229.覚悟…心配と応援と…
誤字報告を大量にいただきました……。
無事に直しました。報告ありがとうございます。
どうにか見直す力を高めようと思います。
〔リオ〕
翌朝は普通に寝坊した。
食べたあとすぐに寝ようとしたらちょっと逆流してきたので落ち着くまで起きてたら寝るのが遅れたのが原因だろう。
あれは焦ったな……。
食べてすぐ寝るのは今後絶対やらないようにすると心に刻み込んだわ……。
ちょっとノドがイガイガしたもん……。
怖かったわ……。
そっちに気を取られて、夢見は悪くなかったのは幸いだったかな……。
オレは昨日ずっと着っぱなしだった服から着替え、それと食器たちを持って下に降りた。
一応入る前にリビングをそっと覗いて、オヤジが酔い潰れてないかを確認し、問題なさそうなのでドアを開けて中に入る。
キッチンから水の音がするので、恐らくオフクロはそこにいるのだろう。
とりあえずこの食器を戻さないとな。
「オフクロ、おはよう」
「リオ!?部屋から出てきたんだね!」
「あ、あぁ……」
「置いといた夜ご飯も食べてなかったから心配してたんだよ!」
「あぁ…それなら食べたよ。ほら」
オレはオフクロに空の食器が載ったトレイを見せた。
「ごちそうさま、オフクロ」
「あぁ…よかった……!食欲があるなら少しは大丈夫だね……」
「うん、心配かけてごめん」
「いいんだよ、元気になったのならそれで」
オフクロはそう言いながら食器を受け取った。
そして、やや遠慮がちに問いかけてきた。
「…それで…今日はどうするんだい……?」
「今日もやろうと思う」
「…そうかい……」
昨日の様子から何か言ってくるかと思ったが、オフクロはただただ静かにそれだけ言った。
「…止めないのか?」
「止めて聞くのかい?」
「いや……」
「だろう?だったら止めないさ……あんたの苦しむ姿は見たくないけどね……」
「…ごめん……」
オフクロに心配ばかりかけてしまっていることに申し訳なくなり思わず謝ると、オフクロは首を振ってこう言った。
「いいさ。あんたがやりたいようにやればいいよ」
「オフクロ……」
昨日あんなにオヤジに言ってたのに、今はこうしてオレのことを尊重してくれるのか……。
「…ありがとう…オフクロ」
「あぁ……あっ、でもね。もしまた昨日みたいに酷い状態になったら無理矢理止めるからね!そこはわかっときなよ!」
「あぁ、わかった」
「まったく…いい顔しちゃって……閉じこもってる間に何があったんだろうねぇ……」
閉じこもってる間は何もなかったよ。
2人の話を聞いてからさ。
…ま、それだけ想ってくれてたんだ…なんて、照れくさくて言わないけどさ。
…お互いにな。
「んじゃあこれ、昨日の服なんだけど……」
「ん?あぁ、アタシがやっとくから入れちゃっていいよ」
「ありがと」
オレはオフクロに言われた通り洗濯物を洗濯機に入れて、またオフクロの元に戻る。
「じゃあすぐにご飯作っちゃうから、ちょっと待っとくれ」
「あぁ」
そうしてオレは、いつもより少し遅い朝食を取った。
うん、やっぱり出来たては美味いな。
そうしてゆっくり食べ終えたオレは、食器をオフクロに渡し、いよいよ鍛治ギルドへと向かうことにした。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「あぁ…無理はしちゃ駄目だよ?気分が悪くなったら帰ってくるんだよ?」
「わかってるよ。いってきます」
「いってらっしゃい、リオ」
心配してくれるオフクロに別れを告げ、オレは鍛治ギルドへと向かった。
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「昨日はほんっと〜に、すみませんでした!」
「いいんだよリオちゃん。リオちゃんが元気になってくれただけで俺たちは嬉しいんだから」
「ありがとうございます、グラズさん」
鍛治ギルドに着いたオレは真っ先にグラズさんの元へ向かい昨日のことを謝った。
グラズさんたちには迷惑をかけてしまったからな……。
他のギルドメンバーの皆さんにも謝らないとな。
「それでリオちゃん。ここに来たってことは……」
「はい。鍛治をするつもりです」
「その気持ちは嬉しいけど……はっきり言って、今のリオちゃんが鍛治をするのは危険だと思う」
「うっ……」
本当にはっきり言うなぁ……。
「だから俺は反対かな」
「そ、それはそうとは思います……けど、だからってこのまま夢を諦めたくはないんです!グラズさん、お願いします!」
「う〜ん……」
???「やらせてやりゃあいいじゃねぇか」
グラズ「えっ?」
