212.依頼の結末…とその後の話
ちょっと長くなってしまいました。
詰め込みすぎた。
〔ユーリ〕
なおも往生際悪くバレバレの言い訳を言い続けたビリッキドにワフカさんすらイライラし始めたので、当身で気絶させ、背負ってイラムスさんの家に連れて行くことに。
道中クオロンさんもワフカさんも特に喋らなかったが、ビリッキドが沈黙したときは少しばかりスッとしたような、そんな雰囲気を出した。
ま、浮気されてたんだもん、しょうがないよね。
…それでも、さっきまで幸せそうだったワフカさんまでピリピリしてたのはなんとも……。
こんな一瞬で恋って冷めるものなんだね……怖いなぁ……。
コウスケとマーガレットはこんな風にならないでほしいなぁ……。
……まぁ…マーガレットはむしろ推奨してるんだけどね……。
でもそれはメリーちゃんのためだし、コウスケも基本的にマーガレット一筋だから大丈夫そうかな……。
う〜ん…でもこの場合はなんて言うんだろう……?
恋人公認だから浮気では無い…のかなぁ……?
それじゃあなんだろう……?
ん〜…………あっ…イラムスさん家だ。
「あの建物ですよ」
「「…………(こくり)」」
2人が静かに頷いたのを確認してそのまま歩を進める。
そうしてイラムスさんの家の玄関に辿り着いたとき、タイミング良くビリッキドが目覚めた。
「ん……あれ……?」
「起きた?今イラムスさんの家の前にいるから」
「……へ?」
「そろそろ覚悟決めなよ」
軽く伝えてから扉を叩く。
「ごめんください。ユーリです。至急お伝えしたいことがあって来ました」
そう扉越しに言うと、中からドタバタと音が近づいてきた。
私が少し後ろに退くと、少しあとに勢いよく扉が開いて、さっきまでいた場所を風が切った。
うん、やっぱり怖いね、これ。
「伝えたいこと…って……」
早速尋ねようとしたイラムスさんだったが、私に背負われているビリッキドと、後ろに控えているワフカさんとクオロンさんを見ると、段々と勢いが弱まっていった。
ちなみにビリッキドは私の背中に隠れようと身を縮こまらせて震えていた。
…そんな怖がるなら最初から浮気なんてしなきゃよかったのに……。
「……えっと……どういう状況……?」
「それは……人通りが少ないとはいえ、外ではあまり……」
「あ、あぁ…そう……えぇ、いいわ。入ってちょうだい」
「お邪魔します」
「お邪魔します〜……」
「…お邪魔します……」
イラムスさんの家に入り、私はビリッキドをイラムスさんの隣に力づくで座らせてからイラムスさんの対面に座る。
その私の隣にワフカさん、クオロンさんと続いた。
「それで……もしかしてその人たちが……?」
「はい。ビリッキド…さんとお付き合いしていた方々です」
「……そう……やっぱり浮気してたのね……!」
「ひぃぃっ…!」
そう言って隣のビリッキドを睨みつけるイラムスさんに、情けない声をあげて縮こまるビリッキド。
「信じてたのに……!あんたが、いい加減なところもあるけどなんだかんだ大事にしてくれるって思ってたのに……!」
「…な、なんだよ!?大体、お前まさか、この女に俺のこと調べさせたのかよ!?散々信じてるだなんだ言っといて、結局心の底では信じてなかったんじゃねぇかよ!そういうところが駄目なんだよ!」
「なっ!?あ、あんたねぇ……!」
「ふんっ!そもそも俺はお前みたいなデカいシミの付いた顔なんて嫌いだったんだよ!」
「っ!!?」
「いい体してっから付き合ってやったが、ちょいちょい探り入れてくるわ、弁当とか無理やり持たせてくるわ。しかもその弁当は濃い味ばっかで動いたあとだと胃にもたれるわで散々だし、何より都合の良い言葉を並べて結局俺のことを信じてなかった……ひっ!!?」
「「「……っ!?」」」
「……おっと…失礼しました」
ふぅ…いけないいけない……。
逆ギレして傷つけまくるこの男への殺意が漏れちゃった……。
