146.4階層のボス…の真相
『おはよう人気者』
「しばくぞ」
『ははは』
結局おじいさんはギルドに着くまで俺を抱えてくれた。
その結果、ギルドに着いた時にまた恥ずかしい思いをしてしまった。
なので俺は、おじいさんにお礼を言った後、そそくさとこの通信室に逃げ込んだのだ。
「はぁ……その様子じゃ、今日の新聞見たんだろう?」
『もちろん。というか、毎日ウチに届くように契約してるからね』
「えっ?てっきり迷宮内に部屋作ってるもんだと……」
『はははっ!確かにあるけどね。一応この街では商人で通しているから、表で店を持っていないと怪しまれるだろう?』
「あ~…それもそうだなぁ……」
確かにそれならマイホームを持ってても不思議じゃないか……。
『もし新聞取りたいなら、コウスケのところも頼んでおこうか?』
「お~、じゃあお願い……あ~いや、ウチに新聞を買って読んでる人がいるから、みんなにも聞いてからじゃないと……」
『それもそうか。じゃあ聞いといてくれる?』
「了解。契約料っていくら?」
『いや、それは僕が払っておくよ。4階層を突破しようとする冒険者は久しぶりだからね』
「(えっ?)」
久しぶりって……どゆこと?
「いやいや、昨日確か7階層までは出来てるって……」
『うん。でも4階層を突破した人って、実はかなり少ないんだよね。みんなボスが倒せなくて詰まっちゃって』
「(…………)」
ハルキの話に唖然とする俺たち。
だが考えてみれば当然だ。
3種のバリアを扱う敵など、ソロだったり偏った編成だと、高ランクの熟練冒険者でもそうそう突破できるものじゃない。
「……4階層のボスってどう倒すんだよ……?」
『えっ?簡単だよ』
「(えっ?)」
簡単……?
『赤いバリアには武器攻撃、青いバリアには魔法攻撃、そして黄色いバリアは……』
「(黄色は……?)」
「しばらく手を出さなければ勝手に消えるよ」
「(…………は?)」
しばらく手を出さない……?
『いやぁ~!実はあのボス、最初はダンジョンコアの門番にしてたんだけど、迷宮が育ってきてより強い魔物が生み出せるようになって交代させたんだよ。あいつバリアは厄介だけど、普通に戦うとEランクの冒険者パーティに負けるからね』
ハルキが朗らかに笑いながらそんなことを言う。
『それで置いてみたら、バリアを破る手段が分からないみたいで、ほとんどの冒険者が諦めちゃってさぁ。でもまぁそのとき、迷宮は6階層までしか出来てなかったからちょうどいいかぁって思ってたし、4階層まででも十分生活できる稼ぎは出せるみたいだからってそのままにしてたんだよ』
ハルキは楽しそうにどんどん話す。
『そしたら、《悪魔の門番》!な~んて二つ名が付いちゃって、変えるに帰られなくなっちゃってさぁ~!ははは、参ったよ!』
「いやいや待て待て!じゃあその突破した冒険者って……!」
その攻略法を知ってるってこと……!?
『いやぁ…実は突破した冒険者はみんな、一撃で吹き飛ばしてるんだよね……』
「(い、一撃……!?)」
『うん。だからバリア自体、最初に出す赤しか見てないって人がほとんどだよ……』
「ご、ごり押しだ……」
でもその手があったか……!
『でも黄色いバリアを出してるときって丸くなって防御姿勢をするから、その間に態勢を整えたり、タメ技の準備をしたりで割とすぐにバレるもんだと思ってたんだけどな~……まさか誰も90秒待とうとしないなんてね』
「90秒……」
(え~っと……1分30秒…ですね……)
それを敵の…しかもフロアボスの目の前で待つって……。
「そっ……」
『そ?』
「そんなの分かるかぁーっ!!」
(ひゃあっ!?コウスケさん!?)
無理だろそんなん!
初見で分かるわけねぇよ!
そんなピンクの悪魔のゲームに出てくるギミック、攻略情報が無いと一生気付かねぇよ!!
「敵を目の前にして90秒も待つ奴いねぇよ!なんだそれ!?通るダメージ的にダークエレメントかと思ったら、最後の最後でまったく違うじゃねぇか!?」
『それは僕も思ったけど、こればっかりは迷宮に聞いてよ〜。生み出せる魔物を1から設定してるわけじゃないからね』
「ぐぬぬぬぬ……!」
どうやらこの世界のダンジョンシステムを作った奴は相当嫌なやつらしい……!
