233.親御さんへのご挨拶…と苦渋の決断(そこまで重くない)
若干長くなりました。
無事にリオの説得に成功したので、俺たちは個別鍛治部屋から出た。
そこで待っていたのはジルさんとグリムさん、ララさんとグラズさん。
そして離れたところから見守っているその他大勢の皆さんだった。
コウスケ「…愛されてるねぇ……」
リオ「……///」
俺の呟きに、リオはなんとも言えない顔をして目を逸らした。
コウスケ(照れてるねぇ)
マグ(可愛いですねぇ)
マグと意見が一致したところで、リオが気を取り直してグラズさんたちのところへ近づいていったので、俺たちもその後を追う。
リオ「グラズさん……」
グラズ「リオちゃん…少し元気になったみたいだね」
リオ「…はい。その…ご迷惑をおかけしてすみません……」
グラズ「いいさ。こうしてまた話が出来て嬉しいよ」
リオ「…ありがとうございます」
コウスケ(グラズさんともロクに会話してなかったのか……)
マグ(多分、業務的なお話しかしてなかったんじゃないでしょうか……?リオとグラズさんは仲が良かったんですし、いつもお話していましたから……)
コウスケ(だね。これを機会にまたお話してくれるといいね)
マグ(はい)
グラズさんと話したリオは、次にジルさんの方を向いた。
リオ「ジルさん……その…今朝は生意気言ってすみませんでした……」
ジル「いや…アタシの方こそキツい言い方をして悪かったな……」
リオ「いえ…ジルさんは医者として正しい提案をしてくれただけですから……」
ジル「それでも、お前を傷つけたことに変わりはない」
リオ「……オレも…本当はちょっとだけ、やめようかなって思ってたんです……」
全員『…………』
リオ「そのときに図星を突かれて…カッとなったっていうか……だから…ジルさんは悪くないです……」
ジル「……今、いろんなトラウマを抱えた患者たちの記録と照らし合わせてる」
リオ「え……?」
ジル「前の街も、その前の前の街の分の資料もあるから遅くなっちまってるが……必ず、お前が立ち直れる何かが見つかるはずだ」
リオ「ジルさん……」
サフィール「なるほど…それで……」
サフィールちゃんが納得したようにボソッと呟いたので聞いてみる。
コウスケ「心当たりがあるの?」
サフィール「はい。ここのところ毎日のように遅くまで何か調べ物をしていたので……でも、そういうことなら私たちにも声をかけてくださればいいのに……」
コウスケ「患者の情報は最重要機密だからじゃないかな?どんだけ信頼してても、その辺の決まりは守った方がいいし」
サフィール「それはわかっているんですけど……」
コウスケ「あとは…単純に照れくさかったからとか?」
サフィール「……ありえますね」
ジル「ちげぇよ機密だからだよ!」
コウスケ・サフィール「「ですよね、すみません」」
ひそひそ話を余裕で聞かれて怒られてしまった。
俺とサフィールちゃんは揃って謝ったあと、顔を見合わせてクスッと笑った。
そんな俺たちにため息を吐きつつ、ジルさんはリオに向き直った。
ジル「はぁ〜……とにかく、こっちも出来る限りのことはする。だからそれまで待ってくれ」
リオ「はい…ありがとうございます、ジルさん」
ジル「あぁ……言っとくが、それまで無茶するなよ?無理しても良い結果にはならないって分かっただろ?」
リオ「は、はい……」
骨身に染みてるでしょうねぇ……。
ジル「サフィール、マーガレット。コイツがまたなんかしようとしたら近くにいるお前らが止めるんだぞ?」
コウスケ「了解です」
サフィール「はい、お任せください。必ず止めます」
サフィールちゃんから闘気が溢れている気がする……。
笑顔が恐いぜ。
リオはそんなサフィールちゃんから目を逸らしている。
なんとなく冷や汗をかいてる気もする。
リオ……サフィールちゃんにめっちゃ見られてるぞ……。
これ俺が気にかけるの、サフィールちゃんがリオに対して過保護になりすぎないかってことも入ってない?
どうなのジルさん?
