207.商業ギルドでお昼ご飯…食レポ初体験
モデルの仕事、午前の部がつつがなく終わり、お楽しみの試食会の時間になった。
ついにドーナッツとご対面出来ると、俺もマグも気分が否応なく高まる。
さらにさらに、もう一つ新作料理のお披露目があると聞けば、テンションが最高潮になるのもやむなしというものだ。
(んふふ〜♪楽しみですね、コウスケさん!)
(うん!ドーナッツなんて久しぶりだし、新作料理も楽しみだなぁ〜♪)
思わずスキップするほど足取りが軽い俺。
そんな俺は現在キツネ耳とキツネ尻尾のアクセサリーを身に着けている。
服はさすがに汚すわけにはいかないのでギルドの制服に着替えているが、それならこのキツネシリーズも外した方がいいのでは?
そう尋ねたのだが、ローズさん曰く…
「それはマーガレットちゃんにあげるから好きにしていいわよん♡」
だそうだ。
いや、ちょっと待ってくれと。
このアクセサリーたちはローズさんが新しい商品のサンプルとして持ってきたのでは無いのかと。
しかしローズさんは型紙はあるから問題無いと言い張り、ミュイファさんも俺が着けていた方が宣伝になるからと言ってそれを許した。
責任者たちがそう言うなら俺から言えることはもう何も無い。
なのでせめて期待に応えて宣伝を…というわけではなく、普通にキツネマグが可愛すぎて外す気が無かっただけである。
ちなみに転写士たちからも大好評で、ケモ耳マグの転写絵だけで一冊作れそうと言う人もいた。
こちらとしてはぜひ作っていただきたい。
家宝にすっから。
そんなこんなでコーディネートのお姉さんがたと共に、さっきまでいた転写部屋に向かう。
食べてる姿を写して載せるためだからだ。
めちゃんこ楽しみだが、これも仕事の一環なのだ。
「ぬっ!この香りは……!」
と、そこでローズさんが何やら呟いたと思ったら突然走り始めた。
どうしたん…
「フゥァルキちゅぁぁぁぁぁん!!」
「うわぁぁぁローズさんんんっ!!!?」
オッケー理解した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぐったりしたハルキが部屋の隅の椅子に座る中、俺はさっきまでポーズを取っていた場所に設置された机と椅子のセットに向かい、そして座った。
「さてと、それではそれでは〜?早速試食会を始めたいと思いま〜す♪」
パチパチパチパチ!
ミュイファさんの言葉に俺たちは拍手を送る。
「盛大な拍手、ありがとうございます!今回の流れとしては、まずマーガレットちゃんに食べてもらい、転写士の方々にはその様子を転写してもらい記事に使う。全ての料理が終わり次第、皆さまにも振る舞う…といった流れとなっております」
ふむふむ……良く言えば1番最初に食べた人、悪く言えば毒見役ということか。
まぁ期待値は高いからそんなヤバそうなモノを出されるとは思ってないから別にいいけど。
むしろ真っ先に食べられるとか超ラッキー。
「では早速、ヘイ!カモン!料理!」
それはそうと未だにミュイファさんのキャラが分からない。
仕事はしっかりするけど、ふざけるときは全力でふざけるタイプ…なのはいいとして、そのふざけるときのタイプが分からん……。
最初はオールドスタイルのギャルって感じだったけど、さっき執務室で話したときはお茶目なお姉さんぐらいに感じた。
そして今はまたおちゃらけた感じで司会進行……う〜ん…掴めない人だ……。
そんなこんな考えてるうちに、シェフっぽい恰好をした人が俺の目の前にテレビで見るような銀の丸蓋がされたお皿が置いた。
「さぁ!マーガレットちゃん!開けちゃってちょーだい!」
「はい!」
(ワクワク♪ワクワク♪)
ワクワクしてるマグにトゥンク…♡しながら蓋を開けると…
「な、なんとぉ…!こ、これはぁ…!」
(おぉぉぉ!美味しそ〜♪)
「はい!本日の新作料理1つ目!その名は…《からあげ》です!」
そう、からあげ…からあげである!
とても良い色で揚げられたそれが、今目の前の皿にゴロゴロ乗っている!
う、美味そう……ごくり……!
「いいね〜マーガレットちゃん♪顔がもの凄く輝いてるよ〜♪」
ミュイファさんのそんな言葉が聞こえるが、俺は取り繕わない。
そんなことより早く食べたい!
(コ、コウスケさん……!これ、そんなに美味しいんですか……?)
俺のただならぬ様子に、マグが期待した声音で尋ねてくる。
(美味いよ……凄く美味い……!)
(そ、そうなんですか……!?ごくり……!)
お肉大好きなマグなら絶対気にいるはずだ……!