「……はぁ~……でもそれじゃあ、いくらそこまででも十分稼げるとはいえ、悪評が広まっちまうぞ……?」
『ははは、確かに。二つ名まで付いて、1つのアトラクションみたいに捉えられたから良いけど、冒険者たちが激減しててもおかしくないもんね。いやぁ~よかったよかった!』
『よくありませんっ!』
『あいたぁっ!?』
ズドンッ!
という重い打撃音と共にハルキの悲鳴が聞こえてきた。
あ~……フォーマルハウトだな……。
ダンジョンナビたるフォーマルハウトが、こんなバランスブレイクダンジョンを容認するわけないわな。
『いたたた……!なにすんだよマル子……!』
『結果が良かっただけなんですから、ちゃんと反省してくださいっ!それとマル子はやめてくださいっ!』
「ド正論」
(ですね)
いくら結果が良くても、次もそう上手くいくとは限らない。
そもそもそうならないように手を打つのが1番なのだ。
『ちゃんと反省してるさ。そこら辺を踏まえて5階層から下は作られてるんだから』
『それはそうですけど……』
「そうなの?それならいいけど……」
ちゃんと反映されてるなら言うことは無いや。
『あぁそうだ。昨日のDP稼ぎについてだけど、ロッサ村の教会にいた人たちが協力してくれることになったよ』
「おっ、そうなのか」
(教会にいた人たち……でも2人しかいませんよ?)
「えっ。マグが2人しかいないって言ってるんだけど」
『うん。2人だったよ』
少なっ。
「足りるの?」
『足りないけど、元々の数が数だから、少しでも人手がいるだけでありがたいよ』
「そっか」
『まぁそういうわけだから、結果が出たらまた教えるよ』
「うん、楽しみにしとくよ」
『あと、新聞のことは注意勧告を入れとくよ。さすがに目に余るからね』
「……よろしく」
『うん。じゃあの』
「じゃあの」
そこで通信は終わり、俺たちは下へと向かう。
(ロッサ村の人たち、いろんなところに行ってるんだねぇ)
(そうですね。もしかしたらどこかで会うかもですね)
龍災害のときにマグとその両親を疑ってた人も推測されてることだし、ちょいちょい絞り込んで必ず後悔させてやる。
(くくく…楽しみだなぁ……)
(わぁ、なんだかすごく悪い笑い方してる)
楽しみなもんでつい。
通信室と繋がっている会議室から出ると、ちょうどショコラちゃんとパメラちゃんが着替え終わって休憩室から出てくるところに鉢合わせた。
「あっマグ!おはよう!」
「おはよ〜マグ」
「おはようショコラ、パメラ」
「ねぇマグ、その部屋で何してたの?」
「簡単に掃除してたんだよ。で、終わったから出てきたの」
「そうなんだ。じゃあちょうどよかったんだね」
「そうだね」
ハルキと会話していたことを適当に誤魔化しつつ、2人と一緒に下へと降りる。
「おはようございます。マーガレット様、ショコラ様、パメラ様」
「おはようございます、リンゼさん」
「「お、おはようございます……」」
2人がちょっとソワソワしてるけど、気にせず今日の予定を聞いてみる。
「リンゼさんは今日はどちらに?」
「今日は珍しく届け物は無いので、ララさんのお手伝いですね。ショコラ様とパメラ様とご一緒ですね」
「そ、そうなんですね…よろしくお願いします……」
「よろしくお願いします……」
「?何故お二人はそれほどまでにソワソワしておられるのですか?」
リンゼさんが単刀直入に尋ねると、パメラちゃんがもじもじしながら答えた。
「あの…やっぱり「様」呼びはちょっと……ねぇ…?」
「うん……」
あぁやっぱりそうなんだね。
「ふむ……ではどうすれば慣れてもらえますか?」
「「やっぱり変える気は無いんですねっ!?」」
「はい」
ごめんね、リンゼさんはこういう人なの。
「ショコラちゃ〜ん、パメラちゃ〜ん!」
「ほら、ララさんが呼んでおります。行きましょう」
「あっはい」
「…どうしても変えないんですね……」
ララさんに呼ばれ、リンゼさんと、釈然としない様子のショコラちゃんとパメラちゃんが歩いていく。
…さて、俺も仕事を……
「あっマーガレットちゃん……!」
「ナタリアさん。…何ですか?人の顔を見るなりそんな……あっ」
今日の新聞のせいで表に出たくないってことを伝えないと。
結局俺もララさんの元へと向かうのだった。
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しばらく裏方の仕事をして、そろそろお昼ご飯の時間だとお腹が知らせてくれたとき、今日はまだ聞いていない元気な声たちが聞こえてきた。
「マーガレットちゃ〜んっ!」
「マーガレットぉっ!」