悩むグラズさんに聞いたことのある女性の声がかけられ、グラズさんはそちらを振り向き、釣られてオレもそっちを見ると…そこにはジルさんとサフィールが……。
サ、サフィールが……物凄く物言いたげな顔でこっちを凝視していた……。
「よぉグラズ、リオ」
「ジ、ジルさん!?どうしてここに!?」
「おいおい、昨日そこの病人のことで相談してきたのはお前だろう?」
「そ、それはそうですが……まさかギルドマスター自ら来るとは……」
「昨日話を聞いたサフィールがリオにどうしても会いたいって言うからな。アタシはその付き添いだよ」
「サフィールちゃんが?」
「はい。グラズさん、申し訳ございませんが、リオさんを少しお借りしてもよろしいですか?」
えっ。
「あ、あぁ……どうぞ」
「ありがとうございます。…それではリオさん?少し私とお話しましょう?」
「お、おぅ……」
静かに笑みを浮かべるサフィールがめちゃくちゃ怖くて、オレはそれだけしか返せなかった。
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サフィールに連れられて着いたのは鍛治ギルドの外の路地だった。
「ここなら大丈夫そうかな……?」
「?」
そう言いながらこちらの様子を窺うように振り向くサフィール。
「大丈夫って…何か内緒話でもするのか?」
「いえ。リオさんが少しお辛そうだったので、一旦外の空気をと思ったんです」
「辛そう?オレが?」
確かに事務室の外から聞こえてくる金槌の音がまだ少し怖かったけど、そんな辛いなんて様子を他人に見せるような真似はしてないはずだけど……。
「はい。それと……ケガが原因で鍛治が出来ない…と聞いたので、恐らくその原因から離れれば落ち着くかな…と……」
「…なるほど……」
見習いとはいえ、さすがは医療ギルド所属のシスターなだけある見事な洞察力だな……。
「ケガが原因で今まで出来ていたことが出来なくなった、というお話は結構あるそうなんです。私はまだ見習いですから、そういった方々の様子は人伝に聞いただけで詳しくはないのですが…そういった症状が出ているときは、その原因から1度離れるのが1番だと教わったので……」
「あ〜…うん……わかった……」
なるほど……そういう前例があるからこその落ち着いた対応だったわけか……。
「ははは…うん、降参。確かに金槌の音が聞こえないだけでだいぶ楽になってるよ」
「そうですか…落ち着けたようでよかったです」
「あぁ、ありがとなサフィール」
サフィールの気遣いは嬉しい。
けど……
「…これじゃあ鍛治職復帰はまだまだ遠そうだなぁ……」
「リオさん…やっぱり、まだ鍛治職人に……?」
「あぁ。鍛治師は小さい頃からの夢なんだ。そう簡単に諦められないよ」
「そうですか……」
オレの答えに難しい顔をするサフィール。
多分オフクロやグラズさんのように、オレの身を案じてくれてるんだろう。
だからオレは、サフィールを安心させるためになるべく元気に言った。
「大丈夫だって!痛い目を見てさすがに懲りたから、そんな無茶なことはしないよ」
「遊んだときにそう言っててケガしたのは誰ですか?」
「…………」
ぐうの音も出ない。
「…ふぅ……とは言っても、それで1番苦しんでるのはリオさんですからね……。…わかりました……今回も信じます……」
「!ありがとうサフィール!」
「でも、もしもまた無茶をして運ばれてきたら、マーガレットさんたちと緊急会議を開きますからね」
「お、おう…わかった……」
サフィールの圧に負けてとりあえず頷く。
正直、緊急会議って脅しなの?と思ったが、絶対何かロクでもない提案が可決されそうだな、とすぐに思い直す。
特にマーガレットとチェルシーが危険だな……。
マーガレットは確実にオレが断りづらくて効果的な方法を考えるだろうし、チェルシーはこっちが恥ずかしいことを平気でやってきそうだし……。
どっちもオレが本気で嫌がることはやらないだろうけど、だからこそ余計に断れないというかなんというか……。
うん…気を付けよう……。
無茶、駄目、絶対。
「はい、それでは約束です」
「ん…?あぁ、指きりげんまんか」
サフィールが小指を差し出してきたので、オレもすぐに意図を察して小指を絡ませる。
「「ゆ〜びき〜りげ〜んまん♪ウソついたら…」」
「みんなと緊急会議をひ〜らく♪」
語感悪っ。
「ゆ〜びきった♪」
「…なぁ…ちなみに緊急会議の内容って……」
「約束を破って無茶をしたリオさんをどうしたら今後無茶をしなくなるかの会議ですよ?」
「まぁそうだよなぁ……」
「ちなみにマーガレットさんも無茶する体質なのでついでにさりげなくクギを指す予定です」
「…そうかぁ……」
