157.狐の心…見送りの時間
〔ユーリ〕
…まだ…ドキドキしている……。
マーガレット…コウスケにさっき覆い被さられ、体を撫でられ、ちゅーをされかけたときのコウスケのことが頭から離れず、ずっとドキドキしている……。
コウスケのこと…正直少し疑っていた。
本当に男の人なのか…と。
オーラが見えるといっても、色や形…大きさなどしか見ることはできず、それから歳を予想することはできても、その人の性別など本人を見れば明らかだと思っていたため、予測などしたことがなかった。
そしてコウスケは、外ではマーガレットとして暮らしているために、女の子の立ち居振る舞いをしており、その癖がこの寮にいるときにもチラホラと見える。
口調は男の人そのものなのだけど、それ以外が本物の女の子と大差ないので、ただの「男の子の口調をした女の子」に見えるのだ。
そして一度そう思ってしまうと、そのイメージに引きずられてしまい、私は結果的にコウスケが本当に男の人なのかを疑ってしまった。
いつも私や他の女の子がくっついたりからかったりすると、顔を赤くしたり照れ隠しをしたりする様子は、男の人だなぁ…と思うことがあるが、それ以上に可愛いと思ってしまいまたからかってしまう……。
…コウスケの言う通り、マーガレットの容姿で恥ずかしがる姿は確かに可愛い……。
でもコウスケの反応が楽しいというのもある。
コウスケの反応が一々可愛らしくて、ついついからかってしまう……のだが……。
…今回のコウスケは少し怖かった……。
原因は私にあるのだけど……。
さっきのコウスケの顔はいつもの余裕が無くて…少し怖くて……凄く……ドキドキした……。
コウスケはそんなことしないって思ってたのと、マーガレットの体に乱暴なことをしたくなかったから抵抗しなかったけど……。
…本当に……?
あのドキドキは怖かったから……?
…違う気がする……。
あのときのドキドキは怖かったからじゃない気がする……。
「……ユ、ユーリ……」
「っ!?」
あれこれ考える私に、寝ていると思っていたメリーちゃんが話しかけてきて驚いた。
「メ、メリーちゃん……起きてたの……?」
「……だって……大きい声なんだもん……」
「あぅ…!」
き、聞かれてた……!
よく見たらメリーちゃん…顔が赤い……!
「……ねぇ…ユーリぃ……」
こんな小さい子に恥ずかしいところを聞かれてしまった羞恥心に苛まれる私に、メリーちゃんは何か聞きたいことがあるようだ。
「うぅ……どうしたのメリーちゃん……?」
「……ユーリは…コウスケのこと……好き…なの……?」
「ふぇっ!?」
とんでもないこと聞かれたっ!?
「ななななんでそんなこと……!?」
「……ユーリ…ちょっと残念そうだから……」
「ざ、残念そう……?」
残念って……何が……?
「……キスしたかったの…?」
「っ!!!??そ…まっ…なっ……!?」
キス……キス…!?
残念なんてそんなないってそんなことないはずぅ!?
「だだだだってコウスケはマーガレットと恋人なんだし、他の女の子とキスなんてそんな駄目だよ駄目だからぁ!?」
「……ユーリ…うるさい……」
だってだってキスなんてマーガレットがいるのに私としちゃ駄目だし……あれ……?
でもマーガレットはコウスケに他の女の子とも関係を持ってほしいらしいし……えと…じゃ、じゃあそこはいい…のかな……?
…あっ…!で、でも…!ほ、ほらやっぱり好きな人同士じゃないのにそういうことするのはやっぱり駄目だよね!うん!
そう…好きな人同士じゃない………。
ッ……。
…?なんだろう……?
今…胸が……?
…あっ……まだ服捲ったまんまだ……。
コンコン
「ユーリさん…今大丈夫ですか…?」
と、そこで扉が叩かれ、マーガレットの声が聞こえてきた。
あれ?
てっきりもう見送りに行ったんだと思ってたんだけど……。
「は〜い。大丈……」
……服直してない……。
私はいそいそと服を直してからもう一度呼んだ。
「失礼しま〜す……って、メリーちゃん起きたの?」
「………うん…」
「おはようメリーちゃん」
「…………うん…」
あれ…?メリーちゃん……顔赤くない……?
今までずっとべったりしてたとき、そんな顔赤くしたことなかったよね……?
えっえっ?まさかメリーちゃん…?
「え〜と…ユーリさん。その…さっきはごめんなさい…」
「えっ?あっ…えっと……?」
さ、さっきのって……さっきのだよね……?
…あぅ……!
思い出しちゃった……!
