185.試合前日の練習風景…午前の巻
絆が深まったところで部屋に着いたので、マグと交代した俺は魔法の練習を開始した。
まずは魔力を使って武器をかたどってみた。
レッツ・投影。
魔法名は某正義の味方を意識したかったが、ちょっと思いつかなかったので《ウェポンクラフト》とそのまんまな名前にした。
やっぱ覚えやすいのが一番だと思うの。
《ウェポンクラフト》は結果として成功はした。
しかしどうやら凝ったものを作ると魔力の消費が激しいらしい。
シンプルな剣や槍、刀などを作ってみたときはかなりの本数を出しても大丈夫だった。
雷で同様の物を作っても問題なかった。
だが調子に乗って特に意味のない模様を刻んだり鞘まで作ってみた結果、明確に魔力が減ったのを感じた。
仕方がないのでこの辺をこだわるのは諦めた。
さらに他にも問題はあった。
いくら簡略化しようと、ただの球体な《サンダーオーブ》と違って形を作る必要があるために時間がかかるのだ。
それはほんのわずかな時間なのだが、一瞬が勝負を分けることを知っているためなんとかしたい。
まぁそれはゲームの話なのだが、他のことをしていたって「一瞬の油断が命取り」な場面は大なり小なりあるのだし、やはり気になる所は直しておきたい。
そして肝心の攻撃能力。
これは他の魔法と同様に飛ばせたし、かたどった分魔力が込められているので威力も申し分ない。
しかし魔力が多いのが原因なのか、壁やらなにやらにぶつけたあと、《サンダーオーブ》は四散するのに対し、クラフトした武具はその場に残ってしまう。
これはまたそれを動かせば問題ないのだが、最初爆ぜるもんだと思って訓練用魔鉄鉱人形にぶつけたらはじかれて明後日の方向にぶっとんでいったのを見て、そこに人がいたらとゾッとしたのと、もしその武器を取られてしまったらと考えてしまった。
俺の魔力で作ったものなので、取られてしまっても霧散させてしまえばいいだけなのだが、もしも相手がそれに魔力を上書きした場合乗っ取られる恐れがあるのでは?と思ったのだ。
そこで早速フルールさんに協力してもらい、俺が作った剣にフルールさんの魔力を流してもらった。
そして少し入れてもらったところで俺が霧散指令を出したところ、懸念した通り、剣はそのままフルールさんの手に残ってしまった。
(これはこのまま使うのは危険すぎるな……)
(ですね……相手に武器を渡しているようなものですから……)
というわけでこれは実戦投入は見送り。
大体、こんなもん当たったら殺しかねないので使うわけにはいかない。
あーでも…刺股ならワンチャンかな……?
次に強化魔法をいろいろ試してみた。
《ストラアップ》は筋力増強魔法。
何をするにしても基本となる強化項目ということで、これはまぁそのまま使うとして、試したいのは個別の部位の強化だ。
《ストラアップ》で強化されるのは体全体の筋力で、腕のみ足のみといったように個々の強化ではないのだ。
確かに足だけを強化して走れば上半身に掛かる負荷が痛いし、拳だけに魔力を集めれば、衝撃で腕を痛めてしまう。
だがそれも度が過ぎればの話。
ちょいっと強化するだけなら問題無い。
なので強化魔法にさらに上掛けでそれぞれの部位を強化してみることにした。
これは中々良い結果を出すことができ、俺はファルコンパンチと魔神脚っぽいものを使えるようになった。
属性は雷なので「っぽい」ものなのだ。
それでもかなりテンション上がる。
そして気付く。
これ強化魔法かな?攻撃魔法じゃね?…と。
気を取り直して、そもそも何がどれくらい魔力を使ってるのかを試すことにした。
これにはまず《サンダーオーブ》をいくつか出し、次に使う魔法の使用魔力にこのオーブの魔力を使えないかから試していった。
そしてそれはやや成功といったところ。
オーブから試し撃ちのサンダー使用のための魔力を捻出した際、お試しで5つ出しといたオーブから使ったにも関わらず、威力はガクンと落ちていた。
オーブ5個では足りないのか。
それとも魔力を供給するときにいくらか散ってしまっているのか。
それも確かめたかったが、それが分かるほど魔力を使うと今日はそれだけで終わりそうな気がしたので諦めた。
消費量が分かるようになれば、「これはこの威力でオーブ何個分使っているから、こっちの方がコスパが良い」とか分かると思ったんだけどなぁ……。
とりあえずそこまで調べた俺は、ノートにそれを書き終えたのち、バッグからシエルお手製マナポーションを取り出して飲む。
「…うぅ……やっぱり苦い……」
シエルには悪いが、あまりこれを飲みたくはない。
しかし魔力回復に少しでも貢献してくれることと、シエルが自分のために作ってくれたということで頑張って飲んだ。
どうにか1本飲み終え、俺は口に残る苦味に眉をひそめながらマグと相談する。
(さて……昨日試したいと思ったことはやったけど……3つのうち2つは駄目だった。う〜ん…やっぱり堅実に基礎を固めるか……?でもなんか忘れてるような……)
(コウスケさんコウスケさん)
(うん?どうしたのマグ?)