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コウスケ「…?」
ショコラ「どうしたのマグ?」
コウスケ「いや…なんだか……どこかで何か聞き捨てならない計画がされてる気がして……」
ショコラ「?」
ララ「グリムさんが新しいお薬を試してもらおうとしてるとかかもね」
コウスケ・マグ「(えっ…怖い……)」
パメラ「新しいお薬?」
ララ「前にマギーちゃんにネズミの耳が付いたのみたいなお薬とか」
ショコラ・パメラ「「あっ!それは見たい!」」
コウスケ・マグ「(あのときはほんと大変だったからやめて!?)」
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マーガレットに飛び火したところで、サフィールは改めてオレに問いかけてきた。
「それで、リオさん。いくつか聞きたいことがあるのですが……」
「うん?なんだ?」
「昨日はぐっすり眠れましたか?」
「あぁ、寝るのはいつもより遅れちまったけど、夢見も悪くないし体に痛みもだるさも無かったぜ」
「遅れたんですか?」
「あぁ……遅くまで自分の情けなさを責めちまってな……気付いたらいつも寝る時間をとっくに過ぎてたんだ」
「そうですか……」
正直に話したが……空気が重くなっちまったな……。
話題を変えなきゃ。
「それで、なんでそれを聞いたんだ?」
「あっ…えっと、過去の例から、トラウマを負った人はそのときのことが夢に出て夜眠れなくなる…ということを知ったので……」
「なるほど」
確かに、オレもウジウジ悩んだまま眠りについてたら、悪夢を見てロクに眠れなかったかもしれない。
……考えたら心配になってきたな……。
「なぁサフィール……そういうときの対処法とかって何かあるのか……?」
「え〜っと、医師から処方されるお薬を服用したり、ストレスや疲労に効くマッサージを教えたりしてますね」
「マッサージ?」
「はい。例えば手のひらの…ちょっと失礼しますね……この部分ですね。ここを押して…」
「お…ちょっと痛いかも……」
サフィールがオレの左手を手に取り軽く揉むと、そこそこの痛みを感じた。
正直ちょっとではない痛みなんだが。
「ここだと、肩が凝ってることになりますね」
「手のひらを揉んで肩が凝ってるか分かるのか!?」
「はい。ここが心臓で、こっちが腎臓…ここは…脾臓だったかな?」
「そうなのか……ってかなんでそんな臓器ばっかり……?」
「ツボは体内の効くものもあるということを伝えたくて……」
「あぁなるほど……」
……脾臓って何だろう……?
「あっ、ここは膵臓です」
「あっうん、わかった。もう大丈夫だから、眠れるようになるツボを教えてくれよ」
「そ、そうでしたね…すみません……」
このままだと全部の臓器に効くツボを教えられそうだったので本題へと話を戻す。
サフィールはこの手の話になると積極的だからなぁ……。
それだけ医療に対して熱意を持ってるってことだからいいことなんだけどな。
「えっとですね……眠りに効くツボ…これは不眠症の方におすすめされているものなのですが、両手のひらのこの辺りを…」
「ん…痛くないな……」
「それならよかったです。もしも夜眠れないときは、ここを軽く揉んでみてくださいね」
「あぁ、わかった」
「ただ…その……」
?
「これはあくまで不眠症の方におすすめしているものです……」
「あぁ…そう言ってたな」
「だからその……悪夢を見る人には効果が薄くて……」
「…あ〜……ツボを押して夢も見ないほどぐっすり眠れればいいけど、悪夢が原因でそもそも眠りたくないって人にはむしろ逆効果だな……」
「……(こくり)」
そうだな……。
オレは大丈夫だったけど、そもそも眠るのが嫌になってるやつにこれを教えてもやらないだろうしなぁ……。
「あっ…そうなると、そういう人のためには何を教えてるんだ?」
「ストレスに効くツボですね。ただこれも、ストレスを緩和するだけで元を断てるわけではないので……」
「気休め程度ってことか」
「はい。あっでも、そういうときに1番良いのは、何か安心できるものを抱えて眠ることだそうですよ?」
「安心できるものか……」
なんだろう……?
金槌…は今は怖くなってるし、そもそも危ないからダメだな……。
「う〜ん……特に思いつかないなぁ……」
「物でなくても、誰かがそばにいるのもいいそうです」
「親とか?」
「そうですね。安心できる人がそばにいてくれれば…添い寝などをしてくれればもっといいと思います」
「う〜ん…それはちょっと恥ずかしいなぁ……」
というか、安心できる人っていうと……やっぱオフクロかなぁ……?