「ちょっと…やり過ぎたと言いますか……その……ああいうからかいは控えてほしいってことが言いたかっただけなので……その……そ、それだけです!いってきます!」
「えっ…う、うん…いってらっしゃい……」
それをわざわざ言いにきたの……?
さっきそれとなく終わったんだからそのまま行けばよかったのに……相変わらず律儀な人だなぁ……。
と、それはさておき……
「メリーちゃん…」
「……?」
「…コウスケのこと…好きなの…?」
「ぴぇっ…!?」
わっ。聞いたことない声が出てきた。
「……えと……えと……!…………ぅん……」
わっ!やっぱり!
顔真っ赤にして可愛い〜♡
う〜ん…でも……昨日一緒にコウスケのことをくすぐってたときはいつも通りだったのに……何があったんだろう?
…まぁそんなことより!
「メリーちゃん…メリーちゃんはどこが好きなの?コウスケのどこに惹かれたのぉ〜!?教えて教えてぇ〜!」
「きゅぅ〜…!?やぁぁ……!」
あっ逃げた!
も〜可愛い〜♡
「待って〜メリーちゃ〜ん!教えてよぉ〜!」
「やぁぁぁ…!」
そうして私たちはパタパタと寮を走り回り、洗濯物を持ったフルールさんに怒られ、家事のお手伝いをして許されました。
いやぁ……朝からはしゃぎ過ぎたね……。
このときにはもう、さっきの胸の違和感のことは忘れてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〔コウスケ〕
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
現在私は風になっております。
別に大砲に詰められて飛ばされたとか、トラックに吹っ飛ばされたとかではないですよ?
人に抱えられて風になってるだけなので。
まぁつまり…
俺は自分が首元にガッシリ抱きついている人物の顔をチラッと見る。
その人は暗い緑色のショートヘアーで、体のラインはとんでもねぇナイスバディ。
だというのに俺を抱えて屋根をぴょんぴょんビュンビュン、恐ろしあ。
その人とは隠密ギルド所属のSランク冒険者であるココさん。
以前と同じように俺を抱えるココさんは、相変わらずの超スピードで俺をギルドとも東門とも違う方向に向かって進む。
寮から出て、少し路地を進んだところでココさんが現れた。
そこでココさんは2人の泊まった宿へと連れて行くと言ったのだ。
とりあえず東門にダッシュするつもりだったノープランな俺には、その言葉は正に渡りに船。
二つ返事で了承し、現在に至る。
ちなみに途中でマグが起きたとき、軽くテンパっていたので簡単に説明して落ち着かせた。
が、ユーリさんに「あとでお話があるから待ってて」と言い忘れた俺は内心ビクビク震えていた。
そうしているうちに、ココさんが地面に降りた。
俺が目の前を見ると、1つの馬車とハルキとダニエルさん。
宿の店主と思われる女の人と、護衛と思われる何人かの冒険者。
そしてエリーゼとフレデリカの姿があった。
「「マ…マーガレットっ!?」」
2人は俺の姿を見るなり驚いた声をあげる。
気持ちは分かる。
「ありがとうございます、ココさん」
「問題ない。それよりもあの子たちと話してあげなさい。あまり時間は無いよ」
「はい!」
下ろしてもらいお礼を言うと、ココさんはそう言って俺をエリーゼたちへと向かわせた。
「エリーゼ!フレデリカ!」
「「マーガレット!」」
俺が駆け寄ると、2人もこちらへ向かってくる。
2人は俺に近づくと、俺の手をそれぞれ握って興奮した面持ちで話し始める。
「すごいねマーガレット!ピョーンって!ピョーンって!」
「わざわざ見送りに来てくれるなんて…嬉しい…!」
「ねぇねぇ!あの人誰なの!?マーガレットを抱えてぴょんぴょん飛んでくるなんてすごいよ!」
「でもまさか文字通り飛んでくるなんて思いもしなかったわ!」
「せめて交互に喋ってくれない!?」
(全然分からないよ!?)
「あっごめん」
「あっごめんなさい」
何言ってるかさっぱり分からん!
「えへへ…♪でもマーガレットが来てくれるなんて思わなかったよ〜!」
「ほんとよ!こんな朝早くに出発するって聞いたとき、もう会えないかと覚悟してたのに……」
「そんなの寂しいじゃん!だからせめて見送りだけでもって思ってたんだけど……ココさん…私を連れて来てくれた人なんだけど、その人が来てくれなかったら今頃私はがむしゃらに東門に走ってたよ」
「そっか!そっちが王都だもんね!」
「確かにギルドへ向かったり、私たちを探し回るよりは確実だものね」
「頭良い〜!」
「ふふん♪初歩的なことだ、友よ」
この程度の推理…ゲージを消費せずとも出来るとも。
「まぁそれだと、混乱やら過激派の連中やらを警戒して遠回りしたときには会えないがな…」
「ぐっ!?痛いところを……!?」
ダニエルさんは相変わらず的確な意見をするよなぁ……!