…頷かれた。
そうかそうかつまり俺はそういう役なんだな。
やること多いな。
まぁいいや。
この程度なら可愛いもんよ。
実際可愛いからむしろご褒美よ。
……変態っぽいからやめよう。
と、そんな俺にララさんが話しかけてきた。
ララ「マギーちゃん。お泊まり会なら準備が必要でしょ?今日はもうみんな上がっていいから、それぞれ準備を済ませて来ちゃいなよ」
コウスケ「えっ、いいんですか?」
それは助かるけど、本当にいいんだろうか?
ララ「大丈夫大丈夫。そのかわり、みんなのことをよろしくね♪」
コウスケ「ララさん……はい、わかりました」
なんて理解のある上司だろう。
その厚意に甘えつつ、しっかりとみんなのことを見守ろうと思います。
グリム「シエルもそうしようか。とりあえず1度ギルドに戻って、それからまた集合で」
ジル「サフィールも上がりでいいぞ。それで、集合場所はどこにするんだ?」
グリムさん、ジルさんもそれぞれシエルとサフィールちゃんに退勤指示を出しながら話を進める。
そして、ジルさんに集合場所を聞かれた俺は考え始めた。
コウスケ「そうですねぇ……場所的にはやっぱり冒険者ギルドに集合してからかなぁ……でもモニカちゃんは家から直接来る方が近い…というかもう一緒に行った方がいいかもだから、私とリオと行こ」
モニカ「うん、わかった」
コウスケ「残りのメンバーは冒険者ギルドに集合してからウチに来る…という感じでどうでしょう?」
グリム「わかったよ」
ジル「了解した」
保護者たちに話は通した…いや、まだリオの両親には話してないけど……まぁグラズさんはここにいるし、どうせこのあと話すからいいや。
ともかく、俺もフルールさんにみんなが泊まりに来ると伝えないとだから、解散したら急いで帰らないと。
コウスケ「あっ…ショコラとパメラは教会住みだから、他の子たちと別れちゃうな……」
パメラ「あ〜……行きと帰りはいつも冒険者ギルドの方向に仕事がある誰かと一緒に来てるから大丈夫だけど、今からだと誰とも帰れないかも……」
ショコラ「う〜ん……でも、ペンダントもあるし、人通りの多いところを通っていけばショコラたちだけでも大丈夫じゃないかな?」
コウスケ「まぁ…一応警備も強化してくれてるらしいけど…やっぱり不安だなぁ……」
大体そういうのの隙間を縫うようにいやらしくやってきて被害を被るもんだし……。
ココ「じゃあ私が行こうか?」
コウスケ「えっいいんですか?」
ココ「ん」
コウスケ「ありがとうございます!それじゃあショコラとパメラのことをお願いします」
ココ「えぇ」
コウスケ「あとココさん」
ココ「?」
コウスケ「いつからここに?」
心配事が無くなったので疑問をぶつける俺。
いや、助かるけどね?
あなたいつの間にここにいたの?
ジルさんとグリムさんすら驚いてるじゃん。
ココ「あなたたちが部屋から出てきたときに。みんながここに集まってるのがわかったから様子を見にきたらそうだった」
コウスケ「あ〜…なるほど」
ココ「あと入り口に親方しかいなかったから」
コウスケ「すいません皆さん。心配なのはわかりますけどせめて誰か残りましょうよ」
いや〜…ハハッ……じゃないのよ皆さん。
今の親方さんじゃ来た客みんなに武器投げつけかねないんだから目離しちゃダメでしょう?