うん、やっぱり恥ずいわ。
あとは泊まりで遊んだサフィールたちともかな。
その中でもやっぱりマーガレットが1番だよな。
あの優しい声と手で隣に寝てくれてなでてくれたら……
「って、いかん……!ショコラたちに毒されてる……!」
「えっ!?ショ、ショコラさんがどうしましたか……?」
「あっいや!なんでもないなんでもない!」
はぁ〜…いかんいかん……。
マーガレットに撫でられながら一緒の布団で寝るところを思いっきり鮮明に思い描いてしまった……!
くっ……これじゃあチェルシーたちのことを言えないぜ……。
「…もしかして、マーガレットさんのことを考えてましたか?」
「うぇっ!?」
「話の流れ的になんとなくそんな気がして……」
「うっ…そ、そうか……そうだよな……」
ショコラの名前を出しちゃったもんなぁ……。
そりゃバレるか……。
「確かにマーガレットさんがいたら心強いでしょうね」
「そう…だな、うん。でもアイツに頼ったら、際限なく甘えそうでなぁ……」
「そうですね……マーガレットさん、優しいですから……」
「優しさで言えばサフィールや他のみんなもかなり優しいと思うけどな」
「ありがとうございます。でも、リオさんも同じくらい優しいですよ」
「そうかぁ?」
「はい。そうです」
…そこまで言い切られるとこれ以上返せないなぁ……。
「ま、まぁそれはともかく…マーガレットや他のみんなにも、今日のことは内緒にしててくれないか?」
「え?」
「ほら…アイツらが聞いたらまた仕事をほっぽり出して来ちゃうかもしれないだろ?」
「あぁ…入院したときのことですね。あのときはマーガレットさんがいろんな人に謝って回ってましたね……」
チェルシーとショコラがダッシュしてきて、パメラも最初は不安げにマーガレットにずっとベッタリだったから、その間の迷惑とかを全部謝ったって言ってたな……。
そのあとちゃんとチェルシーとショコラも謝りに行ったけど、あのときのマーガレットはだいぶ疲れてたな……。
医療ギルド広いし、人も多いからなぁ……。
「まぁそういうのもあるから、絶対に言わないでくれよ?」
「むぅ……私としてはちゃんとみんなと情報共有をしておきたいのですけど……」
「頼む!お願いだサフィール!」
「…はぁ…わかりました……内緒にしておきます……」
「ありがとうサフィール!」
「ただし!また無茶したら……」
「あぁ、そのときは言ってもいい。そんなヘマはもうしないからな!」
「…それならいいんですけど……」
とは言うものの、サフィールはまだまだ不安げな顔でオレを見つめてくる。
まぁ前科持ちだからな。しゃあないしゃあない。
と、そこにジルさんがやってきた。
ジル「おっ、ここにいたか。サフィール、そろそろ戻るぞ」
サフィール「あっわかりました。それではリオさん、くれぐれも無茶はしないでくださいね?」
リオ「わかってるよ。またなサフィール。それと、わざわざありがとうございました、ジルさん」
ジル「あぁ。…リオ」
リオ「はい、なんでしょうか?」
ジル「心を強く保てよ。お前が選んだのはイバラの道だ。もし挫けても誰も責めやしないだろう」
リオ「…………」
ジル「だから…限界が来る前に必ず退け。退き際を謝れば、もう2度と鍛治が出来なくなるかもしれないからな」
リオ「……わかりました」
ジル「あぁ。じゃあなリオ。次会うのは出来ればまた医療ギルドの外がいいな」
サフィール「リオさん。それではまた。今度また、皆さんと一緒に遊びましょうね」
そう言って2人は帰っていった。
オレはジルさんの言葉を心に刻み、鍛治ギルドへと戻る。
大丈夫……覚悟は決めた。
ジルさんは逃げてもいいと言ったが、オレは逃げない…逃げたくない。
逃げたら、オレの夢が叶うことが無くなりそうだから。
みんな応援してくれてる。
オフクロもグラズさんも、鍛治ギルドのみんなやジルさんにサフィールも。
それに…オヤジも……。
だから…オレは必ずやる。
やってやる。
もう一度鍛治が出来るようになって、そんで一流の鍛治師になってみんなに心配をかけた礼をするんだ。
そう願って、オレはその日1日中鍛治台と向き合った。
…だが…その日は結局触れられず…夜には悪魔としてケガをしたときのことを見るようになり、そうして数日が経つことになってしまった。
不穏な終わり方。
しかし作者は1話に1つはネタを…ゆったりまったりテイストをぶち込まないと精神的に辛い病にかかっているので、クスッとポイントは入ると思います。
…入るといいな……。
そんなわけでまた来週です!
ではでは!




