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179.報告と報酬…と裏の話

「おっ、来たなお嬢」

「はい、来ましたよダニエルさん、こんにちは」

「はいこんにちは」


テレフォンオーブボックスでダニエルさんからロッサ村の調査隊が帰ってきたのを聞いた俺は、ララさんに断りを入れてからダニエルさんに「すぐに行く」と返事をした。


それに「迎えを寄越す」と言ってくれたところで、お礼を言って小部屋から出ると、受付の1人であるお姉さんが俺に「ココさんが来た」と伝えに来た。


ココさんは本当にこの大地で生を受けたのか……実はどっかの神様の仮の姿とかじゃないのかと本気で考えた。


ともかく、俺はいつものようにココさんに抱きかかえられ、こうして隠密ギルドにやってきた。


「それでダニエルさん。村の調査隊の方々はどちらに?」

「あぁ、上の応接室で待ってもらってるぜ。そういや、追加報酬金は?」

「バッチリあります」

「よし。んじゃ行くか」

「はい」


ダニエルさんについて行き、俺たちは調査隊が待っている応接室の前までやってきた。


「おーっす、お嬢が来たぜ」


ダニエルさんが扉を開けながらそう言う…その脇を抜けて何かが俺に突っ込んできた。


「ゴフッ!」

(痛い!うぅ……なにぃ……?)

「ギャギー!」

「(えっ?)」


ココさんに抱き止めてもらった俺に突っ込んできた犯人が、なんかみょんな声を出した。


…そういえばなんだか質量があまり無いような……?

ちょうど胸に抱えられるぐらいしか無い気がするんだが……?


そう不思議に思いつつ胸元の犯人へと目を向けると、そこには……


「ギャギャ!」


…なんか黒い球体が嬉しそうに、にゅっと手をあげていた。


いや、目も口も無いただの黒だからよく分かんないんだけど……なんか…嬉しそうなんだよね……。


(…なんだか可愛いですね……)

(だね……妙に愛着が湧くというか……)


「ギャギャ〜!」


俺が両手でそのクロスケ(仮名)を掬い上げると、彼 (?)は再び嬉しそうに声をあげる。


…こんな生物もいるのか……。

どっから声出してんだ……?

すげぇファンタジーなやっちゃなぁ……。


つんつん…


「ギャッギャッ♪」

「…ぷにぷにしてる……♪」

(わぁ…いいなぁ……!コウスケさんコウスケさん!私も!私にも触りたいです!)

(ええぞ〜)

(やったぁ〜!)


つんつん…


「ギャギャッギャ〜♪」

「えへへ…♪ぷにぷに〜♪」

「…あ〜…お嬢?楽しんでるところ悪いが…そろそろ帰ってきてくれねぇか?」

「ふぇ?」


謎の黒い物体の感触を楽しむマグに、ダニエルさんが控えめに声をかけた。

その隣には隠密ギルドの知り合い…ベックさんがおり、さらにその奥には同じく顔馴染みのヘンリエッタさんと、他に男女1人ずつの姿があった。


まぁつまり。


「…ふぇ……!」


かぁぁ…!っと顔が熱くなっていくのをほんのり感じる。


だよねぇ……恥ずいよねぇ……。


「……!…………!」

「お、お嬢…落ち着け…!大丈夫だ!別にからかおうなんて思っちゃいねぇよ…!」

「そ、そうそう!お嬢も女の子だなぁとか、微笑ましい感じのアレだから大丈夫だ!」

「〜〜〜〜っ!!」


泣きそうな顔で口をパクパクさせるマグに、大人たちが焦った様子でフォローを入れるが、そもそも見られたことが恥ずかしいマグには全て逆効果。


遂には涙を滲ませてしまった。


「おおおおおお嬢!?どどどどうすりゃいんだヘンリエッタァァ!!?」

「おおお落ち着きなベック!とと、と、とりあえず座りなよお嬢!ほ、ほら!お菓子あるよ!?」


「お菓子」の一言に釣られたわけでは無いだろうが、マグはぎゅっとクロスケ(仮名)を抱きかかえたまま、ソファーに腰を下ろし、机の上のクッキーを手に取りサクサクと無言で食べ始めた。


…釣られたわけじゃ…ないよね……?

あとで知らない人にホイホイついていっちゃ駄目って言っとかないといけないかもしれない……。


(あっマグ)

(…………なんですか…?)