ほんと、しょうもない男だよ、コイツ。
さて…このままだとうっかり手を出しそうだし、そうじゃなくても誰かが限界にきて殺傷沙汰になりそうだから、早いとこ話を進めちゃおう。
「はぁ……それでですね。今回の件…こちらの2人はその男が他の女性とも関係を持っていたとは知らなかったそうなんです。ですので…」
「2人も被害者だと?」
「そうなります」
「……はぁ……分かったわよ……そっちに手は出さないわよ……」
「ありがとうございます」
ふぅ…とりあえずこれで、さっきみたいに女性同士の争いが起こることは無くなるかな……。
「それで…この後はどうされますか?」
「…そうねぇ……とりあえずビリッキド。あんたはこの家から出て行きなさい」
「なっ!?」
「荷物まとめてさっさと出て行けって言ってんのよ、最低男!」
「…っ!」
まぁそうなるよね。
「…チッ!お前みたいな女、こっちから…」
「いいから出てけ!ゴミムシ野郎!」
「っ!…フンッ!」
ドスドスと部屋から出ていくビリッキド。
それを見届けたイラムスさんは深いため息を吐いてからこちらに話しかけてくる。
「…ごめんなさいね……見苦しいところを……」
「いえ……」
「それで……これも謝らないとね…ごめんなさい…名前をまだ聞いてなかったわね……」
「あっいえ〜……」
「…これはしょうがないと思うわ……私はクオロンよ……」
「ワフカです〜。イラムスさん…でしたよね〜?」
「えぇ。…こう言っちゃあれだけど、同じ男に傷物にされた同士、仲良く出来ないかしら?」
「はい〜、こちらこそお願いしたいです〜」
「…私も構わないわ…」
「ありがとう」
ん…なんとかまとまった感じかな?
……さて……。
「…イラムスさん」
「うん?何かしら?」
「ビリッキド…さんのお部屋ってどの辺りですか?」
「えっ?えっと……廊下の突き当たりのひとつ手前よ」
「奥の部屋は?」
「あたしの部屋ね。たまに一緒に寝たけど、終わったらほとんど別々で寝てたわ。1人の方が体が休まるとかなんとか言ってね。今思えば、あれはあたしの顔を見たくなかったからだったんでしょうね……」
「そうですか……」
じゃあ黒かな。
「ビリッキド…さんの気配がイラムスさんの部屋に感じるんですよね」
「「「えっ?」」」
「お財布とか宝石とか、あったりしますか?」
「えぇ…貯金が置いてある金庫が……ま、まさか……!」
慌てて部屋から出るイラムスさんを、ワフカさんとクオロンさんと一緒に追う。
そして自分の部屋の扉を勢いよく開けた彼女は…
「…あんた何やってんの?」
「ひっ!?」
底冷えするほどの冷たい声を出し、それを向けられた相手は思わず悲鳴を上げた。
言うまでもなくビリッキドである。
「こ、これは……」
「これは?」
「……て、手切金だ!お前に掛けた金を返してもらうだけだ!何も悪くない!」
「いや普通に泥棒だから」
「ぐえっ!」
もうほんとにどうしようもない泥棒を確保する。
「はぁ…どうします?」
「突き出しましょ」
「それがいいと思います〜」
「…意義無し」
「ま、待って…」
「ダメ」
「うっ!」
当身で再び気絶させ、近くを巡回していた兵士にビリッキドを引き渡した。
その兵士たちはビリッキドのことを知っていたようで、「あ〜…ついにやったか〜……」と呆れていた。
そしてイラムスさんは、ビリッキドの部屋にあったものを全て、明日にでも質に出すそうだ。
持ってたら思い出してイライラするから…とのことだ。
うん、それがいいと思うよ。
さっさと忘れよう、あんなの。
で、そのあと…
『かんぱ〜い!』
広くなったイラムスさんの家で傷心会…?をすることになり、私も功労者として招待された。
…傷心……?
「ごく…ごく……ぷは〜!誰にも気い使わないで飲む酒は美味いわ〜!」
「んく…んく……はぁぁ〜…!私も久しぶりな気がします〜♪」
「ぐびぐび……くふぅ…♪」
……傷心……?
