172.練習と結果…とまた約束と柔らかい者たち
「いやぁ〜…あはは……つい夢中になっちゃったね……」
「えへへ……ユーリが強くて楽しくなってきちゃって……」
「ん…確かに良い戦いだったけど、元の目的を忘れちゃ駄目」
「ごめんなさい……」
「すみません……」
こっちに戻ってきた2人はシャールさんに嗜められている。
その横で俺たちはさっきの戦いの感想を話していた。
「…凄かったね……」
「……(こくり)」
「ショコラ…全然見えなかった……」
「私も……」
俺の膝の上のメリーちゃんと、両隣に抱きついているショコラちゃんとパメラちゃんが俺の感想に答えると、そのさらに隣にいるモニカちゃんたちも反応してくれる。
「何が起きてたのか分からなかったよ……」
「うん……しかもあれ…強化魔法聞こえなかったんだけど……使ってないよね……?」
『(あっ……!)』
チェルシーの言葉にハッとする俺たち。
「た、確かに……!」
「えっ…?じゃ、じゃあ…ユーリさんもエストさんも、魔法を使わないであの速さなの……?」
「そ、そういうことだね……」
『(…………)』
「お待たせ〜…って、どうしたのみんな?」
俺たちが唖然としているところに、その当人たるユーリさんたちが戻ってきた。
「い、いや……始まる前に何かボソボソっと口を動かしてた気がするし、もしかしたら小声で詠唱してたかもしれない……ちょっと聞いてみよう……」
「そ、そうだね……マグ、お願い……」
「?」
ヒソヒソ喋る俺たちに首を傾げるユーリさん。
そんな彼女に俺は質問を投げかける。
「ユーリさん……」
「うん?」
「身体強化魔法って使ってました……?」
「うん。使ってたよ」
『(ホッ…)』
よかったぁ〜……!
使ってたぁ〜……!
「えっ?な、何…?」
「いえ、あまりに異次元すぎる戦いだったので……」
「あははは…ごめんね……」
胸を撫で下ろす俺たちの様子に苦笑するユーリさん。
そんな俺にシャールさんが話しかけてきた。
「ん…立ち回りとかは参考にならなかったけど、なんとなく雰囲気は感じれた?」
「えぇ…それはまぁ……」
俺こんな人に模擬戦頼んだんだ…ってちょっと後悔もした。
ユーリさんにも模擬戦は出来れば頼みたくないな……。
「ん……マーガレットはまず、身体強化魔法を練習してみるといい。使ったことはある?」
「はい。一度だけ」
「その時はどう使ったの?」
「少しずつ魔力を足していってちょうどいいところでやめたって感じで使いました」
「ん…よろしい」
あっよかった。
「よくあるのは、コツを掴めなかったり調子に乗ったりで魔力を出しすぎて暴走すること。だから強化魔法は誰か止められる人がいないと初心者は使っちゃ駄目」
「(えっ)」
使っちゃったんだけど?
