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異世界で少女とまったりするために頑張る  作者: レモン彗星
第3章…鍛治コンテスト
233/435

230.ドワーフ少女の苦悩と選択…と心のモヤモヤ

ややシリアスかなぁ……。

〔リオ〕


「くそ…どうして……どうしてだよ……!」


あれから数日間、オレは結局金槌を握ることも出来なかった。

それどころか、夢にあのときのことが出てきてうなされ、こうして変な時間に起きては弱音をこぼすようになった。


サフィールに教えてもらったツボ押しも気休めぐらいにしかならず、オレは鍛治復帰のためのリハビリの疲れと自分に対する絶望感からのストレス、それに睡眠不足による疲労も合わさって、心も体もボロボロになっていた。


食事もあまり喉を通らなくなってきた。

みんなに心配されるが、その声が少し遠くから聞こえるようになってきた。

それでもどうにか、リハビリには行くのだ。


ただ…行くだけで何も出来てないのだが……。


「うぅ…くそ……くそぉ……!なんで…なんでだよぉ……!」


それに、今日が何日かもわからなくなってしまった。

カレンダーは部屋にある。

コンテストの予定日も記してある。

ただ、肝心の今日の日付がわからない。


そして…


「ぐすっ……ぐすっ……もう嫌だ……なんでこんな……なんで……くそっ……」


鍛治をするのが嫌になってきた。

鍛治が嫌いになってきた。


鍛治を出来るようにしなきゃ、鍛治師になりたいんだから…そうやって自分を鼓舞していたのに、それが自分を苦しめてるんじゃないかと思うようになってきた。


それは周りの声にも思うようになった。


みんなは応援してくれてるのに、その声にイライラしてしまうようになった。


オレはもう頑張ってると。

オレなら出来るなんて…なんでアンタが言うんだと。


理不尽なのはわかってる。

だからこそ、そんな自分に余計に腹が立つ。


このままじゃダメだ……。

このままじゃみんなに苛立ちをぶつけてしまうかもしれない……。

そんなことになるなら…周りに迷惑をかけ続けるぐらいならもういっそのこと……


「…あぁ…くそっ……!」


また諦めそうになった……!

ふざけんな……!みんながせっかく応援してくれてるのに、そんな自分勝手な理由で今さらやめられるか……!


だがどうする……。

このままじゃ上手くいくわけがないことなんてわかりきってる……。


せめて夜眠れるようになれば……マーガレットとサフィールに言われまくった重要な睡眠を取れるようになればまだ可能性は……。


「……そうだ……確か薬がどうこう言ってたな……」


眠れるようになる薬を渡してるって言ってたはずだ……。

それに医療ギルドの薬の大半は魔術ギルドで作られてる……。

それなら、夢を見ないほど深い眠りにつける薬があってもおかしくないはずだ……。


それさえあれば……。


…よし……。

そうと決まれば……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


数時間後。

夜というには少し明るく、早朝と言うにはあまりにも暗い。

オヤジもオフクロもまだ寝ている時間。

そんな夜9割な空の下をオレはひたすら駆けていく。


医療ギルドは時間が不定期な冒険者たちのために24時間開いていたはず……。

さすがにド深夜に外を歩いていたら衛兵に捕まりそうだから、ぎりぎり朝と言えなくもないこの時間に家を出た。


それに日中はずっとリハビリをするし、そもそも他のみんなに薬を使うほどヤバいなんてバレたくないから、動けるのはまだほとんど寝てるはずのこの時間だけ……。


この時間ならサフィールも起きてないはずだから、担当の人に口止めをお願いすればバレることはないはず……。


そう考えながら目的の医療ギルドに到着した。


よかった…開いてるな……。

冒険者らしき人がチラホラといるが……まぁ大丈夫だろう。

オレはマーガレットやチェルシーほど目立ってるわけじゃないしな。


そうたかを括ってギルド内に入ったが、その考えは間違いだったとすぐに気付いた。


チラチラとこちらを見ては驚いた表情をする人たちに最初は何だと思ったが、よくよく考えれば、こんな時間に子ども1人で医療ギルドに来るなんてこと自体が珍しいのだ。


だがもうやらかしたもんはしょうがないと諦め、オレはズンズンと受付に向かった。


受付のお姉さん「リ、リオちゃん……?こんな時間にどうしたの?保護者の方とかは一緒じゃないの?」


オレと面識の無い人ならよかったんだが……まぁこの前入院したからな。しょうがない。


「いません。そんなことよりも、今日来た理由は…」

「そんなことじゃないよ……。こんな時間に子ども1人で来るなんて普通じゃないよ?」

「だったら……ごほん……」


だったら話を聞けよ…と言いそうになったのをどうにか押し留め、オレは話を続ける。


「ちょっとオレ個人のことで、あまり人にも言いたくなかったので…」

「だったら尚更ダメだよ。そんな大事なことを保護者の立ち会い無しで決めるのは…」

「今は急いでるんです!とにかく話を聞いてください!」

「っ!」


チッ……!