わぁ不機嫌。


とはいえ、ただ恥ずかしかっただけなので恨みなど特に無いマグは、俺の言葉に好奇心を刺激される。


(そのお菓子、その子も食べるのかな?)

(ん……確かに……口は見当たらないけど喋れているわけだし……)


そう言ってマグは早速クッキーを手に取り、クロスケ(仮名)に差し出してみた。


「ギャッ?」

「食べる…?」

「ギャギャァ!」


クロスケ(仮名)はぴょんと飛び上がり喜びを表し…


「(わっ!?)」


何もない黒い球体に口が現れ、クッキーにパクッと飛び付いた。


その様子をまじまじと見つめる俺たち。


(…口あったんだねぇ……)

(ありましたねぇ……)


ほんっと…不思議なやつだなぁ……。


「ギャッギャッ♪」


クッキーを食べ終えたクロスケ(仮名)は、マグにお礼を言っているのかにゅっと伸ばした手を挙げてぴょこぴょこしている。


(いやほんとにどうなってんだコイツは)

(こんな動物は知らないですし……あとありそうなのは……)


「お嬢?」

「(!)」


ダニエルさんの声にハッとする。


(マグ。落ち着いた?)

(あっ…は、はい…!)

(じゃあそろそろ代わろっか)

(はい。………あの…取り乱してごめんなさい……)

(可愛いマグの姿が見れて役得なので問題無し。それに…この子が可愛いのもよく分かるしね)

(…えへへ…♪)


はい可愛い。

さてと…


「こほん…すみません皆さん。取り乱して不甲斐ないところをお見せしてしまって……」

「あぁいや…落ち着いたならいいんだ、うん……」


とりまダニエルさんに謝罪して、今気になっていることを聞く。


「それで…この子は?」


俺が手のひらに乗っているクロスケ(仮名)のことを聞くと、ベックさんが答えてくれた。


「あぁ、それは俺がテイムした奴でな。種族はミミックで、名前はプラリアだ」

「へぇ〜、プラリアくんちゃんかぁ………」


…ん?


「(ミミック?)」

「あぁ」

「ミミックってあの…いろんなものに化ける待ち伏せのプロの?」

「そうだな」

「……この子が?」


どう見ても黒いぷになんだけど……。


いまいち信じることが出来ない俺に、ベックさんは分かりやすく解説してくれた。


「ミミックってのは見たことのあるものに化けれるんだが、元々の姿が実はそれでな?基本的には何かに化けてるんだが、コイツは気まぐれな性格で、その時の気分で姿を変えるんだよ」

「へぇ〜…つまり、今は元の姿でいたい…ってことですね?」

「そういうことだろうな」


そうなのか〜……。

ミミックのこともギルドの資料で見たことあるけど、大体がなんの姿になっていたって報告だから、こんな姿になれるなんて知らなかったなぁ……。


「確か、性別は不明…なんでしたっけ?」

「そうだな。ミミックたちは何にでも化けるから、性別や他の生態のこともよく知られてないからな……」


だから「くんちゃん」なんだよなぁ……。

なんならここに「さん」も付けるかもだけど……。


そっかぁ……。

…うん…だいぶ落ち着いただろう。


「…ベックさん。しばらくこの子を抱えててもいいですか?」

「あぁ、いいぞ」

「ありがとうございます」


確かぬいぐるみとかを触っていると、癒し効果があるとかなんとかテレビで言ってた気がするんだよな。

ぬいぐるみとは違うけど、このぷにぷにの感触はなかなか癒される。


だから…これからの話のときに頼らせてもらおう。


「…ダニエルさん」

「…あいよ。よし、お前ら。仕事の時間だ」

『はい』


今までほのぼのとしていた場の空気が一気に締まった。


そう…俺がここに来た本来の用件…マグの住んでいた村、ロッサ村の調査報告をするために。


言葉1つでこんなに変わるとは、さすがは一流冒険者たちだ。


そう考えている間に彼らが対面に座ったのを確認したので、俺は話を始める。


「それでは、まずは改めまして…今回ロッサ村の調査を依頼したマーガレット・ファルクラフトです。龍の現れた土地の調査という危険な依頼を受けていただき、誠にありがとうございます。それでは早速ですが、村の様子をお聞かせください」