「ほらほらぁ!ユーリも飲んで飲んでぇ!(バシン!バシン!)」
「は、はい…いただきます……」
イラムスさんに背中を叩かれ、私は困惑しながらもお酒を飲む。
「…ぷはぁ…!やっぱり美味しいですねぇ…」
「ほんとほんと!安酒でもこんなに美味しいんだから、ありがたいわよほんと!」
確かに。
お酒なんてイシオンに入らせてもらったときの歓迎会で始めて飲んだけど、それでも美味しいやつだって分かるほどだもん。
やっぱりこの街って凄いね〜。
と、そこで突然イラムスさんがため息を吐いた。
「はぁ〜……」
「あれ〜?どうしたんですか、イラムスさん〜?」
「いやね?アレと付き合ってたときは、酒を飲むよりもアレに構ってばっかりで、今思えばもったいないなぁ〜…って思っちゃってさぁ……」
「あ〜……」
イラムスさんの中でビリッキドがもうアレ扱いになっている……切り替え早いなぁ……。
「でもそのときは好きだから〜、頑張らなきゃ〜って思っていたんですよね〜?」
「そうそう!飽きられないように必死になっちゃって……今思えばバカだなぁって思うわよ……」
「…仕方ないわ…そのときはアレが1番の理解者だと思っていたんでしょう…?」
「そうなの!もしかして…?」
「…えぇ…私もそう……ワフカは…?」
「私もですよ〜。だけど、今はなんであんなに熱心になってたのか分からないですね〜」
「「分かるわ〜…」」
…失恋話?…で盛り上がってる……。
でも…そっかぁ……。
恋ってそういう感じなんだ……。
……なんかちょっと怖いなぁ……。
なんて考え方をしていたらクオロンさんに話しかけられた。
「…ねぇあなた…」
「ん…はい、なんでしょう?」
「…今話題になってる、《イシオン》の新しいメンバーってあなたのことよね…?」
「えっ?確かにイシオンに入らせてもらいましたけど……」
「…やっぱりそうなのね…」
「ごくごく……ぷはぁ!思い出したわ!ユーリってどっかで聞いたことある名前だと思ったけど、イシオンの新人だったのね!」
私たちの会話に、2杯目のお酒をがぶ飲みしたイラムスさんが入ってきた。
って…もう酔ってます?
「ユーリ…イシオン…あ〜!私も思い出したわ〜!最近よく話題になってるあの子と一緒にいるっていう人ね〜」
「そうそう!マーガレット…だっけ?貴族なのに獣人の子と友だちで、しかもその子のために試合までしたっていう変わった子よね!」
あ〜…まぁ…普通の人にはそう見えるか〜……。
ただ友だち思いってだけなんだけどねぇ……。
「…あの子と一緒に洋服の本に載ってるのも見たわよ…」
「あっ私も見ましたよ〜!とっても素敵でした〜!」
「うぇっ!?あ、ありがとうございます……///」
なんかちょっと照れるな……。
「でもあなた、隠密ギルドに入ってたのねぇ」
「…そうね…冒険者としてだけでも結構稼いでる感じだって聞いたわよ…?」
「あら〜…もしかして新人だから取り分が少なめになってるとかですか〜?」
「いえいえ!違います違います!むしろこんなにもらっていいのってぐらいもらってますから大丈夫ですよ!」
「そうなの?それならどうして隠密ギルドに入ったの?」
「それは……」
……ど、どうしよう……?
正直に、「お金がいっぱいもらえるって聞いただけで深くは考えてない」って言うべきか……。
いやぁ…さすがにそれはちょっと……。
「…えっと……」
「…あっ…もしかして……」
「えっ?」
イラムスさんが何か思い当たったような感じ……。
……深い意味が無いことがバレた……?