あぁくそ……怒鳴っちまった……。


「ごほん……オレがここに来たのは…」

「その声…リオか?」

「…ジルさん……」


あぁくそ……話が進まねぇなぁ……。


イラつくオレをよそに、ジルさんは受付の人に話しかける。


ジル「こんな時間にコイツはどうしたんだ?」

受付「それはこれからで……ただ、保護者の方は無しで1人で来たみたいで……」

ジル「何?」


わかりきってることをさっきから……。

いいから早く本題に入らせろよ……!


受付「どうしましょう?」

ジル「…わかった。アタシが相手をするから、お前は他のところを頼む」

受付「はい。わかりました」


受付の人はそう言うと、隣の受付を開きにいった。


ジル「で?お前はどうしてここに来たんだ?」


ようやくか……。


「最近夢見が悪いので、それに効く薬が欲しいんです」

「ふぅん…なるほど。確かにパッと見でも分かるぐらい顔色が悪いな」


そんなにか?

…ならさっきの人は気が付かなかったってことだよな?

見るからに体調の悪いやつに質問責めなんてバカなことをするわけないもんな?


「落ち着け。苛立ちが表に出てるぞ」

「…………」

「はぁ……で、薬だが…そうだな……その前にいくつか聞いとくぞ?まず、何日ぐらい寝てないんだ?」

「えっと……」


そもそも今日が何日なのかから分かってないからなんで言えばいいのか……。


「…アタシとサフィールがお前に会いに鍛治ギルドに行ったのは4日前だ。その様子だと、相当苦しめられたらしいな」

「4日前……」


もうそんなに経ってたのか……。

いや、まだそれぐらいしか経ってない…の方が正しいか?


「重体だな。なぁリオ。お前が鍛治師になりたいってのは知ってる。だがそれでもあえて言うぞ?お前、鍛治師になるのは諦めた方がいいんじゃないか?」

「っ!」


いつか言われるんじゃないかとは思ってた。

なんとなく自分でも思ってた。

でも…実際に突きつけられたくはなかった言葉を、ジルさんはあっさりと言ってのけた。


しかしジルさんはまだ続ける。


「グラズからも昨日相談されたぞ?お前が鍛治台とずっと睨めっこしてるのを見るのは心が痛むとよ」

「グラズさん……!」


そんなことを……!


「いいか?お前の今の状態は、睡眠不足だけのせいじゃない。分かってるだろ?お前が日がな1日中やってる、鍛治復帰のリハビリが、今1番お前を苦しめてる原因なんだ」

「…そんなことはわかってます……でも…」

「いいや、言わせてもらう。お前はこのままじゃ壊れる。だから…今の苦しみから解放されたいなら、鍛治をやめろ。それが1番の…」

「そんなことは分かってますよ!それでもオレは…鍛治を続けなきゃ……」

()()()()()、なんて言ってるのが、鍛治を嫌々やってる何よりの証拠じゃねぇか」

「っ!」


そんな…そんなわけ……


「リオ。お前はまだ子どもだ。まだまだ選べる道はいくらでもある。大人になってから今の職に就いてプロになったなんてやつもいるんだ。だから今ここで鍛治に固執しなくても誰も責めねぇよ」