(前に言っていた雷の狼さんが…みたいなことはしないんですか?)
(雷の狼……あっ)
そういえばジンくん思い出してやってみようと思ったけど、そのあとなんだかんだあってまだやってないんだっけ。
(それだ!マグありがとう!)
(えへ〜♪どういたしまして♪)
よし、それなら早速やってみよう。
「…?………何か思いついたの?」
「うん。この前メリーを驚かせちゃったときに思いついたやつをまだ試してないことをマグが教えてくれたから、それを今から試そうと思って」
「?………あっ、急に叫んだとき?」
「そうそう」
「あぁ、あれね。あれほんとに驚いたんだからね?」
「うっ…ごめんなさい……」
「……わたしもびっくりした…」
「ほんとごめんなさい……」
そりゃ急に大声上げたらビビるよね、ごめんねほんと。
「それで?具体的には何をするの?」
「あっはい……雷属性の強化魔法を使おうかと…」
「雷属性で強化魔法を?」
フルールさんが驚くのも無理はない。
強化魔法は基本的に無属性。
自己強化と他者強化のどちらもそれは同じだ。
そして他の属性での強化魔法といえば、武器や防具にその属性の力を与えて強化する…どちらかというと付与の方が正しい表現だろうその技術が当てはまる。
しかし当然長杖持ちの俺がそれに雷を付与したところで、強化魔法を使用していたとしても高が知れているし、そもそもわざわざ相手の得意な交戦距離に踏み込む意味がない。
…一度なら不意をつけるかもしれないが、相手の強化具合を知らない今の状態ではかなりの賭けになる。
この辺りはディッグさんと打ち合わせをしておいた方がいいだろう。
ともかく、俺がやりたいのはジンくんよろしく自身に雷を纏うこと。
そしてその纏った雷から魔力を捻出することで、擬似的な無詠唱魔法を打ち出して手数で圧倒することだ。
残念ながらこれは先の実験で難しいことが分かってしまったが。
しかしもうひとつの方…なんちゃってファルコンパンチは出来たので目論見は成功している。
なんならもう纏ったようなもんである。
ならば今更何故雷を纏いたいなどと言ったのか。
俺はこの強化を身体能力にも回せないかが知りたいのだ。
超帯電状態になりたいのだ。
ほぼ忘れかけているぐらい曖昧な記憶の中に、ちょっとの電気ショックは筋肉をどうにかしてなんか強化されるみたいなことを聞くか見るかした気がする。
そんなぼやけ放題の記憶だけでマグの体で実験するのは憚られる。
しかし魔神脚を為したことで、いけるんじゃねぇかと思っているのでどうしても試してみたいのだ。
が、そんな危険なもんを本人の許可無くやるのはさすがに駄目なので報告して相談する。
(というわけでマグ。これをやってみたいんだけど……)
(いいですよ)
まさかの即答である。
(いやいやマグ?説明聞いてた?これは危険が伴うものなんだよ?)
(大丈夫ですよ。死ぬときは一緒ですから)
漢気幼女。
(それに、コウスケさんはそんなことにはしないでしょう?)
(それはもちろんだけど……事故ってのはそういうのを無視していきなり起きるから事故なんであってだな……)
(知ってますよ。それでも私はコウスケさんを信じますから)
(…っ!)
