「あっはい。可愛いデザインなのでむしろ嬉しいくらいです」
イラムス「そうかい?気に入ってくれたんなら何よりだけどね。その様子なら特に気負ってもなさそうだし、心配なさそうだね。それじゃあ段取りを確認するよ」
ユーリ「はい」
そうしてイラムスさんからこの後の流れを教えてもらう。
他の踊り子さんたちも、流れを確認していたり、お化粧や衣装を整えてたりといろいろしていた。
ちなみに人数は私を含めて6人。
そのうち依頼を受けて来たのは私ともう1人だけ。
他はみんなお店の人だ。
依頼を受けた人少ないなぁ……。
なんて思ったりしてるうちに時間が経ち、ついにその時が来た。
司会「者ども!盛り上がってるかー!?」
お客さんたち『おぉぉーーー!!!』
司会「さらに盛り上がりたいかーー!!?」
お客さんたち『おぉぉぉーーーー!!!!』
司会「そんな皆さんにお待ちかねっ!キュートでセクシーな踊り子たちのダンスショーをプレゼントだーーーー!!!!」
お客さんたち『おぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!!!』
空気を振動させるほどの歓声が響き、私たちはステージへと躍り出た。
イラムスさんに教えてもらった段取りはこう。
その1、全員で一斉にステージへ。
その2、各自思い思いに踊りながら、自分の順番を待つ。
順番が来たら前に出てアピールダンス。
その3、客たちの後ろにいるスタッフが合図を出すので、それが出たら交代。
その4、それを2周やり、最後にスタッフの合図に合わせて決めポーズ。
これは事前に打ち合わせしてある。
その5、笑顔を忘れずに。
そんな感じ。
この後もうひとつ演目はあるけど、そっちはまた後で。
依頼として出すくらいなので、そこまで難しいことを覚える必要はない程度にシンプル。
しかしその分ダンスの質が重要になり、生半可なダンスだと単調になってしまいやすく、お客さんたちを飽きさせてしまう恐れがあるということでもある。
緊張で固くなってしまえば自ずとそうなるであろうことは明白。
故に、いかに自分の踊りに自信を持てるかなのだが……。
客「ふぅー!いいぞぉー!」
客「もっと腰ふれぇーぃ!」
客「乳揺らせー!」
客「ハッハー!たまんねぇなぁ!」
…まぁ…予想はしてたけど……。
下品だなぁ……。
それを知っててこの依頼を受けたんだけど、いざこうして胸やお尻をジロジロ見られながら踊るとなると、その5の項目、笑顔を忘れずに、がとても難しい。
どうしても顔が引き攣ってしまいそうになる。
踊りじゃなく、体を見てるというのが分かるのも嫌だ。
ダンスに自信があったのに、それよりも体を見られて、ダンスはそれを強調するためのスパイス程度にしか思われてないのはムカつく。
踊りを見なさい踊りを!
ほら!これとかどう!?
客「うぉぉぉ!すっげぇぇぇ!」
ふふん♪そうでしょそうでしょ?
客「なんて迫力ある揺れだ!」
客「ぶるんぶるんって、下品な体してるぜ!」
……ピキッ……
お店の踊り子さん「ユーリちゃん…!顔…!顔…!」
ユーリ「ハッ…!」
危うく笑顔を崩すところだった……!