「…ユーリ…あなたもあたしたちと一緒だったのね……」
「へっ?」
「…あぁ、なるほど……酷い男に当たって、同じような女性を助けるために…ってこと…?」
「えぇ。そうだと思うわ」
違います……。
当時はいっぱいお金を稼げそうなところを探してたら、隠密ギルドのことを小耳に挟んだから行っただけです……。
「……いえ…もしかしたら〜……」
「?もしかしたら……?」
「男の人に復讐したくて…とかだったりして〜?」
「「あぁ〜……」」
「いえ…全部違います……」
無計画に来ただけです……もう勘弁してください……。
「というか私…恋とかよく分からないので……」
「えっそうなの!?」
「あらあら〜」
「…初心なのね…」
「うぅ……」
なんか恥ずかしい……!
「恋はいいわよ〜?って、さっきの今であたしたちが言うことじゃないけどね」
「…そうね……今回みたいなことはあるけど、誰かを好きになるのは凄くいいわよ…」
「そうなんですか……?」
言われてみれば……マーガレットもコウスケも…いっつも楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうだなぁ……。
「うふふ〜♪でもユーリさんなら男の人にいっぱい誘われそうですね〜」
「そうね〜……なんてったって……ねぇ……?」
「……私に振らないで……」
うっ……胸を見られてる……。
そしてイラムスさんとクオロンさんが自分の胸と比べて落ち込んでる……。
う〜ん……そんなにいいものかなぁ…これ……。
こんなの動くときに揺れて邪魔だし、下は見えづらいし……男の人に見られたって嬉しくないし……。
……マーガレットは……うん……。
でもコウスケは見なくなってきたんだよねぇ……。
…それはそれでちょっと寂しいって考えちゃうんだよなぁ……。
う〜ん……
「…ひやっ!?」
「うぉぉぉ……や、やわこい……!押したらそれだけ沈んでく……!」
「イ、イラムスさん!?」
イラムスさんに急に胸を揉まれたことでどこかに行ってた思考が戻ってきた。
「ふぁ…ちょっ……!イ、イラムスさ…!」
「クオロン!クオロン見て!沈む!指が!私の指が!」
「…やめなさいよイラムス……虚しくなるから……」
「私たちに無いものが!私たちにはもう付くことのない立派なお肉がっ!!」
「やめてっ!!?」
「あらあら〜♪クオロンさん…そんなにカッカしないで〜♪」
「わぷっ!」
クオロンさんがワフカさんに抱きしめられた……。
「ほらほら〜♪お姉さんに甘えていいのよ〜♪」
「んむぅ!んむぅ〜!」
「ユーリィ!私を包んでぇ!」
「えぇぇぇ!?」
もうめちゃくちゃだよぉ……!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
チュンチュン……
「……頭痛い……」
いつもは爽やかな朝が、今朝はとんでもない頭痛に見舞われて物凄い憂鬱感……。
しかも体もバッキバキになってる……。
もちろん痛い。
あのあと私とクオロンさんは、それぞれイラムスさんとワフカさんにたっぷり飲まされたり揉まれたり揉まされてたり…そのままみんなで床に倒れ込んで……うっ……思い出しただけで頭が……。
み、水……水飲もう……。
私は床に転がっているイラムスさんたちを避けながら台所を目指す。
途中で机の上の自分が使ったコップを手に取っていき、台所に着いたらとりあえず水洗いをしてから改めて水を入れる。
ごく…ごく…はぁぁ……。
ちょっとすっきり……。
……あぁ…こうして落ち着いて見渡すと…とんでもなく散らかってるなぁ……。
これは片しておこう……。
そのあとイラムスさんと仕事の話をして、報酬のことをしっかり話して、それから隠密ギルドに戻ってまたお話して……。
はぁ…やることいっぱいだぁ……。
でも、そのあとはお家に帰ってまったりと……
……はて……。
何か忘れているような……?
「う…うぅ……」
あっクオロンさんが……
「…あ、朝……?」
「クオロンさん、おはようございます。お水入りますか?」
「…ユーリ…おはよう…ありがたくいただくわ……」
クオロンさんにお水を渡して、私は先にお手洗いに行かせてもらう。
それが済んだあと、ある程度頭のぼんやり感も無くなったので、私は朝ごはんがわりに昨日の残りを食べていく。
クオロンさんもお手洗いを済ませて戻ってきて、同じように朝ごはん。
「…ふぅ…私とユーリは飲まされた側だからまだマシだけど…この2人はもっと酷いでしょうね……」
「そうですね……最悪の場合を予測しておいた方がいいかも……」
「はぁ……別の意味で頭が痛いわ……」
「あはは……」
「…でも……」
?
