129.お狐さんのご奉仕…持ってくれよ俺の理性
〔ユーリ〕
うぅ……!
せっかくマーガレットが許してくれたのに、すぐにまた押し倒しちゃうなんて……!
でも今度は「お風呂あがったら私の気が済むまで尻尾モフらせてもらいますからね?」って言ってまた許してくれてよかった……。
…自分より小さい子に気を遣わせまくってるのって……。
というか、凄く今更だけど…自分より小さい子に甘えまくってるのって……。
……止そう……これ以上考えたら何日か寝込みそうだから……。
「ユーリさん?」
「あっうん!ごめんごめん…何でもないよ!それじゃあ洗ってくね?」
「はい、お願いします」
ふぅ……今はマーガレットを洗うことに集中しないと……。
「まずは髪からね」
「は~い」
楽しそうな返事に思わずクスッと笑ってしまう。
よかった、本当に怒ってなさそう。
…そういえばマーガレットってあんまり怒ったところ見たことないかも……。
初めて会った日の、あの…名前も出てこないけど、チンピラたちに対して怒ったのと、メイカさんたちにお説教した時くらいかな?
あっでも、メイカさんたちには、怒ったというよりは注意したって感じだったかな……。
じゃあやっぱり1回だけかな。
私は目の前にいる、今私に髪を洗ってもらっている…洗わせてくれている女の子を見る。
「……♪」
気持ちよさそうに目を閉じているマーガレットからは、あのときのような勇ましさは感じられず、普通の女の子にしか見えない。
でも、それを抜きにしても、マーガレットはやっぱり普通の女の子じゃない。
マーガレットと街をお出かけした時、簡単に村のことを教えてくれた時に初めて貴族だということを知った。
私はこの街に来るまでの道中で、この国の貴族の嫌な所をいろいろ知っていた。
私を見るや獣人だと蔑む者、私の体目当てでしつこく誘ってくる者。
時には力ずくで手に入れようと、適当な罪を擦り付けて兵士たちを動かすようなのもいた。
とにかく貴族というものに良い思い出が無い私は、マーガレットが貴族だと知ったとき、とても驚いた。
獣人や他の種族を差別せず、それどころか積極的に仲良くなろうとし、偉ぶろうともせず、雑用も嫌な顔をしないどころか、鼻歌を口ずさみながら楽しそうにやる。
正直言ってまったく貴族らしくない。
でも、だからこそみんなマーガレットに優しくしてくれる。
まだイマイチ信用していない人もいるらしいけど、その人たちも貴族が嫌いなだけで頑張りは認めるという人がほとんどだった。
「流すよ~」
「は~い」
髪を丁寧にわしゃわしゃ洗い、満足の行ったところで声をかけお湯で流す。
…メイカさんたちから、この街には貴族が一人もいない、みんな貴族のことをよく思っていないんだと聞いた。
メイカさんたちが他の冒険者から聞いたのもそうだし、メイカさんたち自身も良く思ってないのもこの前話していた。
それでも街のみんなが優しいのは、マーガレットが貴族らしくないから。
「それじゃあ背中からいくよ?」
「はい、お願いします…………ん?」
始めは他の冒険者たちも少し警戒していたらしいのだが、子供相手に大人げない、あんなに頑張ってる子が悪い奴なわけが無いなどの声が少しだけあったようだ。
それが爆発的に増えたのが、私がこの街に来る前日に起きた、「《戦慄の天使》爆誕事件」という、マナーの悪い冒険者をマーガレットが優しくも厳しく諭したという出来事。
自分のことを散々馬鹿にされたにも関わらず、その冒険者が今後活動しにくくならないように場を収め、その後も特に泣き言を言う様子もなく、帰り際には冒険者たちを気遣う言葉を残して去っていったらしい。
唯一みんなが恐れたのは、その時のマーガレットの目。
果てもなく、何もない空間が広がっていた…と、そのとき見ていた冒険者の一人が言ったらしい。
…多分、私の時と同じで怒っていたんだろう。
でも、それで手を出してしまえばマーガレットにも非が行ってしまう。
だから適当な条件を出して丸め込んだんだ。
この話術は貴族らしいと感じるけど……あいつらみたいに悪用しているわけでも無いし、なにより気持ち悪くない。
マーガレットには、今まで見た貴族の意地汚さがまるで無い。
「ユーリさん?」
そういうところがマーガレットが人気な理由だろう。
私もそうだ。
だからこそマーガレットと今更さよならなんてしたくない。
「ユ、ユーリさ…ふわ……!?」
そうでなくても、この街で出来た初めての友達なのだ。
今や数の少ない、心を許せる人の一人なのだ。
この繋がりを失いたくない。
「んぅ……!ユーリ…さん……!ふぅっ…!」
…村を出たときは、一人でも大丈夫って覚悟を決めたはずなのになぁ……。
やっぱり、誰かがいるのといないのとじゃあ、全然違うんだなぁ……。
「ユーリしゃぁん……っ!」
「ん?どうした…の……?」
マーガレットの何か余裕の無い声に、何事かと声のした上を見上げる。
そこには荒い息遣いに耳まで真っ赤にした顔、潤んだ瞳で私を見つめるマーガレットがいた。
…………あれ?
