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134.魔術ギルド…本と薬

マグのお悩みを無事に解決した俺が仕事を続けているうちにお昼になった。


俺はララさんとリンゼさん、そしてショコラちゃんとパメラちゃんと一緒に、迷宮第一階層の露天エリアに再び向かい、昨日熱い要望があったお肉屋台とお魚屋台で、それぞれ焼き肉と焼き魚を買い、相変わらずケンカしていた2つのパン屋でそれぞれコッペパンを購入。


さらにこれまた相変わらずブラックを疑うキッチリマンからサラダを買い、例によってそれらを挟んで肉と魚の2つのパンが完成。

魚を俺が、肉をマグが食した。

この屋台たちは繁盛したそうな。


ちなみにいつもお昼はララさんかリンゼさんが奢ってくれる。

今日もそうで、ショコラちゃんとパメラちゃんの分も出してくれた。


2人の懐事情が気になった俺が率直に尋ねると…


「「ハルキさんが十分過ぎるほどのお金をマジックバッグ(これ)に入れてくれてるから…」」


と、口を揃えて言った。


…ハルキのことだから、ちょっとお高いお店でもしっかり食べれるぐらいは入ってそうだなぁ……。

あんなに金欠だと言いながらも、その辺はしっかり渡してると思う。


そんなこんなで昼食を済ませた俺たちが仕事をちょこっとやったところでチェルシーが来た。


チェルシーとパメラちゃんの顔合わせが終わったところで、早速魔術ギルドに向かうことに


「「え~!?マグ行っちゃうのぉ~!?」」


したのだが……幼馴染コンビが揃って残念そうな声を出した。


「前から決まってたことだしねぇ~……」

「マグの様子見てるの楽しかったのにぃ~!」

「ぶ~ぶ~!」

「いやちゃんとララさんの話聞いてる?」


なんで俺の様子見てたのさ。


「マギーちゃんのお仕事ぶりを見せながら説明させてもらってたんだよ~」

「そうそう!だからサボってなんてないよ!」

「そしてあわよくばマグの思い人を……!」

「ララさんこの子聞いてませんよ」

「まぁ2人にはあとで今日のまとめとして問題を出すつもりだから…」

「「えっ」」


俺の告げ口に答えたララさんの言葉に、2人は素っ頓狂な声を出した。

ポカンとしている2人に、ララさんは言葉を続ける。


「それに、もし聞いてなかったらちょっと寂しいかなぁ……」

「パ、パメラぁ……!」

「だ、大丈夫ですっ!ちゃんと聞いてますからっ!」

「そう?よかった」


ララさんが本当に寂しそうにシュンとすると、2人は慌て始める。


やれやれ……まぁ、子供らしいっちゃ子供らしくていいんだけどねぇ……。


そんな心境の俺にリンゼさんが書類を持って話しかけてきた。


「マーガレット様。こちらが魔術ギルドへ届ける書類です」

「ありがとうございますリンゼさん」

「いえ、むしろスタッフを増やしていただきありがとうございます。これでまたララさんが無茶をする時間が減らせます」

「おぉぅ……それは…良いことですね……」

「えぇ、本当に……」


ララさん……副ギルドマスターだから仕事量がめっさ多いんだよなぁ……。

隣で書類整理を手伝わしてもらった時なんか、俺に全体の2割を渡して、残りを全部やるとか言い出して、じゃあこっちが終わったら手伝おうと思って仕事に取り掛かったら、同じぐらいに終わってて結局手伝えなかったからなぁ……。


