171.ぷにぷにもちもち…に潰される
俺たち子ども組は現在まとまって壁際のベンチに座って、これからのことに期待と不安を抱いていた。
近くにはシャールさんが立っていて、俺たちと同じ方向を向いている。
俺たちの視線の先には、部屋の中央で距離を空けて向かい合うユーリさんとエストさん。
先ほどまでの和やかな雰囲気から一転、そこそこ離れているにも関わらず、俺たちはピリピリとした雰囲気を肌で感じ取っていた。
なぜこうなったのか。
その原因は俺である。
部屋に戻ってきた俺たち。
早速おむつに履き替えようと部屋から出て行こうとする俺に待ったをかけたのはメリーちゃん。
「……わたしも着ける……」
「…そうか……」
やっぱりメリーちゃんも不安だったんやな。
「わ、私も……」
「ショ、ショコラも履く……!」
「…そうか……」
まぁ…俺ら前科があるもんな。
そりゃ不安よな。
が、そこにさらにチェルシーも加わった。
「…あたしも履く……」
「えっ…チェルシーも?」
「エスト姉の圧ってすごく怖いもん……」
「同志……」
チェルシーも経験済みだったようだ。
それを見ていた他の面々もやってきた。
「な、なぁ……そんなに怖かったのか……?」
「うん……あれはやばいよ……」
「マーガレットちゃんでも怖かったの……?」
「モニカちゃんは私をなんだと思っているのか……」
「…その……不安なので私も着けてよろしいですか……?」
「どうぞどうぞ……」
「…オレも着けようかな……ララさんみたいなタイプかもしれないし……」
「あっ……そ、そうだね……私も着ける……」
ララさんに流れ弾が飛んだが、まぁ怖いもんは怖いので気にしない。
そんな俺たちに、シエルがいつものやつをかましてくる。
「もうっ!だらしないわね!いくら怖くても、エストさんだって今度はそんないきなりやらないだろうし大丈夫よ!」
『でもぉ……』
「それにララさんが…お、怒ったのよりも怖いなんて…あああありえないわよそんなのぉ!ねぇ!?」
「足ガッタガタだよシエル」
「そそそそそんなこここことななないわよよ……!??」
「ダメだこりゃ」
俺の言葉に頷く子ども組。
でもシエルは素直じゃないからなぁ……。
ん〜…どう言えばいけるか……。
(コウスケさんコウスケさん)
(ん、どったのマグ?)
(シエルの説得。私がしてもいいですか?)
(お、自信あり?)
(これならいけるんじゃないかと思うものがあるんです!)
ほほぉ…それは期待出来そう。
(じゃあお願いしちゃおっかな)
(えへへ、ありがとうございます!)
というわけでチェンジ。
さてさて…マグはどうやって説得するのか……。
「シエル…」
「な、何よ……?」
「シエルは怖くないんだよね?」
「え、えぇそうよ!」
「じゃあ尚更着けてほしいなぁ……」
「えっ?な、なんで?」
「怖くないシエルも着けてくれたら…私もちょっとだけ安心するっていうか……」
「ふ、ふ〜ん……?」
「だから……お願い、シエルぅ……」
「っ!?…しょ、しょうがないわねぇ!そこまで言うならあたしも着けてあげるわよっ!」
「わぁい!ありがとうシエル♪」
「っ!…ふ、ふんっ!」
(マグ)
(はい)
(上手い)
(やった♪ありがとうございます♪)
と、ここまではよかったのだが……ショコラちゃんの言葉に俺は焦ることになる。
「それならわざわざ着替えに行かなくてもよくない?」
(えっ?)
「そうだなぁ……更衣室で別の人に見られるかもしれないしそこに行くまででも注目されそうだし……それはさすがに恥ずかしいからなぁ……」
(うっ…確かに……リオの言う通りではある……けど……!)
俺の懸念は、サフィールちゃんが代わりに言ってくれた。
「で、ですが…その……それだと……し、下着も脱ぐことになりますから……み、皆さんに……大事なところを…………」
そうなのだ。
今サフィールちゃんが声が小さくなりながらも言ってくれたことがネックなのだ。
おむつを履く関係上、下着は脱がなければならない。
が、しかし。
スカートを履いているパメラちゃん、メリーちゃん、モニカちゃん、チェルシーと、ワンピースタイプのシエルとサフィールちゃんはいいとしても、パンツタイプの俺、ショコラちゃん、リオは、一度下半身をマッパにしないといけない。
で、マグの体は毎日見てるからいいとしても、他の女の子たち…しかも俺のことなど知らないのが大半の子たちの生着替えと生パンティと下マッパを見ることなど、例え誰かが許したとしても、俺自身が罪悪感で潰れそうなので見るわけにはいかない。
衣擦れ音を耳にするのも良くない。
理性的に。
というわけで…
(マグ……着け方はおむつの袋に書いてると思うから頑張ってくれ……)
(えっ…あっなるほど……わかりました、頑張ります)
(うん……俺はある程度したらひっそりと様子を窺うから、とりあえずそれまでは頑張ってくれ……)
(は、はい……)
そうやって奥底に沈み、心を無にしてしばらく待つ。
2曲ほど鼻歌を歌って時間を潰した俺は、まずはマグに現在の状況を聞くために、声だけが届くあたりまで意識を上げる。
(マグ〜?どう〜?)
