219.絡まれて…からのまさかの真実
お待たせしました。
非常に心臓に悪い夢から覚め、どうするかめっちゃ悩んだ挙句、そんな短いスパンで世話になるのはちょっと…せめて週一ぐらいで……と考えた俺はフルールさんに助けを求めるのはやめておいた。
正直若干後悔している。
それでも我慢して仕事に向かった俺。
甘やかしにハマったらしいショコラちゃんとパメラちゃんにやたら頭を撫でられ恥ずかしい思いをしつつも午前の仕事を終え、お昼を済ませて午後の仕事へ。
昼前にリンゼさんに隠密ギルドに書類を届けるのを頼まれたので、ぐずるショコラちゃんたちを引き剥がし、隠密ギルドへ向かうことに。
ユーリさんは今日は迷宮の方なので、隠密ギルドで会うことは無いだろうが、ヘンリエッタさんやベックさんたち、そしてプラリア君ちゃんに会うのはとても楽しみなので、自然と足取りも軽くなる。
が、ワクワクしながら隠密ギルドへの路地を進んでいく途中、何度目かの曲がり角で2人の男性が壁に寄りかかっていた。
そしてその男性たちと目が合うと、その人らは俺にゆっくりと向かってきた。
(誰だ?)
(わかりません。でも…なんだか嫌な感じがします……)
(俺もだよ……)
その2人は明らかに好意的な雰囲気では無いのだ。
めっちゃ怖い。
体が勝手に臨戦態勢を取ってしまう。
男A「来たなお嬢さま。待ってたぜ」
「……何か御用ですか?」
A「あぁ。少し言いたいことがあってな」
「……なんでしょうか?」
まったく聞きたくないけどそれだと話が終わらないから仕方なく尋ねる。
男たちは表情を少しも変えずに答えた。
A「俺たちは騙されねぇぞってな」
「…騙す?」
B「正確にはお前たち貴族に、だ」
ここまで静かに睨みつけてきていた男が口を開いた。
B「お前が何を企んでいるかは知らないが、絶対に本性を暴いてやる」
A「そういうこった。他の連中は馬鹿だからお前を街のマスコットみてぇに扱い始めてるが、俺らは騙されねぇからな。貴族なんざどいつもゴミだ」
なるほど。
貴族嫌いが理由か。
他の人がいるとこで言えばまぁまず勝てないだろうから、こうして人気のない場所で待ち伏せしてたわけだ。
子ども相手に大人気ないが、俺の周りの大人はみんな強いからな。仕方ないっちゃ仕方ない。
まぁでもやっぱり大人気ないけど。
A「周りがチヤホヤしてくれるからってあまり調子に乗らないことだな。そもそも他の連中だって、心ん中じゃよく思ってないやつだって多いんだよ、知らないだろうけどな」
B「お前が《イシオン》やギルマスたちのお気に入りだから言わないだけだ。お前の味方など、お前が思っているよりも少ないんだよ」
(そんな……)
(マグ。気にすんな)
(……はい……)
まったく……マグは繊細なんだぞ?
何傷つけてんだテメェ……子どもに絡んでる暇があるなら、その嫌いなお貴族様を不幸にする作戦の一つでも立てたらどうだバーカ。
…あぁ、それで俺のところに来たのか。
じゃあお前らが貴族嫌いになった原因のところに直接嫌がらせに行けやボケ。
B「おい。黙ってないで何か言ったらどうだ?」
「はぁ…じゃあとりあえず1つ……あなたたちが誰に恨みを持ってるかは知りませんが、それはご本人に言ってあげた方がいいですよ」
A「あ?んだとテメェ……ちょっと強いからって調子に乗るなっつったよな?」
そこまでは聞いてねぇよ。
B「はぁ…所詮はガキか。おい」
A「あぁ。少し痛い目を見てもらうか。なぁに安心しろ。顔はやめといてやるよ」
そもそも殴るなよ。
暴力はいけませんことよ?
あ〜…めんどくせぇ……。
めんどくせぇが……。
マグに危害を加えようってんなら容赦はしねぇぞ?
A・B「「…っ!」」
B「本性を表したな…」
A「へっ!その目…やっぱテメェもクソ貴族の一員ってことだなぁ!」
よくわからんことを言いながら襲いかかるチンピラA。
無詠唱がバレるのは嫌だが、今から唱えたんじゃ間に合わない。
なのでこういうときのためにと予め考えておいた対処法をしよう。
名付けて…「他人が通りがかりに助けてくれた風にシバこう作戦」だ。
まずは対象を仕留める。
ほい、《サンダー》
A「ぐあっ!?」
B「ぬっ…!?」
そこですかさず驚く演技!
「っ!」
そして辺りを見渡す!