「じゃあまずは私から、村周辺のことを言わせてもらうよ」

「お願いします」


まず最初に手を挙げたのはヘンリエッタさん。


「私たちはまず、村の付近の調査から始めた。生態系の変化…村から逃げてきた住民の捜索…村の調査のためのベースキャンプ作りのためにね。結果としては…何事も無かった。生態系は至って正常。ベースキャンプ作りも付近の魔物を片付けてそれ以降なんの問題も無し。近くにあった花畑にも焼け跡無し。そして…住民の姿も見なかった」

「…そうですか……」


(……森の中にいたとしても、あれから今日でもう2週間近くになりますから……生き残りは……)

(マグ……)


新たな生存者が無かったことに落ち込むマグ。


だが、マグの言う通り、あれからもうすぐ2週間……。

生存報告はかなり絶望的だろう……。


…だが……


(…ごめん、マグ)

(…コウスケさん……?)


これは…聞いておきたい……。


「……村周りに、何か人が身につけていた物が落ちているなどの痕跡はありましたか?」

(っ!)

「………あったよ……」

(っ!?)

「……何人分ありましたか?」

「……3人分だよ……」

(そんな……)

「…何か特徴はありましたか……?」


その3人が誰なのかを特定したかったが、残念ながらヘンリエッタさんは首をゆっくりと横に振った。


「遺体の損傷が激しくてね……服もボロボロで色ぐらいしか分からなかった……体付きから、恐らく男性が1人と女性が2人だと思う……」


損傷が激しい…服()ボロボロ……。

…遺体は顔の判別も出来ないほどズタボロなのかも……。


「…その人たちは…どうしましたか……?」

「キチンと弔わせてもらったよ。…森の中の、村が見える位置に……」

「…そうですか……ありがとうございます……」


(3人……3人も……!うっ……!うぅ……!)


残酷な報告に泣き出してしまうマグ。

だが、表に出てくるほどではなく、精一杯我慢して耐えようとしてくれたのだと感じた。


……思いっきり泣かせてあげることもできなくて…本当にすまない……。


「……周辺のことはわかりました。次に、村の調査結果を教えてください」

「…それは俺から言おう」


次に名乗り出てくれたのはベックさん。


「まずは龍の有無。幸か不幸か、翡翠龍の存在は確認出来なかった。そして他の魔物の巣になっているってわけでもなかった。で、村の建物だが…これは全滅だ。全ての建物が黒炭だった。んで、次に生存者の確認をした。だが、これも駄目だった。生存者を確認することは出来なかった。……すまない…お嬢……」

「…いえ……ありがとうございました……」


村の方にも生存者は無し…か……。

まぁ…当然ではあるか……。


しかし…


(龍の姿は無し…か……)

(ぐすっ……どこかに…すんっ…飛んで行っちゃったんでしょうか……)

(そうかも……でもこの近くで龍を見たって情報も無いから、しばらくはこの街には来ないかもね)


泣きながらも、俺の呟きに反応してくれたマグ。

後でちゃんと甘やかしてあげないとね。


「…龍の行方は気になりますが、村が魔物の巣になっていないのはよかったです。他に何か気になることとかはありましたか?」

「そうだな……村の付近に盗賊がいたが…特に問題なく捕縛したし、そいつら自身も村の惨状に驚いていたから、元村の住人ってわけでも無いだろう。まぁ至って普通の盗賊がいただけだな」

「(普通の盗賊)」


いや、まぁ…言ってることは分かるんだけど……。


(なんか…ちょっと……ねぇ……?)

(そうですね…なんか……えぇ……)


さっきの今でアレだけど……ちょっと、ふふ…ってなってしまった。

普通の戦士とか魔法使いとかならそんな思わないのになぁ……。


「こほん…村の現状はわかりました。改めて、依頼を受けていただき、ありがとうございました」

「いいんだよお嬢。私たちも龍のことは気になってたしさ」

「あぁ。それに、危ないことは何もなかったわけだしな」


ヘンリエッタさんとベックさんがそう言って朗らかに笑う。


と、その時、泣き止んだらしいマグが俺に話しかけてきた。


(コウスケさん。私の方からも、お礼が言いたいです)

(ん…じゃあ代わる?)

(はい)

(りょーかい)


マグと交代して様子を見守る。


「…それでも、お礼を言いたいんです。村のこと…私に教えてくれて…ありがとうございます…」

「ん、ん〜……」

「お、おう……」

「…?」


マグがお礼を言うと、調査隊の面々がソワソワとし始めた。


…照れてる?