それにここでからあげの魅力を伝え、それを聞いたお店がからあげを出してくれれば……!
お店ごとに同じ料理でも味が違うのはよくあること……。
それがからあげならなおさら……!
前の世界だってグランプリが開催されるほど多くの店がからあげを扱っていた……!
もしも同じようにこっちの世界でからあげブームが起きて、そのお店ごとに独自のからあげが出来たらば…そのときはマグとからあげ食べ比べと言う名の食い道楽デート……。
マグとイチャつけて美味しいからあげも食べられる……!
いいな…凄くいい……!
「ふふふ♪待ちきれないって顔だね〜♪でも待ってね〜。からあげとマーガレットちゃんって絵を取らなきゃだから♪」
「(そんなぁっ!?)」
出来立て熱々の香ばしい香りを目の前にして、そんなのって無いよぉぉ!!
(早く食べたいぃぃ!)
(うぅ…!美味しそうだよぉ……!どんな味か気になるよぅ……!)
(マグにも早く食べて欲しいよぉ…!)
(うぅぅ…!コウスケさぁん……!私…我慢出来ませんよぉ…!)
(俺もだよマグぅ…!)
((早く食べさせてぇ!))
「マ、マーガレットちゃん……!出来るだけ早く描くよう頑張るっスから、そんなに睨まないでほしいっス……!」
おっとうっかりピコットさんたち転写士さんを睨んでいたようだ。
やーうっかりうっかり☆
まぁそれはそれとして、ホントなる早でお願いしますね?
「おぉう……!マーガレットちゃんの笑顔がなんだか怖いっス……!」
「言外に「早く済ませろ」と言ってるよな…あれ……」
「「「うんうん…」」」
ピコットさんとさっきの転写中、しきりに俺のことを褒めてくれたプロカメラマンのような男性の言葉に、他の転写士の方々が頷いた。
分かってるなら口より手を動かしてくださいな☆
そうして待つこと数分。
転写士全員が描き終えたところでミュイファさんを見やる。
「うん、お待たせマーガレットちゃん。もう食べていいよ」
「(いっただっきまーす!)」
「早いな〜」
もう我慢出来ませんからね!
早速フォークで目の前の山から1つ取得。それを口に運ぶ。
カリッ!じゅわぁ…
「んふ~♪」
カリカリの衣とジューシーなお肉……はぁぁ…今俺は唐揚げを食べている……♪
味付けは醤油かな?濃すぎず薄すぎず…肉のうま味を引き立てるような絶妙な味……!
久しぶりに食べるという思いで補正を抜きにしてもこれは……!
ごく…
「んま~いっ!」
『しゃあっ!』
俺の声に、部屋の隅で固唾を飲んで見守っていたシェフっぽい人たちが喜びの声を上げガッツポーズをした。
美味い!凄い美味い!ナイスワーク、シェフっぽい人たち!
フォークに刺さった残りの部分も口に入れて再び味わう。
あぁ…美味いよぉ……。
(コウスケさんコウスケさん!私も!私も早く食べたいです!)
(おう食え食え!絶対気に入るから!)
(やったー!)
マグと交代…するや否や、マグもからあげに速攻でフォークを突き刺し、ガブリとひと口。
「んぅ!ん~♪美味しい~!」
『いやっほぉー!!』
シェフっぽい人たち大歓喜。
マグも案の定気に入ったみたいだし、あとはからあげブームが起これば……むふふ……♪
「はい!では転写士の皆さまは…って言うまでもなく皆さんすごい速さです!」
「物凄く幸せそうに食べてるものねぇ。あ〜、やっぱりマーガレットちゃん…逸材だわぁ♡」
ミュイファさんとローズさんが言うように、ピコットさんたちは凄い勢いで絵を描き始めている。
やはり美味しいものを食べて幸せな笑顔を見せるマグの姿は最高に可愛いということだな。
とかなんとか惚気ながらマグと交代しつつからあげを堪能していると、どうやら全員描き終わったようだ。
ミュイファさんもそれに気付いたようだ。
「皆さま描き終えたようですね!ではでは♪マーガレットちゃんに大好評なこのからあげ。ぜひ皆さんもご賞味くださ~い♪」
『やったぁぁ!!』
そうしてからあげ試食会が本格的に始まった。
醤油味以外にも塩やタレ付けなど様々な味のものや、作り方や材料の対比を変えてみたものなどが出され、からあげだけとはいえ飽きるということは無く、みんな大満足。シェフっぽい人たちはまた大歓喜。
そんな中、マグと交代しながら食べ比べをして、現在マグの順番のため心世界にいる俺に不満が生まれつつあった。
米…食いてぇなぁ……と……。
米とからあげを交互に食べて、合間合間に何かの漬け物的なやつを食う……!