(う〜ん…コウスケさん、策士ですねぇ)
(よせやい、ニヤついちゃうだろ)
ある程度見渡したあとに視線を元に戻す。
「(あっ)」
男たちは気絶していた。
(なんだ……演技が無駄になってしまったな……)
(まぁいいんじゃないですか?仕留めることは出来たんですし)
(それもそうだね。で、これ。どうしよっか?)
(どうしましょうねぇ?)
「私が預かろうか?」
「(あっ、ありがとうございます)」
そう言って振り返るとココさんが立っていた。
「(…………)」
「……?」
「(…………ココさん?いつからそこに?)」
「この男たちが路地でいかにもな待ち伏せをしてるから様子を見ていたらあなたが来た」
「(つまり最初からじゃないですかぁぁ!!)」
ってことは俺の演技も見られてたってことじゃん!
いや、それよりも……
無詠唱で魔法使ったとこ…見られたぁぁ!!
「あなた、無詠唱魔法が使えるのね」
「え、えぇまぁはいそうですねぇ……?」
「凄いね」
「えっあっえっと…あ、ありがとうございます……?」
……えっそれだけ?
(えっと……ま、まぁ…よかった…のかな……?)
(そ、そうですね……ココさんなら言いふらすなんてこともしないでしょうし……)
(そ、そうだね……って、そっか。一応ダニエルさんたちにも内緒にしておいてもらえるように言っとかないと……)
ハルキやダニエルさんなら別にいいかなとも思うけど、一応ね。
「えっと…ココさん……」
「ん、どうしたの?」
「あの…ですね……私が無詠唱で魔法が使えることは……」
「大丈夫。ダニエルたちにも言わないでおくから安心して、コウスケ」
「あっありがとうございます…!」
(はぁ〜…これで安心だね……)
(そうですね……)
((…………ん……?))
…今…なんと……?
「え〜っとココさん?今聞き間違いでなければコウスケって呼びました?」
「うん」
呼ばれてました。
「えっ……と……」
「あなたが街に来た初日にハルキから聞いた」
「(そこも最初からってことじゃないですかぁぁぁぁ!!!?)」
ゔぇあぁぁぁ!!
マジで!?マジで!?嘘でしょ!?
えっえっ待って!?ということはということは?
「…じゃあ…今まで……それを知りながらも、俺が女の子らしい仕草をしてたのを見てた…ということですか……?」
「大変だなぁって見てた」
「ぐふぅっ!」
(コウスケさぁぁん!!)
めっちゃ…見守られてた……!
めっちゃ微笑ましく見守られてたぁ……!
恥ずすぎるんじゃあぁ……!
「あと意外だった」
「い、意外……?」
「最初に会ったとき以外は、他の男性と違って私の体に興味を示さないこと」
「そ、それは……」
興味が無いんじゃなくて、それ以上に止めなきゃいけない存在が内に秘めてるからなんですけど……。
「むしろマーガレットの方が興味津々だったことも」
「(バッチリバレてらっしゃる……!)」
まぁそりゃそうか!
「ん……コウスケは頑張ってる」
「えっ……?な、何をですか……?」
いきなりすぎて分からんのだけど……?
「女の子の体だからってセクハラしないところとか」
「あ〜…それはまぁ…そういうのは絶対あとに残りますし……」
「あといろんな子にアレコレされてるのに我慢して手を出さないところ」
「そ、そりゃあ…問題しかないですからね……」
「うん、だから頑張ってると思う」
……もしかして慰められてる……?
「えっと……俺ってそんなに大変そうですか……?」
「うん。本当に男の人なのか何回か疑った」
「えっ……?」
俺そんな…えっ……?
…い、いや…ココさんにすらそう思わせるほどの演技力ということだ……つまり他の人にはほぼ100%バレてないと言っても過言ではないということ……。
うん…これはいいことだ……。
決して、油断して漏れ出た俺の素の反応が女の子らしいとか、他の子にめちゃくちゃにされてるところが女性のエロスを感じるとかで男らしさを感じなかったらとか、そんなんじゃないはずだ……きっとそうだ…そうなんだ……。
「…コウスケ?」
「…あっ、えっと…すみません。コウスケさんは今ちょっと羞恥心に駆られてるのでそっとしてあげてください……」
「ん…マーガレット?」
「はい。あっ、初めまして…ですかね?」
「そうね…いえ、もしかして、試験の次の日に来たときにユーリにスカートを下げられたときに出てきた?」
「ぐふっ…そ、そんなこともありましたね……えぇ…そのとき出ちゃいました……」
「それなら一応会っている。でもこうして話すのは初めて」
「そうですね……はい。じゃあやっぱり、初めまして?」
「うん。初めまして」
俺が深刻なダメージを受けたのをみて、マグが代わりにココさんとの間を繋げてくれた。
が、マグはマグでダメージを受けていた。
しかしそれでもどうにか立て直したようだ。
マグの人見知り…対人恐怖症?も、かなり良くなってきたみたいだ。
…ぶっちゃけ最近普通にみんなと話してるから忘れかけてたけどね……。
「マーガレット」
「はい、なんですか?」
「さっきこの男たちが言ったことは気にしなくていい」
「(!)」
さっきの……俺たちの味方は言うほど多くないってやつかな?
