186.試合前日のお昼休憩…お邪魔虫
「大丈夫?」
「う…うん……ちょっと痺れが取れてきたよ……」
「……しびしび♪」
《D・ブルーム》。
とあるゲームの花をモチーフになっており、自身を中心に円状に花を芽吹かせて領域を広げ、その花に触れるとただでは済まないという魔法だ。
今回は殺傷能力はいらないので、触ったら痺れるだけだ。
範囲が広い分効果量は少なめだが、俺に近づくには大量に踏みしめなければいかず、踏まないようにジャンプしてしまえば隙だらけ。
防衛側超有利な魔法だ。
ちなみに自分が触っても痺れる。
だって人間だもの。
なのでこれを如何にして克服するかが大事になる。
あと赤色なのは趣味なので特に深い意味は無い。
ちなみに黒は殺傷能力マシマシにする予定。
で、そんな危ない花に触ったメリーとショコラちゃんの痺れが取れるまでの間に、無事なパメラに尋ねる。
「もうお昼?」
「うん。ちょっと早いけど、これぐらいならゆっくりお話しできるでしょ?って早めに切り上げさせてもらえたの」
「そっか。それなら後でお礼を言わないとね」
「うん♪」
そして気を遣ってくれたみんなのためにも、絶対に勝たないとね。
「でも、大丈夫マグ?」
「ん、何が?」
「それ。怪我しちゃってたの?」
「(あっ…)」
わ、忘れてた……!
ユーリさんに付けられたキスマーク……!
「あ~…まぁそんなとこ」
「大丈夫なの……?」
「うん。そこまで大きい怪我じゃないし、魔法の練習中に回復かければいいだけだから」
「そう?…あんまり無理しないでね……?」
「うん、ありがとうパメラ」
そしてごめんねパメラちゃん……。
これ怪我じゃないの……。
いらん心配させちゃってほんとごめんね……。
ちょっと気まずいのでショコラちゃんに話しかけて誤魔化すことにする。
「ショコラ~。そろそろ痺れは取れてきた?」
「うん、大丈夫!」
「ん…メリーは?」
「……しびしび無くなった……」
この子は痺れる感覚が癖になってるのか、残念そうな顔をしている。
またあとでオーブ出してあげるから……。
「それじゃあそろそろ行く?」
「あっうん!」
「そうね。行きましょうか」
というわけでショコラちゃんたちと共にフードエリアへとやってきた。
ゆっくりしておいでという先輩の意向もあるので、今回はバラ売りゾーンでのんびり各々好きなように食べ物を選ぶことにした。
マグはお肉をいつもより少なめにチョイスしていた。
多分今朝のフルールさんのメイカさんへの評価を聞いて気を引き締めたのだろう。
過度なものじゃなければ俺は止めはしない。
マグの体だし。
ちなみに代金はすべて俺が払った。
「「ごめんねマグ~……!」」
「…ごめんなさいね……」
「……ありがとう、マグ」
「気にしないでくださいな」
朝に話したときにこういうことがあるってことを思い出しとけばよかったな~。
まぁそれはまたあとでいいとして、今は楽しくお食事としゃれこもうや。
「「いっただっきま~す!」」
「いただきます」
「…いただきます♪」
そうして楽しい食事の時間…になるはずだったのだが……。
「おいおい。迷宮は子供の遊び場じゃねぇぞ?」
「飯屋でもねぇしな」
何人かの男の声で和やかな空気に亀裂が入った。
まったく……ご飯食べるところでそんなつまんないこと言うなよ……。
せっかくのご飯がまずく感じるだろうが……。
イライラしながらそっちを見ると、どこかで見覚えのある顔が揃っていた。
誰だっけ?
「なんだ、またお前らかよ」
「迷惑なガキどもだなぁおい。この前の狐の女はどうした?」
(狐……?)
(…あっ!コウスケさん!この人たち、この前ユーリさんにしつこく絡んで投げられた人ですよ!)
