137.大図書館…お眠のときの対処法
「あ、あの……!もう自分で歩けますから……!」
「もうちょっとだけ」
「さっきもそう言ってたじゃないですかぁ……!」
「もうちょっともうちょっと♪ほら、あーん」
「……あー…む……」
薬の効果によってネズミの耳と尻尾が生え、それをくすぐられすぎて足腰がやべぇことになった俺をお姫様抱っこしてくれたグリッジスことグリムさん。
薬耐性のことを忘れていたといううっかりをかましてくれたことで下がっていた俺の中のグリムさんの株は、窮地から救ってくれたことと足代わりになってくれたことで回復どころかそこそこ上に上がっていったのだが……。
「こっちもどうだい?」
「あぅ…えっと……いただきます……」
「うん♪」
なんでかグリムさんの書斎…魔術ギルドのギルドマスターの部屋に連れてこられたかと思うと、俺を抱えたままソファーに座り、他のギルドスタッフにお茶とお菓子を持ってきてもらうや否や、俺に餌付けを始めた。
何故だ。
「いいなぁ~…グリムさん。あたしもマギーちゃんにお菓子食べさせた~い…!」
「あ、あたしは別にそんなこと少しもちっともこれっぽっちも思ってないし……!」
「ふふふ…マスター特権さ」
職権乱用で捕まってしまえ。
はぁ……なんでみんな俺に食べさせたがるんだ……?
…いや、まぁ俺も確かに、マグを餌付けしたいな。
やべぇな気持ち分かっちゃったよ。どうしよう。
それはともかく、どうにかここから抜け出して本を読まないと……。
大変なことに、今、俺、めっちゃウトウト。
こんなところで眠ったら、何されるか分かったもんじゃない。
マグに代わろうにもさっき…
(もうちょっと!もうちょっとだけ甘やかされるコウスケさんが見たいです!)
(いやいやそれは……)
(見たい見たい見~た~い~!)
(も~!しょうがないなぁ!)
(やったぁ!)
と、可愛らしくごねられては、マグにめっぽう弱い俺が断り切れるわけも無く……。
ふぅ…NOと言える人間になりてぇな。
「ほら、マーガレットくん。この紅茶もお飲み」
「あっじゃあ自分で…」
「はい、動いたらこぼれてしまうよ」
「いや飲み物は他人に飲ませてもらうと大体こぼれるのでは?」
「さ、どうぞ」
「聞いて?」
少なくともこうはならないようにしたいな。
「はいは~い!マギーちゃん!そのお茶とこのお菓子を一緒に食べるとすごく美味しいよ!」
「んくっ…んくっ……ぷあっ。そうなの?じゃあ…」
「はい、あ~ん!」
「チェルシーまで……」
「ほらほら!」
「いやでも……」
「ダメ……?」
「……あ~……」
「えへへ…あ~ん♪」
無理だね。
あんな寂しそうな顔されたら断れませんね。
あまりにも弱いね俺。
「あっ…あっ…!えっと…えっと…!あっ!こ、このお菓子も美味しいわよ?と、特別に食べさせてあげる!」
「そ、そうなの?じゃあ…」
「……!(じー)」
「……食べさせてほしいなぁ……」
「!しょ、しょうがないわねっ!今回だけよっ!はい、あーん!」
「あー……」
無理だね。
あんな必死にお願いされたら断り切れないね。
俺は何に強いんだろうね。
「ふふふ…やはり君はそうしている方が似合っているよ」
「もくもく……それ褒めてます?」
「褒めているとも。魅了の魔法や魔道具を使った形跡も無いのに、皆君のことを良く言うのは何故だろうと思っていたが、こうして会って分かった。君は合理的でありながら、優しさを捨て切れない苦労性なのだ」
「ほんとにそれ褒めてます?」
一言も良い感じの言葉が無いんだけど?
「ははは、そのおかげでこうして皆に懐かれているのだ。ならばそれは長所だろう?」
「それは…まぁ……」
嫌われてるよりは確かに良いんだけど……。
う〜ん……俺はもうちょっと普通の友達関係が良かったなぁ……。
これマグのときもこうなるってことだもんね?
