192.暴走…荒れる観客席と打開策
〔モニカ〕
ダニエル「まずいな…完全に暴走している……どうするお嬢……?」
明らかに様子がおかしくなったルークくんを見てダニエルさんが呟いた内容に、私は血の気が引くのを感じた。
暴走……?
暴走って…魔力の……?
だって魔力の暴走は危なくて…下手したら死んじゃうし……何より……
モニカ「…マーガレットちゃん……殺されちゃうの……?」
みんな『っ!?』
つい口に出してしまった言葉に、みんなが私のことをすごい勢いで見た。
チェルシー「そ、そんなことないもん!マギーちゃんが負けるなんて……!」
ショコラ「やだぁ…!マグぅ……!死なないでぇ…!」
サフィール「お、落ち着いてショコラさん……!って、パメラさん…!?飛んでっちゃダメですよ…!」
パメラ「だって…だってぇ……!」
シエル「だ、大丈夫よ……!だって…だってマーガレットだもん……!」
メリー「………マグぅ……!」
リオ「…大丈夫だ。マーガレットは強いからな……」
私たちの中で唯一落ち着いてるリオちゃんのおかげで、私もどうにか冷静になってくる。
しかし…
ディッグ「っ!危ない!」
みんな『っ!?』
急にディッグさんが大声を上げたと思ったら…今の今までマーガレットちゃんから離れていたはずのルークくんが、マーガレットちゃんのそばにいた。
子ども組『…………えっ……?』
そう口にしたときには、マーガレットちゃんは吹き飛んでいた。
残ったのは盾を振り切った態勢のルークくん。
マーガレットちゃんはどうにか受け身を取って倒れ込まずに済んだみたいだ。
しかし、マーガレットちゃんが持っていた杖が、真ん中でへし折られて壊れていた。
その姿に私たちは何も言わない。
何も言うことができない。
ダイン「今のをよく防げたな…マーガレット嬢ちゃん……」
ダニエル「ほぼ反射的に動いてたみたいだがな……つか、ダイン。いたのか」
ダイン「こんな時でも!?」
グリム「咄嗟に盾も回してたね」
ジル「それでも杖が折れるほどのダメージか……あれは最悪折れちまったかもしれないな」
グリム「マーガレットくんは回復魔法も使えるんだってね?……問題はそれを見逃してくれるかどうかだね」
ギルドマスターさんたちが後ろでいろいろと話してるけど、それを聞く余裕もない。
いや…嫌な部分だけは聞こえた……。
折れてる……?
マーガレットの腕が……?
確かにマーガレットちゃんは右腕を押さえてルークくんと睨み合っている……。
じゃあ…あの腕はもう……?
リオ「っ…バカ!パメラ!」
パメラ「やだぁ!マグぅ!マグぅっ!」
リオ「ダメだパメラ!大体お前が行ってもどうしようもないだろうが!」
パメラ「飛ぶもん!マグを抱っこして飛べばいいもん!」
リオ「ダメだっての!ショコラ!お前も止めてくれ!」
ショコラ「マグぅ……マグぅ……!」
サフィール「ダメですリオさん!ショコラさんも限界みたい……あっ!?メリーさん!?」
リオ「っ!」
メリー「うにゅっ!…離してリオ…!」
リオ「ダメだ!つかお前も羽あったのかよ!?」
チェルシー「……はっ!?そ、そうだ!羽あったんだ!今行くよマギーちゃ…ぐえっ!」
ハルキ「今必死にみんなを止めてるリオちゃんの隣で何しようとしてんのさ……ララ、パメラちゃんを止めてあげて」
ララ「はい!」
フルール「リオ。メリーは私が抑えとくわ」
リオ「ありがとうございますハルキさん…ララさん…フルールさん……」
ハルキ・ララ・フルール「「「こちらこそ」」」
私の周りでみんなが大変なことになってるみたいだけど、私はそれにも気付かずにひたすらマーガレットちゃんを見ていた。
マーガレットちゃんが死んじゃう……?