危ない危ない……。
ん……次はもう1人の臨時ダンサーの子のアピールタイムだ。
落ち着こう落ち着こう……。
良い勉強の場でもあるんだから。
お店の人たちと違い、臨時の人のダンスは来たら必ず見れるというわけではないので、こういう機会を逃すのは非常にもったいない。
しかも今はそれを同じステージ上から見られるのだ。
青筋立ててないでそっちに集中しよう。
…あぁ、笑顔も忘れずにっと。
そうして躍りながら徐々に前に出るもう1人の臨時ダンサーの子を見守る…のだが……。
お店の踊り子さん「まずいわね……緊張して固くなっちゃってるわ……」
そう。
こんな大勢の人の前で踊るのは初めてなのか、それとも遠慮のない視線に晒されたからか。
その子は目で見て取れるほどガチガチに緊張していた。
これは確かにまずいかも……。
その予感はすぐに当たる。
客「なんだぁ?ふざけてんのか?」
客「もっと腰をふれ!手を動かせ!足もだ!」
客「チッ!」
踊りの苦労を知らない観客たちは好き勝手に文句をつける。
それに圧で、ダンスはより固くなり、顔も段々と恐怖に呑まれていく。
見かねたスタッフが早めに合図を出して交代させようとするが、そうして下がるときにもヤジは飛ぶ。
客「逃げんのかぁ!」
客「そんなんで食っていけると思うなよ!」
本当に好き勝手言う。
この酔っ払いども……。
そうして列に戻ったその子は今にも泣き出しそうな顔に。
慌てて飛び出した次の踊り子さんがわざと大きな振り付けで踊って場を盛り上げようとするものの、以前さっきの子にしつこく注意を向けている人がチラホラいる。
文句言うなら見なきゃいいのに……。
お店の踊り子さん「ユーリちゃん…!顔…!顔…!」
ユーリ「おっと…すみません」
なんて考えていたらまた注意された。
それと同時に交代の合図が出て、私のもう片方の隣の踊り子さんが前へ行く。
その次は私の番か……。
それはお客さんたちも分かっているようで、まるで「お前はどうなんだ?」とでも言いたそうな、ちょっとでも失敗したら目ざとく拾い上げてやろうとする根性を隠そうともしない視線がまぁまぁ送られてくる。
居心地悪いな〜……。
だがしかし。
それはそれとしてやり遂げなければならないので頑張る。
とりあえず笑顔。
そしてついに私の番。
そこで突然、審査員気取りの酔っ払いの目を覚まさせてやろうという考えが思い浮かび、そして即採用した。
お客さんたち『おぉぉぉ!!?』
まずは連続宙返りで前に出る。
その後、まとわりつく視線に応えて腰を大きく振ったり足を真上に伸ばしたり、腕一本で体を支え、地面スレスレで回転してみたりと思いついたものを試していった。
お客さんたち『うぉぉぉぉぉ!!!!!』
それはどうやら成功のようで、お客さんは大きな歓声を上げた。
そこで合図があり、私はカッコつけてみながら後ろへ。
チラッと次の番である、顔を注意してくれた踊り子さんを見ると…
お店の踊り子さん「ユーリちゃん……やりすぎよ……!」
すっごく顔が引き攣ってた。
本当にごめんなさい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それでもお客さんをガッカリさせずに踊りきったプロの踊り子さんを尊敬と謝辞の視線を投げつつ、踊りは2周目へ。
最初の踊り子さんもさすがのダンスで場を魅了させていくが……その次はさっきの子。
その子は未だにガチガチで、場の雰囲気に完全に萎縮していた。
…このままだとまたいじめられちゃう……。
でもだからといって所詮お手伝いの身である私がでしゃばるのはどうなのか……。
悩む私。
刻一刻と迫るその子の出番。
う〜ん…!う〜ん…!
どうすれば……!
う〜ん……!
そこでふと思い立つ。
…こんなときコウスケならどうするかな……?
相手は今日知り合った子だ。
繋がりなんてほとんどない。
それでも……彼なら……コウスケとマーガレットなら……。
…助けるだろう。きっと。
出会ったばかりの私にいろいろしてくれたみたいに。
……うん。
私は隣の踊り子さんに話しかける。
ユーリ「すみません。少し持ち場を離れていいですか?」
お店の踊り子さん「えっ?ど、どうして…?」
ユーリ「上手くいくかは分からないけど、何かしてあげたいんです」
お店の踊り子さん「……」
ユーリ「お願いします…!」
お店の踊り子さん「…わかったわ。どうなったってフォローしてあげる。行ってあげなさい…!」
ユーリ「ありがとうございます…!」
なんとも頼もしい返事をもらったところで、私は早速あの子のところへ軽快なステップで踊るのを忘れてないですよアピールをしながら向かう。
客「おっ?なんだ?」
客「持ち場を離れたぞ?」
客「どうしたんだ?」