ありゃやべぇよ……。

しかもそのあとすぐに別の仕事をしに行ったからね……。


休んで……?ホント……。

心配だから……。


「こほん……失礼しました。そろそろ出発のお時間ですね」

「あっはい。えっと…それじゃあ2人のことお願いします」

「はい、承りました」

「じゃあ行こっかチェルシー」

「うん。じゃあねリンゼ姉!」

「いってきます」

「はい、お気を付けて。チェルシーさん。そちらはお願いしますね?」

「うん、任せて!」

「あっ!じゃあね、マグ!」

「がんばって~!」

「よろしくね、2人とも」


見送ってくれるみんなに手を振り返して、俺たちは魔術ギルドへと向かった。


「ねぇチェルシー」

「なぁに?」

「リンゼさんってチェルシーのことも"さん"付けなんだね」

「あ~…いいって言ってるんだけど……リンゼ姉って結構頑固だから……」

「あはは……なるほどね……」


確かにリンゼさんお堅いからなぁ……。


「ま、あれも一種の愛情表現じゃないの?私は未だに"様"付けだもの」

「ふふ…そうだね」


俺の言葉に嬉しそうに笑みをこぼすチェルシー。

それにつられて俺も微笑ましい気持ちになる。


ホントに仲が良いんだねぇ……。

良かった良かった。友人のところがドロドロの状態じゃなくてホント良かった……。


内心ホッとする俺に、チェルシーがふんわり笑いながら話しかけてくる。


「こればっかりはマギーちゃんにも負けられないからね」

「待って?これそういう勝負なの?」


だとしたら絶対勝てないよ?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


他にもチェルシーと駄弁りながら歩いているうちに、目的の魔術ギルドにたどり着いた。


紫色の屋根をした建物で、鍛冶ギルドや隠密ギルドと同じほどの大きさなのだが……


「……?チェルシー……ここって図書館があるんだよね……?」


一応冒険者に混じって普通の主婦やお年寄りなども入っていっているようだが、話に聞くほどの大きな図書館があるようには見えない。


そんな俺に、チェルシーはふふん♪という笑みを浮かべる。


「ふふふ…まぁまぁ、まずは中に入ってみて?絶対驚くから♪」

「う、うん……」


チェルシーに促されるまま、俺たちが魔術ギルドへと入ると……


「うっわぁぁ……!」

(すごぉい……!)


大量の本が目に入ってきた。


右に左に視界を動かすが、どこを向いても大量の本棚に大量の本が並べられている。

さらには机も数多く並べられており、様々な人たちが、机1つにつき複数並べられている椅子に座って本を読んでいる。


受付カウンターも、他のギルドのような横にずらーっと繋がっているものではなく、入り口正面に1つあるだけ。


まさしく図書館。

しかもゲームで見るような大図書館だ。


…なんか謎解きみたいな仕掛けがついてたりしないかな……?


「ふっふっふ~……驚いた?」

「うん…驚いた……」


いやこれは驚くなって言う方が無理あるでしょ……?

……しかし……ここに入ってから妙に人の目を感じるような……?


「でしょでしょ?こんなに本が集まってるのは、世界中でもここだけなんだって!」

「そりゃそうだよ……こんなところ他にもポンポンあってたまるかってんだ……」

「あ~ら?こんなことで驚くなんて、貴族様も大したことないのね?」

「(!?)」


チェルシーと話している俺に、どこからともなく勝気な声が聞こえてくる。

そちらを向いたタイミングで…


「《【風よ】![球となり]【あの子に攻撃】しなさい!》」


次いで魔法の詠唱が……って!?


(「ま、魔法っ!?」)

「っ!」

「《ウィンドボール!》」


マグとチェルシーの驚く声と共にチェルシーをかばうように前へ出る。

それと同時に魔法が放たれ、淡い緑色のボールがこちらに1つ向かってくる。


詠唱は間に合わないと踏んだ俺は、かなり前から身に着けている《救壁の護符》を発動させる。


隠密ギルドでもらってからここまで、一度も使うことのなかったこの護符。


注ぐ魔力の量に関係なく同じ防御力の障壁が出る。

どこに身につけていても、必ず使用者の目の前に障壁が展開される。

障壁の展開範囲は、一般家庭の玄関扉ほど。

受け止められるダメージ量は、Dランクの魔物、「リッチ」の中級魔法一撃まで。

そして1回使ったら砕け散って使えなくなる。


こんな効果を持っているらしく、かねてより、どんなもんか気になってはいたのだが、使い捨てであることと貰い物であることが気になり、なかなか踏ん切りがつかなかった。


そもそもリッチの中級魔法ってどんなんだよって思っていた俺は、周りの人の目があり、無詠唱で魔法を使うわけにはいかないこの状況が割とちょうどいいと思い使ってみた。


護符に魔力を流して生まれた壁は、確かに家の扉ほどの大きさがあり、また、少し片足が前に出ていて体が斜めっているこの状況でも、しっかりと俺の目の前に生まれた。いや、押し出たと言うべきか。