やだ……やだぁ……!
モニカ「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」
ユーリ「モニカちゃん!モニカちゃんっ!」
モニカ「っ!?…ユ、ユーリさん……?」
息苦しくなってきた私の顔を、いつの間にか前に来ていたユーリさんが心配そうに覗き込んでいた。
ユーリ「モニカちゃん大丈夫!?すごい息上がってたよ!?」
モニカ「えっ…?」
そんなに……?
通りで息苦しいと思った……。
ユーリさんのおかげで落ち着いた私が周りを見ると、ハルキさんに抱きかかえられてるチェルシーちゃんや、サフィールちゃんとメイカさんに宥められているショコラちゃん……。
ララさんに羽交い締めにされながらも必死にマーガレットちゃんの名前を呼びながら暴れるパメラちゃん……。
ものすごくぐったりしてるリオちゃん…そして暴れるメリーちゃんと全く動かないシエルちゃんを抱きかかえるフルールさん……
モニカ「って、シエルちゃんっ!?」
フルール「大丈夫よ…!マーガレットが吹き飛ばされたのを見て気を失っただけ……こら…メリー…!落ち着きなさい…!」
メリー「…やぁぁ…!行くのぉ…!」
フルールさんが教えてくれたけど……そのフルールさんは暴れるメリーちゃんを抑えるので精一杯の様子。
というかメリーちゃん……羽のある種族だったんだ……。
可愛い羽だなぁ……。
…いや、見惚れてる場合じゃない…。
モニカ「マーガレットちゃんは……」
ユーリ「吹き飛ばされてからずっと睨み合ってるよ。…下手に動けないんだろうね……」
モニカ「ルークくんも…ですか……?」
あんなに速かったのに……?
ユーリ「多分…咄嗟にガード出来たのがよかったんだと思う。さっきまでマーガレットは魔法をいろんな使い方してたから、待ち伏せを仕掛けられたかもって本能が思ったんじゃないかな?」
そっか……なら、とりあえずは安心…かな……?
しかしそう安心した私に、ユーリさんは容赦なく現実を突き付けてきた。
ユーリ「でもそろそろ動き出すと思う。そして、このまま何もしないでいたら、マーガレットは間違いなく負ける」
モニカ「…っ!」
そうだよね……ルークくんのあの動き…まったく見えなかったし、武器も壊されちゃったし……。
むしろ最初のあれを防げたのが奇跡みたいだよ……。
ユーリ「…でも…大丈夫…だよね……?マーガレットには……」
モニカ「…?」
ユーリさんの言葉の意味はよくわからなかったけど、ユーリさんもマーガレットちゃんのことを心配してることは伝わってくる。
ユーリ「…ん…マーガレット……?」
ユーリさんが不思議そうな声をあげた。
私もマーガレットちゃんのことを見ると、マーガレットちゃんは足を広げて腰を落とした状態からゆっくりと立ち上がった。
その様子を他の子たちも静かに見守る。
マーガレットちゃん…どうするつもりなんだろう……?
そう思って眺めていると、マーガレットちゃんは何かの魔法をゆっくり静かに唱え始めた。
マグ「《【我が身に纏え】[雷たち]よ。【鎧となり、矛となり、滅びを咲かせる力を示せ】。[纏雷]》」
ほ、滅び……?