「あぁ!投げられた人!」
「あんだとコラァ!」
「ぴぇ……!?」
あ~ほら大声出すからメリーが怯えちゃったじゃん……。
「というか、この街の迷宮は子どもでも大丈夫な親切設計ですよ?ギルドで説明受けてないんですか?」
「はっ!知らねぇよ!大体そんなの建前に決まってんだろうが。ガキでも入ってくれりゃあ、それだけ人気なのをアピールできるからな!」
「迷宮が危険だってことは誰でも知ってんだよ。だから良いっつわれても空気読んで来んじゃねぇよガキども!」
酷いなコイツら……。
冒険者の質が極端に悪くなるから街から消えてくんねぇかな……?
「まぁでも?そっちの姉ちゃんは仕事がたんまりあるから別にいいけどなぁ」
((結局それか))
なんてわかりやすい奴らだ。
赤ん坊よりも分かりやすい単純な脳みそをお持ちなんだろうなぁ。
……赤ん坊の思考もかなり難解だけど。
「はぁ……私は娼婦ではないのだけど?」
「知ってるよ。その首輪、奴隷だろ?」
「奴隷が他のやつと同じテーブルに座っていいと思ってんのか?」
((チッ…))
いい加減うんざりしてきた……。
こいつら奴隷を人として見てない類の連中だ。
反吐が出る。
しかし誰かの所有している奴隷…所有奴隷に許可なく害を与えるのは法律で禁止されている。
それは例え悪名高い王都でも同じだったはずだ。
こいつらはいったい何がしたいんだ?
っと…周りの冒険者が立ち上がってきたな……。
それならそろそろ……
「おい、何睨んでんだよ?教育のなってないガキだな」
「俺たちゃAランク冒険者様だぜ?楯突くとどうなるか分かるか?あん?」
(…なるほど……高ランクを振りかざすバカか……)
(でもマズいですよ……高ランクってことは、全くそう見えなくてもそこそこぐらいには強いってことです……私たちだけじゃとても……)
(そうさなぁ……周りもさすがに黙ってはいられなさそうだが、下手に動いて刺激したらこの腐れどもがショコラちゃんたちに手を出しかねないからとりあえずは様子見って感じだし……)
(何か隙が生まれれば助けに入ってくれるってことですね……)
(そういうこと)
「おい、お前だ金髪」
「えっ」
なんか急に絡まれたんだけど?
「「えっ」じゃねぇよ。てめぇがこの奴隷の主人だろ?こいつをくれるんなら他のガキどもと一緒に見逃してやるよ」
(口調が完全にイキりザコなんだよなぁ……)
(よく分かりませんがかっこ悪いのはわかりました)
(マグは頭がいいな~)
(えへへ~)
「聞いてんのか!?」
はぁ~……めんどくせぇ……。
痺れさせて周りの冒険者の誰かが助けてくれたってことにして切り上げるか。
「…だっせ」
「…………あ?」
今収めようとしたのに油注いだやつは誰だバカ!
「子どもに脅迫するとかだっせぇって言ったんだよおっさん」
「んだとクソガキ……」
(あー、ルークくんだったーっ!あんた無謀が過ぎるよーっ!)
(というかいたんですね、あの人たち)
マグってば辛辣ぅー!
というかルーク少年。
取り巻きの子たちがビビり散らしてるけど大丈夫?
「…はっ!いいことを教えてやるよ……大人を舐めると痛い目見るぜっ!」
「っ!」
殴りかかったーっ!
どうするルークっ!?
ガッ!
「なっ!?」
ルークは迷惑冒険者の拳を素手 (食事処なので)で受け止め決め台詞。
「で?痛い目ってのはいつ見れるんだ?」
(おぉー!これは素直にかっこいいぞルーク!それで悪ガキムーブ止めればモテるぞルーク!)
(そうなんですか?)
(ん…そうさなぁ……やっぱり守ってくれる…って思うと、キュンと来るんじゃないかな?)