コウスケ「まぁいいや……それよりココさん。ほんとに大丈夫なんですか?」
ココ「問題ない。今日の分は終わったから」
仕事は?というのをやや回りくどく尋ねると、しっかり意図を理解してくれて的確な答えを返してくれるココさん。
コウスケ「それじゃあ改めて、ショコラとパメラのことをお願いします」
ココ「えぇ」
コウスケ「ショコラ、パメラ。そういうわけだからココさんと一緒に行ってくれる?」
ショコラ「うん!ココさんお願いしま〜す!」
パメラ「お願いしますココさん。私、ココさんとお話ししてみたかったんです!」
ココ「ん」
はしゃぐショコラちゃんとパメラちゃんにココさんは小さく頷く。
2人はララさんとの会話でココさんのことは知っていたのだが、実際に会うのはこれが初めてなのでテンションが上がっているのだろう。
大丈夫かな……ララさんいわく、ココさんは人見知りだって言ってたし……。
実際に俺が初対面のときは気まずさが天元突破してたし……。
今思えば、俺とマグのことを知っていたから様子を見ていた…とも取れるけどね。
というかそうか……もうココさんと会ってから……いや、そもそもこの街に、この世界に来てから1ヶ月が経ったのか……。
長かったようで早かった気もする…不思議な感じだ。
…いろいろあったけど、楽しいことばかりだったな。
ほんといろいろあったけど。
チェルシー「マギーちゃん?」
モニカ「どうしたのマーガレットちゃん?」
コウスケ「ん…」
しまった。
うっかり思い出を辿ってしまった。
コウスケ「大丈夫。それじゃあそろそろ解散しよっか。私はリオのご両親とお話するから、モニカちゃんはちょっと待っててくれる?」
モニカ「う?お話は私も一緒じゃダメなの?」
コウスケ「いや、大丈夫。モニカちゃんもお話する?」
モニカ「うん。リオちゃんのお父さんとお母さんにご挨拶したいから一緒にお話させて」
コウスケ「わかった。他のみんなはそれぞれ準備して集合してからウチにきてね」
子どもたち「は〜い!」
チェルシー「じゃああとでね〜!」
パメラ「ココさん、お願いしま〜す!」
ショコラ「しま〜す!」
ココ「ん」
このあとのことを話して解散する面々。
それを見送ったのち…
コウスケ「じゃっ、私たちも行こうか」
モニカ「うん」
リオ「…あぁ……」
マグ(コウスケさん)
コウスケ(うん。わかってる)
ぎゅっ
リオ「…!」
コウスケ「リオ。大丈夫。親方さんは納得してくれたから」
リオ「マーガレット……」
俺はリオの手を握ってそう言った。
すると反対側の手をモニカちゃんが握り、リオに微笑みかけた。
モニカ「リオちゃん。えへへ…こうやってリオちゃんと手を繋ぐの…久しぶりだね…♪」
リオ「モニカ……」
モニカ「大丈夫。リオちゃんはいい子だもん。だから絶対にいいことで終わるよ…♪」
リオ「……」
あ〜……神さまはちゃんと見ている…ってやつか。
……どうしよう…「悪いことをしたら天罰が下る」ってのは知ってるけど、良いことをした方の言葉が出てこない……。
なんだろう……?
「良いことをしたら天国に行ける」…とか……?
その天国がその人にとっての天国かはわかんないから、良いこととは言いづらいか……?
モニカ「もしそうじゃなかったら、私が神さまにメッ!ってしちゃうもん…!だから大丈夫…♪」
リオ「…ふふっ…確かにそれなら安心だな」
モニカ「えへへ…♪」
リオ「……♪」
…まぁなんにせよ……ここは空気を読んで何も言わずに微笑んでおこう……。
マグ(コウスケさん。集中してませんでしたね?)
やべぇバレてる。
とかなんとか、良いシーンなのにバカなことを考えてた俺と、それに気づいていない様子のリオとモニカちゃんは、まずは場所的に1番近い親方さんのところへ向かった。
親方さんは相変わらずロビーで仕事をしていた。
だがやはり、その姿にはキレが無いように見える。
まぁそっちは自分でなんとかしてくれ。
コウスケ「親方さん」
親方「…騒ぎは済んだのか?」
親方さんはこちらを見ずに返事をする。
騒ぎ……あぁ、さっきの集まりのことか。
コウスケ「えぇ。もう終わってみんな解散し始めましたよ。というかジルさんとグリムさんに声かけられなかったんですか?」
親方「…そういや言われた気がするな……」
ダメだこの人。早くなんとかしないと。
親方「まぁいい……そんなことよりリオは?」
コウスケ「連れ出せましたよ。今モニカちゃんと一緒に親御さんに挨拶してるところです」
親方「そうか……」
マグ(わぁ、ウソは言ってないですねぇ)
コウスケ(はっはっは)
話しながら2人に「し〜っ…」と指当てジェスチャーをしておく。
せっかくなのでこのまま話そう。
後ろ向いたままなのが悪い。
親方「…アイツは……鍛治を嫌いになってるように見えたか……?」
コウスケ「…あまり好意的ではないですね……」
親方「……そうか……」
リオ「…………」
ここで嘘をついてもすぐにバレそうなので正直に…それでいてオブラートに包んで答える。
もう嫌だ…とか言ってたしなぁ……。
かなり崖っぷちだったんだろう……間に合ってよかったよほんと。
親方「…なぁ…アイツに言っといてくれねぇか……?お前が鍛治をやめちまっても、俺は何も言わねぇ……自分がやりたいと思ったことを見つけたら、それをやればいい…ってな……」
リオ「っ…!」
コウスケ「……リオはまだ続ける気ですよ?」
親方「それならそれで止めはしねぇよ……こんなことになっちまってんだから、ほんとは止めるべきなんだろうがな……俺に…そんな資格はねぇよ……」
みんな『(…………)』
…こりゃ親方さんもやばいな……。
心が折れかけてる…もしかしたらもう折れてるかも……。
ひとり娘が大怪我して夢を失いかけてて、その原因が自分にあるなんてなってるから仕方がないけど……ここで折れられるのは困るな……。
親方さんほどの腕前を持つ鍛治師はそうそういないし、俺だって対翡翠龍装備をいつかはお願いしたいと思ってるんだ……。
…最近アイツのこと忘れかけてたけども……。
一応捜査は継続してるし、今度また村の様子を探ってきてもらおうかと思ってるから、対策をしてないわけではないんだよホントだよ?