「というか、ハルキさんはララさんにまかせたのでまだ分かりますけど、ダニエルさんはなぜここに?」
「こういう、あんまり大勢に知られたくないことは俺たちの管轄だからな。まぁお嬢が昨日一緒にいたから余計に目立っちまって、今更といえば今更だがな」
「そんな人を珍獣みたいに……」
「いや、実際珍獣だろ」
「その評価には断固抗議します!」
はぁ……まぁ理由は分かった。
「…それで気を利かせてココさんを私のところに呼んでくれたんですね……」
「いや、俺じゃない」
「えっ?」
ダニエルさんじゃない?
じゃあ誰が……?
「私が呼ぶべきだと思った」
「ココさんが?」
「あなたはこの子たちに良い影響を与える。だからしっかり話をさせてあげたほうが良いと判断した」
ガッチガチの合理的判断だ……。
ストイックなココさんらしいなぁ……。
「まぁそういうことなら、時間ギリギリまでお喋りしようか!」
「やった!」
「ふふふ!それじゃあ何から話すの?」
「そ〜だなぁ〜……」
フレデリカの問いに悩む俺。
いろいろ話したいことはあったはずなのに、こうしていざ顔を合わせると、何を話せばいいか分かんなくなってしまう。
ほんと困るよね、こういうの。
「あっじゃあさ。ちょっと気になってたんだけど、フレデリカは魔導士って感じだけど、エリーゼは騎士って感じの格好してるからさ。もしかして騎士なの?」
「うん!そうだよ!」
「まだ学生だけどね。でもエリーは本当に強いのよ?先生だって倒しちゃうんだから!」
「おぉ〜!それは凄いね!」
「えっへん♫」
でもちょっと忖度入ってんじゃねぇかと疑う、俺の悪い癖が発動してるぞ☆
(それってエリーゼとフレデリカに気を遣って…だったりしませんかね……?)
(あっ同士)
マグも同じこと考えてた……。
やっぱり思うよねぇ……。
でも目の前のこの子の笑顔を守るためにそんなことは言わない。
代わりにちょっとした注意。
「でも強いからって油断しちゃ駄目だよ?追い詰められた相手ほど何をするか分からないんだから」
「分かってるよ〜♪」
「ほんと?じゃあ、相手が急に脱ぎだして、武器で大事なところを隠しながら戦いだしたらどうする?」
(えっやだ……)
「えっ……?それどうするのが正解なの……?」
「そのままやっちゃえばいいんじゃない?」
おっ。
フレデリカ、いいとこ突くねぇ〜。
でも残念。
「これが罠の場合、あえて弱点を出してそちらに注意を向けることで、こちらの動きを制限しようという可能性があるから、服を着てようが着てまいが弱点の首を狙えばいいよ」
(容赦ない……)
「ひ、酷い……!」
「というかそんな相手と戦いたくない……」
「まぁ普通に変態だから関わんないのが1番だよ」
(「「あっやっぱり……」」)
「…お前らなんの話してんの……?」
なんの話かと聞かれれば……あれ、なんの話だこれ?
「まぁとにかく、いろいろヤバいのはいるから油断しないでね。怪我とかしないよーに」
「あはは!は〜い♪」
「…さすがにそんな変態がいるとは思いたくないけどね……」
「そうだね……」
(私もそう思う……)
うん、俺もそう思う。
でもヤバいやつって、そういうやらないだろうなってことをやってくるからヤバいやつなんだよ?
ほんと気を付けなね?
「はっ!そうだ!ねぇねぇマーガレット!マーガレットってすごく人気者なんだね!」
「うん?なぁに、突然……?」
「私たち、他の人たちが話してることを聞いたんだけど、みんなマーガレットのことを話してたのよ」
「えぇ……?」
昨日みんなが俺のことを…って…………新聞かなぁ……?
「それでね!その中の誰かが、マーガレットに好きな人がいるらしいって言ってたの!」
「えぇ?なんでそんな……あっ……」
(…パメラですね……)
(あの子かぁ……)
そういえばホールで堂々と、俺の思い人を教えろってせがんできてたもんなぁ……。
「ねぇねぇ!マーガレットの好きな人ってどんな人なの?」
「私も気になるわ。ねぇ、どんな人?」
「えぇ〜……?」
困ったなぁ……。
俺が言うとマグのことになっちゃうし……。
だからって自画自賛とか嫌だし……。
(えへへ〜♡コウスケさんは優しくてぇ…♡いっつも私のことを気遣ってくれてぇ…♡でも私がおねだりするとちゃんと激しくて幸せなキスをしてくれてぇ…♡それにカッコよくてぇ…♡でも可愛くてぇ…♡私のことを大事にしてくれる自慢の恋人ですぅ♡)
(やめてやめてマグやめて。そんな怒涛の誉め殺し始めないで?)