「…こんなふうに馬鹿騒ぎするのなんていつ以来だったかしら……また機会があればやってもいいかもね……」
「…ですね」
私もなんだかんだ楽しかったなぁ……。
新しい友人が出来たみたいで素直に嬉しかったし……。
「…さて…と……私はこっちを片しちゃうわ。ユーリはあの2人を起こすかどこか邪魔にならないところに移動させるかしてもらえる…?」
「あっはい。分かりました」
「…ありがと。私じゃ力不足だから、冒険者のあなたにしか頼めないのよ…」
「大丈夫ですよ。余裕です」
「…頼もしいわ…」
さ、そういうことならっと……。
「イラムスさん。イラムスさん。朝ですよ〜」
「ん〜……あと5分……」
「それ絶対起きないやつじゃないですか。ほら、ワフカさんも」
「う〜ん……今日はお休みだから大丈夫よ〜……」
「ここイラムスさんのお家ですよ」
「そういえばそうでした〜……」
よし。ワフカさんはこれで大丈夫そう。
イラムスさんは……おや?イラムスさんの様子が……?
なんだか顔が青ざめていっているような……
「……気持ち悪い……」
あっやばい。
「イラムスさん。急いでおトイレへ。ここでやっちゃダメですよ?自分家が大惨事ですよ?」
そして一緒にいる私たちも大惨事ですよ。
「わ、わかっ……あっ…ダメそう……」
「はいちょっと失礼します!」
「おっふ……」
危険なイラムスさんを瞬時に抱きかかえてトイレへ連行。
そしてトイレの蓋を開けてイラムスさんを部屋に入れた状態で扉を閉じる。
程なくして、中から吐き出す音が聞こえてきた。
…あ…危なかった……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「迷惑をかけたわね……」
「いえ…大事にならなくてよかったです……」
まだ調子の悪そうなイラムスさんが戻ってきたときには、私たちは部屋の片付けを終わらせていた。
ワフカさんはある程度終わった段階で、お店…花屋さんの方へと帰ってしまった。
…まぁ…お手洗いはイラムスさんが占拠してたしね……。
「…さてと…それじゃあ私もそろそろお暇させてもらうわ…」
「あ…えぇ…クオロンも悪いわね……」
「…気にしないで…でも今度はカフェにでも集まりましょ。それじゃあね…」
「えぇ…またね……」
そうしてクオロンさんも帰っていき、イラムスさんがある程度回復したところでお仕事の話に入った。
「さて、ユーリ。今回の依頼はアイツの浮気調査だったわよね?」
「はい」
「まさか浮気どころか盗みまでするとは思わなかったけど、あなたのおかげで全部丸く収まったし、新しい友人も出来たわ。ありがとう」
「いえ、私もこうなるとは思いませんでしたし、たまたまですよ」
「ふふ…そのたまたまも、あなたがいたからこそよ」
「あぅ…あ、ありがとうございます……///」
やっぱり面と向かって言われると照れちゃうな……。
「くすっ…依頼の報酬は私の部屋に用意してあるわ。取りに行くからちょっと待ってて」
「あっ…はい」
そう言って席を立つイラムスさん。
少しして、彼女は小さな革袋を持って帰ってきた。
「はい、これが報酬よ。確認してみて」
「分かりました」
そうして確認作業を進めると、報酬金額が多いことに気がついた。
「あの…予定の報酬額よりも多いのですが……」
「盗みの現行犯取り押さえ分も入ってるからね。それに掃除とか身の回りのこともやってくれちゃってるし……あぁ、クオロンとワフカにもキチンとお礼するし、追加分のこともちゃんとギルドに言っとくから、遠慮なくもらっちゃって」
「……そういうことなら……ありがたくいただきます」
多分なんだかんだ言って結局もらうことになりそうだから、早めに折れとこう。
「それとこっちは依頼を達成したっていう証明書よ」
「ありがとうございます」
「それと…これは個人的な話なんだけど……」
「?」
「…またこうしてお茶しに来てくれる?」
「!はい、もちろんです!」
「そう!よかったわ!」