(あっ…コ、コウスケさん……!)
ん……何やら焦っている……。
これはまだ駄目かな?
(え、えっと……な、なんとか履けましたよ……)
(えっ?そう?その割にはなんか焦ってない?)
(あ、焦ってないです…よ……?)
(…そっか)
あんまり触れないであげよう。
(見ても大丈夫?)
(あっ…はい。みんな履けたので大丈夫ですよ)
(あいよ〜)
マグに確認を取ったところで、俺はいつも通り視界を共有できるところまで意識を昇らせた。
そして見えたのは、もじもじと落ち着かなさそうにする少女たちの姿。
みんなあのズボンやらスカートやらの下はおむつなのかぁ……。
そうかぁ……。
なんだかそれ以上は変な扉を開けそうなので、俺は何か話題を振ることにした。
(あ〜…マグ)
(なんですか?)
(多少向こうで休んだとはいえ、まだご飯を食べた後だからあまり激しい運動は控えたほうがいいかも)
(あっそうですね。ん〜…じゃあ魔法の練習をしますか?)
(そうさなぁ……それがいいかな)
(はい。じゃあ…)
「ねぇマーガレット」
「あっ…は、はい!」
俺たちの会話は、ユーリさんが話しかけてきたことで中断された。
慌てて対応するマグに、ユーリさんは言葉を続ける。
「マーガレットは恐怖を乗り越えようとしてるよね?」
「は、はい……」
「だったらさ、模擬戦を見てみない?」
「(模擬戦?)」
首を傾げる俺たちに、ユーリさんはにこやかにこう言う。
「そ。それなら戦いの雰囲気も感じられるし、立ち回りとかも参考になると思うの」
「(なるほど……)」
(確かにそれはありがたい提案だね)
(はい、私もそう思います)
(ん…でも、誰と誰が模擬戦するんだろう?)
(あっそうですね。ちょっと聞いてみましょう)
「模擬戦って、誰と誰がやるんですか?」
「それは…エストさん、私の相手をしてくれませんか?」
「ん?エスト?いいよ〜!」
「私とエストさんでやるよ」
((行き当たりばったりすぎるなぁ……))
今確認するんかい。
それ駄目だったときどうすんだろう。
とまぁこんなわけで、俺たちは部屋の隅で並んで座り、ユーリさんとエストさんの2人を見守ることになった。
「あっそうだ!ユーリ!エストに丁寧な言葉は使わなくていいよ!」
「えっ?…えっと…じゃあ……エスト」
「うん!なぁにユーリ?」
「ふふふ…それじゃあこれからは楽にさせてもらうね?」
「うん!」
なんだか今更感はあるが、俺たちのせいで色々あったし、食事のときも離れた位置に座っていたからしょうがないっちゃしょうがないかも。
まぁ何にせよ、仲良くなったのはいい事だ。
ユーリさんとエストさんの笑顔を見てるとこっちも嬉しくなる。
マグがチラッとシャールさんを見やると、彼女も微笑んでいるのが見えた。
(よかったですねぇ♪)
(よかったねぇ♪)
と、和やかな雰囲気に包まれたのだが……
「それじゃあユーリ!準備はいい?」
「うん!いつでもいいよ!」
「じゃあいくよ〜!」
そんな軽快な会話の後に…空気がピリついた。
『っ!?』
遠くにいるはずなのに、それでも体を強張らせるマグたち。
俺は内側にいるからか少しマシなものだが、それでも緊張感は伝わってくる。
(マグ…代わる?)
(うっ…………ごめんなさい……)
(気にしなさんな。試合も俺がやるんだしな)
というわけで交代…したところで、メリーちゃんが俺に抱きついてきた。
「メリーちゃん?」
「……(ぎゅっ)」
不安なのかな?