唐突なマグからの賞賛に焦る俺。
それが表に出てしまったようで、エリーゼとフレデリカに指摘されてしまう。
「あ〜!赤くなってるぅ〜!」
「きゃあ〜!可愛いわマーガレット!」
「うぅ……!」
「ねぇねぇマーガレット〜!」
「教えなさいよ〜!」
「や、やだ!こういうのは人に言うもんじゃないの!」
「「えぇ〜?」」
逃げようにも手を握られており、それを振り解く気が俺にはないので、俺は2人からぐいぐい質問責めをされることになってしまった。
「お、おい……聞いたか……?」
「あ、あぁ……」
「一体誰があの天使を……」
「こりゃ血の雨が降るぞ……」
周りもザワザワとしているようだが、俺は今それどころじゃないのでよく聞き取れない。
(も〜!マグのせいで大変なことになっちゃったじゃ〜ん!)
(良いじゃないですか〜♪それよりコウスケさんはどうなんですか?)
(えぇ?)
(コウスケさんはぁ…私のことをどう思ってるんですか♡)
(そ、それは……!)
(それは?)
(〜〜〜っ!)
「マーガレット顔真っ赤〜!」
「これは本気で好きなのね……♪エリー、絶対に聞き出すわよ!」
「りょーかい!」
マグに文句を言ったら、余計に大変なことになってしまった……!
どうするどうする……!?
「マーガレット〜?教えてよ〜?」
「早く教えないとくすぐっちゃうわよ〜?」
「くっ……!そんな脅しに屈したりは……!」
「知ってるよ〜?マーガレットがくすぐりに弱いってこと♪」
「えっ」
「うんうん♪いろんな人が言ってたし、それにぃ……ジャーン!」
「(あぁっ!?そ、それはぁっ!?)」
フレデリカがノリノリで馬車から取り出したのは新聞紙。
そこにはネズミっ子姿のマグが写っていた。
「そ。新聞〜♪お土産にってくれたのよ♪」
「(だ、誰に……?)」
「昨日宿に泊まってた人たちだよ!」
「(へっ…?)」
宿泊客に……?
で、でも2人は、あまり心象の良くない王都の貴族だからって特別に用意したのに……?
困惑する俺にダニエルさんがエリーゼたちの後ろでどこかを指差している。
そちらを向くと、そこには護衛の冒険者の方たちがいて、皆一様に俺から目を逸らしている。
……ほ〜ん?
「ねぇねぇマーガレット!マーガレットは本当は獣人なの?」
「ん……いや…それは薬を飲んだからだよ」
「えっ?飲んだら獣人になるお薬があるの?」
「うん。試作品らしいけどね」
「じゃあマーガレットが獣人になったら、ネズミになるってこと?」
「そうなるね」
「「可愛い〜!」」
それは分かる。
マグのネズミっ子状態とか、俺だって永久保存するもの。
でも写ってる場面がなぁ……。
と、そこでフレデリカが思い出しやがり、件のページを開きやがった。
「うふふ♡それでね?…これ。マーガレットがくすぐられてめちゃめちゃになってるところなんでしょ?」
「……まぁ……そうだよ……」
「あっ、そんなに嫌そうな顔しないでマーガレット。証拠として見せただけだから……」
「うん……こんな恥ずかしいところを写されるなんて、人気者も大変なんだね…マーガレット……」
「…は…ははは……はは……」
今大変な状況に置かれてる子たちに同情されるなんて……。
こんなもん苦笑いするしかねぇ……。
「まぁ…そういうわけだから……ね?マーガレット?」
「私たちにあなたの好きな人のこと……」
「「教えて♪」」
「…………」
気を取り直した2人は、再び俺にそう頼んでくる。
…指をワキワキと動かしながら……。
これ実質脅しだよね?
俺はこんな朝早くだというのに、また難しい選択を迫られることになったのだった。
今とあるゲームにハマっているのですが…欲しい機体が作れない……!
デコイ波動砲とかフレキシブル・フォースとか使いたいのに、それに必要なパスワードが分からない……!
…こほん……失礼しました……。
次回の更新は5/4(火)の予定です。
お楽しみに!