ふふふ♪
新しいお友だち…友人の方がいいかな?意味同じだけど。
とにかく、友人と会ってお茶をするなんてお願い、断らないよ〜♪
「ふふふ♪っと…そろそろ行く?」
「そうですね…依頼達成の報告もしなくちゃですし、ウチにいるみんなにも会いたいですから」
「そう。それじゃあ見送るわ。玄関までだけどね」
「ありがとうございます」
そうしてイラムスさんに玄関で見送ってもらい、私は隠密ギルドへ報告に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
隠密ギルドに着いた私は、依頼を受けるときに担当してくれたスタッフを見つけたのでその人のところに行く。
そして、イラムスさんにもらった証明書を見せながら事の顛末を報告した。
「…なるほど。お疲れ様です。そしておめでとうございますユーリさん。初依頼、見事完遂ですね」
「ありがとうございます」
「それにしても…調査依頼なのでそこそこ日数をかけると思っていたのですが、まさかその日のうちに済ませてしまうとは……」
「あはは…私も予想外でした……」
まさか初日で証拠がたんまり手に入るどころか、そのまま解決まで出来ちゃうなんて……。
しかもそのあと、イラムスさんたちはケンカするどころか友だちになっちゃうし……。
あぁいうのってもっと拗れたりしそうだけど……。
実際父親のところは結構ギスギスしてたし……。
「私の子が正統な後継ぎよ!」とかなんとか……まぁ私にはもうどうでもいいことだけど。
「それでユーリさん」
「はい、なんですか?」
「何故自ら取り押さえたのですか?」
「えっ?」
なんか…笑顔がちょっと怖いんだけど……?
「証拠を揃えた段階で依頼主に報告して、依頼自体はそれで完了。その後の手配はその方々や他の方が、なんなら私たちが手配することも可能だったんですよ?バレないように」
「えっ…えっと……?」
「それなのにわざわざ自分の手で取り押さえ、その上依頼主の元に関係者とはいえ連れて行くだなんて……隠密ギルドだと言わなければ良いと言うわけではないのですよ?」
「…あっ……」
た、確かに……!
最初は通りすがりを装ったのに、思いっきり誰かの頼みみたいな感じになっちゃってた……!
「…はぁ……今回は関係者の皆様にしか知られなかったこと、さらにそんなボロボロの男性を女性3人で囲んで移動したのに、幸運にも、誰にも見られずに済みましたし、今回は厳重注意で済ませます」
「はい……」
「…本来ならもっと重い処罰ですからね?」
「は、はい……ありがとうございます……」
やっちゃった……。
うぅぅ……初仕事がぁ……!
「ふぅ……それではユーリさん。今後はこのようなことの無いように注意してくださいね?」
「はい……」
「それと、結局は経験がものを言うので、せめて週に一度ぐらいは顔を出してくださいね?」
「は、はい…わかりました……」
うん……絶対に忘れないようにしないと……。
「…ふふ……あぁそうそう。昨日はお仕事のお話をしてそのままだったので言いそびれてしまいましたが……」
「…?なんでしょう……?」
「お嬢…こほん。マーガレットさんの試合勝利…おめでとうございます。隠密ギルド一同、心からお祝いさせていただいておりますと、マーガレットさんにお伝えしてくださいますか?」
!
「…はい、わかりました!」
「ふふふ♪では、ユーリさん。またのお越しをお待ちしております」
「はい、ありがとうございました!」
そうして私は隠密ギルドを出て、寮へと帰る道を進む。
…むふふ♪
マーガレット…コウスケかな?
戦ったのはコウスケだけど、マーガレットも頑張ったし「2人とも」でいっか♪
2人とも頑張ってるのを知ってるから、あんな風にお祝いされてるのってなんだか嬉しくなっちゃうね♪
あ〜、早く2人に教えないと♪
今日は確かお休みだったはずだし〜♪
あ、でも…試合も終わったことだし、他の子たちと遊びに行ってるかな?