「何照れてんだよお前ら?」

「だ、だってボス……お嬢がこんなにしおらしいとちょっと調子が狂うって言うか……ねぇ……?」

「あ、あぁ……さっきと言い今と言い…なんていうか……別人みてぇに変わってるっつーか……」


((鋭い))


そうです、別人です。


「ふふふ…もう、それじゃあまるで、私がいつもは怖いみたいじゃないですか」

「あ、いや…そういうわけじゃないんだお嬢…」

「ただ見たことない感じだったから落ち着かなかっただけだ…気を悪くしたならすまん」

「いえいえ、怒ってるわけではないですよ〜」


しかしここ数日間俺と共にいろんな人と接してきたマグ。

そこは上手いこと捌いた。


やるなぁ、マグ。


「あっそれよりも、報酬のことをお話ししないとですね」


そしてスッと話題を変えるマグ。


う〜ん…なかなかやるなぁ……。


「ん…?あぁ、追加報酬のことね」

「あ〜…だが俺たち今回は依頼通りのことしかしてないからな。追加報酬はいらないぜ?」

「えっ」


が、ここで断られてしまい、マグは素っ頓狂な声を上げた。


(…ど、どうしましょうコウスケさん……?)


そして俺に泣きついてきた。

可愛い。


(ん〜……例えそうだとしても、危険な依頼を受けてくれて、いろいろと気を遣ってくれたわけだし、全額は無理だとしても、せめて少しぐらいはあげたいよね……)

(はい……)

(あとマグ)

(?)

(そのままマグがお話するの?)

(あっ…そうですね………コウスケさん…)

(うん?)

(もう少しだけ…頑張らせてくれませんか…?)


マグ……。

最初はあんなに他人を怖がってたのに……。


ショコラちゃんたちと再開したり、ユーリさんやチェルシーたち、新しい友達が出来てから、積極的に前に進もうとして……。


それは良いことなんだけど……なんだか寂しいなぁ……。


(コウスケさん?)

(…うん…いいよ。マグの好きなようにやってごらん?)

(…えへへ…♪ありがとうございます♪)

(…でも困ったら呼んでね?)


寂しいから。


(はい♪いってきます!)

(うん。いってらっしゃい♪)


「…お嬢?どうしたんだい?」

「…ヘンリエッタさん。やっぱり私は皆さんにお金を受け取って欲しいです。せめて3万ゴルは受け取ってくれませんか?」


おっいいぞ〜。

全部は無理だとしても、部分的になら受け取ってくれるかもしれん。


「いや、それでも多すぎるよ。仕事自体は大した障害も無くて楽だったんだから、依頼達成の報酬だけで十分さ」

「それだと私の気が済まないんです……じゃあ2万9千800ゴルならどうですか!?」

「それ200ゴルしか違わないじゃん!?」


というかなんでそんなテレビショッピングとかでよく聞く値段にしたの?

そこ千ゴルずつじゃ駄目だったのマグ?


「えっと…じゃ、じゃあ……2万8千は!?」

「いや、それでも多いって。ほんと大丈夫だからお嬢……」

「で、でもぉ……!」


む…まずいな……。

向こうが本気で困ってるのを見て、マグのメンタルが負けかけている……。

なんとか…何か手は……。


「……っ!」


おっ?

マグが何か閃いたようだぞ?


「……えっと……そ、それじゃあ…あの……」


と思ったらもじもじし出したんだけど?

えっ?何思いついたのマグ?


それはヘンリエッタさんたちも思ったようで、もじもじし出したマグにどうしたのかと声をかけた。


「お嬢?」

「……その……ダニエルさんが私ならこうすれば報酬の代わりになるって言ってましたし……」

『(えっ?)』


そのダニエルさんも含めて、ココさんを除いた全員が声を上げた。

そして同時に考え始める。


ダニエルさんが言ってたマグならではの報酬ってなんだろう?…と。


が、誰かが答えをたどり着く前に、マグが答えを出した。


「だから……えっと………ぎゅって……しますか……?」

『(えっ!?)』


ぎゅって!?

えっ!?ぎゅって!?

は?え?お?ん?待って?ちょっと待って?


ド・ユ・コ・ト?


