227.コンテストはどうなるか…あと今夜どうなるか
コウスケ「鍛治が怖くなったって…それってやっぱり……」
グラズ『うん……この間のケガが原因だと思う……』
コウスケ・マグ「(…………)」
鍛治ギルドからの通信が来たので近くにいた俺がたまたま取ったら、恐れていた事態を知らされたの巻。
最初はグラズさんも渋っていた。
単純に、子どもには重い話だから。
でも俺は尋ねた。
なんだか嫌な予感がしたから、どうしてもと聞き出した。
その答えがこれだ。
もうほんと、嫌な予想ばかり当たるのはやめてほしい。
グラズ『今朝からどうも様子がおかしくて…それでも鍛治の練習をしようとしてたんだけど……結局この時間になるまで何度挑戦しても出来なかったみたいで……』
コウスケ「……それで、リオは?」
グラズ『あ、あぁ…今は自分の家にいるよ。奥様が付き添ってる』
コウスケ「…そうですか……」
…リオの性格的に、多分部屋に閉じこもってるかもなぁ……。
リオ、真面目だから……あんまり思い詰めてないといいけど……。
コウスケ「…あの…リオに会うことって……」
グラズ『俺としては会ってほしいけど……』
コンコン
ん?
誰かが通信小屋の扉をノックしてる?
サワコ『グラズくん?もしかしてお嬢ちゃんたちかい?』
グラズ『あっ奥様!』
おっ、サワコさんだ。
リオの側から離れてるのか……。
グラズ『はい、今はマーガレットちゃんと話しています』
サワコ『そうかい。それじゃあ悪いけど、ちょっと代わってくれないかい?アタシからも話をしときたいんだ』
グラズ『わかりました』
どうやら代わるようだ。
ちょうどいい。いろいろ聞いてみよう。
サワコ『すまないね、代わらせてもらったよ』
コウスケ「いえ、私も聞きたいことがあるので大丈夫です」
サワコ『まぁ、そうだろうね。でも、悪いけどアタシの話からさせてもらうよ』
コウスケ「はい」
サワコ『しばらくリオのことを1人にしておいてくれないかい?』
マグ(えっ……?)
コウスケ「…それは…しばらく会うな、という意味でいいんですか?」
サワコ『…そうなるね……』
本人からならいざ知らず、まさか親御さんから断られるとは思ってなかった。
サワコさんのことだからリオのためであることはわかるのだが、それでもどうしてか気になって思わず口調が堅いものになってしまう。
コウスケ「理由は?」
サワコ『リオは真面目だろう?』
コウスケ「えぇ」
サワコ『あの子はその真面目さもあって今まで精一杯頑張ってきた。でも今度は、真面目ゆえにどうして自分が怖がっているのか…自分は一流の鍛治師になりたいのに…っていう自分の心と、それでも恐怖で震えてしまう自分の体のあべこべさに悩んで、落ち込んで、自分を責めてしまってるんだ……』
コウスケ「…………」
マグ(リオ……)
…これは…だいぶまずいかもしれないな……。
サワコ『だからこそ友だちを…とも思ったんだけど……』
コウスケ・マグ「(けど……?)」
サワコ『…今のあの子には…それすらも重荷になってしまうかもしれない……』
マグ(そんな……)
あぁ…なるほど……。
今リオは自分の心を落ち着かせることすら難しくて、そんなところに俺やチェルシーたちが元気づけに行っても、リオにとっては「友だちに心配をかけてるのに…」ってなるかもしれないってことか……。
確かに、俺たちが行ったからってリオが元気になるとは限らないし、正直重荷になる可能性の方が高い……。
それでも元気付けたい!って、ショコラちゃんたちは言ってくれるかもしれないけど、残念ながら今回はその気持ちがリオの負担になりかねない。
それで元気になるかわからないんじゃあ、リスクに対してあまりにもリワードが乏しすぎる。
賭けをするにはとてつもなく分が悪い。
とにかく元気付ければ大丈夫!なんて脳筋精神論でどうにかなるようなことではないのだ。
悔しいけど…今はサワコさんの言う通りにしよう……。
コウスケ「…そうですか……わかりました……」
サワコ『…すまないね……』
とても残念そうなサワコさんの声が聞こえてくる。
サワコさん自身も考えたと言っていたのだ。
俺と同じ結論に至って、どちらがいいかを必死に悩んで、それで出した答えなのだろう。
マグ(リオ……)