どうしよう……いるとすれば白兎亭か教会か……
くるるる……
……もう太陽が高いところに……。
そっか、もうこんな時間か。
うん、帰ろっと。
さすがに探すのは大変だし、ただ「おめでとうって言ってた」って伝えるだけだから、遊んでるところを邪魔しちゃ悪いよね。
このまま寮に戻ろう。
それにしても……はぁ……。
最初の仕事だったのになぁ……。
結果的にはワフカさんとクオロンさんっていう友だちが出来たけど、今度からは気を付けないと……。
もし今度やったら、隠密ギルドの謎の処罰が……。
ぶるるっ。
そう考えたら寒気がしてきた。
うぅ…怖い……。
ほんとに気を付けよう……。
くるるる……。
うぅ…お腹空いた……。
早く帰ろう……。
フルールさんも待ってるはずだし……。
…………はて……?
フルールさん…フルールさん……う〜ん……?
フルールさんで何かあった気が……。
…なんだっけ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〔ダニエル〕
分かりやすく上機嫌になった狐っ娘を(隠れて)見送って、俺は狐っ娘の相手をしてた受付嬢と話す。
「最後にもう一度クギを刺しといた方がよかったですかね?」
「あぁ〜…まぁ狐っ娘なら大丈夫だろう。すぐに思い出して落ち込むだろ多分」
「…忙しい方ですね……」
「んで、お嬢に甘やかされてまた上機嫌になると」
「……本当に忙しいですね……」
そうだなぁ……。
テンションの上下が激しいよなぁ……。
見てるこっちは楽しいがな。
「しかし、まさかダニエルさん自身が監視に入るとは思いませんでした」
「お嬢よりかはマシだが、あの狐っ娘も面倒事に巻き込まれやすい体質だからなぁ。なんかやらかすんじゃないかと思ってな」
「さすがです」
「あとは単純に暇だったからだな」
「…さすがです……」
隠密ギルドは秘密のギルド……ってほどでもないが、対人関係の、あまり他人に知られたくない依頼を扱う関係上、依頼主の秘密は最優先。
そして出来るだけ顔を知られない方が仕事がしやすいために、構成員にも隠密ギルドに入ってるということがバレないように…という空気が出来ている。
だが、新人の内は他のギルドとの違いや、単純に経験不足などでポカをやらかすことが多い。
そのため、依頼は緊急性が無く、バレてもまぁ大丈夫だろうと判断したものしか斡旋しないし、初仕事には上位ランクの構成員が監視に着くのだ。
それで仕事ぶりを見て、必要なら隠れて手助けもする。
そしてやばそうなら報告して処罰を下す。
酷いときは1発アウトで、教育をすることもある。
今回のもなかなかグレーゾーン…むしろアウトと言ってもいいぐらいなのだが……。
「…結果がなぁ……」
「えぇ……浮気調査の依頼で、現場を押さえて本人同士の話し合いまで済ませて一気に解決するなんて……」
そう。
途中でやらかしているが、仕事の結果で言えば大成功なのだ。
それに狐っ娘はあの男を依頼主の家に連れて行くとき、人の気配を避けて道を選んでいた。
まぁそれで余計に隠密感が出てたんだが、現場からそこそこの距離がある依頼主の家まで、誰にも会わずに済ませられる能力はかなり評価が高い。
そもそも狐っ娘は基礎スペックが高い。
本気で鍛えればココに匹敵するかもしれん。
だからあの狐っ娘の監視に着けるような人材は限られる。
今回は俺が当たったが、場合によっちゃあ次回以降も俺が監視に当たるかもしれない。
そのぐらいの腕前なのだ。
「…あのうっかりが無ければな……」
「う〜ん…なんでしょう……こう言うのはあれですけど、無くならない気がします……」
「……うん…まぁ……俺もそう思う……」
そこだけはなぁ……。
…まぁ…うっかり者ではあるが、最終的に幸運を掴むタイプな気もするから、あまり大きい問題は……。
……うん……。
ちゃんと見ておこう……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〔ユーリ〕