客「まぁあの弾み様を拝めたから別にいいが」
客「確かに」
全部聞こえてるぞ〜っと。
そう思いながら声を華麗に右から左へ受け流しつつ、目的地へ到着。
その子の手を取ってこちらを向かせながら踊る。
もう1人の臨時ダンサー「えっ…な、なに……!?」
ユーリ「んー?ちょっと質問があって」
臨時ダンサー「し、質問……?今……?」
ユーリ「うん、今。ねぇ、あなたはどうしてダンスを始めたの?」
臨時ダンサー「へっ?」
ユーリ「どうして?」
臨時ダンサー「え、えっと……路上でダンスを披露している人がいて…その人のダンスが素敵で…私もあんな風にみんなを楽しませたいなって……」
ユーリ「そっか。じゃあ自分はどう?あなたはダンスが楽しい?」
臨時ダンサー「それは…………楽しかった……他の踊り子の踊りを研究したり、新しいダンスを試してみたりして、それで…路上で、少ししか足を止めてくれる人がいなくても、その人たちの喜ぶ顔を見るのが好きだった……!」
ユーリ「ん。ならよかった」
臨時ダンサー「えっ……?」
ユーリ「今、あなたはこのお客さんたちが怖い。それを克服するのは大変だろうけど……でも、研究を楽しめるなら、ただ自分の踊りに集中することなら出来そう…でしょ?」
臨時ダンサー「…それは…つまり……」
ユーリ「くすっ♪そっ。わがままになっちゃお?あなたは、自分のためだけに踊るの。ただ自分が楽しいから踊るの。私はこんな踊りが出来るんだぞって自慢するの♪」
臨時ダンサー「誰かのためじゃなく…自分のために……」
そう呟いて臨時ダンサーの子は目を瞑った。
そして目を開けたとき、その瞳には強い意志があった。
そこで臨時ダンサーの子の前の番の踊り子さんがこちらを向いて踊る。
ジッと臨時ダンサーの子を見つめると、この子はそれに頷いて返す。
それに満足げに頷いたお店の踊り子さんは、軽く踊った後に戻ってきた。
それと入れ替わりに私は持ち場に戻り、その子は飛び出した。
そしてその子は、前の週とは比べ物にならないほど、堂々と、そしてキラキラと、輝いて見えるほどに見事な踊りを披露した。
期待していなかった人も、ヤジを飛ばそうとしていた人も、私たちさえも、その子は魅了した。
そして同時に、みんなに火を付けた。
その子が楽しそうに戻ってきたのと同時に、次の人も勢いよく飛び出す。
そして自信満々に踊るのだ。
全員に見せつけるように、ペース配分を考えない、本気のダンスを。
当然次の人も負けじと踊る。
好き勝手に自己満足の踊りを見せつける。
あぁ。
私も負けてられないなぁ……!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
イラムス「みんなお疲れさまー!」
そう言ってイラムスさんが私たちに水をくれた。
あの後各々が好きなように踊りながらも、最後の締めは忘れずにバッチリこなして裏に戻ってきたのだ。
イラムス「いやー!凄かった!もうほんとそうとしか言えないくらい凄かったわ!」
ユーリ「あははは♪ありがとうございます、イラムスさん♪」
イラムス「そんでまったく息が切れてないユーリはマジでヤバいわね」
ユーリ「なんでちょっと引いてるんですか!?」
私はほら!
冒険者でもあるから!
体力があるのは当たり前だから!
イラムス「それで第2部なんだけど……どうする店長?正直これでアガリでもいいぐらいよ?」
店長「そうだなぁ……みんなも疲れちゃってるしそうしたいのは山々だけど……」
そう言って店長はチラリとお店の方角を見る。
そっちからはダンスショーでの興奮が冷めないお客さんたちの声が聞こえ、その中には第2部が楽しみだと言う声が多数あった。
店長「これで2部は中止なんて言ったら暴れ出しそうだし……」
臨時ダンサー「ぜぇ…ぜぇ……店長……!私はやります……!」
お店の踊り子さんA「私も……!」
お店の踊り子さんB「私にもやらせてください……!」
店長「ほんとにいいのか?そんな満身創痍な状態なのに……」
お店の踊り子さんC「私たち…今最高に踊るのが楽しいんです……!だからお願いします……!」
他の踊り子さんたち『お願いします……!』
踊り子さんたちが一斉に頭を下げてお願いする。
それに店長さんは少し考えて…
店長「…わかった。だがコンディションは最低限整えないとな。給仕班は持ち場に戻れ!それ以外は踊り子たちをマッサージ!少しでも疲れを取ってやれ!」
店員一同『はい!』
そう決まった。
みんなテキパキと自分に与えられた仕事をこなしにいく中、私は少しだけ思った。
私の意見…聞かれなかったな……と……。
ちょい短めで申し訳ない……。
時間がなくて叩き上げたものになってしまいました……。
休みの日にしっかり仕上げとけばこんなことには……とほほ……。