なんだか危険そうな単語が聞こえたけど、次の瞬間にはそんなことは気にならなくなっていた。
唱え終えたマーガレットちゃんの体を雷が包み込み、その光が収まったあとのマーガレットちゃんには、可愛らしいお耳と大きな尻尾…先端が丸まってる三角形のツノが生えていた。
そして怪我をした右腕は……尻尾と同じ鮮やかな緑色に雷が、とてもゴテゴテした形で包み込んでいた。
その姿を見て思わず口が動いた私……
モニカ・ショコラ「「…かっこいい……」」
それとマーガレットちゃんの姿を見て立ち直った様子のショコラちゃんの声が重なった。
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〔コウスケ〕
《纏雷》。
身体強化魔法を雷属性で行ったもの。
だが今回は少し違う。
ルークと睨み合っているときに、追い詰められて思考が落ち着かない俺は、ふととあることを何故か急に思い出した。
雷は同じ性質の雷には当たらない。
細かくは違うのかもしれない。
だがもしも、これを上手く扱えれば……。
そう考えた俺は即座に計画を組んでいった。
ちなみにマグはまださっきの衝撃から立ち直っていない。
思考がぐるぐる回っていたときに思いついたプランの1つに、捉えられないならいっそのこと俺の周りをトラップで囲む…という力技があった。
そして今俺が使えるトラップは少ない。
その中で真っ先に頭に浮かんだものは…《D・ブルーム》。
雷の花を広げて、踏んだものにダメージを与えるトラップ魔法。
これは自分にも被害が出ることが問題だったやーつ。
壁とか盾とか作って乗る…なんて力技を思いついたもんだが、先ほど思いついたことを上手く使えれば魔力と詠唱の短縮になるかも……。
そしてそれの実行も視野に入れつつ現状を整理した。
まずこのときの強化段階は「4」。
俺が練習した強化のうちの最高ランクだ。
だがそれでもさっきの一撃をもらってしまった。
ならばまずすべきことはさらなる肉体の強化。
このまま強化段階を「5」に上げられないか試してみるのもいいが、さすがにそんなに時間は無さそうな上、「5」に上げて少し上…程度ではあまり意味が無い。
だから出来るなら節約しつつ強化を「5」相当に出来るのが望ましい。
ならばどうするか。
そこで《纏雷》だ。
確か筋肉は微弱な電気を与えるとなんやかんやあって強化される的なことがあった気がしないでもない。
そうじゃなくても、単純に強化魔法込みみたいなもんなので普通に上げるよりも効率がいいのだ。
これの発動時に、《D・ブルーム》と同じ雷を纏うことにすれば、《D・ブルーム》を踏んでも俺の肉体に直接ダメージは無い…はずだ。
もしかしたらちょっと痺れる感覚は伝わってくるかもしれないが。
だが…それでもかなり軽減出来るはずだ。
そしてそこでさらに思い出す。
《D・ブルーム》はとあるゲームの「竜災害」を再現しようとしたもの。
そして《纏雷》の元は雷の狼のあいつ……。
あいつは竜種……。
というわけでこの状態のとき、足元に《D・ブルーム》が咲くようにしました。
まさかここで繋がるとはなぁ。
そう考えて思考を視線の先にいる暴走少年に戻す。
《纏雷》は普通の身体強化よりも魔力の消費が鬼やばいので、さっさと決着をつけていきたいところ。
なので今度は俺から仕掛ける。
左手に持ち直した杖をルークに向け…ると同時にルークも動いた。
だが先ほどと違い、俺は真っ直ぐこちらに向かって突っ込んでくるルークの姿をバッチリ捉えられている。
これでようやく暴走状態のルークに対抗出来る。
さて、そうと分かればやることは単純だ。
これ以上ルークが強化を入れる前に、ボッコボコにボコして試合を終わらせる!
そう結論が付いたところで、まずは突っ込んでくるルークの対処だが……。
「《【我が前に現れよ】、[衝撃防ぐ]【魔力の壁】![マナウォール]!》」
とりあえず俺の目の前に壁生成。
そしてルークが壁を砕こうと盾をぶつけた瞬間…
「っ!?」
壁が回転して、裏側にいた俺とルークは壁を挟んですれ違い、立ち位置が逆になった。
これはまぁつまり、回転ドアにしたわけだ。
さらに俺が足を付けた位置には赤い雷で出来た花…《D・ブルーム》が咲いており、回転壁に意表を突かれたルークはそれを見事に踏み抜き、予想外のダメージに驚いて隙が出来た。
そしてその無防備な背中に向かって俺は攻撃を加える。
「《【雷の針よ】、[魔杖より現れ]【敵を撃て】![ニードルボルト]!》」
へし折れそうな杖をへし折り、杖の上半分…魔石のあるところから雷の針が連射すると、ルークの背中に刺さりまくる。
ちゃんと刺さりが甘くなるように形は調整してるので大丈夫…なはずだ。
「ぐぁぁぁ!」
もはや完全に獣な声を上げるルーク。
さて次は…と思考を巡らせようとしたとき、放心状態だったマグが戻ってきた。
(……ハッ!?コ、コウスケさん!今どうなってるんですか!?)