「ん…?その時誰もいなかったの?」
「えーっと……いたはいたんですけど……それは初耳だったので……」
「そう。暴走しなくてよかったね」
「は、はい……」
(なんてこったい……)
(今度からその辺りのことも聞かないとですね……)
(うん……)
そうしないといつか地雷を踏み抜きそうで怖い……。
やっぱり情報は大事だな……。
「それじゃあ、早速見せてほしい」
「あっはい。わかりました。というわけなんで……」
そう言ってメリーちゃんたちに離れてもらおうとしたが……
ぎゅっ
じ〜…
『…………』
「あの……」
ぎゅう〜
じ〜〜……
『…………』
「……邪魔はしないでね?」
『…!(パァァ…!)』
と、メリーちゃんとショコラちゃん、パメラちゃんの無言の圧力に屈することになった。
あー…やっぱり甘いなぁ……。
でも寂しそうな顔とか見たくないしなぁ……。
と、諦めたのはいいとして、問題はこっち。
日頃いろんな女性にくっつかれたりしているというのに未だに女の子の香りや感触にドギマギしてしまう俺の心である。
今俺を囲んでいる相手は、マグと同世代でマグの友達。
だが、マグと恋仲になるようなロリコンである俺には致命傷。
ショコラちゃんは先ほどの女の子同士のやりとりで聞いた通り、昨日触ったマグのお胸よりも少し大きい…かもしれない。
服越しだからよく分からんけど、ふにょんとした感触がしっかりと伝わってくる。
つまり理性が減る。
対してパメラちゃんは、本人の言う通りツルペタンヌではあるが、だからこそ体全体が隙間無くピットリとくっつき、柔らかい体の感触を左側の体でしっかりと感じる。
これもかなりダメージがデカい。
そして妹のように思い、甘やかし倒すと決めたメリーちゃん。
風呂場で何度か見たことのある小さな体をフルに押しつけ俺に甘える姿はとても愛らしい……のだが、やはり子供特有のやらこい感触と、頬同士が触れて伝わって来るもちぷにすべすべな肌の威力は凄まじい。
メリーちゃんにすらこんなドキリコドキリコしてしまうとは……俺は節操無しなのだな……。
……うん、知ってたわ。
さっきまでは強すぎる圧迫感と模擬戦の凄まじさで煩悩が働く余地も無かったのだが、こうして意識してしまったらもうアウツである。
このような柔らか天国にいるからどこまで集中出来るか分からないのに、もしもくすぐりとか吐息かけとかされたら魔法を使うなんて絶対無理。
なので、彼女たちが大人しいうちにシュバっと唱えることにする。
俺は1つ深呼吸をし、この間唱えた魔法を唱えた。
「すぅ〜…ふぅ〜……よし……《【我が身】を[強めよ]、【無垢なる魔力】。[ストラアップ]!》」
この前と同じように、なんとなく力が湧いてくる感覚を感じる。
「ん…上手。魔力も安定してるし、もう少し足してみても大丈夫だと思う」
「おっ…そういうことなら……」
シャールさんの言葉に気を良くした俺は、少しずつ魔力を全身に注いでいく。
が、かなり注いでも一向に止める気配のないシャールさんが気になり、俺は自主的に中断してシャールさんに尋ねた。
「あの……結構魔力流したと思うんですけど……まだいけそうな感じですか……?」
「ん……まだまだ安定してる。体の調子はどう?」
「力がみなぎってる感じはしますが、不調が出てるようなところは無いですね……」
「ん…なら大丈夫だと思う。魔力を注ぎすぎると、その部位が痛くなってくる。それでも魔力を注ぎ続けると体が耐えきれずに魔力を他の場所にも流し始めて、同様に痛みを感じるようになる。脳が魔力を注がれ過ぎると、お酒を飲んだ時みたいに酔っ払った感じになって頭が回らなくなる」
「…それで落ち着かせるために、体が勝手に有り余った魔力を消費しようとして、暴走するってことですか……?」
「ん…そういうこと」
怖っ。
何が怖いって、具体的な例を挙げられたのが怖い。
めっちゃ想像が容易だったよ。
ドラマやらニュースやらで見たことのあるやべぇ人になるってことだもん。
怖ぇよ。
「そして魔力を大量に使って魔力不足になると、体が魔力の消費を抑えようとして体の中でせめぎあいが起きて、その負荷で激痛に襲われる。そのとき体が耐え切れなくなると失神したり最悪死ぬこともある」
「(怖っ……)」
魔力不足にならないように細心の注意を払わないと……。
と、そこでユーリさんから俺に質問が来た。
「ねぇマーガレット。今どのくらい注いだ感じなの?前よりも多い感じ?」
「あ〜…そうですねぇ……前よりは確実に多いです」
ユーリさんたちにおしおきしたときは、1人持てれば問題無いやの精神で使ったから、それよりもじっくりと魔力を蓄えた今の方が多いのは確実だ。
「なら、その状態でどこまで動けるか確かめたら?強化した状態にも慣れとかないと、実戦で困っちゃうよ?」
「あっそれはそうですね」
これはいわゆるドーピング。
地道な努力でジワジワと付いた力ではなく、ポッと出てばーん!なミラクルパワーなのだ。
ゲームとかで、設定を初期仕様からプロ仕様に一気に変えるようなもんだろう。
そんなん慣れなきゃ実戦で使えねぇのは当たり前だ。
何事も経験がいるのだ。
(じゃあ早速試してみるか)
(なら、まずはショコラとパメラを離して、メリーちゃんを退かすところからですね)
(うっ……下手に力入れすぎたら、あっさり折っちゃいそうで怖いなぁ……)
(そ、そんなこと言われたら私まで不安になるじゃないですかぁ…!)