…ごほん。
コウスケ「…わかりました……リオにはそう言っときます」
親方「あぁ…頼んだ……」
まぁ本人ここにいるけどね。
コウスケ「では、私もこれで失礼します」
親方「おう……」
話が終わり、俺は2人にひっそりと扉の方を指差して移動する。
みんな『(はぁ〜……)』
どうにかバレずに裏口から出た俺たちは、揃って息を吐いた。
コウスケ「親方さんもだいぶキてたね……」
モニカ「うん……親方さん……ずっとリオちゃんのこと心配してたしね……」
リオ「…………」
コウスケ「…リオ」
リオ「っ…お、おう……」
暗い顔で地面を睨みつけてたリオは、俺に呼ばれて慌てて顔を上げた。
コウスケ「…思うところはあるだろうけど、今は支度を済ませちゃお。考える時間はまだまだあるんだから」
リオ「そ、そうだな…うん……じゃあ次はオフクロに言いに行かないとな……」
コウスケ「うん。リオの家は知らないから、案内よろしくね」
リオ「あぁ。んじゃあ着いてきてくれ」
コウスケ「はいよ」
モニカ「うん…」
リオが前を歩くのに着いていく俺とモニカちゃん。
コウスケ「モニカちゃん(スッ)」
モニカ「!……(こくり)」
今のやり取りで若干不安気になるモニカちゃんの手を取り、俺たちは先行するリオの後を着いていく。
モニカ「…ありがとう、マーガレットちゃん…」
ひっそりお礼を言ってくれたモニカちゃんに、俺はウインクを返した。
……両目閉じちゃった気がする……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サワコ「そうかい……すまないね…気を遣ってもらっちまって……」
コウスケ「したくてやったことですから気にしないでください」
リオの家に到着後、サワコさんに説明をして承諾を得たので、リオは荷物をまとめに、モニカちゃんはその手伝いに上に上がっていった。
なのでその隙に、さっきまでの出来事をサワコさんに簡潔に話したのだ。
親方さんは話すか分からないから念のためにね。
サワコ「お嬢ちゃんたちに我慢させといて、そのお嬢ちゃんたちに助けられるなんて…アタシャ自分が情けないよ……」
コウスケ「…あのときはあれでよかったんですよ。リオもプレッシャーや迷惑とは離れたいと思ってたんですし、サワコさんの判断は間違っていませんよ」
サワコ「…………」
まぁ…それでも気にするよなぁ……。
強いて言うなら、ほっときすぎ…とかなんだろうけど、俺が知らないだけで気にかけていたのかもしれないし……。
さすがに家でのことは知らないからなぁ……。
そう考えながらお茶を飲む。
一息ついたところで、サワコさんが話しかけてきた。
サワコ「…お嬢ちゃん……あの子は……あの子は、やっぱり鍛治師になりたいのかい……?あんな目に遭ったのに……今もあんなに苦しんでるのに……」
コウスケ「…そうですね……私としてはそこが気になります。どうしてリオはそんなにも鍛治師に憧れてるんでしょうか?」
サワコ「…理由…そうだねぇ…理由かぁ……あれは確か…」
トトン…トトン…
コウスケ「ん。2人が戻ってきましたね」
サワコ「あぁ、そうみたいだね」
タイミングがいいんだか悪いんだか。
そんな2人が俺とサワコさんがいるリビングに入ってきた。
リオは大きな普通のバッグを両手で持っており、それをモニカちゃんがサポートしている形だった。
リオ「マーガレット、待たせたな」
モニカ「おまたせマーガレットちゃん♪」
コウスケ「言うほど待ってないよ。忘れ物はない?」