マグからの厚い信頼が直に刺さる。
…ここまで信じてくれてるのなら、それに応えないとだよな。
今更ひよってなんていられない。
(…わかった。もしもは考えない。絶対に成功させるから)
(はい♪お願いします♪)
俺は両頬をはたき覚悟を決めると、静かに詠唱を始めた。
「《【我が身に纏え】[雷たち]よ。【追従し、鎧となり、矛となりて力を示せ】。[纏雷]!》」
相変わらず捻りがほぼ無い魔法名と、実際に相対していたときの光景を元に詠唱分を構築し唱えた。
体に力が漲り、成功を実感したのと同時に、体の外と内に不調は無いか確認しようとした俺にフルールさんが何やら驚いた様子で話しかけてきた。
「ね、ねぇ……それ……」
「それ?」
「その頭のやつと尻尾……」
「えっ尻尾?」
マジで?
あっほんとだ生えてる。
いつも俺がいの一番に狙いに行く尻尾がそこにはあった。
幅広で鮮やかグリーンの雷で出来たそれは紛うことなき奴のもの。
トゲが控えめとか色が一色しか無いとか、そもそも尻尾ってこんなんだっけ?とか、ちょっと(?)した違いはあるものの、そこそこ長く厳ついそれはやはり奴の尻尾だと言えよう。
…って待てよ?
フルールさんは「頭のそれ」とも言っていた。
そしてさっきの詠唱で奴の尻尾が生えたということは、頭に生える可能性のあるものは……
そう考えながら頭に手をやってみる。
まず触れたのは側頭部あたりに生えたモフモフ。
これは耳だろう。
丸みがあって先っちょはとんがり。
至って普通の獣耳では無いでしょうか。
そして両側や耳から上に手をやると、それはあった。
硬く、円錐形で、先端が危なく尖っているものが生えていた。
まぁつまり角だ。
そしてそれは2本生えている。
今別々の頂点に指を触れさせているので2本あることが分かる。
つまり私は今、人8割ジンくん2割の擬人化キャラみたいな格好をしているのだ。
正直付けツノ付き耳カチューシャと尻尾アクセサリーで通ると思う。
肌を見てみたが、鱗などは特に無く、いつも通りもちもちぷにぷにのマグの柔肌だった。
防御力は変わってないのかもしれない。
しかし!
それはさておき!
「成功だ…!」
(わぁぁ!)
成功なのだ!
体は強化魔法をしたときのように軽く、尻尾は自分の意思で動かせる。
まさかこの間獣人になった経験がここで生きようとは思わなんだ。
これはグリムさんに改めて感謝しなければならないな!
と、そこでフルールさんが俺に質問をしてくる。
「ねぇコウスケ……」
「あっはい。なんですかフルールさん?」
「それって…狼?」
「そうですよ」
「でも…ツノの生えた狼なんて、確かAランク以上の魔物にしかいないのだけど……」
いるんだ。
「俺が参考にしたのはこの世界の生き物じゃないですよ。でも危険度は単体でAランクはあると思います」
「た、単体で……!?」
この世界の狼は基本的に集団行動だ。
まぁそれは別に不思議じゃないというか、むしろ元の世界でもそれが当たり前ではある。
なので何匹の群れになっているかでランクが変わるのだ。
例えばいつぞや話題に上げた《ハンターウルフ》は、1匹なら普通の狼よりも強い程度で、4〜5頭でEランク冒険者パーティがたまに壊滅するぐらい。
20頭を超えると1パーティでは手に負えなくなり、50頭ぐらいの群れになると軍隊が派遣されることもある。
まぁどこのどいつだろうと、群れれば厄介になっていくのは変わらないのだ。
ということはだ。
単体がバケモンクラスだとして、そいつも他の生き物同様群れたとしよう。
君は10頭のジンくんに同時に襲われて生きられるか?