コウスケ(…今は自分でなんとか立ち直れることを祈ろう……)
マグ(…はい……)
だが、祈るだけで済ませるつもりはない。
コウスケ「…サワコさん」
サワコ『ん、なんだい?』
コウスケ「リオに伝えてもらえますか?私たちはいつでも相談に乗るからって」
サワコ『あぁ、わかったよ』
コウスケ「お願いします」
せめて、1人じゃないよってことくらいは伝えさせてもらおう。
これももしかしたらプレッシャーになるかもしれないけど…それでも、もしかしたら、助けを求めてくれるかもしれないから……。
…そうなったらだいぶ参ってる証拠だから、頼られたって素直には喜べないけどね……。
サワコ『それじゃあね、お嬢ちゃん』
コウスケ「はい、それではまた」
サワコ『あぁ。…グラズくん、終わったよ』
グラズ『伝えたいことは伝えられましたか?』
サワコ『えぇ。ありがとね』
グラズ『いえ、それならよかったです』
サワコさんとの話が終わり、再びグラズさんが通信するようだ。
…俺もそろそろ代わるかな……。
グラズ『代わったよ、マーガレットちゃん。奥様と話してくれてありがとう』
コウスケ「私も聞きたいことがあったので大丈夫ですよ。でも、そろそろ他の人に代わったほうがいいですか?」
グラズ『そう…だね。うん、出来ればララさんかリンゼさんがいいんだけど、どっちかいるかい?』
コウスケ「ララさんがいますのでそちらに代わります。少しお待ちください」
グラズ『うん』
あぁ、でもその前に…
コウスケ「…えっと……」
グラズ『?』
コウスケ「…リオのこと、話してくれてありがとうございます。それと、無理に聞き出してしまってすみません……」
グラズ『あぁ…いや、構わないよ。マーガレットちゃんに話せたことで、なんだか心が軽くなった気がするし。酷い話だとは思うけどね』
コウスケ「いいえ。誰かに話を聞いてもらうと心が軽くなるのは当たり前ですから」
グラズ『ははは、ありがとう、マーガレットちゃん』
あ、そういえば。
コウスケ「あの、親方さんはどうしてるんですか?」
グラズ『あぁ…親方も家に戻ってるよ。態度には出さなかったけど、自分のせいだってかなり落ち込んでた』
コウスケ「そうですか……」
マグ(…武器投げたり子どもと大ゲンカしたりする人でも、落ち込むんですね……)
コウスケ(やめたげてマグさん。悲しみを知らないみたいな言い方はやめたげて)
マグ(あっごめんなさい)
親方だって人間だもの。
怒ってる姿ばかり見てきたとはいえ、ちゃんと落ち込んだり悲しんだりするよ。
それに親方さん、俺にわざわざ釘刺ししてきたこともあったんだから、リオのこと大事にしてるよ。
知ってるでしょ?
コウスケ「あっでも…親方さんはギルドマスターだから、仕事とか大変なんじゃ……?」
グラズ『あ〜…そうだね。でも割と大丈夫なんだよねこれが』
コウスケ「えっ?そうなんですか?」
グラズ『うん。正直親方はずっと、俺たちじゃ扱えない業物の製作や手入れをしているんだ。だから、書類周りとかは全部俺みたいな事務を任されたやつか、リオちゃんみたいな見習いに任せてたんだよ』
コウスケ「それはつまり…」
グラズ『業物以外はいつも通りに回せるよ』
((…………))
コウスケ「…ちなみに、業物依頼に関しては……」
グラズ『だいぶヤバい。依頼主に謝るか親方に立ち直ってもらうしかない。どうしよう……』
コウスケ(…悪いこと聞いたかも……)
マグ(グラズさんが本気で慌ててますね……早くララさんを呼んで仕事を進めさせてあげましょう)
コウスケ(うん、そうしよう)
コウスケ「え〜っと…それじゃあ、ララさん呼んできますね」
グラズ『あ、あぁ…お願いするよ』
コウスケ「はい。グラズさん、ありがとうございました」
グラズ『こちらこそ、ありがとう』
そうして有耶無耶にして丸く収まった風に終わらせて、俺はララさんを呼びにひとまず通信小屋から出る。
コウスケ「ララさん。グラズさんからお話があるそうです」
ララ「グラズさんから?わかった、ありがとう」
そう言ってララさんがグラズさんと連絡を取りに行ったところで、ショコラちゃんたちが俺の元にやってきた。
ショコラ「マグ、いっぱいお話してたけど、なんのお話をしてたの?」
コウスケ「えっとねぇ……」
コウスケ(内緒のほうがいいかな?)