(ご、ごめん……)
とはいえやっぱり怖いものは怖い。
日頃から触れるときは首の座っていない赤ん坊を撫でるが如く、めちゃくちゃ力を抜いているのだ。
ごめんちょっと盛った。
とはいえ、出来る限り優しく触れようと気を付けているのは事実。
それが今、強化魔法を使った上でやろうというのだから、まぁ〜怖い。
だからここは彼女たちの方から離れてもらおう。
「…よし…じゃあ悪いけどショコラ、パメラ。離れてくれる?」
ぎゅう〜!
「あのね?あとでまたぎゅってしていいから、とりあえず今は離れてほしいなぁ…?」
ふるふる
ぎゅう〜!
「せめて会話しない?」
なんでこの子ら無言で抱きしめる力を強めるん?
しかしこのままだとまた俺が諦めそうなので、その前にどうにか離れてもらいたい。
「ショコラ、パメラ」
ぐりぐりぎゅう〜
「いや、頭をぐりぐりしてないで。これじゃあ私練習出来ないよ」
「……だって……マグがユーリさんたちみたいに怖い雰囲気出しちゃったら嫌なんだもん……」
「「こ、怖い……」」
ようやく口を開いたショコラの言葉に、ユーリさんとエストさんがダメージを受けた。
まぁ自業自得なのでほっとくとして、俺はショコラちゃんと話をする。
「ショコラ。そんなに怖かったの?」
「……(こくこく)」
「パメラも?」
「……!(こくこく)」
「「……(ず〜ん)」」
お二人が落ち込んでるけど、自業自得自業自得……。
「そ、そっか……う〜ん…でももし仮に怖くなるとして、ここで2人に好きなようにさせてたら、試合のときに私の怖いところを初めて見ちゃうんだよ?」
「「うっ……!」」
「どっちにしろ見ることになるのなら、他のみんなも一緒にいる今のうちに見といて慣れちゃった方がよくない?」
「「うぅぅ……!」」
俺の言葉に反論出来ない様子の2人。
ここでさらに畳み掛ける。
「それに私、今物凄く力がみなぎってるの。でもどこまでなら大丈夫なのかっていうのが分からないから、もしかしたらショコラたちに触ったら物凄く痛くしちゃうかもしれないの。だからお願い、2人とも。このままじゃ撫でることもままならないの」
「「うぅぅぅ……!」」
悩む2人。
俺は2人とは別に、俺にくっついている子にもお願いする。
「メリーちゃんも、お願い」
「……(きゅっ)」
メリーちゃんは俺の服をきゅっとつまんでくるが、その顔は悩んでいるように見える。
メリーちゃんも頭がいいから、俺の言ってることを理解出来ているのだろう。
それが本当に起こり得ることを。
そうなったとき俺がどれだけ悲しむかを。
「…………わかった……」
「メリー……!?」
「メリーちゃん……!?」
「ありがと、メリーちゃん」
メリーちゃんの言葉に驚くショコラちゃんとパメラちゃん。
だがメリーちゃんは「でも…」と呟き、俺の目を見てもじもじしながら言った。
「………あとで……その……あの……///」
顔を赤くしてどうにか要望を伝えようとするメリーちゃんの様子に、何か交換条件があるのだな、と察した。
しかし本人が頑張っているので、俺は彼女の言葉を待つことにした。
「…………!///」
「…………」
「……///……!///」
「………………メリーちゃん」
「…!」
黙っちゃったので話しかけた。
とはいえ…メリーちゃんのしてほしいことに見当が付いていない。
なでなでとかぎゅ〜とかはもうしてるし今更恥ずかしがるもんでも無いと思うんだけど、そうなるとあとは風呂とか添い寝とかぐらいかな?