(確かに、私がコウスケさんの好きな所の1つは、困ってたら必ず助けてくれるところですからね)
(おぉう……そ、そうなんだ~……)
(コウスケさん)
(う、うん……?)
(だぁいすき♡)
「こふっ!」
「「マグッ!?」」
「…なんであなたがダメージ受けてるのよ……?」
「ちょっと尊さが振り切れただけなので……」
緊張感がなくなってきた俺たちのすぐそばで、緊張感バリバリのルークと自称Aランク冒険者の男性のにらみ合いは続いていた。
「…へっ!力はガキにしちゃつえぇが……ガキはガキだな」
「あ?」
Eランク少年冒険者にこぶしを止められたおっさんがなんか言ってら。
(…!コウスケさん!ルークの後ろ!)
(ん…?…っ!)
ひっそりとルークの後ろに回り込んでいる不審な男!
「ルーク!後ろ!」
「っ!?」
「おせぇ!」
「ぎゃっ!?」
「なっ!?ゼリオラッ!?」
(あっ!眼鏡マン!)
(んふっ…!)
俺の言葉にマグが吹き出す。
マグに刺さったのめっちゃ嬉しい。
それはともかく、眼鏡マンこと杖使いゼリオラ少年が、背後から近づいていた不審な男に拘束されてしまった。
「隙ありっ!」
「ぐぅっ!?」
「ルークッ!?」
そしてルークがみぞおちをやられた!
どうする残された槍使いの少年!(名前は忘れた)
ぎゅっ……
「ん…?」
「……ふぅ……ふぅ……(カタカタ)」
心の中で好き勝手実況していた俺にメリーが抱きついてきたことで、俺はようやく冷静になる。
そしてショコラちゃんたちを見ると、メリーと同様に少し震えているのが分かった。
…そりゃ怖いよな……。
なのに俺は実況ごっこなんてして……ふぅ……よし。
(マグ)
(はい、状況整理ですね?)
(…よく分かったね)
(私もメリーたちが怖がっているのを見るのは嫌ですから。そのためには何をすればいいかといったら、まずは落ち着いて考えることだと思ったので)
(さっすがマグ)
(あとは大好きな人ならこうするかなって思ったからです♡)
(……さっすがマグ……)
ほんっと、この婚約者ちゃんハイスペックすぎるわ。
(さて……今はゴミがルーク少年にまたがってイキッてるところだから、早めにまとめないと殴られてしまう)
(でもルークを助けるにしても、人質の解放にしても、雷だと巻き込んでしまいますね……)
(そうなると無属性で…しかもピンポイントでアホどもだけを駆逐することになるな)
(ですね。それか隙を作れれば周りの冒険者の方が乱入してくれるかもしれません)
(だね。何人かが割って入ろうとしてタイミング逃した人がいたから、その人たちにあとをまかせるってのもありだね)
(そうなると……あとはその隙をどう作るか…ですね)
(ふむ……)
《タフネスカバー》をあいつらの頭部にぶつけるってのもありだけど、魔力を飛ばしたらさすがに目立つか……?
それなら足を叩いて…………やべぇ……。
(…マグ…俺はとんでもないことを思いついてしまった……)
(えっ…な、なんですか?)
(男は皆共通の弱点が存在するんだが……そこを叩く)
(な、なるほど……それで、その弱点というのは……?)
…言うべきかなぁ……?
まぁどうせやることになったら分かるんだけど……。
(……股……)
(えっ?)
(足と足の間の部分です)
ちょっと言いかけてやっぱり誤魔化した。
(な、なるほど……それは確かに痛そうですし、びっくりしそうですね……)
(というわけでそろそろ危なそうなので決行します)
(あっはい、お願いします)
「それは女性も同じでは?」と聞かれる前にさっさと話を切りあげた俺は、早速詠唱を…始めずに口をパクパクさせる。
小さな声でも反応される恐れがあったのと、誰かに「口動かしてなかったよね?」と言われないようにするためだ。
そして足元に透明で小さな盾を人数分…今回は4人分用意して、そっとそれぞれの足元に忍ばせる。
ルークにまたがってる男には下腹部に直撃するように斜め上に召喚。
「ん?」
と、そこで迷惑冒険者組の1人にそれがバレかけたので……
(ほい)
ズドムッ!