どうだろう……マグはこの距離感に慣れることが出来るだろうか……?
「マギーちゃん!」
「マーガレット!」
「「あーん!」」
「…せめて片方ずつちょうだい?」
慣れるかなぁ…?これ……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
結局お菓子を全部食べさせられたところで、ようやく本を読みに行こうとなった。
書斎から出ても相変わらず降ろしてくれないグリムさんはもう諦めて、俺はなんの本を読むかマグと相談する。
(さて…何読む?)
(そうですねぇ……いろいろ見て回りたいですけど……まずはやっぱり魔導書ですかね?)
(まぁそうだよね。んじゃあ聞いてみるわ)
(お願いします)
というわけでグリムさんに要請。
「グリムさん、魔導書を読みたいのですけど……」
「うむ、了解した。とはいえ、流石に規則は守ってもらうけどね」
「規則?」
「あぁ。ランクごとに閲覧制限があるのは知ってるかい?」
「はい」
「君はGランクだと聞いたよ。だからFランクまでしか見せられないんだ。済まないね」
「あっいえ、それは当然ですよ。特別扱いされても困りますし……」
「はは、そう言ってくれると助かるよ」
規則って聞いて何かと思ったけど、すでに知ってることだったからよかった。
「それで魔導書だったね。確か雷だったかい?」
「あっ…適性はそうなんですけど、出来れば他の属性の本も読みたいんです」
「ふむ?…あ〜……もしかして「ジーガ」という者が書いた魔導書を読んだかい?」
「!ジーガという人を知ってるんですか?」
「あぁ…知ってるさ……。私も彼の本を読んだが、あれはちょっとどうしたもんかと思ってしまった……」
「おぉう……」
グリムさんも知ってるのか……。
なんだか親近感。
「マスター。そのジーガという人の本はそんなにヤバいのですか?」
「ヤバいと言えばヤバいね。自意識過剰で自信過剰…おまけに心配性な上にしょうもないシャレが好き……正直読んでて疲れる」
「そ、そんなに……」
グリムさんの話を聞いたシエルが戦慄している。
あれなぁ……もう読まねぇだろって部屋に飾られてるなぁ……。
日記の内容が愚痴にならないように戒めとして見える位置に飾ってあるんだよなぁ……。
効果はバツグンだ。
「じゃあマギーちゃんが他の属性も見たいって言ったのは……」
「他の本がどんなもんか気になったからっていうのと、属性は違えど、魔法の勉強にはなるんじゃないかなって思ったからだよ」
「うん、それは良い案だよ。でも流石に全部読むのは時間が無いんじゃないかな?」
「それは…そうですねぇ……」
今は大体2時半前。
属性は全部で9つあるから9冊。
それをあと1、2時間ぐらいで読むのはちとキツい。
「ここには他の雷の魔導書もいくつかあるんだ。今回はそれを見てみないかい?」
「えっ?魔導書ってそんなに書いてる人がいるんですか?」
てっきりそれぞれの属性の、オンリーワンのスペシャリストが書いてるもんだと思ってたんだけど……。
「あぁ、いろんな人が書いているよ。魔術ギルドにあるのは、読みやすいものや子供が読んでも大丈夫そうなことしか書いていないものだけだけどね」
「えっ。ということは、探せばポンポン出てくるということですか?」
「うん、ポンポン出てくるかもね。質はともかくとして」
なるほど……。
あるにはあるけど、質までは期待できないってことね。
ノートやペンが安価で手に入るのはこの街だから、って思ってたところがあったけど、割と他の街でもサクッと手に入るのかも?