でも全部やってんだよな。
…いや待てよ?
メリーちゃんは俺を異性として認識してくれたのだぞ?
ということはそれで恥ずかしくなってしまったことをしてほしい…ということかもしれん。
前のメリーちゃんの、距離感の近すぎる甘え方もいろいろ大変ではあれど、甘えてくれるのは純粋に嬉しかった俺。
異性として認識してから、風呂もトイレもマグの担当になったし、最近は目もあんまり合わせてくれなくなって「寂しい」通り越して「悲しい」思いをしていたもんだけど、それは恥ずかしくなったから。
それならこういう機会に「甘えさせて?」とお願いしてくる可能性もある。かなりある。
だが具体的に何?となると結局分からない……。
しょうがない。
広範囲攻撃だ。
「…あとで、何か1つお願い聞いてあげる」
「…っ!?」
『(えっ!?)』
俺の導き出した答えにメリーちゃんどころか周りの人たち(エストさんとシャールさんの「ハルキの嫁」組は除く)が驚きの声を上げた。
何かまずったかもしれない。
「…ほ、ほんとに……?」
だがもう遅い。
こんなキラキラしたお目目で見つめられて、今更「すまない……ノリで言ってすまない……」なんて言えない。
「ウッソだよ〜ん♪」とか口が裂けても言えない。
「…うん、出来ることならね?」
「…約束…!」
スッと小指が差し出される。
あのねメリーちゃん。
今俺パワーがギンギンでやべぇんだ!って言ったよね?
でもあんまり否定的な言葉が言える雰囲気じゃないので大人しく小指を差し出す。
その俺の指に、メリーちゃんは小指を絡ませてそれはもうとんでもなく嬉しそうな顔をした。
対して俺はめっちゃビクビクしている。
ここで小指を曲げたらメリーちゃんのか細い指をへし折りそうで怖くてビクビクしてる。
なのでじっと耐え忍んでいたら……
「……ショコラ?パメラ?」
「…ショコラも約束する……!」
「私も……!」
「「マグに甘えさせてもらう!」」
この子らは……。
(ショコラ…パメラ……もう……)
欲に正直な幼馴染たちに、マグも若干呆れ気味だ。
(コウスケさんが優しくてかっこよくて頼りになるのは分かるけど、もう少し遠慮することを覚えないと……)
(そう言うマグは遠慮してなくない?)
そんないきなり褒め殺さないで?
照れるよ?
(…私も遠慮した方がいいですか……?)
(めいっぱい甘えなさい)
(えへへ♪やった♡)
あぁ〜…これは嵌められたなぁ〜。
でもしょうがないんや。
こんなん断れるやつは可愛いのが嫌いなやつだけや。(偏見)
「はぁ……もう…しょうがないなぁ……」
「…!やった♪マグ大好き!」
「えへへ〜♪私も〜♪」
「はいはい…」
調子のいいことで。
でも何をお願いされるんだろう……?
あんまり理性が削れることじゃなければいいけど……。
…まぁ今はいいや。
メリーちゃんたちが離れたので立ち上がり、少し離れた場所に移動する俺。
(さてさて……まずは基本動作から調べてみようかな)
(基本動作……走ったり跳んだりですか?)
(うん。歩いた感じは特に違和感は無いし、激しく動いてもいつも通りの感覚で動ければ問題無しってことだからね)
(なるほど)
というわけでまずは駆け足。
準備運動代わりに軽くぴょい〜〜〜んっ!?
「えっ!?」
(た、高い!?)
いつものジャンプよりも滞空時間あるぞ!?
「わっ…とと……!」
(コ、コウスケさん、痛くないですか!?)