『----っ!!!??』
やっちまったぞ☆
「おぉぉぉ………!だ…誰だむごいことしやがってぇ……!!」
「ふぅぅぅ……!ふぅぅぅ……!」
『うわぁ……』
のたうち回る彼らに同情するような視線を送る、その場に居合わせた男性たち。
「よし!今よ!」
「あんたらがAランクなんて前冒険者の恥だわ死ねぇ!」
「女の敵ぃっ!」
ここぞとばかりにボコボコにする女性たち。
それを見てさらに引く男性陣。
う~ん……悲しい事件だったね……☆
と、それはさておき…一発もらったルークがちょっと心配だ。
「ルーク。大丈夫?」
「っ!問題ねぇよ……」
俺が未だ座り込んでいるルークに手を差し伸べるが、ルーク少年は顔を背けて断ってしまった。
(むぅ!なんですか!コウスケさんがせっかく心配してくれたのに!)
(いや…助けに入ってやられかけたなんて、かっこ悪いところ見られたって思っちゃうよ)
(むぅぅ……!)
とはいえ、お礼はしっかりしておきたいんだけどなぁ……。
聞いてくれるかなぁ……?
「マーガレット、ちょっといい?」
「フルールさん。どうかしましたか?」
悩む俺にフルールさんが声をかけてきた。
「私に任せてくれないかしら?」
「?いいですよ?」
「ありがとう」
(まかせてって…どうするんでしょう?)
(さぁ……とりあえず見守ってみよう)
「ちょっといいかしら?」
「っ!……なんすか…」
(あれ?思ったより……)
(素直だねぇ)
というかちょっと顔赤くない?
もしかして照れてる?
まぁフルールさん美人中の美人だからね。
仕方ないね。
「殴られたところは大丈夫?」
「…まぁ……はい……」
「ふ~ん?」
そう言って手を伸ばすフルールさん。
「なっ!?ちょっ!?何を…!?」
「これでも?」
焦るルーク少年のお腹をグッと押し込むフルールさん。
あそこはさっき食らったところだ。
「…っ!」
「やっぱり痛いんじゃないの」
「うっ…!」
「無理しないで回復してもらいなさい。そんな状態じゃ、明日の試合に出れなくなるわよ?」
「こ、これぐらい問題ねぇ…っすよ……」
((あっ。今慌てて丁寧にした))
そういう配慮は出来るんだなぁ…少年。
「ふぅ。まぁ強がるのも男の子の証みたいなものよね」
フルールさんはそう言ってルークから手を放して立ち上がる。
「でも、助けてくれてありがとう」
「っ!……別に……」
「ふふっ…そう。それじゃあね」
「あっ……」
「ん?」
「……その…妹を怪我させかけてすんませんでした……」
「えっ?」
((妹?))
はて?
誰のことだ?