「そんなこと言われたって……。そんな…そんなほいほい諦められるような軽い気持ちでやってたわけじゃない……!オレは…本気で……!」

「分かってる。だからこれからゆっくり考えれば…」

「うるさい!そもそも諦めたくてここに来たわけじゃない!もういい!」

「あっ待てリオ!」


後ろでジルさんが呼ぶ声が聞こえるが、オレは無視してさっさと医療ギルドから出て行った。


ジル「……はぁ…まずったか……」

受付「マスターは強い口調ですからね……今のリオちゃんには辛かったのかもしれません……」

ジル「…自覚はしてるよ……はぁ……まぁいい……次アイツが行きそうなところには検討がついてる」

受付「えっ?そうなんですか?」

ジル「あぁ…グリムんところだ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁ…!はぁ…!」


医療ギルドから出たオレは、ひたすら走って魔術ギルドへと向かった。


グリムさんなら夢を見ずに眠れる薬を持ってるはずだ。

薬は基本、風邪薬とか低ランクポーションとか日常的に使うような物以外は処方箋(しょほうせん)が無いと買うことも出来ないからな……。

だからこそ医療ギルドに行ったんだが…こうなりゃもう、グリムさんに直接もらうしかない。


時間はさっきよりは明るいけど、朝と呼ぶにはまだ暗い…そんなところ。

とはいえ魔術ギルドも急な薬の要求に応えられるようにずっと開いてるから大丈夫だ。


というかギルドはみんな基本年中無休だから、閉まってるかどうかなんて気にしなくても問題ないんだよな。

ただ、鍛治ギルドは鍛治を行うのは昼間だけで、夜は武器製作の依頼と依頼品の引き渡し、あとは武器の売買だけなんだけどな。


と、着いた着いた……。


「ぜぇ…!ぜぇ…!げほっ!げほっげほっ…!」


さ…さすがにノンストップはキツいか……!

でも…出来ればオヤジたちが起きる前に済ませときたかったからな……!


「き、君…大丈夫……?」

「だ…大丈夫…です……!」


通りすがりの人に心配されながらも息を整え、落ち着いてから魔術ギルドに入った。


この時間ならシエルも起きていない。

というかシエルは種族的な関係で朝が弱いチェルシーとメリーを除けば、多分オレたちの中で1番朝に弱いはずだ。

前のお泊まり会のときがそうだった。


だからそこはなんの心配もせずに堂々と…


「あれ、リオッ!?なんでこんな時間にっ!?」

「いやそれはこっちのセリフだわっ!」


入った瞬間にシエルと目が合ってしまった。

何故だ……何故シエルがこんな朝早くに起きてるんだ……!?


「おや。おはようリオくん」

「えっ…あっ、お、おはようございますグリムさん……」


突如上から声が聞こえて慌てて見上げると、そこには目的であったグリムさんが浮いていた。


「シエルはね。この前ここに来たハルキくんに、もうすぐマーガレットくんの載ってるファッションの本が出るよって聞いてから、毎朝こうして早起きしてソワソワ待ってるんだ」