モニカ「うん。2人で何度も確認したよ」
コウスケ「そっか、ならよし。サワコさん、ごちそうさまでした」
サワコ「あぁ。それじゃあ…リオのこと、よろしくね…」
コウスケ・モニカ「「はい」」
リオ「…んじゃあオフクロ…いってきます」
サワコ「あぁ…いっといで」
少しギクシャクしてる親子のやり取りを終えて、俺たちはモニカちゃんの家へと歩き始めた。
リオのバッグの持ち手の片方ずつを、リオとモニカちゃんが2人で持って。
手ぶらな俺はなんとなく居心地が悪い。
俺のマジックバッグに入れないか聞いてみようそうしよう。
と思った矢先、モニカちゃんがリオにおずおずと尋ねた。
モニカ「…リオちゃん…お母さんともうまくいってないの……?」
リオ「あ〜…いや……なんだろうな……ちょっと気まずくてな……」
モニカ「…仲直り出来るといいね……」
リオ「……そうだな……」
しかもかなり割り込みにくい話題だった……。
こんなののあとに、「そのバッグよかったら私のバッグに突っ込まない?」とか言いづらいんだけど……。
マグ(う〜ん……)
コウスケ(ん…?どったのマグ?)
俺がひっそりとどうするべきか悩んでいると、マグも何か悩んでいるのか、うんうん唸っているのが聞こえてきた。
マグ(いえ…どうしてリオはサワコさんとも少し距離を置いているんだろうな〜って思いまして)
あぁ、なるほど。
コウスケ(ふぅむ…そうさなぁ……サワコさんのあの感じだと…多分、リオには鍛治師を諦めてほしい感じだったよなぁ……)
マグ(そうですねぇ……あっ、じゃあそれをリオに言っちゃったとか?)
コウスケ(うん。それか、直接言わなくても…誰かとの会話で言って、それを聞かれた…とか?)
マグ(あ〜…ありえますねぇ……)
コウスケ(でしょ?多分この辺じゃないかなぁ…って思う)
マグ(確かに。それじゃあちょっと気まずくなるのもわかる気がします)
影でしてる人の話って、本人に聞かれたらよほど自慢したい内容とかじゃない限り、「あっ……」ってなるもんな……。
あれ、めっちゃ気まずいよ…うん……。
モニカ「マーガレットちゃん…?」
リオ「おいマーガレット?そっちじゃないだろ?」
コウスケ「えっ…おっと」
マグとの話に集中しすぎて、曲がるべき道を直進するところだった。
コウスケ「いや〜、面目ない」
モニカ「何か考えてたの?」
コウスケ「うん、ちょっとね。あっ、そのバッグ、私のマジックバッグに入ると思うから入れてみない?」
話をはぐらかすついでにバッグのことも言ってみる。
リオ「ん?あぁ…いや、いいや。そんな高級なもんは入ってないはずだけど、いまいちランクがわかってないからな。もしなんか弾かれて、それが下着とかだったらめちゃくちゃ恥ずいからやめとく」
コウスケ「あ〜…それは懸命な判断だね……」
このバッグはCランクまでなら入る。
逆にそれ以上は入らない。
……AとかBランクの下着ってなんだ?
宝石が使われてるとか、とんでもない効果が付与されてるとか?
……えっ、そんなのある?
とは思ったが、蒸し返すのもアレなので黙っとく。
リオとモニカちゃんが協力してバッグを持ってる姿は微笑ましいからそのままにしておきたいってのもある。
そんなこんな歩き続け、大通りに出たところでモニカちゃんが何かに気づく。
モニカ「あれ?あそこ、すごい人が並んでるね…」
リオ「うん?ほんとだ…なんの行列だ?」
モニカちゃんの言う通り、彼女が指し示す先にはすごい人集りが出来ていた。
あそこは何があったんだっけなぁ……?