まぁ気持ちは分かる。
凄く分かる。
「じゃあここおいで?」
「…………うん……」
膝をポンっと叩いてメリーちゃんを呼ぶと、彼女は小さく返事をして俺の足の上に乗る。
何故か俺の方を向いて座り、ガッツリ俺に抱きついてきたが。
それ見えないよね?っと思ったが、別にメリーちゃんは無理して見なくてもいいということに気が付いたので言わない。
なのでメリーちゃんを抱きしめ返す。
「どう?」
「…………♡」
ご満悦なようだ。
と、今度は左右からクイクイ…と服を控えめに引っ張られた。
「マ、マグぅ……」
「わ、私も……」
ショコラちゃんとパメラちゃんも不安なんだろうな……。
「ん……もちょっとくっつきなよ」
「えへへ…♪」
「うん…♪」
メリーちゃんをぎゅっとしているため離せない代わりに、2人に密着するように促す。
2人もご満悦な様子を浮かべたので、これで正解だったようだ。
よかった。
「くすくす…マーガレットさん、人気者ですね♪」
「まぁ…マーガレットは頼りになるからな。気持ちは分かるよ」
サフィールちゃんとリオが俺たちを微笑ましく見る一方で…
「いいなぁ…」
「ね……」
「うん………はっ!べ、別に羨ましくなんてないし…!」
モニカちゃんとチェルシーとシエルが羨ましそうにショコラちゃんたちを見つめていた。
「モニカたちも来て!ショコラの隣空いてるから!」
「チェ、チェルシー…!シ、シエルぅ!私の隣を守って〜!」
「えぇっ…!?」
「い、いいのかな……?」
「パメラ……そんなに怖がらなくても……」
「「いいからぁ…!」」
困惑するモニカちゃんとチェルシー、そしてあまりの怖がりように心配しだすシエルを、自分の横に呼ぶショコラちゃんとパメラちゃん。
あれかな〜。
怖いものを見た日の夜寝るときに、親とか兄弟を呼んだり、周りを人形で囲んだりする…みたいな感じかな〜。
まぁあれを知ってるとねぇ……。
「モニカちゃん、チェルシー、シエル……私からもお願い。2人の隣にいてあげてくれないかな?」
「う、うん……」
「マギーちゃんが言うなら……」
「ま、まぁ別に嫌ってわけじゃないしいいけどね……」
「ありがと」
俺からの要請もあり、2人はそれぞれショコラちゃんとパメラちゃんの隣に、チェルシーはシエルの隣に座る。
「モニカぁ…もっとピッタリしてぇ…!」
「シエルも…!もういっそぎゅってして…!」
「「えぇぇっ!?」」
「だ、大丈夫かなぁ……?」
「大変だなぁ……」
「そうですね……」
めちゃくちゃ怖がるショコラちゃんたちに困惑するモニカちゃんたち。
それを見ているリオとサフィールちゃんにも、ショコラちゃんとパメラちゃんは呼びかけた。
「ふ、2人も来てぇ…!」
「……!(こくこく)」
「えぇ……もう十分だろ……」
「それにそれ以上はマーガレットさんが潰れてしまうのでは……?」
サフィールちゃんの言葉に俺は内心頷く。
先ほどからチェルシーが心配してくれていたが、俺は今両隣と真っ正面からぎゅう〜っと抱きつかれているため、俺は再び女の子の柔らかい体を堪能してしまっているわけだが、何事も度が過ぎれば苦になるというもの。
つまり俺、すでに潰れそう。
あと理性も順調に削れててやばい。
「「大丈夫!マグはこれでも頑丈だから!」」
「(ちょっと待って?)」
筋力Gを舐めないで?