「えっ…そっちの子は妹なんじゃ……」
そう言ってルークが指した先には……
「……?」
メリーがいた。
(メリーのことをフルールさんの妹だと思ったのか……)
(…まぁ…無理は無いですね……)
(そうだね……普通に妹で通りそうだよね……)
「あぁ。あの子は妹じゃなくて娘よ」
「はっ…えっ!?む、娘っ!?で、でもその…えぇぇっ!?」
((わかる~))
ルークとその仲間たち、そして知らなかった冒険者たちに動揺が走る中、俺とマグ、ショコラちゃんパメラちゃんと知っていた冒険者たちがうんうんと頷いた。
「ふふふ…そんなに驚いてくれるなんて、少し嬉しいわね♪」
((そりゃ驚きますって……))
「でも、謝るなら本人にもお願いね」
「あっ…は、はい!」
もうすっかりフルールさんの言いなりなルーク少年がメリーのところへと向かう。
「……」
メリーは少し怯えつつもルークのことをしっかりと見据える。
そんなメリーにルークが謝罪した。
「…その……突き飛ばしてごめん……」
「…………いいよ」
「…そ、そっか……」
「…………」
「…………」
「はい、よくできました」
無言になった2人の間にフルールさんが入りその場を収めた。
というかそんな素直に謝れるなら最初からそうしてくれればよかったのに……。
あぁでも家庭環境が悪かったらしいからな……。
こうして丸くなったことを喜ぶべきだろうな……。
はぁ…なんにせよ……
(なんかいろいろ凄かったな~……)
(ですね~)
「「マグ~…!」」
「おっと…」
なんてのんびり考える俺の両腕に、ショコラちゃんとパメラちゃんが抱きついてきた。
「2人とも大丈夫だった?」
「うん…」
「でも怖かった……」
「だよねぇ……」
その辺は俺も無配慮だったから罪悪感を感じる。
なので2人のことを慰めて償うことにする。
「よしよし…2人とも、取り乱したりせずに落ち着いてて偉かったよ」
「ん…♪えへへ♪」
「マグぅ…頭撫でてぇ……?」
「いいけど……先にご飯にしない?もうお腹が空いちゃって空いちゃって……」
「あっ…そういえばそうだった」
「だねぇ。私もお腹ペコペコだよ〜!」
そりゃあ何も食べてないからね。
「じゃあご飯食べよ〜!」
「うん。でもその前にみんなにお礼しなきゃ」
「あっそうだね」
とりあえずそこでまだボコしてる女性陣を止めるところから始めようか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの場にいた人たちにお礼と迷惑をかけたことを謝罪すると、みんな心良く許してくれた。
騒ぎを起こした冒険者たちは、彼らをボコボコにした冒険者たちによって上に連行され、それを見届けると周りの人たちも俺たちに一言労ってくれたり慰めてくれたりしてくれてから各々散って行った。
ルーク少年たちもあの後フルールさんの言葉に従って治療に向かった。
取り巻きの少年たちもメリーに一言謝ってからそれについて行った。
(やっぱり男の子は美人のお姉さんに弱いんだな……)
(……コウスケさんも弱かったりしますか?)
(…例えばふにふにされておねだりされたらもしかするかもしれない……)
(あ〜、分かります)
ふぅ……どうにか好感度を下げずに凌いだぜ。
でもマグ?
分かりますって…それでいいの?
いやまぁそれ狙って言ったんだけどさ……。
そうしてようやく食事となったわけだが、さっき怖い思いをした少女たちはこぞって俺のそばに来ようとした。
しかし隣に座れるのは当然2人まで。
しかし3人はどうしても俺の隣…というよりは、俺に触れていたいらしい。
確かに怖いもん見たときとか、頼りになるものや安心できるものに触れていたくなる気持ちは分かる。
子どもがぬいぐるみを抱きかかえたり、お化け屋敷でびっくりして思わず抱きついて「あっ…///」ってなったりするのもそんな感じだし。多分。
まぁそんなわけでどうすっかとなったのだが……。
「メリー、大丈夫?」
「…………(こくこく!)」
「でもメリーちゃん…お顔赤いよ……?」
「…………大丈夫…!」
両隣にピッタリくっついて座っているショコラちゃんとパメラちゃんがメリーのことを心配する。