「あっ、おかえりなさ…ってどうしたんですか?そんなに疲れた顔して……」
カウンター越しにメイカさんとユーリさんに呼ばれ、彼女たちの顔を見るなり俺はそう言った。
だって…なんか肉体的な疲労じゃなくて、精神的に疲れてるような表情なんだもの……。
俺は受付を担当していた先輩からメイカさんたちの対応を引き継ぐと、カウンターから出てメイカさんたちに会いに行く。
までもなく、従業員入り口から出た俺にユーリさんがタックルハグをしてきた。
「ぐふっ…!うぅ……ユーリさん…今日はどうしたん……」
「聞いてよマーガレットぉっ!!」
「…どうしたんですか……?」
至近距離での大声に怯みながらも、話を中断せずに頑張って聞く。
するとさりげなく俺の後ろに回り込んで、後ろからユーリさんごと抱きしめていたメイカさんが話し始める。
…2人の柔らかな凶器にむぎゅむぎゅ挟まれた俺は心を無にしようと努めた。
「あのね?今日4階層のボスを倒しに行くって言ったでしょ?」
「はい、聞きました」
「それでね?ボスまで行って、また黄色いバリアを出したところまでは良かったんだけど……」
「けど?」
「…も〜!酷いのよぉっ!?」
「…何があったんですか……?」
後ろからの大声にまた怯みつつ、それでも話を進める俺。
すると今度は、俺の胸に顔をぐりぐりさせてなでなでを要求していたユーリさんが話し出す。
「マーガレットの言った通り、まずは遠距離攻撃をしてみたけど駄目で、次に強弱を調整して攻撃してみたんだけどそれも駄目。だったらって無属性の魔力球を投げてみたんだけど弾かれて……」
「それじゃあ、どうせアイツは動かないし、次は何を試すかって話してたら、急にバリアが赤に貼り変わったのよっ!?おかげで倒せたけど、全然すっきりしなかったわっ!」
「(あら〜……)」
それは……そうでしょうねぇ……。
対策を練っていたら急にバリアが消えたとか、意味分からんもんねぇ……。
さっき真実を聞いた俺はそう思うが、ダンジョンマスターに聞いたなどと言うわけにはいかないので、それらしい理由で納得してもらうことにする。
「あれじゃないですか?相手も攻撃出来ないわけですし、しばらく手を出さなければ相手が折れてバリアを貼り替える…みたいな感じじゃないですか?」
「そんなの分かんないわよぉ〜!」
「ボスを目の前にして、攻撃しないだなんて無理だよぉ〜!」
俺の言葉に泣き言を漏らすお二方。
それと同時に抱きしめる力がより強くなり、2人のお山が俺を挟んで接触した。
それに周りから「おぉ……!」と感嘆の声が漏れる。
なおそこまで強くされると、どんなに柔らかかろうと圧迫感で苦しいのでやめてほしい。
(はぅぅ…♪ふにふにぃ…♪)
お胸大好き少女マグが夢心地な声を出してるが、言ってる場合では無いよマグ?
軽く生命の危機よ?
と、そこにアイテム換金が終わったディッグさんとケランさんがやってきた。
「よう嬢ちゃん。お疲れさん」
「お疲れマーガレットちゃん」
「お疲れ様です。あとおかえりなさい、ディッグさん、ケランさん」
「おう」
「うん、ただいま」
「「はっ!しまった!」」
俺たちが挨拶を交わすと、メイカさんとユーリさんが過剰に反応する。
だから急に大声を出さないで?近くにいるんだから……。
が、次のメイカさんの言葉に、そんな些細なことは気にならなくなった。
「マーガレットちゃん!今日はデレデレな感じで言って欲しいな!」
「えっ?」
「あっ…あっ…!わ、私もお願い!」
「えっ?」
「「おかえりって言ってほしいなぁ!」」
「……えぇ……?」
また……?
一昨日みたいなことやれと……?
今お昼だから迷宮から出てお昼ご飯を食べに行く人がいっぱいいるのに……?
「やだぁ……」
「「えぇっ!?なんでぇ!?」」
「だってぇ……」
俺は左手で自分のマジックバッグから今朝の新聞を取り出す。
「またこれに載りそうですもん……」
「「?」」
2人は俺から離れることなく、俺の左手に持たれている新聞を読み始める。
…どっちかは離れると思ったんだけどなぁ……。
「あ〜…昨日のやつだねぇ」
「でも見た感じ、そこまで嫌がるようなものは……ん?【天使のもっと凄い姿は見開きで!】……?」
そうして2人は問題のページを開く。
「はわっ!?」
「…あぁ〜……これはマーガレットが嫌がるわけだよ……」
「でしょう……?」
メイカさんが顔を赤くして驚き、ユーリさんが同情してくれる。
今回の記事には俺を襲っているメイカさんが写っている訳だし、これには流石のメイカさんも……
「これは……永久保存版だわ……!」
「(「…………え?」)」
今、なんと……?