護符に魔力を流した瞬間に、護符から壁が出てきたのだ。


その壁とウィンドボールがぶつかり、風の球だけがはじけ飛んだ。


「あぁっ!?」


魔法を放った本人であろう少女の声が聞こえたが、俺は思考を巡らせる。


…なるほど……。

目の前ってのは、今見ている方向の真ん前ってことか……。

てことは、首だけ右を向いている状態で使うと、体の右側に壁が生まれる……はずだな。うん。


この辺もまた今度調べてみよう。

今はそれよりも……


「ちょっと!《救壁の護符》なんて卑怯よ!正々堂々魔法を使いなさいよ!」


この無茶苦茶言ってる金髪ツインテールの青目ロリの相手をしないといけないっぽい、めんどくせぇ。


「…どちら様で?」

「それが人に向かって…モノ…を聞く態度なの!?」

「そうだよ」

「そうだよっ!?」


覚えたての言葉を使っているような、何か思い出しながらしゃべっている金髪ロリに、俺は適当な態度で相手をする。


まったく…いったい誰なんだこの金髪ロリは……。

ん……?耳が尖ってる……?


「シエルちゃんっ!?どうして攻撃したのっ!?」

「チェ、チェルシーを狙ったわけじゃないわよ!そこの金髪貴族を狙っただけで……!」

「なんでマギーちゃん狙うのっ!?」

「うっ……!チェ、チェルシーだって「貴族なんて嫌い!」って言ってたじゃない!」

「マギーちゃんは良いのっ!」

「何よそれぇーっ!?」


チェルシーが金髪ロリの名前を言ったことで正体が分かった。

多分この《シエル》って子が、魔術ギルドにいるチェルシーの友達だろう。


しかし…貴族が嫌い…か……。


どうしよう……。

この街で聞く貴族の話が軒並みろくなもんじゃないから、マグは関係ないだろって思う反面、そっかぁ…とも思ってしまった……。


(ただマグは金髪じゃない。明るい黄色だ。間違えないでくれ)

(そこですか?)


大事なことなので。


まぁそれはともかく、この2人の言い争いを止めないと……。


「あ~…まぁまぁお2人さん?そう熱くならないで……」

「あんたが原因でしょうがぁ!」

「知らんがな」

「なっ!?」


何が原因か分かんないのに因縁つけられるのが一番腹立つ。

それでうっかり出てしまった本音を、俺は他の質問で誤魔化す。


「そんなことより、チェルシーに当たるかもしれなかったのに、なんであんなことしたの?」

「当てないわよ!あたし、そんなに下手じゃないもの!」

「知らんて」

「はぁっ!?」


あんたの腕前なんか知らんて。

はぁ……疲れるなぁ……。


「うぬぬぬ……!とにかく!あたしはあんたが気に入らないの!」

「へぇ……」

「だからあんたには絶対にここの本は読ませないから!」

「えぇ……?」


(横暴だなぁ……)

(どうしますか……?ここのギルドマスターに言いますか?)

(どうだろう……?周りもただ見てるだけだし、こうなるのを分かっててほっといてんのかもよ?)

(えぇ……つまらない人たち……)


マグに辛辣な評価を貰った魔術ギルドの大人たちは、チェルシーとこのシエルって子がケンカを始めてもどこ吹く風。

止めようという動きさえ見せない。


こんなんに期待は出来ない。


「まぁでも?どうしてもって言うならチャンスをあげるわよ?」

「あぁ…そういう……」


これがあるからほっといてるのかな?