「あなたたちはこの街に受け入れられている。それに、あなたたちの方がこの男たちよりも信頼が厚い」
わぁいめっちゃ言うこの人〜♪
「だから気にしなくていい」
「…はい。ありがとうございます…♪」
「…ん。そろそろ行こう」
「あっ、はい…って、男の人を2人も担げるんですか?」
「問題ない」
なんとなく大丈夫だろうなぁ…と思っていた俺の予想通り、ココさんはそう言うと男2人を積み重ね軽々と担いだ。
バランスいいなぁココさん。
さすがだわ〜。
「うわぁ〜…そんな軽々と……さすがですね……」
「そう?」
「はい!それって魔法を使ってるとかは…」
「ううん、使ってない」
「やっぱり!すごいです!」
マグも俺と同じように思ったようで、とても興奮した様子でココさんをひたすら賛美する。
「…ん……」
これにはさすがのココさんも照れ臭くなったのか、目を逸らし、さっさとその場から立ち去って…
「って、置いていかないでくださいよぉ!?」
マグ、ナイスツッコミである。
しかし…ココさんすら照れさせるなんて……マグ…恐ろしい子っ!
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「と、いうわけで一緒にいました」
「そっかぁ…無事でよかったわ、お嬢」
隠密ギルドに到着したところでココさんはギルドの地下へと行ってしまった。
そしてマグと交代した俺が先ほどの出来事をお姉さんに話したのが今の状況だ。
もう「お嬢」呼びは気にしないことにした俺は、心配してくれたお姉さんに「ココさんのおかげです」と返す。
実際ココさんがいなかったら、気絶させたあの2人をどう処分するべきか分からなかった。
マグに危害を加えようとしたのでとりあえずシメただけだもの。
行き当たりばったりなのだもの。
「でもそっかぁ……出るだろうとは思ったけど、まさかいきなり殴りかかるなんてね……」
「えっそうなんですか?」
「うん。良くも悪くもお嬢は目立つからね。貴族嫌いの人たちに絡まれるだろうとは思ってたの。でもその人たち以上にお嬢のことを良く思ってる人は多いし、人通りの少ないところは重点的に見回りをしてもらってるから、そうそう荒事にはならない…って思ってたんだけど……」
俺は襲われたと。
まぁココさんが最初から見張ってたらしいから、本当は荒事になることはなかったんだろうけどね。
…っていうかあの人、なんで助けてくれなかったんだろう……?
実力的に大丈夫だろうと思ったのかな……?
でもアイツら好き勝手言ってたから正直この手で潰せたのはスッキリした。
ハッ!
まさかココさんはこれを狙って……!?
…いや…多分俺なら大丈夫っていう信頼とか、どう切り抜けるかっていう好奇心とかな気がする。
まぁなんでもいいや。
ココさんがいつもみたいにスパッとあっさり片付けたらビックリしてこの達成感は得られなかっただろうからな。
「ごめんなさい、お嬢」
「えっ、何がですか?」
突然の謝罪にビックリしたんじゃが?