(《纏雷》発動して動きは五分に出来たとこ)
(っ!じゃあもう見えない攻撃は…)
(今のところは大丈夫。でもまた強化されるかもしれないから早く終わらせたい)
(なるほど……それならやっぱり気絶狙いですか?)
(それがいいんだけど……っと…)
再び突っ込んできて、今度は剣で壁を横薙ぎするルークに、マグとの会話を打ち切り対処する。
壁の半分だけを強化してルークの剣を中央で止めたあと、すかさず剣側から回り込む。
ルークは剣を戻して対処しようとするが、俺が斬られた側にも魔力を回して斬り跡を修復して固めたので、剣は簡単には抜けない。
そしてその一瞬の隙でもあれば、俺は一撃加えられる。
しかし回り込んだのは左側……しかも俺が出した壁があるのでちょっと大きく回る必要があり、素早く攻撃するには右手では難しく、左手は魔力節約のために強化していないため決定打は与えられそうに無い。
ただ単に杖による打撃になるだけだ。
それでも十分痛そうではある。
だがどうしよう。
頭突きは先端を丸めたとはいえ角が刺さりかねないのでやりにくい。
針刺しまくっといてあれだけど。
となればあとはこいつだ。
俺は姿勢低めで侵入し、ゴツイ右手を軸にブレイクダンスよろしく体を回して足…そして尻尾で攻撃する。
狙うはひざ裏。
「ぐぅっ!?」
そのまま尻尾で太ももあたりを掴みつつ壁を消し、俺はルークを一周ぶん回して空に投げる。
打ち上げ攻撃の力技版だ。
そして打ち上げられてしまえば、どんなに身体能力を強化していようがまともには動けない。
回避行動など取れるはずも無い。
ならば追撃をするのは道理というもの。
「《【奴を撃て】、[蒼き無数]の【稲妻】![ミリオンサンダー]!》」
《サンダー》の詠唱文をちょびっといじり、俺はルークを囲むように大量の雷雲を呼び出す。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
その全てが、ルークに当たり消えていく。
ところでミリオンってどういう意味だっけ?
とりあえず「大量」的な意味だとは思ってるんだけど。
そんなことを考える余裕が出てきたのはいいことだが、今は集中してさっさと倒せ、俺よ。
とかなんとかセルフツッコミを入れている間も攻撃は続き、最後の一撃が決まったのを確認して、ルークの落下予測地点にぽいんぽいんトランポリン状態の《マナウォール》を敷いておく。
見事にウォールのど真ん中に落ちたのを確認してホッと息を吐く。
と、そこでルークの体が淡い緑色に光り始めた。
(これってもしかして……)
(致命傷になったら自動発動する結界の効果……ですかね……?)
多分そうだと思うので、俺はリンゼさんを見やり確認を取る。
するとリンゼさんは頷いて、腰に着けたバッグから「マイクオーブ」を取り出して宣言した。
「ルーク様に治癒結界発動を確認しました。よってこの試合…マーガレット様の勝利です!」
『わああぁぁぁぁぁ!!』
会場全体から割れんばかりの歓声が上がる。
(勝っ…たんですよね……?)
(うん。間違いなく俺たちの勝利だよ)
(~~~っ!やっ…たぁぁぁぁ!!)
勝利を喜ぶマグの声に微笑みながら、俺は《纏雷》を解こうとして…
ドガッ!
((…………えっ……?))
ガランガラン!