それで、魔導書の作成を夢見る者も現れる…と。
ふ~む……こっちの世界でもこの業界は厳しいのな。
「なるほど。そういうことなら雷の魔導書をお願いします」
「分かった。早速持ってこさせよう」
そう言ってグリムさんは、近くのスタッフに雷属性の初級の魔導書を持ってくるように命じる。
それはいいんだけど、スタッフの方や道行く人たちにめっちゃ見られるからいい加減降ろしてほしい。
のだが、くすぐりによる笑い疲れ、グリムさんに抱えられて移動していることによる心地よい振動、並びに厚手のローブ越しに感じる柔らかく優しい感触、そして先程のお菓子大量食いによる満腹感で、眠気の進行がいとやばし。
他人に頼んでおいて自分は寝るとか、そんなことをするわけにはいかないのだが……。
あかん……。
瞼が重くなってきた……。
これ席に着くまで持つかな……?
というか席についても眠りそうなんじゃが……。
ん〜…ヤバい…眠い……。
「おや?マーガレットくん、眠いのかい?」
「ん〜…ちょっとだけです……」
「あはは、マギーちゃんいっぱい笑ったもんね♪」
「ん〜……」
誰のせいだよ……というツッコミを入れるのも億劫になっている。
「グリムさん……このままだと寝るので降ろしてください……」
「寝るのなら尚更降ろすわけにはいかないのだが?」
「歩かないと確実に寝ましゅ……」
「そんなウトウトしている状態で歩かせるわけにはいかないよ。ゆっくりお眠り?」
「…それだと今本を持ってきてもらってる人に悪いですぅ……」
「大丈夫さ。君が誠実な人間であることはみんな知ったからね。笑って許してくれるよ」
「…んぅ……それはそれ……これはこれです……」
「なかなか頑固だね君は……」
「マギーちゃんはそういう子なの」
「苦労しそうね……」
君ら他人事じゃねぇよ?
原因のひとつだよ?
「もうすぐ席に着くが……椅子よりも私の仮眠用のベッドの方がいいかな?」
「イスでおねがいします……」
「ふふふ♪はいはい」
寝るわけにはいかんゆーとるに。
眠気で若干イライラしつつも、ようやくテーブルに着いた。
ところで今思ったんだが、グリムさんの書斎で読ませて貰えば良かったのではなかろうか。
…いや、自分で探そうと思ってたし、ついでに探検もしたかったから別にいいや。
問題は席に着いてなお離してくれないグリムさん。
お姫様抱っこから膝乗せスタイルに移行したので机の方を向けてはいるが、本も持って来てもらうことになっちゃったし、こっから動ける気がしない。
(マグぅ……そろそろ変わってよぉ……)
(う〜ん……ここまでくると体の疲れが大半で、私と変わってもそのまま寝ると思いますよ?)
(うぅ〜……)
(はぅっ!そ、それに魔法のことならコウスケさんの方がしっかり読んだ方がいいと思うんです!)
(そぉだけどぉ……)
(んぅっ!…と、とにかくっ!もうちょっとだけ!せめて1冊だけでも目を通しましょ?ね?)
(ん〜…わかった……がんばる……)
(はいっ!お願いしますっ♡)
やたらテンションの高いマグに押し切られ、結局俺がそのまま対応することに。
ぬぅぅ〜……眠いぃ……!
こうなったら軽く腕をつまんで痛みで意識を保たせる……!
あ〜…地味に痛い……。
凄い地味に痛い……。
…これ眠気に勝てるかな……?
「あっ!マギーちゃんが眠気を誤魔化すために腕をつまんでる!」
「こらこら、そんなにつまんだら肌に悪いよ?」
阻止されやした。
両手をそれぞれチェルシーとグリムさんに抑えられて阻止されやした。
酷くない?
ぎゅっ
「…シエル……?」
「な、なによっ!?あたしはただあなたの手が寂しそうだから握ってあげただけよっ!」
「えーと……うん…ありがとう……」
寂しかったのはシエルの方では?
という言葉は言わずにおく。
うぅ〜……しかしこれじゃあほんとに寝るぞ……?
あ〜…じゃあお話で意識を繋ぐ作戦だ……。
「グリムさん……このギルドにはどれほどの本があるんですか……?」
「ん?そうだねぇ……前数えた時は2000は超えてたかな?」
「(2000……!?)」
多い多いとは思ってたけど、改めて聞くと凄いな……!