「そそそそんなことないですよっ!たまたま早く起きちゃったからここにいるだけですっ!」

「ふふふ♪だそうだよ♪」

「…なるほど……」


マーガレットの本……この間着せ替え人形にされたときの服とかが載ってるって言ってたやつか。

シエルは元からオシャレが好きだったが、マーガレットのことも好きになってるからな……。


というかむしろただのファンだな。

本人は隠そうとしてるが、前の本のマーガレットの載ってるページをずっと見てるって、いつだか仕事で鍛治ギルド(ウチ)に来た魔術ギルドの人が話してた。


だがまぁそれよりも…これはちょっとまずいなぁ……。


「そ、それで?リオはこんな時間にどうしたのよ?」

「あ〜…それはだな……」


照れ隠しついでにこっちに尋ねてくるシエルに対し、オレはどうしたものかと悩んでしまう。


どうしよう……。

シエルには知られたくないんだが……。


オレが困った顔でグリムさんをチラッと見ると、どうやら意図が伝わったようで、グリムさんが話に割って入ってくれた。


「ふむ…どうやら私とお話があるみたいだね。それじゃあ私の部屋に行こうか。シエルはここで商業ギルドの人が本を持ってくるのを待ってるといいよ」

「そ、そうなの……?…って、べ、別に待ってないですってばっ!」

「はいはい♪じゃあ行こうか」

「はい」

「あっ、も〜!」


からかわれて御立腹なシエルの声を背中に受けながら、オレはグリムさんについて行く。


そして部屋に着くと、グリムさんに勧められてソファーに座った。

そんなオレと自分の飲み物を用意してから対面に座ったグリムさんは、開口一番こう言い放った。


「上手くいってないようだね」

「っ!……そんなわかりやすいですか……?」

「割とね。その様子だと、医療ギルドには行ってきたんだろう?なんて言われたんだい?」


そこまでバレてるのか……。

まぁ、話が早くて助かるけどさ。


「…鍛治師は諦めた方がいいんじゃないかって言われました……」

「あらら…ジルは相変わらずだねぇ。まっ、君を心配して言ってるってことは分かってるんだろう?」

「…えぇ、まぁ……」


それはわかってる。

わかってるけど……だからこそ余計に、鍛治師に向いてないって言われてる気がしてしまうんだ……。


「…まぁ飲むといい。走ってきて喉が渇いてるだろう?」

「そんなことまでわかるんですか……?」

「それはまぁ…顔を赤くして息が少し乱れてて、多少汗を流してればね」

「…………」


…そりゃわかるな……。


納得したオレはおとなしく出された水を飲む。

すると、ほんのりと柑橘(かんきつ)系の爽やかな風味が口に広がった。


「美味い……」

「それはよかった。さて、それじゃあ落ち着いたところで本題に入ろうか」

「っ…は、はい……!」

「ふふっ…そう固くならないでいいよ。とりあえず、どんな薬が欲しいかを聞こうか」

「はい…えっと……悪夢を見ずに眠れる薬が欲しいんです……!」

「ふむ…なるほどね……悪夢というのは、ケガをしたときの様子かい?」

「そうです……」

「なるほど…やはりトラウマによるものだろうね。予想はしていたけど、的中してしまったか……」

「予想してたんですか……?」

「まぁね。こういう衝撃的な物事は本人の傷になりやすいからね。君の近くにも、大きな心の傷を負った子がいるだろう?」


えっ?

大きな傷……あっ……


「マーガレット……?」

「そう。彼女のトラウマは知っているかな?」

「はい……」


龍に村を焼かれて、両親を目の前で殺されて……そのせいで心を塞ぎ込んで……人が亡くなるのを恐れるあまり、人自体が苦手になってしまった……。


「彼女の心には大きな傷が出来た。それでも彼女は今、元気に仕事に遊びに精を出しているね?」

「そう…ですね……」

「その理由は教えてもらっているかな?」

「えっと……そのときのマーガレットを助けてくれた人がいて、その人のおかげで立ち直れたって聞きました……」


確か、コウ…なんとかさんなんだよな。

コウ…までは言ってたから、コウさんかコウなんとかさんかのどっちかなはず。


「そう。彼女は彼女を支えてくれた人のおかげで立ち直れた。心の傷には、自分を支えてくれる人という薬が何よりも効くのさ」

「…………」


確かに……マーガレットはそれで立ち直ったって言ってたし、実際支えてくれているというのはとてもありがたい話だ。

…だけど……


それが重しになることもあるんだよな……。


「……話はわかりました……ですが…オレにはその薬は少し効かないみたいなんです……」

「どういうことだい?」

「……オレは…オヤジとオフクロがオレのことを凄く考えてくれていると知ったとき、確かに今までにないくらい頑張ろうって思いました……だけど、気合いだけじゃどうにもならなくて…そうやって時間ばっかりが流れてくにつれて……怖くなっちゃって……」

「…期待を裏切ってしまわないか……?」

「……(こくり)……それに……」


応援してくれてたみんなに失望されたらって考えると……


「わかった、もう大丈夫だから、私を見てくれ、リオくん」

「!…グリムさん……」

「大丈夫…話は分かったから…ゆっくりと水を飲んで…ゆっくりとね…」

「は…はい……」


オレは言われるがままに水を口に含んだ。

美味いと感じたあの味を楽しむ余裕もなくグビグビと飲み干しコップを置く。


それで…少し落ち着けた。


「はぁ……グリムさん…すみません……」

「いや、こっちこそすまなかった。君に余計な負荷をかけてしまった」


負荷……負荷…か……。

オフクロや、鍛治ギルドのみんなの励ましや応援が負荷になってるなんて……さっき自分でも考えてたのに、人から言われると余計に心にくるな……。


「それで…薬のことなんだが……」

「はい……」

「…夢も見ないほど深い眠りにつける薬は確かにある。だけど、それはだいぶキツい魔法薬だから、あまり薬に耐性の出来ていない君が飲むと、恐らく数日は寝たきりになる……」

「っ…そんな……!?」


質のいい眠りを得れたとしても、そのあとに恐怖の克服と数日のブランクを埋めるための作業をやるだけでもうコンテストの日に…いや、下手したらコンテストなんてとっくに過ぎてしまってるかも……!?


「オ、オレが使える中でいいんで、なんかないですか!?」

「そうなるとだいぶ効果が弱くなるんだ……それに耐性を考慮したとしても、今の心と体の両方がへとへとな状態の君だと、弱い薬だと効きにくいし、逆にほんの少し強くなっただけで1日寝込むかも……」

「…そんな……」


1日って……夜眠れるだけでいいのに…それじゃあ結局時間が……。


「すまないね……だからさっきの話をしたんだが……これでは手詰まりだな……」

「…………」


グリムさんすら解決出来ないなんて……どうすりゃいいんだよ……。


「…いや、すまない。弱音を吐いてしまった。仮にも《賢王》と呼ばれる身で、そんな簡単に諦めるわけにはいかないな」

「えっ…じゃあ……」

「あぁ…少し時間はもらうが、君に合った薬を作って見せようじゃないか」

「あ、ありがとうございます!」


やった……!