ルークが持っていた盾が地面に転がる光景を見てやめた。
俺がゆっくりと振り返ると、《マナウォール》の上で左手を振り切った姿のルークが立っているのを視界に捉えた。
(試合はもう終わってるのに攻撃するなんて……!)
(…いや……どうやらやばそうだよ……)
(えっ…?)
こちらをまっすぐ見据えるルークの目は、まだ正常とは言えないものだった。
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〔ユーリ〕
喜びも束の間、ルークくんがマーガレットに投げた盾を、ダニエルさんが何かを投げて弾いた。
地面に落ちた音が響いて、歓声で埋め尽くされていた闘技場は途端にシン…と静まり返った。
…ここから投げて高速で投げられた盾に当てたの……?
すごい…さすがは隠密ギルドのマスターで、《断罪》の二つ名を持つダニエルさんだ……。
グリム「まずいね。ルークくんはまだ暴走状態のようだ」
ダニエル「さっきのお嬢の攻撃で沈まないたぁとんでもねぇタフさだな……」
暴走……しかもさっきの攻撃を耐えたとなると……。
ユーリ「…気絶を狙うのは危なそうですね……」
ディッグ「あぁ…とはいえ、もう試合は終わってるわけだし俺たちが割り込んでも問題ないはずだ。嬢ちゃんを助けに行くぞ」
メイカ「えぇ」
ケラン「はい」
ダニエル「待て。お嬢を助けるのはいいが、あの小僧はどうするつもりだ?」
助けに入ろうとするディッグさんたちを、ダニエルさんがいつになく真面目な雰囲気で止める。
ディッグ「それはまだあやふやだが……今はまず嬢ちゃんの助けに入るのが先だろう」
ダニエル「行き当たりばったりか……まぁいい。なら俺たちで小僧を止めるぞ。グリム、手伝え」
グリム「やれやれ…世話が焼けるね」
フルールさんやララさんに子どもたちのことを任せて、私たちはマーガレットの元へと向かう。
メイカ「マーガレットちゃん!」
ユーリ「マーガレット!」
ディッグ「嬢ちゃん無事か!?」
ケラン「マーガレットちゃん、殴られたところは?」
コウスケ「大丈夫です。バレないように治しました……ルークは?」
ユーリ「ダニエルさんたちが対処してくれるって。マーガレットは私たちが守るから、もう強化を解いても大丈夫だよ」
コウスケ「…対処…ですか……」
どこか気乗りしていない様子のマーガレット…コウスケ。
ユーリ「…どうしたの……?」
コウスケ「いえ……正直勝った気がしないなって……」
ユーリ「あぁ…大丈夫だよ。マーガレットが勝ったってことは、この場のみんなが分かってるから」
コウスケ「う~ん……」
まだ納得の行ってないコウスケ。
いや…もしかしたらマーガレットも納得してないのかもしれない……。
ということは……次にコウスケが取りそうな行動は……
コウスケ「…メイカさん。暴走状態を止めるのってどうするんですか?」
あぁ…やっぱり……。
ユーリ「…ルークくんを止める気なんだね?」
コウスケ「はい」
ユーリ「危ないよ」
コウスケ「それでもです」
ユーリ「それを私たちが許すと…」
ディッグ「いや…許してやれ、ユーリ嬢ちゃん」
ユーリ「っ!?ディッグさん!?」
ディッグさんからのまさかの言葉に私は驚きを隠せない。
メイカ「ディッグ…?マーガレットちゃんが危険に晒されるのよ?」
ディッグ「だがそうでもしないと納得しないだろう。…お互いにな」
チラッとルークくんの方を見るディッグさん。
…確かにそうかもしれないけど……!
ユーリ「でも…」
ディッグ「メイカ。教えてやれ」
メイカ「……分かったわよ……」
ユーリ「メイカさん!?」
メイカ「いいのよユーリちゃん。はぁぁ……男ってこういうときほんとバカよねぇ……」
メイカさんの言葉にコウスケたちは苦笑いを浮かべる。
…ケランさんはまともだと思うけど……えっもしかして結構やんちゃなの……?