「本当はこうならないようにしたいのだけど、元々この街は貴族が嫌いな人たちばかりで出来ているから、たとえ水面下であっても無碍には出来ないの……」
「なるほど?」
「つまり元を断つってことは出来ないの。だから、もしかしたらまた同じようなことがあるかもしれないわ……」
「まぁ…そうでしょうねぇ……」
そのときはまたシバくだけだから……あぁでも相手によるか。
今回は相手が最初からケンカ腰だったから滅したけど、もし仮に真摯的な姿勢で来られたらちょっと悩むかもしれない。
でもマグを傷つけたらとりあえず威力の調整だけして殴ることは殴る。絶対やる。
「本当は護衛を着けたりしたいんだけど……」
「えっ…それは……」
「そうやって遠慮するでしょ?それに護衛に着いてくれる人もみんながみんな友好的かは分からないし、何より資金だって有限…とかなんとか、問題はいっぱいあるの」
うん。護衛着けられたら俺も困る。
隠さないといけないこと多いし。
「だから…ごめんなさい。対策としては、極力1人にはならない。危なそうなところは行かない。怪しい人にはたとえ仕事でも近づかない…ってところかな……」
「あ〜……」
まぁそうなるな……。
そんな心配しなくても…とは思うけど、念には念をって言うし……。
…そもそも俺がそういう心配をさせることをしているってことなのかもしれないし……。
ここは素直に心配を受け取っておこう。
「はい、わかりました」
「本当に気をつけてね?お嬢は強いけど、それでも油断は禁物だし、そもそもそんなことにならないのが1番なんだから」
ごもっともです。
シバくだけとか、ちょっと調子に乗ってたかもしれません。
ごめんなさい。
「…わかりました。ありがとうございます」
「うん。それじゃあ誰かギルドまで送ってくれる人を…」
「私が行こうか?」
「(「うわぁぁっ!?」)」
突如近くで声を出したのは、もちろんココさん。
これには俺たちだけでなく受付のお姉さんも驚いていた。
「コ、ココさん……いつの間に……?」
「今来たとこ」
「あっ…そうなんですね……」
今回は最初から聞いてたってわけでは無いようだ。
まぁそりゃそうさな…うん。
思いっきり下に行ったもんな。
「いやでも気配消さないでくださいよ」
「無理」
「あっはい」
めっちゃストレートに断られた。
きっとあれだ。
職業柄無理なんだ、多分。
ってちょっと待った。
「あの、今日はヘンリエッタさんやベックさんは……?」
あの人たちとプラリア君ちゃんに会いたかったんだけど……。
しかし受付のお姉さんから帰ってきたのは残念なお知らせだった。
「あぁ、お二方は仕事だよ。何か用があった?」
「あっいえ…ちょっとご挨拶したかったのと、ベックさんのところのプラリア君ちゃんに会いたかっただけで……」
「そっか…それは残念だね……」
「はい……」
(う〜ん…お仕事ならしょうがないですね……)
(うん……ぷにぷにしたかったんだけどなぁ……)
(ですねぇ…あの子可愛かったですもんねぇ……)
プラリア君ちゃんと遊べないと知り残念がる俺たちに、ココさんが話しかけてきた。
「マーガレット」
「ん…はい、なんでしょうココさん?」
「マーガレットはペットが欲しいの?」
「えっ。う〜ん…そうですねぇ……」
(欲しいかと聞かれれば……)
(欲しい…かも……?)
(でもなぁ…俺たち基本的に家にいないからなぁ……)
(フルールさんとメリーに任せちゃうことになりますからねぇ……それに物珍しさもあるかもなので、いざ飼い始めて、そのあとお世話が億劫になったりしたら大変ですし……)
(だね……)
っていうかマグ……かなりリアルな理由を持ち出したな……。
まぁ俺も同意見だけど……子どもが考えるにはかなりリアルだと思う……。
…ま、この子の境遇を考えると当然か。
命大事に。うん、大切なことだ。
と、ココさんに返事しないと……。
「ん〜…可愛がるとは思いますけど、私はほとんど家にいないですし、覚えることも多そうですし、何より興味があるからってだけなのかもしれない状態で生き物を飼うのは不安なので、今はいろんな人のところの子を見てるぐらいでいいですかねぇ」
「…そっか。うん、命を預かる重みをちゃんと考えられてて偉いね」
「(…!)」
『!!?(ザワッ)』
そう言ってココさんがフワッと少し笑みを浮かべ、頭を軽く撫でてくれた。
それに周りがザワつくが、俺の心がザワザワ森なのでそんなことには気付かない。
…ココさん今表に出てるのが俺だって分かってるよな……?
これはマーガレットとして扱ってるからのアクションなんだよな感じ…?
なんか、ナチュラルに子ども扱いされてる気がして凄く恥ずかしい……。
「マーガレット」
「は、はい!」
「そろそろ行こうか」
「あっ…はい、お願いします!」
「ん」
そう言ってココさんは頭を撫でるのをやめ、俺に手を差し伸べてくる。
俺がその手を握ると、ココさんは小さく頷いて受付のお姉さんの方を向いた。
「じゃあ行く」
「あっはい!お気をつけて!」
「ん」
そうして手を繋いで出発した俺たちを見届けたギルドの面々は、扉が閉まった途端に騒ぎ出した。
「お、おい見たか……!?」
「見た……!いつも無表情でクールなあの《絶影》が笑った……!」
「というかそもそも《絶影》があんなに喋ってるのも初めて見た……!」
「た、確かに……!ララちゃんと話すときもそんなに長くないのに……」
「やべぇ……やっぱりお嬢やべぇな……!」
「うん……なんでお嬢って呼ばれてんのか分かった気がするわ……」
「さすがお嬢だ……」
「……?」
「どうしたの?」
「いや…何かを感じた気がして……」
「(?)」
そんな会話がされてたなんてサッパリ知らない俺は、マグとココさんに首を傾げられ、なんかモヤっとしつつも冒険者ギルドへと歩みを進めるのであった。
次回も来週の予定です。
頑張って間に合わせます!
ではでは!