なんにせよ趣味が悪いな。


「そのチャンスって?」

「それが人にモノを聞く態度かしら〜?」


(ウザっ)

(めんどくさいです)


「(じゃあ結構です)」

「うぇっ!?」


マグと意見の一致を見た俺は、共にシエルの提案をお断りした。


めんどくさい。


「ちょっ!?ちょっと待ちなさいよっ!?あんたここに本読みに来たんでしょ!?」

「一応仕事だけど……まぁそうだね」

「じゃあそんな簡単に諦めちゃって良いの!?」

「そりゃまぁ読みたいけど……読めないなら読めないで別のことやるし……」

(ちょっともったいないけど……周りの人もすごく見てきて落ち着かないし……)

「(別に良いかなって)」

「えぇぇぇーーっ!?」


そうそう。

マグの言う通り、ここに入ってからやたら視線を感じるんだよなぁ……。

シエルのかな?とも一瞬思ったけど、いろんな人に見られてる感覚だから違うっぽいし……。

まぁ視線の1つだとは思うけど。


しかしシエルは諦めずに、どうにか俺に興味を持ってもらおうとプレゼンを始める。


「ま、待ってぇ……!ほ、ほら!魔導書だってあるし、他にも動物や魔物の図鑑だってあるし…伝説のお話が描かれた絵本だってあるのよ!?見たくない!?」

「へぇ」

「ほ、他にもあるからっ!?まだまだいっぱいあるからぁ!」


(…なんかちょっと可愛く見えてきた……)

(はい……さっきまでの強気な態度が嘘のようです……)


最初は見せるかどうか悩んじゃうなぁ〜って態度だったシエルが、今はどうにか俺に見て欲しくて必死になっている。


なんだろう……こういうのなんて言うんだっけ?


「…マギーちゃん、マギーちゃん……」

「ん……?」

「考え事してないで、シエルちゃんのお話を聞いてあげてよ……ちょっと泣きそうになっちゃってるよ……?」

「む……」


シエルに聞こえないように小声で話しかけてきたチェルシーの言葉に、俺は考え事をやめてシエルをよく見てみる。


「なによぉ〜…!コソコソ話してないであたしにも教えてよぉ〜……!」


シエルの目が潤い始め、言葉も若干危ういことになっている。


ぞんざいに扱い過ぎたかな?


「あ〜…じゃあそのチャンスっていうのを聞かせてほしいかな?それを聞いてからまた考えるから」

「うぅ〜……ほんと……?ちゃんと聞いてくれる……?」

「うん、聞く聞く」

「……ふ、ふふん!そ、そこまで言うならしょうがないわね!教えてあげるわ!」

「ありがとう〜」


((はぁ…やれやれ……))


どうやら機嫌が治ったらしいシエルに、マグと2人安堵する。


そんな俺たちに気付かないまま、シエルは上機嫌で何かを取り出して話を続ける。


「あんたにはこれを飲んでもらうわ!」

「毒?」

「違うわよ!そんな危ないもの飲ませるわけないでしょ!?」


((そのへんの常識はあるんだ……))


「これはあんたの本音が分かる薬なの!」

「本音が分かる?自白剤ってこと?」

「違うわよ!なんであんたは言うこと全部物騒なのよ!?」

「今のはしょうがないと思うけど……」


本音が分かる薬って言われたら、それはもう自白剤しか出てこなくない?


「ごほん!これはそんな危なっかしいものじゃないわ!これはね…」


シエルは気を取り直して話続け、そして得意げな笑みを浮かべ緑色の液体の入った薬瓶をこちらに見せつけながら…


「《獣人になれる薬》なのよ!」


そんなことを言った。


「(って…えぇぇぇぇーーーっ!!!??)」

次回更新は2/24(水)予定です。


余裕が出来てきたら2話投稿……よりは連日投稿の方がいいか。

でもしばらくは3日で……すみません……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔術ギルド職員が冒険者ギルド職員を襲うってことは魔術ギルドは冒険者ギルドに宣戦布告したと受け取っていいのかな? さっさと帰ってギルド長に報告すべきじゃない? [一言] んー、ギルド員が…
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