「こ〜んなに可愛い表情のマーガレットちゃんが写ってるなんて、最高よ!お宝よ!家宝だわぁ!」
「えっ…ちょっ……」
俺がさっき嫌そうに見せたことや、ユーリさんが同情してくれたことを忘れ去ったのか、メイカさんのテンションは最高潮へ。
対する俺はどん底へ。
テンションアゲアゲなメイカさんは、ユーリさんにも同意を求める。
「ユーリちゃんもそう思うでしょう!?」
「あっ…えっと……」
「昨日みたいな可愛い顔がいつでも見れるのよ!最高じゃない!」
「そ、その……」
同意を求められたユーリさんは、言葉を詰まらせ、メイカさんと俺を交互に見る。
多分、本心は可愛いと思ってるけど、嫌がってたし流石にこれはどうかと思ってるしで、なんて答えればいいかパニックを起こしているのだろう。
優しい子だねぇ。
「ユーリちゃん?はっ!?」
そんなユーリさんの様子に、メイカさんは何かに気付いたように声を上げる。
ようやく気付いたか?
「ユーリちゃん……ごめんなさい…気付かなかったわ……」
「えっ?あっいえ、気付いてくれたのなら別に……」
「確かにこの表情を私たちだけの秘密に出来なかったのは残念だわ……」
「へっ?」
あ、やっぱり分かってなかったね。
「私とユーリちゃん…そしてメリーちゃんだけの秘密にしておきたかったわね……ごめんなさい…気付くのが遅かったわ……」
「えぇっ!?ち、ちが……」
「でも今度フルールも誘おうと思ってたのよ……だから3人だけの秘密には出来ないのよ……」
「そ、そうじゃなくて……!」
「えっ?じゃあまさか……独り占めしたかったのね!?分かるわ!私も出来れば独り占めしたいもの!」
ユーリさんの話を全く聞かずに、1人盛り上がり続けるメイカさん。
対するユーリさんは顔を真っ赤にして涙目になってしまっている。
俺はそんな彼女に囁きかける。
「…ユーリさん、メイカさんから離れましょう。そして私を守ってください」
「う、うん……!わかった……!」
コソコソ話を終えたユーリさんは、早速俺を抱き上げてメイカさんから離れる。
テンションが上がったメイカさんは俺から手を離しているため、スムーズに脱出することが出来た。
「あぁっ!?ユーリちゃん!?なんでマーガレットちゃん持ってっちゃうのぉ!?」
「だ、だってマーガレットが嫌がって…」
「まさかユーリちゃん…独り占めする気ね!?」
「だ、だから違う…」
「いいわ!今夜マーガレットちゃんに添い寝してもらう権利を賭けて私と勝負よ!」
「き、聞いてくださいよぉ〜!!」
もう駄目だこの人。やべぇや。
無力化しよう。
「ねぇねぇメイカお姉ちゃん♪」
「はぅっ!なぁにマーガレットちゃん♡」
「今から言うことをよく聞いて欲しいの♪」
「うんうん、聞く聞く♡」
「じゃあいくよ♪」
「うん♡」
「《雷よ、あの者に動けぬほどの痺れを与えよ…パラライズ》♪」
「えっ…あばばばばっ!?」
昨日読んだ魔導書の1つに載っていた、相手を痺れさせて行動不能にする魔法。
昨日の夜にかましたのもコレ。
今回も上手くいったようで、倒れ伏したメイカさんは体をピクピクさせながら何か呻いている。
怖い。
「……悪は滅びた……」
(さすがですコウスケさん……)
「さすがマーガレット……」
「一応メイカさんは、魔法耐性の上がる装備を身に着けてるんですけどね……」
「容赦なく痺れたな……」
ケランさん…そういうのは先に言ってよ……。
それ着けてこの状態って、元の威力だとどうなってたことか……。
はぁ……まだまだ練習しないとだな……。
敵やダンジョンのギミックって考えるのは楽しいけど、「いざ投稿だ!」ってなった途端に「これでいいんだろうか…?」って不安になってしまう……。
これも作者となったものの宿命なのか……。
まぁそんなことよりも、次回の更新は4/1(木)の予定です。
エイプリルフールですね。
ネタ書きたいけどせめて第二章が終わってから…って似たようなことを前も言った気がしたような忘れたような……。
……ではでは☆