野菜は苦手だけど、好きだった弁当屋のからあげ弁当に付いてたやつはひょいぱくひょいぱくイケたんだよなぁ……。
あの値段であのボリュームのからあげと底上げしてない弁当箱……。
いかん……思い出したら食べたくなってきたぁぁ……!
モーリッツさん(の商隊の方)……早く米を持って帰ってきてくれぇ……!
「んふ~♪これも美味しい~♪こっちの皮がザクザクしてるのも美味しい~♪でもこっちの薄皮のやつも好き~♪」
米が欲しい俺とは対照的に、マグはからあげをもっきゅもっきゅ食べまくり、全種類コンプリートを達成してご満悦。
2週目を幸せそうにもきゅっている。
そんなマグの様子に俺は「まぁいいか~♪」と刹那の手のひら返し。
だって満足げなマグが可愛いんだもの!
それに比べたら米が無いとか些細な事よ!
「ふふふ♪満足してくれたみたいだね?」
そこにミュイファさんが話しかけてきた。
「はい!すごく美味しかったです!」
「そっかそっか♪それはよかった♪」
マグが答えると、ミュイファさんは嬉しそうに頷く。
「でもこの後にもまだ新作料理はあるんだよ?そんなに食べて大丈夫?」
「大丈夫です!確かにちょっと満腹な気もしますけど、まだ食べられます!」
「それは大丈夫なの?」
大丈夫じゃない気がする。
他の人はそこそこで抑えてたけど、マグはコンプリートした上に俺も食べるからそれだけで単純に倍。
さらに気に入ったものをいくつか食べたからさらにいってる。
「平気です!次の食べ物はお菓子なんですよね?」
「そうだよ」
「だったら大丈夫ですよ!甘いものは別腹ですから!」
「そっかぁ」
いやぁ…厳しいと思うなぁ……。
ドーナッツって結構お腹膨れるぜぇ……?
それにこっちも揚げ物だから、もしかしたら運動量を増やさないといけなくなるかも……。
……まぁ…こっそり頑張ろう……。
「と、そうだマーガレットちゃん。皆さんも。試食会ということで、この紙にそれぞれのからあげの項目があるので、そこに感想を書いていただけますか?その意見を参考にさせていただきますので」
ん…そりゃそうだ。
感想をちゃんと伝えないと改良も改善も出来ないからな。
(さて、マグはどれが1番好きだった?)
(そうですねぇ……全部とても美味しかったですけど、私はザクザクの皮のやつが好きですね。ちょっとトゲトゲしくて口の中が痛くなることがあったのはアレですけど……)
(あ〜…まぁそれはね……)
(コウスケさんはどれが1番ですか?)
(俺はパリパリかな。あれが1番食べやすくて好き)
(あ〜、いいですねぇ。中身は全部ジュワァ〜…ってしてましたから、そこはこのままでいいですね)
(うん、めっちゃジューシーで美味かった。そうだ。味は何が良かった?)
(そうですねぇ…う〜ん……これかなぁ?)
(おっ、しょうゆ味)
(しょうゆ…って、この間コウスケさんが食べていた「らぁめん」と同じ味付けってことですか?)
(そうそう)
細かい違いはあるだろうけど、とりあえず「しょうゆ風味」なのでそういうことで。
(これ美味しかったですね!私はこれ、かなり好きですよ!)
(おっ、いいね。俺と同じだ)
(コウスケさんもですか?)
(うん)
(…えへ〜♪)
(ふふ〜♪)
マグとイチャつきながら感想を書き終え、それを近くのスタッフに渡す。
全員が終えたのを確認したミュイファさんが再び声を上げた。
「それではそれでは!もう一つの新作をお持ちしますので、しばしお待ちを~!」
そう言うと、シェフっぽい人たちと一緒に去っていくミュイファさん。
(もう一つの新作……ドーナッツですよね?楽しみだなぁ〜♪)
(ふふふ…きっと気にいるよ?)
さてさて…何が出るかな〜?
ノーマルな浮き輪型?穴の無い円盤型?
プチシリーズとかサーターアンダギーみたいなボール型?
何が来ても俺は好きだぞ。
そしてマグも気にいると思う。
そしてお待ちかね、レストランとかでも見たことのある、3段型手押し車に載せられた銀のあの蓋の登場です!
あの中にドーナッツが……ごくり……!
「ふふふ♪その待ちきれない表情……ほんと最高だよ〜♪はい、それじゃあご開帳〜♪」
「(わぁぁぁ!)」
蓋を開け現れたのはお望みのドーナッツ。
その形はお馴染みの浮き輪型だ。
それが3つ重なって並べられている。
「マーガレットちゃんから見て右側が砂糖マシマシ。そこから段々と砂糖の量が減らしていってるんだ。どれぐらいの甘さがいいか教えてね♪」
「(はい!)」
からあげと同じく、それぞれ分量が違うのだな。
さてさて…
(どうする?)