(大丈夫……まったく痛くない……)
明らかにいつもよりも高い位置から、しかもテンパりながらの着地だというのに、俺の足に着地の衝撃はあれど、痛みは無し。
「…これが強化魔法……」
「ん…そう」
俺の呟きに、シャールさんがこちらに近づきつつ答えてくれた。
その後ろでは子供組がすごいすごい!と盛り上がっていた。
シャールさんは俺のそばまで来ると、説明を始めてくれる。
「あなたが今唱えたのは筋力強化魔法。筋力が高ければ重いものを持てたりするだけじゃなくて、強化した分頑丈さも増すから防御力も上がる。それに瞬発力とかの強化もされるから、全体的に体を強化する魔法だと思ってくれればいい」
「ん…?防御力や素早さはまた別の魔法があるってわけではないんですか?」
「あることはあるけど、結局は体を強くしなければ負荷に耐えられないし、体の基礎を上げるようなものだからこれだけでその辺も事足りる。だから筋力を上げて全体的に強くした方がいい」
「(なるほど……)」
んじゃあ細かいことは考えず、とりあえず筋力上げとけば強くなれるのか。
何それ便利。
「魔力はどう?」
「う〜ん……まだ余裕ですね」
「そう。でもあまり使いすぎては駄目。一瞬の爆発力も強いけど、安定した強化の方がいろいろと便利」
それは確かに。
一撃に全てを賭けるっていうのもロマンだけど、外したらアウトだし、ましてやそんな博打にマグの体がかかっているならなおさら駄目。
使うなら勝負を決めるときだ。
いわゆる奥の手。
いい響きだ。
それはともかく、こうして体を強化し続ける以上、その分魔力は失われ続けるわけで。
魔力が尽きかけると体に不調が出てくるわけで。
そういうことなのでやっぱり安定した強化具合が一番なわけで……。
うん、やっぱ駄目だな。
試合の後にぶっ倒れるならまだしも、試合中に倒れたら笑えない。
「とはいえ、自分の魔力量がどんなものかが分からない以上、どのあたりが一番ちょうど良いかが分からないですね……」
「ん…それは自分の感覚を信じるしかない。…ご主人様なら分かるだろうけど、いつも忙しそうだから……」
「あぁいえ、さすがにそこまでしていただくのは申し訳ないですから大丈夫ですよ。…あ〜…それよりも…」
そこで俺はシャールさんを屈ませて、小さな声で話をする。
「…ハルキさんは皆さんとちゃんとゆっくり過ごす時間を取ってるんですか?」
「ん……朝も昼も忙しそうだけど、夜には絶対に家にいて、シャールたちを構ってくれる」
「あっよかった。忙しさの原因の一つになってる気がして気になっちゃって……」
「ふふ…大丈夫。ご主人様とは毎日夜ご飯を一緒に食べて、いっぱい甘えてるから♡」
「ごちそうさまです」
ハルキ家も安泰なようで一安心だな。
はっはっはっ。俺は何様だ?
「ん、マーガレット。ひとまず動き回ってみて、何かあったら聞いて」
「はい、わかりました」
というわけで俺は広い練習室を所狭しと走って跳んでと動き回った。
ちょっと強く踏み込めばそこそこの距離を前進し、力強く跳んでみれば、そのジャンプは二階建ての家に侵入できるほど。
バックステップは想像よりも勢いよく下がって若干ビビったし、サイドステップはコケそうになった。
その勢いはいつもの4倍ほど。
それに魔力を使いすぎたのか、少し頭がぼんやりとしてきた。
これはまずい。
そんな俺の様子に気が付いたシャールさんが、すぐに俺の側にやってきた。
「ん…体への魔力供給をやめたほうがいい」
「はい…………っ!?」
「おっと」
素直に魔力供給を止めると、体から一気に力が抜けていき倒れそうになるのを、それを見越していた様子のシャールさんが受け止めてくれた。
(だ、大丈夫ですか……!?)