…と思ったが、落ち着いて考えてみればそんなこと言ってた気がする。

その本人も思い出したようだ。


「あぁ〜……いや、まぁ…確かに言ったが……あれは冗談のつもりだったんだが……」

「えっ!?」


あれは俺に対する冗談であったんだが、マグはそれを本気に捉えてしまったようだ。


それを理解したマグの顔は再び赤く染まった。

顔を俯かせたマグは、まだ手元にいるプラリアをぷにぷにぐにぐにし始めた。


(う〜…!恥ずかしいです……!)

(まぁまぁ……落ち着いてマグ。プラリアくんが伸びちゃうよ)


うにょーんと横に伸ばされているプラリアちゃん自身は楽しそうだけどね。


「ま、まぁこれで話は終わりだな!ココ、またお嬢を送ってやってくれ」

「わかった」


珍しく気を遣ったダニエルさんがココさんにそうお願いした。


それに焦ったのはマグ。


「あっ…!えっと……!ほ、本当にいいんですか…?」

「大丈夫だって。むしろ仕事以上の金をもらったら、こっちの方がソワソワしちゃうよ」

「お嬢のハグはちょっと欲しかったけどね」

「あんたね……」


ヘンリエッタさんが遠慮する隣で、女性の調査員がそんなことを言ってヘンリエッタさんに呆れられている。


が、お返しが出来るかもと思ったマグはそれを逃さず、プラリアさんを膝に乗せ、手を広げてこう言った。


「えっと…じゃあ……しますか……?」

「はうっ!」


…この人もマグの可愛さにやられたな……。

同志よ……。


「じゃあお願いしちゃおうかな〜♪」

「は、はい…!どうぞ…!」


スッと立ち上がりこちらにやってきた女性は、プラリアくんちゃんさんを膝に乗せているため動きづらいマグにきゅっと抱きつく。

優しく抱きついてくれた女性に、マグもそっと抱きしめる。


「はぁぁ…!可愛いぃ…!こんな妹欲しかったぁぁ…!」

「あんたねぇ……」


やはり呆れるヘンリエッタさん。

結局、この追加報酬を受け取ったのはこの女性だけで、その後はいつも通りココさんに抱えられて冒険者ギルドへと戻っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〔ダニエル〕


お嬢がココに抱きかかえられて帰っていったあとも、俺たちはまだ部屋に残っていた。


「はぁぁ…!お嬢可愛かったなぁ…!」

「まぁ確かに……なんだか今日は年相応って感じがしたかなぁ……」


それはまぁそうだろうな。

多分あれお嬢本人だろうし。


まさか本人があんなことを言うとは思わなかったが。


「ヘンリエッタたちもお願いすればよかったのに〜!」

「追加報酬はいらないって言っちゃったあとに、やっぱりそれは欲しいなんて言えるわけないでしょ……」

「大の男が自分と二回りほど離れた女の子にハグをお願い出来るかよ?」

「紛うことなき変態に思われそうだろう?」

「それは分かるけど……もったいな〜い」

「お嬢の話で盛り上がってるところ悪いが、そろそろ本題に行かせてくれよ」


やれやれ……お嬢はほんと人気者だな……。

コウスケの真面目で甘い性格と、マーガレット嬢の愛らしい容姿……「そして貴族なのに」という先入観が、お嬢の人気を後押ししてるんだろう。

マーガレット嬢本人も穏やかな性格だしな。


…まぁ……コウスケとは違った意味で厄介だがな……。

あの光は俺たち日陰者には眩しすぎるぜ……。


「ボス?」

「…あぁ、悪い。考え事だ。それで……話ってのは?」


こいつらが部屋に残って雑談してたのは、ココを迎えに行かせて帰ってくる間のちょっとした時間に「大事な話がある」と言ってきたからだ。

そしてその話はどうやらロッサ村についてのことらしい。


「実は……お嬢には言いづらかったのですが……村で一番の建物…恐らく領主館だと思われますが……」

「あぁ」

「……あれは龍に焼かれたものではありません……」

「何?」


話をしたベックにどういうことだと続きを促す。


「…他の建物は全て黒焦げ…かなりの高火力で一息に燃やされていました。これは龍の仕業だと思われます。ですが、領主館と思わしき建物だけは…じっくり時間をかけて火が回ったような形跡がありました。焼かれたのも最近のようで、まだ少しだけ火が燻っている箇所が何個かありました。まるで誰かが後から火をつけたかのように……」