なんで私はマーガレットの前でしゃがんで、この子の足を洗っているんだろう……?
「や、やっと…やっと止まったぁ……!」
「えっ?」
やっと止まった…って?
「ユーリさん…全然聞いてくれなかったから……!」
「えっ!?ご、ごめんね!ちょっと考え事しちゃってて!」
うぅ……考え事に熱中しすぎてマーガレットの声が聞こえてなかったなんてぇ……!
しかも知らない間にもう足まで洗い終わってるし……!
それに…
「え~っと…マーガレット……?なんでそんなに泣きそうな顔をしてるの……?」
マーガレットが何故か…とても……なんというか……ちょっとイタズラしたくなるような雰囲気の、可愛い……ごほん、どこか切なそうな顔をしている。
いったい何があったんだろう……?
私がそう聞くと、マーガレットはすでに真っ赤な顔をさらに赤くさせて答える。
「そ、それは……ユーリさんが……!」
「私が?」
「~~~~~っ!ユーリさんのバカぁぁっ!!」
「えぇっ!?」
ば、バカって…!バカって言われたぁ……!?
「何っ!?何したの私っ!?ねぇマーガレットぉ!」
「にゃあぁぁぁ!いいんですっ!思い出さなくていいんですよっ!むしろ思い出さないでくださいっ!」
「本当に何したの私ぃぃ!?」
~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…………」
「マ、マーガレット……?」
「…………」
「あぅぅ……」
湯船に入ってもマーガレットは頬を膨らませて私と話そうとせず、私が呼ぶとメリーちゃんの影に隠れてしまった。
「メ、メイカさぁん……!」
「う~ん……さすがにこれはちょっとねぇ……」
「ふえぇぇ……」
「っ!か、可愛い…けど……!今回はユーリちゃんが悪いから駄目っ!」
「ふえぇぇぇぇ……!」
メイカさんに助けを求めたが断られてしまった。
「うぅ……!じゃあせめて何をしたか教えてくださいよぅ……」
「う~~~ん……!……こっちおいで……」
メイカさんはマーガレットたちから少し離れたところに私を呼ぶ。
私が着いていくと、メイカさんはとても小さな声で理由を教えてくれた。
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〔コウスケ〕
……えらい目にあった……。
背中から、という言葉に疑問を抱き、ユーリさんに声をかけたのだが返事が返ってこなかった。
それどころか、ユーリさんは俺の腕を洗い始め、指先まで丁寧に洗ったのち、今度はなんと胸に手を伸ばしてきた。
それはまずいと俺とマグは焦り必死に声をかけるが、ユーリさんは上の空。
後ろから抱きしめられ、柔らかい体の感触を感じながら優しくしっかり洗われてしまい、こっちにきてまったく発散していない3大欲求の1つが物凄く刺激されてしまった。
その時点でヤバかったのだが、やはりユーリさんから反応は無く、徐々に下に向かう彼女の手を止められなかった。
そして同じようにいろいろとしっかり洗われてしまい頭がふわふわする中、どうにか力を振り絞りユーリさんを呼ぶと、足を洗うために俺の横に移動したユーリさんが、ようやく気付いてくれた。
「ふえぇっ!?そ、そそそそんなこと……!?」
ユーリさんの叫び声が聞こえてきた。
恐らくメイカさんに何があったか教えてもらったんだろう。
…ユーリさんの肌……モチモチだったなぁ……。
それに相変わらずふかふかのふにふにだった。
手つきも滑らかで、洗い残しなく隅々まで……。
……っ!