「う~ん…おかしいな……まだ余裕があると思ったんだけど……」
「ん…強化した状態の少し疲れたは通常時のヘトヘト状態と一緒ぐらい。体は強化できても、体力が増えるわけじゃないから気を付けないといけない」
「な、なぜそれを先に言ってくれないんですか……?」
「実際に体験した方が、文字通り身に染みて覚えやすいから」
「それはまぁ……確かに……」
実際に体験しないと本当のところは分からないからなぁ……。
「うぅ……でもこれ…疲れが分かりにくいのって危ないですね……」
「ん…これも自分で確かめていくしかない。でも絶対に誰か止める人が近くにいる時にすること。わかった?」
「はい……」
「マグーっ!」
と、そこで、ショコラたちがこっちに走ってきているのに気が付いた。
「マグ、大丈夫!?」
「いきなり倒れちゃったけど、どこか怪我したの!?」
「大丈夫大丈夫……強化魔法の後遺症みたいなもんだって……」
心配そうに聞いてくるショコラちゃんとパメラちゃんに答えると、子供たちと一緒にこっちにきたユーリさんとエストさんが温かい目で俺を見つめてきた。
「あ~……マーガレット、強化魔法使って疲れたのに気付かなかったんだね。私も最初はそうだったよ~」
「エストもそうだったよ〜…大変だったなぁ……」
「ん…みんなが通る道」
そうなのかー……。
うー……でもこれじゃあ、これ以上の練習は厳しいかなぁ……。
「少し休んだほうがいいんじゃねぇか?疲れてるのに練習なんてしたらかえって危ねぇぞ?」
「えぇ……怪我に繋がりやすいですからね。少しぐらいなら治せると言っても、怪我をしないのが一番なんですから……」
「うっ……はい…休みます……」
リオとサフィールちゃんの心配そうな顔で、完全に無茶する気を失った俺は素直に返事をした。
「じゃあベンチに戻って休もっか」
そう言うが否や、スッと俺をお姫様抱っこするユーリさん。
(あっ…この人……これがしたくて俺の斜め後ろにいたんだな……?)
(わぁ…ユーリさん策士ですねぇ)
(ねぇ~……)
「♪~」
((…………))
(…まぁ嬉しそうだし……甘えてほしいってお願いしちゃったし…別にいっか)
(ですね。それにユーリさんのふにふにが感じられてとてもいい…)
(マグ……)
(こほん……でもこれ甘えてるの私たちの方ですよね?)
(……そうだね)
「ユーリさんかっこいい~!」
「お姫様抱っこだ~!」
なんだか微妙な気持ちになる俺たちとは逆に、ユーリさんの行動にはしゃぐショコラちゃんとパメラちゃん。
「マーガレット軽そうだものねぇ……」
「マーガレットちゃん…いつもいっぱい食べるのに、なんでこんなに細いんだろう……?」
「……マーガレットはいつも何か考えてるから、食べたものが全部頭に入ってるのかも」
「「あ〜」」
シエルとモニカちゃんにメリーちゃんが答え、何やら納得したようだ。
その理論だと、俺がマグの成長止めちゃってることになるんだけど?
ごめんねマグ。
「マーガレットはそのままでも良いと思うなぁ」
「…ユーリさん…それはどういう意味ですか……?」
「おっと……」
突然のご本人登場に明後日の方角を向くユーリさん。
マグ……そんなに大きくなりたいの……?
まぁ確かに大人になったマグも見たいけど……可愛らしいマグの姿は今だけだからなぁ……。
難しい問題だ……。
「むぅ〜っ!私だっていつかユーリさんみたいにドーン!でふにふに〜!な女性になるんですからぁ!」
「ド、ドーンでふにふにって……!」
「はいは〜い!ショコラもユーリさんみたいな綺麗なお姉さんになる〜!」
「私も〜!」
「……わたしも」
「え、えぇぇ〜っ!?」
あらら……マグを皮切りにショコラちゃんたちのユーリさん褒めがまた始まっちゃった……。
…まぁ今はマグが体の自由握ってるし、俺にはどうしようもないかな!
「ユーリさん!どうしたらユーリさんみたいなふにふにになれますか!」
「ショコラも大きくなれますか!」
「ユーリさんは普段何をしてますか!」
「……(ふんすふんす)」
「ふ、ふぇぇぇ!」
だから頑張れユーリさん☆
魔法の説明は難しいですね……。
でも大事なことだし、なんだかんだ考えるのが楽しいですしねぇ……。
問題はこの設定を忘れないかという一点ですけどね。
頑張れ記憶力。
次回の更新は6/18(金)の予定です。
この更新すらたまに忘れかけることがあるんですよね……。
マジで記憶力鍛えないと……。
ごほん……ではでは、お楽しみに!