メイカ「いい?暴走状態を抑える方法は主に2つ。気絶させて強制的に止めるか、魔力が無くなるまで暴れさせるか」
コウスケ「でも暴れさせたら……」
メイカ「えぇ。体が壊れる可能性がとても高いわ。だから止めるとしたら気絶を狙うべきね。でも…かなり難しいと思うわ」
コウスケ「…さっきの攻撃で気絶してなかったから…ですか?」
コウスケの問いにコクリと頷くメイカさん。
そう…それが問題だ……。
恐らくコウスケがあれ以上攻撃を加えていたら、ルークくんはかなり危なかったと思う……。
実際、致命傷で発動する結界の効果が出てしまったのだから、あれ以上は本当に殺しかねない……。
だけどそれでもルークくんは立ち上がった。
これを抑えるには、やっぱりベテランの人たちに任せた方が……
コウスケ「…魔力が無くなればいいんですよね?」
突然のコウスケの言葉に全員が面食らう。
メイカ「え、えぇ…そうだけど……」
コウスケ「なら…メリーたちのように吸い出せば戻ったりしませんかね……?」
イシオン組『っ!』
なるほど!
他紙からそれなら……あっでも……
ユーリ「フルールさんもメリーちゃんもこういう荒事は向いてないよ……僕たちが守るにしても、吸血するには相手に取りつかないといけないんだからやっぱり危ないし……」
コウスケ「いえ、吸うのは俺です」
イシオン組『はっ?』
何を言ってるのコウスケ?
コウスケ「こうやって……んぁ……」
そう言っておもむろに口を開いて見せるコウスケ。
その中を覗くと……
ユーリ「…?あっ…!牙がある…!」
メイカ「えっ!?」
マーガレットにあるはずの無い、ほんのり緑色に光る牙が生えていた。
メイカ「あっほんとだ!可愛い!」
ユーリ「はい!…ってそうではなくて……これはいったい……?」
うっかりメイカさんに同意しちゃったのを慌てて誤魔化し、私はコウスケに尋ねる。
コウスケ「この腕とか尻尾と同じ魔力で作ったものですよ。いつもメリーがかぷかぷしてるのを見ているので、大体どんなもんかってのは分かりますから」
ユーリ・メイカ「「かぷかぷ……」」
随分可愛い表現を……。
コウスケ「?…まぁとにかく、見たところさっきと同じぐらいの運動能力ですし、気絶を狙うよりもこっちのほうが確実だと思います」
グリム「ははは!それはいい案だね!」
突然の笑い声にそちらを振り向くと、そこにはルークくんを止めに行ったはずのグリムさんが立っていた。
コウスケ「あれ?グリムさん、ルークのこと止めに行ったんじゃ?」
グリム「何か面白そうなことを話してる雰囲気だったから全部任せてこっちに来た」
ダニエル「てめぇグリム!せめて拘束してから行きやがれ!!」
グリム「ほら、ダニエルもこう言ってくれてるし、もう少し計画を詰めとこうじゃないか」
ユーリ「えっいや……」
全然話が合ってないんですけど……?
そう言おうとした私に、グリムさんは自分の口に指をあてて「しー…♪」としてきた。
グリム「さっ♪マーガレットくん、とりあえずマナポーションを飲んでおきなさい」
コウスケ「あっありがとうございま~す」
ユーリ「えぇぇ……」
いいのかなぁ……?
そう思いながらも、マーガレットの身の安全についてのお話なので聞き逃すわけにもいかず、私たちはルークくんにいかにしてマーガレットを辿り着かせるかを話し合った。
ダニエル「早くしろや!俺がやってもいいんだぞ!?」
みんな『あっはい』
なるべく早く詰めていった。
過保護すぎる皆さん。
読み返してて本当にそう思う私です。
やりすぎたかな?まぁいいか。
さて、次回の更新は8/17(火)の予定です。
いよいよ決着…は着いてますが、どういう結末になるのか、お楽しみに!
ではでは〜!