マグ(でも、鍛治ギルドからだってことはバレてますよ?ここで誤魔化したら、リオに何か悪いことがあったのかなって勘ぐっちゃうかも……)
コウスケ(そっかぁ……ん〜……はぁ…しゃあないかぁ……)
コウスケ「…落ち着いて聞いてね?」
パメラ「えっ、そんなお話なの?」
コウスケ「そんなお話なの」
チェルシー「えぇ…なんだか怖いよ……」
ショコラ「う、うん……」
コウスケ「じゃあやめとく?」
ショコラ「ううん…聞く……」
チェルシー「あ、あたしも……」
パメラ「私も聞きたい」
コウスケ「…わかった。あのね……?」
俺はケガの詳細などの残酷な描写は控えて、リオがケガのせいで鍛治が怖くなったことを話した。
ショコラ「そうなんだ……」
パメラ「…リオ……」
チェルシー「あんなに頑張ってたのに……」
概ね予想通りの反応。
なのだが…チェルシーがちょっと……
チェルシー「…親方さんがリオちゃんとケンカするから……」
うん、やばい。
このままはやばそうなのでとりあえずフォローしておこう。
コウスケ「あ〜…あの2人がケンカしてるのはいつものことだし、親方さんも物凄く落ち込んでるらしいし……」
チェルシー「それでも、リオちゃんが辛い目にあってるのは変わらないもん……仕方なくないもん……」
コウスケ「…………」
…それを言われたらちょっと言い返せないっす。
というか俺も、「〇〇だから〜」とか言われて我慢をさせられるのに反発するタイプだし。
反発っていうか…表向き納得した風を装って、心の中でその相手の評価を下げて今後あまり信用しないようにしてるだけだけど。
主に学校の先生とか。
まぁそんなわけで俺が目を逸らしてしまったので、チェルシーは俺も同意見だと思ったようだ。
チェルシー「マギーちゃん!一緒に親方さんに文句言いに行こ!」
とても攻撃的な意見ですこと。
コウスケ「でもそれはダメだよチェルシー」
チェルシー「なんでぇ!?」
コウスケ「言ったでしょ?物凄く落ち込んでるって。それなのに私たちがアンタのせいでリオが〜って言ったら、親方さん、本気で立ち直れなくなっちゃうよ」
チェルシー「むぅ…でもぉ……!」
コウスケ「チェルシーは親方さんを傷つけたいの?」
チェルシー「……(ふるふる)」
俺の問いに、首を横に振るチェルシー。
うん、いい子だ。
コウスケ「それなら、ここは我慢して。それで、リオが立ち直ってから、今後は気を付けなさいって叱ってあげなさい」
チェルシー「…うん…わかった……」
コウスケ「ん、偉いぞ。ほら、おいで」
チェルシー「ん……」
聞き分けのいい子にはご褒美に、チェルシーの好きなぎゅーとなでなでをしてあげよう。
コウスケ「よしよし……やっていいことと悪いことの分別が出来て偉いぞ〜」
チェルシー「んぅ……」
世の中には悪い奴には何しても良い…って思ってる犯罪者予備軍…いや、もはや犯罪犯すやつもいたけど、そんなのがいるからなぁ……。
住所突き止めるとか、扉や塀に落書きやら脅迫文やらを書いたり貼り付けたりとか……。
「個人情報保護法」と「器物損壊罪」じゃん。
で、そういうのはテレビで流さないっていうね。
何年かあとに、「あの時は〜…」ってどっかのインタビューで聞かれたときに知られるやーつ。
…怖いよねほんと。
コウスケ「…チェルシーも、ショコラたちも、そういうことはやっちゃダメだよ。相手がどんな人だろうと、ね?」
チェルシー「うん……」
ショコラ「う、うん……?」
パメラ「わ、わかった……?」
ショコラちゃんとパメラちゃんはなんのこっちゃ理解してないかもしれないかな〜。
まぁ、この子たちならやらないでしょう。
やっちゃっても俺が止めるし、俺がその場にいなくても、他にも頼れる大人はいるわけだしね。
コウスケ「あぁそうだ。リオにはしばらく会えなくなっちゃうよ」
ショコラ・チェルシー「「えっ?」」
パメラ「ど、どういうこと?」
コウスケ「リオのお母さんがね。リオは真面目だから、自分が心配をかけてるって知ったら無理しちゃうかもって。だからリオが自分で立ち直るまで待ってほしいんだって」
3人『そ、そんなぁ……』
重荷やらなにやらの難しい言葉は省いて簡潔にまとめたけど…大体これで合ってるはず。
ショコラ「でも…リオが無理しちゃうのはやだから…我慢する……」
パメラ「うん……」
チェルシー「うぅ…遊びたいなぁ……」
コウスケ(…ほんと、良い子たちだよねぇ……)
マグ(はい。自慢の友だちですよ♪)
コウスケ(ここで自慢をぶっこむとは……)
まぁ気持ちはわかる。
俺もちょっと誰かに自慢したい。
と、そんな自慢したい友だちたち…特にショコラちゃんとパメラちゃんから、何かを期待するような目で見られていることに気付く。
マグ(…コウスケさん、これはアレですね)
コウスケ(うん…アレだね……)
マグ(じゃっ、頑張ってくださいね♪)
コウスケ(…へ〜い……)
コウスケ「…2人もおいで?」
ショコラ・パメラ「「…♪」」
…この子ら、褒めてほしいから聞き分けがよかったわけじゃないよね……?