そもそも慣れないと1頭すら手こずるのだから、どれほどやばいことなのかはよくわかるだろう。
とはいえ…
「大丈夫ですよ。俺が参考にしたのは想像上の生き物ですから。そんな大災害とかは起きません」
「そ、そう……それならよかったわ……」
「……(ホッ…)」
ありゃりゃ……いらん心配させちゃったな……。
まぁ無事に誤解が解けてよかったよかった。
さてさて……頭飾りと尻尾が付いたのはいいとして、それなら手と足にもケモノ感溢れるものが付いてもおかしくないんだが……。
…ちょっと意識してみるか。
とりあえず手から……ん〜………………チラッ。
…いけた…けど……。
これ…猫の手だな……。
ずいぶん可愛らしい……けど……なぜ……?
(コ、コウスケさん……!)
「……コ、コースケ……!」
「ん?」
猫の手をグーパーしていると、マグとメリーが何やら興奮したように話しかけてきた。
「……それ…触っていい?」
「これ?」
「…!(こくこく)」
「うん、いいよ」
「…ありがとう!」
(あーっ!いいなぁ〜!私もぷにぷにしたいです〜!)
(あぁ…そういうことか)
肉球ってぷにぷにしたら止まらないらしいもんね。
(じゃあマグ。交代しようか?)
(やった!お願いします!)
(ふふ…はいはい)
大喜びするマグを微笑ましく思いつつ彼女と交代した。
マグは片方の手をもう片方の手で触り、その触っている手をメリーも触る。
「ぷにぷに〜♪」
「ん…♪ぷにぷに♪」
楽しそうに肉球をぷにぷにしているマグとメリーに、フルールさんも近づいてマグに尋ねてきた。
「ね、ねぇ…?私も触っていいかしら…?」
「あっどうぞどうぞ〜!」
「ありがとう。……!…これは癖になるわね……」
「ですよね〜♪」
「……ね♪」
そうして女性陣を虜にした肉球は、マグが魔力の減りに気付くまでぷにぷにされ続いたのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ぐぇぇ……」
ものっそ苦いマナポーションの2本目を飲み干した俺は、あまり女の子が出すものではないような声を上げる。
これどうにか苦味を和らげられないのかな……?
調合のことは分からないけど、ハチミツ入れて飲みやすく…そして効力もアップしてくれたりはしないんだろうか。
さすがにそんな上手くはいかないか。
まぁそれはさておき、獣化 (と名付けた)を解いた俺は重大なことに気が付いたのだ。
それは、範囲攻撃魔法を覚えていない、ということ。
《サンダーオーブ》も《バウンディングボルト》も対象指定技。
要は個々を狙うものなのだ。
見えているのなら別にいいが、早くて捉えづらい相手や、姿を消すような相手にこれを当てるのは至難の技。
別に今回は覚えなくてもいいのだが、大体のところに放ってもある程度ダメージを与えられる範囲攻撃は是非とも覚えておきたいところ。
一応 《マナウォール》を頭上に展開し、それを落とすという方法もあるが……そんなん加減も何もないので論外。
はぁ……「これじゃあ相手を倒せない」じゃなくて、「これだと相手を殺っちまうかもしれない」って魔法の方が多いとか……。
ハルキぃ……マンガとかにある「結界内なら死なない」って感じのご都合結界は無かったのか……?
……あったとして、それはダンジョンのどの部分で使うんだろうか……?
普通のダンジョンでそんなんあってもどう使うのか分からんな……。
まぁいっか。
とにかく、なんらかの範囲魔法を考えてみようと思う。
う〜ん……範囲魔法…範囲魔法ねぇ……。
パッと出てきたのはグラビティスパイク。
まぁいわゆる衝撃波だ。
ジャンプからの着地の衝撃で辺りにダメージを与えるのだが……それだと相手との距離が必然的に近くなる。
それに着地の衝撃で俺自身が動けずに隙が出来てしまう可能性もあるから駄目だ。
それでやられたことが何回もあるし。
しかし発想は悪くないと思う。
自身を中心に発動すれば、攻撃と防御を兼ねることが出来るので、いざというときのために1つは用意しておきたい。
そうなると……ふむ……自身を中心にして発動するタイプのやつ……う〜ん……。
……大爆発……?
自爆技をマグの体でしたくはない。
ちょっとロマンは感じるけど。
う〜ん…あとは………あ〜…大咆哮……高級耳栓じゃないと駄目なやつ……。
そんな大声出るかな……?