………………。
コウスケ「あっそうか」
モニカ「マーガレットちゃん?」
リオ「何か思い出したのか?」
コウスケ「うん。あそこのお店は今日から「から揚げ」を売り始めるんだよ」
マグ(はっ!そうでした!)
食べたことのあるマグは名前に反応して喜びの声をあげるが、知らない2人はキョトンと首を傾げた。
可愛い。
リオ「からあげ?」
モニカ「って何?」
コウスケ「美味しい食べ物だよ」
リオ・モニカ「へぇ〜……」
百聞は一見にしかず。
ということで買っていきたい…んだけど……。
コウスケ「…さすがにあの列に並ぶのはキツいかなぁ……」
マグ(えぇ〜!?そんなぁ〜……!)
モニカ「すごく長いもんね……」
リオ「並んでる間にみんな来そうだな……」
だよねぇ……。
はぁ…しゃあない……少しして、ある程度ブームが落ち着いてからにしようかな……。
町人A「あっマーガレットちゃんだ」
町人B「ほんとだ。マーガレットちゃんも買いに来たのかな?」
町人C「ご飯屋のウサギちゃんと鍛治の子もいるじゃない。一緒に食べるんじゃない?」
町人D「でもなんか大きな荷物を持ってるぞ?買い物に来たんじゃないんじゃないか?」
なんか町人たちがざわつきだしたぜ。
まったく人気者は辛いなぁ、はっはっは。
まぁマグは可愛いからな。【自慢】
と、そんな中、見知った老人が話しかけてきた。
おじいさん「相変わらずの人気っぷりじゃのう」
コウスケ「あっ、おじいさん!こんにちは」
その人は、いつぞや俺が冒険者ギルドに案内し、その過程でなんやかんやあって抱えてもらった、大太刀使いのおじいさんだった。
その後もちょくちょくギルドで会っては挨拶とちょっとしたジョークを交わす程度の仲で、ショコラちゃんたちとも面識が出来ている。
おじいさん「あぁこんにちは。そっちのお嬢さんたちもこんにちは」
リオ・モニカ「「こんにちは」」
おじいさん「うむうむ」
リオとモニカちゃんのお返しの挨拶に満足げに頷くおじいさん。
そうしたあと、俺に向き直って尋ねてくる。
おじいさん「それで、お嬢さん方もこの新しい食べ物を買いに来たのかね?」
コウスケ「えぇ、そのつもりだったんですけど…やっぱりモノのついで程度に買おうと考えたのは甘かったですね……予想以上に並んでますね……」
おじいさん「それもお嬢さんの影響じゃろうて」
リオ・モニカ「「?」」
おじいさんの言葉にまた揃って首を傾げる2人。
おじいさん「なんじゃ、教えとらんのか?」
コウスケ「このあとみんなで見ようと思って」
おじいさん「あぁなるほど。それなら詳細は言わんが、あそこの食べ物をこのお嬢さんが食べたときの様子と感想が書かれているんじゃよ」
モニカ「あっ、だからこんなに並んでるんですね…!」
おじいさん「うむ」
うん待って?
マグの人気の高さは今さらだけど、それが全てでこの大賑わいだというのはちょっと待ってくんない?
美味しいからだと思うよ?
マグの人気だけじゃなくて、美味しいからこそここまで大盛況なんだと思うよ?
ちなみにこのお店。
以前迷宮第1階層で食べてブームを起こした揚げ物屋さんの本店なのである。
あそこにあった屋台は出店。
こっちの本店はあの屋台のお兄さんの奥さんが経営しているのだ。
といっても揚げ物屋ではなく、正式にはお肉屋。
様々なお肉を売っていて、その片隅にオヤツサイズのコロッケやら何やらが置かれているのだ。
そして今回、俺がモデルをしたりインタビューを受けたりしたときのことが載っている本の出版と同時にから揚げの販売を開始したのだ。
言うて初日だし並んでたとしても割と買えるんじゃないかな?と見積もっていたのだが……。
このザマである。悲しい。
なおドーナッツを売る店はまた別のところである。
さすがに揚げ物繋がりというだけでコロッケやカツレツやらの隣に並ぶようなことはなかった。
…ちょっとその並び、見たかった気もする。
まぁそれはともかく。
コウスケ「なんにせよ、今は並ぶ時間は無いので、またの機会にしようかなと…」
おじいさん「ふぅむ……む?ちょうどいいところにおるな」
コウスケ・マグ「(えっ?)」
何が?