てか待て待て!
「えっでも、外から見た感じだと他のギルドと同じぐらいでしたよ?読書スペースに書斎もあって、先ほどのお薬を作るスペースもあるとしたら、外観が他と同じなのっておかしくないですか……!?」
(あっ!確かに!)
言われて気付いたマグも声を上げる。
そうなのだ。
外観は他と変わらないのに、明らかに中が広すぎる。
これはおかしい。
「ふふふ…良いところに気が付いたね。マジックバッグには《収納》の魔法がかかっているだろう?」
「はい」
初耳です。
てかやっぱり《収納》って名前なんだ。
あれかなぁ……?
この魔法を作った人がそういうタイプの人だったんかな?
「それを応用して、外はそのままに中の空間だけをいじって広げたのさ」
「そ、それってとんでもなく凄いことなんじゃ……」
「まぁ最初は大変だったが……今は魔道具が私の代わりに魔力を流してくれているから、私は定期的にその魔道具に魔力を補充してやれば良いだけだからね。楽なものだよ」
「いやいやいやいや……十分凄いですよ……」
それってつまり、魔道具来る前は自分で全部支えてたってことでしょ?
とんでもないなこの人……。
「ふふふ…羨望の目で見られるのは慣れているが、そんな純粋な目で見られると少し照れてしまうね」
「だって凄いんですもん……そりゃこうなりますって」
「ふふ…ありがとう」
はぁ〜……《賢者》の名は伊達じゃないってことか……。
ただのうっかりお姉さんじゃないんだな……。
「むぅ~……マギーちゃんの眠気が飛んでっちゃった……」
「なんでそれでチェルシーはむくれるの……」
「だってぇ…マギーちゃんの寝顔が見れると思ったのに~……!」
「私としては寝たくなかったからいいの」
「あたしは見たかったの~!シエルちゃんも見たかったでしょ?」
「えっ!?あ、あたしは別にマーガレットの寝顔なんて、全然気にならないしっ!?」
めっちゃ声上擦ってる……。
「も~!素直じゃないなぁ!グリムさんは見たかったですよね!?」
「そりゃ見たかったよ」
見たかったんかい。
そうだろうとは思ってたけどさぁ。
「お待たせしました」
「うん、ありがとう。ほら、マーガレットくん」
「あっ、ありがとうございます」
「いえ、ではごゆっくりどうぞ」
そこへ先ほどグリムさんが本を持ってくるように頼んだギルドスタッフの方が来た。
彼が持ってきたのは6冊の魔導書。
「…こんなにあるんですね……」
「うん。初級編はみんなそれなりにあるよ。それじゃあ早速読んでみてくれ。自分に合った本を探すのも楽しいものだからね」
「そうですね。ではお言葉に甘えて……」
(何から読もうか?)
(そうですねぇ~……とりあえず、覚えやすいようにあいうえお順で読んでいきます?)
(いいね。それでいこう)
マグと相談し、俺はタイトルをあいうえお順で並べてから、一番上の本を読み始める。
本当は全属性見たかったけど、こんなに同じ属性の初級編があるなんて思ってなかったし、何より「俺も全属性使えます」な~んていうわけにはいかないからな……。
グリムさんの厚意に感謝だ。っと…そうだ。
「グリムさん。ノートとっていいですか?」
「構わないよ。ただし、全部写したり、自分で作ったなんて言ってはいけないよ?」
「もちろんですよ。そんな盗作行為、本に限らず全ての作品への冒涜ですから」
パロディとかならまだ笑えるけど好きだけども、ガッツリ丸パクリなんてのは笑えない。
まぁ…贋作が出来るのは売れてる証拠、なんてのをどっかで聞いたような気がするけど……。
やっぱ面倒事は無いに限る。
さ~て、そいでは一冊目…読ませていただきます!
寝ちゃ駄目な時ほど眠くなるという、全人類に備えられしデバフ……。
まぁそれはともかく、次回更新は3/5(金)予定です。
次回も読んでくださるととても嬉しいです!
ではでは☆