そもそも声自体に魔力は乗るんかな……?
う〜ん……なんかいまいちだな……。
技としてはいいんだけど、今欲しいものではない感じだ……。
ん〜……んっ…フィールド系はどうだろう…?
相手が来たら発動するんじゃなくて、そもそも相手が近寄りづらくする方向の魔法……。
それならまずはトラップ。そしてトラップと言えば地雷…マイン系だ。
そうだな……殺傷能力はいらないから、その代わりにかなり痺れてもらうとしよう。
痺れ罠だ。
あっそうだ。それで思い出したけど、荊が絡み付いて拘束するってのもあったなぁ。
俺は防御と回復ばっか使ってたけど、あれを雷で再現出来れば戦いが楽になるぞ!
よしよし…あとは設置系のやつだと……ん〜……あ〜…そういえば腐食系もフィールド魔法か……。
自分の足元から毒を侵食させていって、どんどん範囲を拡大して相手の動きを制限するやーつ……。
あれもなかなかかっちょいいけど、マグから毒沼を生み出すのはちょっと解釈違いというか……毒じゃなくて花とか綺麗なものを………花……?
ちょっと待って…なんか引っかかるぞ……?
花…花……足元から花が咲いていく………あっ…王の話…!
いやでもそれはガチガチの支援系……。
いや、花を毒花にすれば……マグ悲しむかな……?
さすがに元ある花を毒花として再現するのは駄目な気がする……。
元から毒のあるやつ……触れると駄目な花……。
……地獄に咲く罪人の花……は駄目だな……。
あれは何千何万の罪人の無念とかそんな負の感情が込められているもの……唱えてすぐにポンと出てくるものではない。
…なんかあったよなぁ……そういう花……。
めっちゃ生えてて…触ると危険で…ポンとすぐに咲かせられる花…………あっ。
竜災害……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〔パメラ〕
「ふんふんふ〜ん♪」
私の隣で楽しそうに鼻歌を歌う幼馴染みと一緒に、マグがいる迷宮1階層に続く階段を降りている。
ララさんたちがお休みだって聞いたときはものすごく寂しくなったけど、マグがお昼ご飯を一緒に食べたいって言ってたことをナタリアさんに聞いて、私たちは元気が出て、お仕事を頑張ることができた。
そしてそろそろお昼というところで、少し早めに休憩させてくれるということで、私たちは先輩たちにお礼を言って上機嫌でマグに会いに向かっているのだ!
それを鼻歌を歌うほど嬉しそうにしているショコラに、私は楽しみな気持ちに共感しながら話しかける。
「ご機嫌だね、ショコラ」
「えへへ♪マグにお仕事頑張ったって言って、褒めてもらうんだ〜♪」
「あっずるい!私も褒めてもらう〜!」
「一緒に甘えようね♪」
「うん♪」
マグのなでなで……なんだか胸がぽかぽかして気持ちいいんだよね〜♪
前までは私たちがマグを撫でることが多くて、この街で再開してからマグが誰かを甘やかす姿がちょっと意外だったけど、この前初めてマグにぎゅってされてなでなでされてからクセになっちゃったんだよね〜♪
「でも不思議だよね〜」
「なにが?」
ショコラの言葉に私は尋ねる。
「マグってさ。かっこいい雰囲気のときと村にいたときと変わらない雰囲気のときがあるよね?」
「あ〜、そうだね」
「それでさ。どっちも同じマグなのに、前のマグのときはすごく友だち〜!って感じがするのに、かっこいいときは…なんだろう?お姉さん…なのかな…?そんな感じがするよね」
「あっうん、わかる!前のマグのときだと一緒に遊びたいって気持ちでいっぱいなのに、かっこいいときだと甘えた〜い!って思っちゃう!」
「だよねだよね!それでぎゅ〜ってしたら、ちょっと困りながら、それでもちゃんと優しくなでなで〜ってしてくれて〜……」
「それですりすり〜ってしたら微笑みながら背中ポンポンってしてくれて〜……」
「すごいぽかぽか〜ってするの!」
「うん!するする!」
ん〜♪
思い出したらまたしてほしくなっちゃった♪
「それで、前のマグと全然違うのに、マグだな〜♪って安心するの、すごい不思議だと思わない?」
「ん…そう言われてみれば……」
全然雰囲気が違うのに、どっちも同じマグだなって感じるのは確かに不思議だなぁ……。
ここで会って最初はちょっと変わったなぁ…って思ったけど、それでもマグはマグなんだなって感じたし、やっぱり心の底はそうそう変わらないってことだよね。
「それでね?ショコラちょっと思ったんだけど……」
「うん、なぁに?」
「マグって前はショコラたちがなでなでしてたでしょ?」
「うん」
「だから、かっこいいときのマグをなでなでしたらどうなるのかな〜って思ったの」
「!」
それは……。
かっこいいときの…甘えたくなるときのマグに、あえてこっちから甘やかす……。
「気になる!」
「でしょ!だからパメラ!マグに会ったら早速試してみようよ!」
「うん!」
そうしないとすぐに甘えたくなるからね!