と思っておじいさんの視線を追うと、その先には行列に並んでいる冒険者の人がいた。
おじいさん「あそこにいるのはワシのちょっとした知り合いでの。彼に頼んで買ってもらうのはどうじゃ?」
コウスケ「えっそれは…」
マグ(わっ!いいじゃないですかコウスケさん!ちゃんとお金もお渡しすればいいだけですし!)
コウスケ(それはそうなんだけど……)
気にするのはそこだけじゃなくてねぇ……。
コウスケ「それだと、後ろに並んでる人が買えなくなる確率が高くなりますし、何より普通にズルなので、しっかり並んで待っている人たちに申し訳なさすぎますのでご遠慮します」
マグ(あぅ…そっかぁ……)
そういうこと。
それに俺が欲しい量は、子どもたちの分とメイカさんたち大人たちの分とでとりあえず10数人分は確定なのだ。
そんな量、さすがに「ちょっとお願い」と頼むには多すぎる。
おじいさん「ほっほっほっ。そう言うと思ったよ。その心を大事にの」
コウスケ「はい。では私たちはそろそろ行きますね」
おじいさん「うむ。ではの。お嬢さんたちも、絡まれたりしないよう気をつけてな」
リオ「はい」
モニカ「ありがとうございます、おじいさん」
おじいさん「うむうむ」
完全に孫に会えて喜ぶおじいちゃんだな。
俺もこんな可愛い孫が持てるおじいになりたいな。
まぁそういうわけで俺たちはモニカちゃんの家を目指すべく、この人集りを抜けられそうなところを探す。
おじいさん「あぁそうじゃ、お嬢さん」
その最中に俺はおじいさんに呼び止められた。
コウスケ「あっはい。なんですか?」
おじいさん「あのドワーフの子。だいぶ負の感情を溜め込んでおるの」
コウスケ・マグ「(っ!!)」
…さすが…見ただけでわかるのか……。
……まぁ、クマあるし…ちょっとやつれてるし…よく見りゃわかるか……。
おじいさん「何があったかは知らぬが、時には大胆な行動も大事じゃぞ。無論、状況にもよるがの」
コウスケ「…ご忠告、ありがとうございます」
大胆な行動…か。うん。
コウスケ「一応、案はあります。それが大胆かどうかは分かりませんが、あの子の助けにはなれると考えています」
おじいさん「うむ。あの子に関してワシが言えることは少ないが、年長者の知恵が欲しければ遠慮なく言いなさい。微力ながら力になろう」
コウスケ「ありがとうございます」
モニカ「マーガレットちゃ〜ん!こっちこっち〜!」
ん、呼ばれてるな。
コウスケ「では、失礼します」
おじいさん「うむ。お主とお嬢さん方の未来が明るいものであることを願っておるよ」
ペコリとお礼をし、俺はモニカちゃんたちのところへ向かう。
そこから人混みを抜けて、俺たちは再びモニカちゃんの家へと歩を進めた。
最高金賞らしいから揚げ屋が近くにあるのですが、スーパー惣菜や冷凍食品のから揚げでも十分美味しいと感じる人間なので、どうしても「高いなぁ…」と思ってしまうんですよねぇ……。
美味しいんでしょうけどねぇ……。
そんな細かく味を理解出来る人間ではないので、なんだか申し訳なくてちょっと遠慮してしまいますねぇ……。
でも日○亭のから揚げ弁当は大好きです。
あの値段であの量、質…昼時にいつも混んでるのがよく分かります。
あぁ…から揚げ食べたいなぁ……。
…と、次回はお風呂回です。
もらったご感想の中に、「お風呂回が楽しみ」という声があったので増やすかどうかを検討中……。
とりあえず各キャラのストーリー中に必ず1回は一緒に風呂入らせる予定です。
コウスケくんの理性はだいぶ訓練されてるので大丈夫でしょうきっと。
ではまた来週。
ではでは。
追記,ここでもコウスケが「俺って言ってる」との報告を受けたので修正いたしました。