(食べる順番ですか?)
(そうそう)
(甘いほうが好きなので、控えめなものからお願いしていいですか?)
(了解)
というわけで左端の砂糖控えめを手に取る…
「あっまたちょっと待っててね☆」
「(むぅぅ〜!!)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はい、じゃあマーガレットちゃん。もう食べていい…」
「では、いただきま〜す!」
(ま〜す!)
「ほんと早いなw」
再びピコットさんたち転写士の方々に圧をかけつつ、ようやく終わってミュイファさんの許可が出た…瞬間にパクッとひと口。
ん…なるほど…控えめ……。
でも…
「美味しい」
『ぃよっしっ!』
うん、美味しい。
これなら朝食に出してもいいぐらい。
というかたまには出して欲しい。
(やっぱりコウスケさん的にはもうちょっと甘い方がいい感じですか?)
(ん…そうだね…美味しいんだけど、お菓子というよりは朝食とかに出てきそうな感じかな。というかよく分かったね?)
(コウスケさんのことですから♪)
(んッ!そ、そう……)
(はい♪)
……ほんとこの子は恥ずかしげもなく言うなぁ……。
(こほん。ま、まぁマグも食べてみ?)
(くすくす♪は〜い♪)
楽しげなマグと交代、マグもパクッとドーナッツを頬張る。
「うん!美味しっ♪」
『フゥ〜ッ!』
今さらだけど、あの人ら俺らで2回ずつ感想漏らしてて、しかもそれの言い方とか雰囲気が違うのに気にしないのかな?
そこ突かれたらどう言い訳しよっかな?
まぁ適当でいいか。
それより考えることに気付いたから。
これも今さらではあるんだけど、今みたいに俺が食べたあとにマグが食べるとかその逆とかやってたけど……。
これは…間接キスになるんだろうか?
まぁなりそうに無いんだけどさ。体同じだし。
でもなんか…気持ち的には間接キスしてる気分なんだよね……今気付いたんだけど。
マグに言ってみようか……いや、「同じ体ですよ?」って正論返されたら凹むからやめとこ。
とかなんとかアホなこと考える俺に、食べ終わったマグがテンション高めに話しかけてきた。
(コウスケさんコウスケさん!次このまま真ん中の食べていいですか?)
(おっ、いいよ〜)
(やった♪)
気に入ったねぇ〜♪
その後、同じように他2つも食べて俺たちが満足したところで、他の人にも3種のドーナッツがそれぞれ別の大皿にまとめられて運ばれてきた。
「んまっ!」
「ほんのりした甘さがいいわぁ〜!」
みんなも絶賛してるな。
うんうん♪これなら間違いなく商品化されるだろう。
(美味しかったですね〜♪)
(だね〜♪)
(コウスケさんはどれが1番好きでしたか?)
(そうだなぁ……おやつとしてなら1番甘いの、朝ご飯とかなら控えめなのかな〜)
(あっ私もですよ〜♪でも真ん中のが一番飽きなかったかなぁ……)
(あ〜なるほど。甘いのもいいけど、そこまで数はいらない感じ?)
(はい。控えめなものもパン代わりとかにはいいかもですけど、1番パクパクいっちゃいそうなのは真ん中ですね)
(同感。あれが1番ちょうどいいんだよね)
(ですです。他2つはたまにでいいかなぁ……もちろん、真ん中のもずっとだったら飽きちゃいますけど)
(まぁそれはしょうがない。そういうものだもの)
「マーガレットちゃん、またこれに書いてくれる?」
「(は〜い)」
ちょうどいいところでミュイファさんが紙を渡してくれたので、俺たちはさっきの内容を紙に書いて渡した。
「はい!というわけでこれにて試食会は終了です!皆々様ありがとーございました!このままお食べいただいても結構ですし、家族以外に見せないという条件であればこちらにまだまだございますので、持ち帰っていただいても構いません!あっもちろん、この後お仕事がある方はまだ残っていてくださいね?ちゃんとお土産用に取っときますからご安心を!ではでは、これにて解散!さようなら!」
全員から回収したのち、ミュイファさんがそう締めくくった。
そうして最寄りのスタッフにお土産予約をする他の参加者たち。
(コウスケさん。私たちもみんなへのお土産にもらいましょ!)
(そうだね!)
「(すみませ〜ん!私もお土産いいですか〜?)」
「はーい、ただいまー!」
みんな喜んでくれるかな〜?
美味しいからあげ食べたい……。
ミ◯ドのドーナッツ食べたい……。
はい、次回の更新は10/1(金)の予定です。
お楽しみに!