少し希望が見えたぞ……!


「正直、リオくんのような症状は知られていたのにも関わらず、その治療法が確立してないのは問題だしね。言い訳になってしまうが、薬では根本的な解決にならないからという理由で着手してなかったんだが……その手伝いをするぐらいの薬は作れるはずさ。だからこれは良い機会とも言えるのさ」

「なるほど……」


治療法が確立してないのか……。

でもまぁこれで、眠るのが怖いなんてことは無くなるはず……。


…でも…それまではどうしよう……?


い、いやダメだ!

せっかく希望が見えたんだ……ここでまた弱気になっちゃダメだっ!


とにかく、薬が出来るまでは自分で頑張らないと……!


「グリムさん、ありがとうございます。それまでどうにか頑張ってみます」

「あぁ…だが、無理はしないように。はい、この薬は渡しておくよ」


グリムさんはそう言うと、棚から粒状の薬が入った瓶を取り出してオレに差し出した。


「?グリムさん、これは……?」

「さっき言った、1日寝たきりになるかもしれない薬だよ」

「えっ?」

「確かに君の要望には答えられないかもしれないが、それでも眠れないのは辛いことだからね。また睡眠不足でケガをするよりも、1日使ったとしてもしっかり寝ておいた方がいいと思うよ」

「それは…そうですけど……」

「うん、大丈夫。だからそれはあくまで保険さ。選択肢の1つとして持っておいてくれ」

「…わかりました」


まぁ…確かにもらっておいて損はないか……。

それにまだ丸1日寝込むとは決まったわけじゃないしな……。


「夕食の後に2粒飲めば効き目が出るよ。1つでも効果はあるけど、それだと眠りがかなり浅くなるから気を付けてね」

「はい、ありがとうございます」

「うん。それと、出来ればシエルたちと顔を合わせてあげてくれ。彼女たちも心配しているし、何より君の心にも良い効果を及ぼすはずだ」


うっ……心配をかけてる自覚はあるけど…みんなには顔を合わせづらいんだよな……。


「…頑張ってみます……」

「うん。今はそれでいいよ。それじゃあね」

「はい。失礼します」


そうしてグリムさんの部屋から出ると、そこに部屋の前で待っていたらしいシエルが話しかけてきた。


「あっ、リオ。マスターとのお話はもう終わったの?」

「ん…あぁ……」

「そっか。んも〜…久しぶりに会えたと思ったら、マスターと話し込んじゃってさ〜…まったくもう……それで?なんのお話をしたの?」

「いや…それは……秘密だ……」

「えぇ〜……」


教えてくれてもいいじゃない……と頬を膨らませるシエル。


あぁ…うん……確かに話すのは楽しい……。

だけど……罪悪感が強くてちょっとキツいな……。


「あ〜…んじゃあオレはもう用事済んだから帰るわ」

「えっ!?も、もうなの……?せっかく久しぶりに会えたんだし、もうちょっとだけでも……」


うっ……。


「いや…悪い……まだまだ頑張らないとだからさ……」

「そうなんだ……」

「あぁ、だから悪いけど早く帰らないとなんだ。じゃあな!」

「あっ…リオ……うん…じゃあね……」


シエルの沈んだ声がオレに刺さる。


だけど…まだ……もう少し……。

オレが、みんなに胸を張って鍛治師として立てるようになるまでだから……。


そうしてオレは家までまた走った。


悩みはとりあえず解決したはずなのに、オレの心は来る前よりも落ち込んでる気がした。

シリアス展開は苦手なんですが、なんでかシリアス展開のほうが考えつくのが早いんですよねぇ……。


やだやだ……。

シリアスはシリアスでも、ロイヤルメイドの方が断然いいんですけどねぇ……。

……分かる人にしか分からないね…うん……。


まぁそんなわけでまた来週。

ではでは。

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[一言] 徐々に心と体を慣らさなかった弊害ですな 普通は少し間を開けて等の方法で実行するべき内容を、セオリー無視して強行した訳ですからね、追い詰められるのも仕方が無いかと と言うかマグさんの例を…
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