「放火の(あと)があったと……?」

「はい」


それは確かに妙だが……。


「それはその建物だけが火に対して耐性を持っていたわけではないのか?」

「いえ。燃えていた木材は全て一般住宅に使われるものでした」

「そしてあの村はその木材となる木が生えている森が近くにある……だから違うだろう…ってか?」

「はい」


ふむ……一理あるが……


「まだ弱いな」

「ボス。実はそれを裏付けるものを見たんです」

「ほう?」


そしてヘンリエッタはこう言った。


「向こうに着いた初日、村周辺の調査の折に、王国兵と光教会の連中が村から王都の方面に向かっていくのを確認しました」

「…何だと?」


ロッサ村が焼かれたのは調査に出た1週間前だ。

その情報が最速で届いて部隊を寄越したとしても王都から村までは早馬でも5日は掛かる。


「数は?」

「王国兵は10人、教会兵は8人。馬車は4台。全員がしっかりと装備を整えた直属の兵士でした」

「何ぃ!?」


王国の末端兵士の装備はかなりボロい。

しかも安月給で、職に着けてるだけマシと思わないとやってられないだろうと思ったほどだ。


だが今回見た兵士はしっかりした装備だと言う。

ということはある程度の地位がある奴というわけだ。


そんな連中が王都から遠いロッサ村にフル装備でいた……。


迷宮都市に来る途中だった?それなら何故ここに来ない?

無論、迷宮都市からそんな兵士は出ていない。

出ていたとしたら俺たちの監視網に引っかかる上に、ハルキ(ダンジョンマスター)が見逃すはずが無い。


考え込む俺に、ヘンリエッタは話を続ける。


「気になって後をつけ、隙を見て奴らの馬車の中を確認したところ、中にはカーペットや机などの日用品…そして入りきらなかったのであろう魔導書があり…その中の一つに、かなり端っこのパッと見じゃ分からないようなところに……」


そこで少し暗い表情をしたのを見逃さなかった。

とてつもなく嫌な予感がする……。

そしてその予感は的中することとなった。


「花の絵と…お嬢の名前が書かれていました」

「…………最悪だ……」


お嬢は村から出たことが無いらしい。

出かけたとしても近くの花畑に行くぐらいだったそうだ。

お嬢と知り合いの冒険者がそう言っていたそうだ。


そして紙は高級品では無いにしろ、本はやはり高価なもの。

魔導書ともなればさらに上の値段が付く代物だ。


そんなものがあるのは貴族の家ぐらい。

そしてロッサ村にある貴族の家はお嬢の家のみ。


それはつまり……その本や日用品は家から…放火の跡がある領主館から持ち出されたものということになる……。


「…ヘンリエッタ。それらに焼き(あと)などは?」

「付いていません。全て綺麗なままでした」

「そうか……」


一応修復魔法も存在はする。

その可能性も無くはないが……どちらにしろ窃盗だ。

そして、やはり王国兵や教会の連中がロッサ村にいるのはおかしい。

そいつらがお嬢の家の家財を馬車に詰め込み村を後にしたというのも変だ。

まるで……


「…まるで、龍がロッサ村を襲うのを知っていたかのような周到ぶりだな……」


待てよ…?


「確か盗賊がいたんだよな?そいつらは?」

「はい。こっちは至って普通の盗賊でした。ですが、彼らも王国兵たちの目撃者です」

「そうか……」


まずはそいつらにも話を聞いて…いや……この件は隠密ギルド(俺たち)だけでは手に余るな……。


「…俺は他のギルドマスターに連絡を取る。この話をしておくべきだろうからな、近いうちに代表会議をするだろう。お嬢にはまだ教えるなよ。しっかりしているとはいえ、お嬢もまだ子供なのに変わりは無い。せめて今目の前に迫ってる試合を終わらせてからだ」

『はい』


そう指示を出してダンジョンマスターに繋がるテレフォンオーブが置いてある通信室に向かう。


…どうにも嫌な予感がしてならない。


「……王国の奴らが龍を操ってる……?」


…………まさかな……。

どんなにシリアスな話になろうと、必ずどこかに癒し成分をぶち込みたい性格な作者です。


最近塔の作り方を覚えました。(ビル◯ーズの話)


まぁそれは置いといて、次回の投稿は7/9(金)の予定です。


お楽しみに〜☆

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― 新着の感想 ―
[一言] 想定してた中で最も最悪なケースですが、もし予想通りなら王権を振りかざしてる馬鹿と、その王権を振りかざしてる馬鹿を利用して横暴な振る舞いをしてる貴族との争いに発展ってな事に…… 迷宮街の…
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