それは不意に思い出した。
昨日のこと……依頼に出かける前のこと……。
☆〜〜【先日】〜〜☆
「そうだ。もしかして今日は帰ってこない感じかしら?」
「う〜ん…とりあえずは下見からなので、多分帰ることは出来ると思います。この街から出るわけじゃないですし。でもいつ帰れるかは分からないです」
「そう。分かったわ」
☆〜〜【回想終了】〜〜☆
……どうしよう……。
完全に忘れてた……。
もう寮の玄関に入っちゃってるから、多分誰かが帰って来たことには気づいてるだろうし、今から何か美味しい物とかをお土産に買ってくるわけにもいかないし……。
い、いや…まだ大丈夫……。
仕事だって言ってるわけだし、いつ帰れるかはわからないって言ってるんだし、怒られるなんてことはそんな……
「ユーリ?」
「ひゃいっ!?」
思い出して嫌な汗が出てきた私に、そのフルールさんがリビングの扉を開けて声をかけてきた。
「どうしたの?」
「い、いえ…なんでも……」
「そう?ほら、とりあえず中に入りなさいな」
「は、はい……」
……よし……。
とりあえずは大丈夫そう……。
「まさか朝帰りなんてねぇ……仕事は進んだの?」
「あっはい。思いの外あっさり終わっちゃって……」
「そうなの?凄いじゃない」
「えへへ…」
「でも、こんな時間に帰ってきちゃうなんて、無理して早く終わらせたとかじゃないでしょうね?」
「あっそれは大丈夫です。バッチリ依頼は完了しましたから」
ミスしたけど。
「そう?それならよかったわ。お疲れ様、ユーリ」
「えへへ…ありがとうございます♪」
ふぅ…怒られるどころか褒められた……。
よかった〜……
「それでユーリ」
「はい、なんですか?」
「どうしてあなたからお酒の匂いがするのかしら?」
「…………えっ?」
お、お酒の匂い……?
…あっ!し、しまった!?
「ねぇユーリ……あなた本当にこんな時間まで「仕事」だったの?」
「え、えっと…それは……」
フルールさんがジトッとした目を向けてくる。
それに私はまた嫌な汗が出てきてしまう。
え〜っと…え〜っと……って、そうだ!
私は別に仕事してたって言ったわけじゃないし、今ならまだ嘘にはならない!
だから真実を言っちゃおう!
「そ、それはですね……依頼は実は昨日のうちに終わったんですけど、その依頼人の方と依頼で知り合った方々と一緒にそのままちょっとした宴会をしまして……」
「ふ〜ん?」
「そ、そういうことなので、「朝までお仕事だった」というのはちょっと違います…はい……」
「…なるほどね?」
ど、どうかな……?
大丈夫かな……?
「ふぅ…ま、そういうことなら仕方ないわね。依頼人の人たちも、あなたにお礼のつもりで開いたんでしょうし」
いえ、あれはほぼほぼ自分たちのためな気がします。
言わないけど。
「いいわ。元からいつ帰れるかわからないって話だしね」
「!」
許された……?
「それで?お昼ご飯は食べたの?」
「あっ…ま、まだです!」
「そう。それじゃあ簡単なものでいいなら作るわよ」
「やった〜!ありがとうございます!」
ちょっとヒヤッとしたけど、フルールさんのご飯が食べられる〜!
「あぁそうだユーリ」
「ふぇ…は、はい?」
な、何かあったかな?
「おかえり」
「あっ……はい。ただいまです♪」
そうして私はフルールさんのご飯を美味しく食べました♪
「と、そうだ。メリーちゃんはどこですか?」
「マーガレットと外に行ったわ。あの子たちと遊ぶ約束をしたんですって。おかわりいる?」
「あっ欲しいです!」
おかわりも美味しくいただきました♪
ごちそうさまでした♪
ユーリさん、初めてのお仕事編、無事に(?)終了。
いやぁ…隠密って大変だなぁ……。
さてさて、次回からは再びコウスケ視点。
甘やかしワールドがまた始まるわけですね。
頑張れコウスケ。
そんな次回の更新は10/16(土)の予定です。
ではでは〜。