そのメリーは今、俺の膝の上に乗っている。
ちなみにフルールさんはそんな俺たちを反対側から微笑ましく眺めている。
「……う〜…!」
「ん?もじもじしてどうしたのメリー?」
「………重くない……?」
「まったく?むしろ軽すぎて心配になるレベルだけど?」
「……そ、そう…!………よかった……」
安心した声でボソッと言った後半部分は聞かないフリをする。
乙女の健全な悩みなので。
「それじゃあマグ〜!ショコラあれ食べた〜い!」
「はいはいっと」
「っ!」
ショコラ御所望の料理を取るために前屈みになると、必然的にメリーに後ろからピッタリ隙間無くくっつくことになり、メリーの体が固くなったことをしっかりと感じ取れた。
う〜ん……俺のことが好き…とはいえ、この体はマグの体なのだし、そんな緊張しなくても……。
「…っと、はいショコラ。あ〜ん」
「あ〜…むっ♪もきゅもきゅ……美味し〜い♪」
「マグ!マグ!私はあれがいいなぁ!」
「は〜い」
「ぴぇっ…!」
とうとう小さな悲鳴が……。
「メリーちゃん…本当に大丈夫…?」
「………(こくこく…)」
パメラちゃんに心配されとるで、メリー……。
なんとなくこれまでの俺とちょっと重なって見えて応援したくなるなぁ……。
元凶俺だけど。
「取れたよパメラ〜。はい、あ〜ん」
「あ〜…ん♪んふふ〜♪」
「それじゃあメリー」
「ふぇっ…!な、なに…?」
「メリーはどれが食べたい?」
「…えと…えと…!」
キョロキョロと料理を見ていくメリー。
しかしそれどころじゃないのかまったく続きの言葉が出てこない。
そして助けを求めるようにフルールさんに視線を向けるメリー。
しかしフルールさんから帰ってきたのは小さなサムズアップだけだった。
メリーは目に見えてあわあわした。
(…確かメリーの好きなものって……)
(コウスケさんですね)
(いやそうじゃなくてね?)
(え〜っと……スープをいつもいっぱい飲んでる印象がありますね……)
(ん、確かに。あと、お肉よりはお魚の方が食べてる気がする)
(あ〜確かにそうですね。それじゃあ……あれですかね?)
(あれだね)
マグと相談して、俺は魚介スープを手に取る。
これは確かメリーがねだったものだ。
ということは俺たちの予想は概ね正しかったのだろう。
というかねだってたことを早く思い出せ俺。
「メリー。これ食べる?」
「!……うん♪」
メリーも嬉しそうな表情を浮かべたし、これで正解のようだ。
しかし問題は、さっきの騒ぎのせいでスープが冷えてしまったことだ。
これでは美味しさが半減してしまう……。
「メリー…これ冷えちゃったけど、大丈夫?」
「…うん。…あ〜…♪」
「はいはい」
そんなことより早くちょうだいと口を開けるメリーに苦笑しつつ、スープを掬い、慎重にメリーへと運ぶ。
「はい…あ〜ん」
「あ〜…んむ…♪……ごく…ふぃ♪」
「美味しい?」
「…うん♪」
「よかった♪」
冷めてても美味しいとか、控えめに言って最高だね。
もしかしたら迷宮に持ち込んでも大丈夫なように努力されてるのかもしれない。
ここで買って迷宮探索して、お昼に食べてまた探索して帰ってきて、ここでまた買って帰る。
いいね。
凄く冒険者って感じがする。
「次はマグね!」
「マグは何がいい?」
「ん…」
なんて考えている俺に両サイドから声がかかる。
どうやら次は俺に食べさせてくれるらしい。
「そうだなぁ……私もスープもらおうかな」
「わかった!」
「あっじゃあパンも取っておく?」
「うん、お願い」
そんなこんなで少し遅れはしたものの、俺たちは楽しい昼食の時間を過ごすことができた。
でも心なしかショコラちゃんとパメラちゃんが、俺が表に出てるときにやけに甘やかしてきてちょっと困惑した。
…いやまぁ…嬉しくはあるんだけどもね……?
困惑照れなのだけどね……?
とかなんとかあったが、その後は特に何もなくまったりと過ごして、お昼休みを終えたのだった。
果たして何人がこの冒険者たちを覚えているのか……。
正直私はもう忘れかけてた。
さて、次回の更新は7/30(金)の予定です。
次回もお楽しみに〜!