私たちが!
「そうと決まれば早く行こ!」
「うん!」
階段を他の人の邪魔にならないようにしつつ素早く降りて練習室がある闘技場へと走る。
そこの受付でマグの借りた部屋を聞いて、すぐにその部屋に向かった。
「ここだっけ?」
「ここだね」
受付のお兄さんに聞いた部屋の番号は「28号室」。
そしてここには「28」って書いてある……うん、間違いない。
早速扉をコンコンッと叩く。
少しして扉を開けてくれたのはフルールさんだった。
「こんにちは、2人とも」
「こんにちはフルールさん!」
「こんにちは〜!」
相変わらず綺麗だなぁ〜!
どうすればこんなに綺麗なお姉さんになれるんだろう?
「もうお昼の時間なのね。マーガレットは今集中してるから、悪いけど静かに入ってちょうだい」
「あっ…は〜い」
「わかりました〜…」
むぅ……練習中かぁ……。
って、そりゃそうか。
フルールさんに入れてもらうと、すぐにマグの姿を見つけた。
確かに目をつぶって集中してる。
私たちは静かにベンチに移動して、そこに座ってたメリーちゃんともあいさつをする。
「こんにちは、メリーちゃん」
「こんにちはメリー」
「……うん、こんにちは」
メリーちゃんは静かな子。
でもこうしてちゃんと目を合わせて話してくれるから、苦手に思われてるとかは全然感じない。
「ね、マグは今何をしてるの?」
「……考えてる」
「「考えてる?」」
「(こくり)…さっきはネコちゃんの手になってた」
「「ネコちゃんの手???」」
なんでネコの手に?
「……ぷにぷにだった♪(むふー♪)」
「「へぇ……」」
…気になる……。
「……よし」
と、話している間にマグが動いた。
考えがまとまったのかな?
「…《【我が周りに】[凜然と咲け滅びの花よ]。【領土を増やし、雷にて侵略を阻め】》」
な、なんだか物騒な詠唱文だなぁ……。
しかしその考えはマグが詠唱を唱え終えると消え去った。
「《D・ブルーム》!」
魔法が発動した後の光景に目を奪われたからだ。
「「「わぁ……!」」」
「綺麗……!」
私たちが驚いたのは、フルールさんの言う通り綺麗な光景を見たから。
そしてそれは、マグを中心に赤い花が咲き誇る光景。
マグから外側に向けて円状に花が咲いていく光景は、とても綺麗だった。
「…すごい……すごいすごい…!」
ショコラが興奮して叫び始める。
私もまったく同意見なので気持ちはよく分かる。
それだけ見事な光景が広がっているのだ。
私がその光景に見惚れていると、ショコラとメリーちゃんがお花に触ろうと近づいていった。
私も綺麗なお花をもっと間近で見たくて近づこうとして……思い出す。
雷にて侵略を阻め……。
さっきの詠唱文……これってもしかして……。
「あっ2人とも駄目!」
「「えっ?」」
私が考えている間に近づいた2人がマグに注意されたが……触ってしまった。
「「しびびびび!!?」」
「あ〜……」
…私の予想は正しかったみたいだ。
魔法説明会…みたいな?
しばらくこんな感じで技を増やしていく予定です。
使うかどうかはさておいて。
次回の更新は7/27(火)の予定です!
お楽しみに〜!