ララ「ただいま〜って、あらあら♪今回はどうしたの?」
コウスケ「え〜っと……我慢出来る偉い子を褒めてます……」
ララ「そっか〜♪」
毎日のようにやってるので、もはや手慣れた反応のララさん。
…ふむ……グラズさんからのお話、聞いていいものかな?
やっぱりダメかな?
というわけでドストレート。
コウスケ「ララさん、どんなお話だったんですか?」
ララ「う〜ん……チェルシーちゃんたちは、リオちゃんのことは?」
多分、リオの現状を教えた?という質問だな。
コウスケ「話しました。リオは今鍛治が出来ないってことも」
ララ「そっか。それならいいかな」
当たってた、やったぜ。
ララ「再来週ぐらいに鍛治コンテストを予定してたんだけど、リオちゃんもガリオンさんも大変なときに、そんな浮ついたことできないし、そもそも気になりすぎて仕事に身が入らないから延期に出来ないかって相談されたの」
コウスケ「えっ!?あ〜…でも…そっかぁ……」
マグ(確かにその通りですね……う〜ん…でも……)
コウスケ(…リオが…ねぇ……?)
マグ(はい……鍛治コンテストに出場出来るようにって頑張ってたのに……)
コウスケ(しかもその理由に自分が関わってる…となると……)
マグ(……大丈夫かなぁ…リオ……)
…正直…だいぶやばいよなぁ……。
っていうか、これじゃあ俺たちがリオの元に行くのを我慢した意味がないんじゃ……?
なんてことを、リオの友だちであるチェルシーたちが気付かないわけもなく、ララさんにおずおずと質問し始めた。
チェルシー「それ…リオちゃんに言ったらまた責任感じちゃうんじゃ……?」
パメラ「それに、コンテストをリオも楽しみにしてたのに……」
ララ「私もそう言ったんだけどねぇ……まぁ、まだ意見がまとまってないみたくて、あくまで相談されただけだから、まだ延期と決まったわけじゃないよ」
ショコラ「そっか…よかったぁ……」
ホッと胸を撫で下ろすショコラちゃんと同じように、チェルシーとパメラちゃんもホッとした表情を浮かべる。
俺とマグも内心でホッとした。
言うてまぁ…延期ならまだ大丈夫だとは思う。
責任を感じるのは同じだろうけど。
最悪は中止の判断がされたとき。
そうなると…リオが多分保たない。
ララ「幸い、まだ公式発表したわけじゃなくて、こんなことを予定してますよ〜ってしか言ってないから、今ならまだこのままか延期かを決められる状態だし、ギリギリまで話し合うつもりだって」
チェルシー「そっか……じゃあリオちゃんがそれまでに元気になれば……!」
ショコラ「コンテストも延期にならないし、リオもコンテストに出れる!」
パメラ「そう…だね!うん!」
リオは親方さんにまだ認められてないから、立ち直れたとしても参加できるかは分からないんじゃ…と思ったが、さすがに自重しといた。
多分パメラちゃんも同じことをよぎったんだろうけど、なんとか持ち直していた。
うん、偉いぞ〜。(なでこなでこ)
チェルシー「じゃああたしたちもちゃんと我慢しなきゃだね……!」
ショコラ「うっ…そ、そうだね……!頑張ろ、パメラ…って、あぁぁ!?なんでパメラだけ撫でてるのぉ!?」
あっやべ、バレた。
いや、当然か。
だってまだ3人とも引っ付いたまんまだし。
チェルシー「むぅ〜!マギーちゃんっ!あたしたちももっと褒めて!」
ショコラ「そうだそうだー!ショコラたちもいい子でしょー!」
コウスケ「はいはい……」
チェルシー・ショコラ「「テキト〜!」」
ぷく〜っと頬を膨らませてもっと撫でろと頭をぐりぐり押し付けてくる2人。
パメラ「…♪」
そんなことはお構いなしに、嬉しそうに撫でられるパメラちゃん。
ララ「ふふっ♪じゃあ、マギーちゃんの後のお仕事はそれで決まりだね♪頑張ってね〜♪」
そんな俺たちにララさんはくすくすっと笑って、自分の仕事へと戻っていく。
そして…
マグ(コウスケさんコウスケさん!コウスケさんも私も我慢してますから、どっちもエラいということで、今日はお互いを褒め合いましょうそうしましょう!)
今日の夜の予定を決めるマグと決まった俺。
え〜っと…とりあえずマグさん……?
この前の約束覚えてる……?
…あんまり暴走しないでね……?
鍛治コンテスト……現実でもあったら楽しそうだけど……。
…人混みには行きたくないなぁ……。
やるならテレビで中継してくれ……。
まぁ、それはともかくまた来週!
ではでは。