マジで潰れるよマジで。
「…まぁ…軽くなら大丈夫だろ……」
「そうですね……軽く…軽〜く……」
しかしまったく折れる気配の無いショコラちゃんたちに押され、リオたちも詰めて座ることに。
2人はまだ軽くくっつく程度に…と考えてくれているようなので、まぁ多分…大丈夫だろう。
「ん……」
「あっ…チェルシーさん…強すぎましたか……?」
「ううん。サフィールちゃんのお胸が柔らかくて声が漏れちゃっただけだよ」
「そ、そうですか……」
なんか話してるが、そんなこんなで出来上がった固まりを見た大人たちの反応がこちらです。
「あっ…いいなっ!いいなっ!私もくっつきた〜い!」
「わぁぁっ!楽しそ〜!エストも混ぜて〜!」
「…人気者も大変……」
どうしよう。
シャールさん以外混ざる気満々だ。
店員オーバーなので勘弁してくれ。
「ユーリさ〜ん…エストさ〜ん……私が潰れる前に試合を始めてくださ〜い……!」
「あっは〜い」
「それじゃあエスト。改めて……」
俺の言葉で再び向き合った2人は、さっきの会話では閉まっていたプレッシャーを再び噴き出し、緊張感で場を包ませる。
それにビクッとしたみんなが、より強くぎゅぅ〜…っと身を寄せてくるので、いよいよ本格的に潰れそうになってしまった。
だが、さすがにそれを口に出せるような雰囲気ではない。
俺自身、場の空気に呑まれ気味である。
そんな剣呑な雰囲気の中少し口を動かしたあと、2人が動いた。
というか消えた。
『(…へっ?)』
と言ったのと中央で金属のぶつかる音が響いたのはほぼ同時だった。
『(…えっ?)』
俺たちが再度困惑の声を上げたときには、ユーリさんとエストさんは最初とは逆の位置で向き合って立っていた。
『(…はっ?)』
音的に2人は一撃交わしたのだろうけど……。
「ん……ユーリ、エストについていけるなんて中々やる」
シャールさんがそう言ったことで、俺はようやくユーリさんたちがあの一瞬で一撃交わしたというのが想像ではないことを理解した。
「……見えた?」
(いいえ…まったく……)
「……(ふるふる)」
「全然見えなかった……」
「瞬きしたら2人の位置が変わってた……」
やはり誰も見えてなかった。
そんな俺たちに、シャールさんが解説してくれた。
「ん…ユーリが槍を突き出したのを、エストが槍の刃の付け根を叩いて逸らして、そのまま首を狙ったナイフを、ユーリが叩かれた槍を回して弾いたの」
『(…………)』
一撃どころじゃなかった。
説明を聞いて尚意味が分からん。
いや、まぁそのアクション一つ一つはなんとなく想像出来る。
それをやるのもかなりの高等テクだとは思うが、それをあの一瞬でやったというのが分からなすぎて怖い。
あの人ら人間なの?
あっ獣人か。
獣人の方が人族よりも丈夫な体を持っている。
そしてあの2人はその獣人だ。
ならばあれは獣人特有の何かが働いているのかも……。
…あ〜…いや……。
例えその獣人特有の力があったとしても、それを使いこなしているのは本人だ。
ならばあれはあの2人の努力の結晶。
力だけを持っていても、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れ…それどころか振り回されるようなことになれば諸刃の剣になってしまう。
そうならないのはあの2人が頑張ったからに過ぎない……。
「…凄いなぁ……」
そこまで考えた俺の口から、自分でも意図せず勝手に声が漏れていた。
あそこまでの強さを求めたわけじゃない。
だが憧れないわけでもない。
異世界転生無双…なんて「ありきたり」だ。
しかし、「ありきたり」というのは見方を変えればそれだけ人気だということだ。
それだけのファンがついている証拠なのだ。
俺もその1人というだけの話なのだ。
その後もユーリさんとエストさんの模擬戦は続いた。
未だに肌がピリつく感覚があるが、そんなものは俺たちにはもう些細なもので、みんな目の前で繰り広げられている目に見えない戦いに釘付けになっていた。
武器を打ち合う音が響き、2人の姿が見えるのはほんの僅か。
そんな遥か上の次元の戦いに、みんな心を奪われていた。
だが…俺には言わねばならないことがある。
場の雰囲気を壊してでも言わなければいけないことがあるのだ。
俺は2人の姿が見えているとき(止まっているとき)を見計らって、抱きしめているメリーちゃんの耳を軽く塞いで大声で言った。
「まったく見えないから何の参考にも出来ませぇーーんっ!!!」
「「ハッ!?」」
踏み出し始めた2人がそのことに気付き、それに気を取られて激突してもよんってなって弾かれた。
「わっとっとっ……!」
「とっとっ…と。ふぅ……」
2人は大質量の自分のふにふに同士の衝突に、どうにか倒れ込まずに持ち堪えた。
(……良い……)
……ノーコメントで……。
「……あれが持つ者の力……」
「パメラ……?なんか怖いんだけど……?」
頑張れシエル。
そんな感じで、目視不可能な模擬戦は幕を閉じた。
実力者同士の戦いって胸が熱くなりますよねぇ。
こう…凄く細かい高等技術の応酬が良いというか、パッと見地味だけどかなり実用的な技をやり合ってるのが合理的でクールというか……!
ド派手なロマン技もいいけど、実用一辺倒な技術もいいですよねぇ……。
ただ、突き詰めすぎると作業になってつまらないからロマンにすぐ走っちゃいますけど……。
さて、次回は6/15(火)更新の予定です。
お楽しみに〜♪