ヤバい……!思い出しただけでも……!
「2、3、5、7、11、13、17、19、23……」
(コ、コウスケさん……?)
「……?大丈夫?」
「…頑張ってる……」
素数を数える俺を心配してくれたメリーちゃんに、どうにか返事を返す。
マグにもいらん心配をかけてしまった……。
心を無に……心を無に……!
俺の行い1つでこの子たちの未来が変わることを忘れるな……!
幸い、女の子の体なら発散しなければ痛みが襲ってくるわけでも無し、あとは俺の心持ち次第……。
これからもメイカさんやユーリさんとは仲良くやっていきたいから、早い内になれてしまわないと……!
必死に落ち着きを取り戻そうとする俺に、隣にいるメリーちゃんが話しかけてきた。
「……無理しちゃダメ」
「うん…そうなんだけど………?」
ここは無理してでも自分を律しないといけないから……。
そう続けようとした俺に、メリーちゃんがすり寄ってきたので俺は止まる。
「……いい子いい子」
「……」
真正面に移動したメリーちゃんは、俺の頭を優しくさすってくれる。
その愛らしい行動に、俺の心は少し持ち直した。
なるほど……ムラをキュンで上書きできるのか……。
「やはり萌え文化は最強なのか……?」
(ど、どうしたんですか……?)
「……?」
「いや…なんでもない」
思わず口に出ちゃったよ。
「マ、マーガレット……?」
「っ!ユ、ユーリさん……」
多少落ち着いたところに、ユーリさんが再び話しかけてきた。
彼女の後ろではメイカさんが「頑張れっ!」って感じで握りこぶしを作っている。
俺は努めて冷静に対処したかった。
「どどどどうしましたかユーリさん?」
めっちゃどもった。
湯船に浸かって半分以上見えないとはいえ、それでもユーリさんのそれはぷかぷか浮いており、ユーリさんと向かい合う形となった今の状態だと、それを真正面から見てしまい、取り戻した落ち着きが再びフライアウェイ。
「あの…えと……な、ナニがあったかメイカさんに聞いたの……」
「は、はい……」
「そ、それでね……?その……ご、ごめんなさいっ!」
ばしゃーんっ!
湯船の中で律義にガッツリお辞儀をするもんだから、勢いよく顔を突っ込んだユーリさん。
すぐに顔を上げると、何事もなかったかのように話を続ける。
「ま、まさか……その……えっと……か、体をまさぐっちゃってるとは気付かなくて……」
「まっさっ……!?そ、そんなこといちいち口に出さなくてもいいんですよぉ!」
「ご、ごめん……!」
まさぐるて……!
うぅ…やばい……!
上書きしたもんがまた出てきちゃう……!
「まぁまぁマーガレットちゃん。ユーリちゃんもわざとじゃないんだし……」
「それは分かってますよぅ……ユーリさんは私が本気で嫌がることをする人じゃありませんから……」
「マーガレット……」
そう、別に怒ってるわけじゃない。
ただちょっと顔を合わせづらいだけだ。
自分の体を丁寧に洗われるのは変な意味でなく気持ちよかったし………ユーリさんのやぁらかい体の感触もとてもよかった。
文句なしの役得だ。
これがエロい世界ならこのあと18禁の展開になるだろう。
「だから…その……こ、今度から気を付けてくれればいいですから……」
「!?……こ、今度から…ってことは……ま、また一緒に……?」
驚くユーリさんの言葉に、俺はゆっくりと頷く。
(まぁ多分、次入る時はマグに任せるけど……)
(えっ。そりゃ私もユーリさんとお風呂に入りたいですけれど……そういう約束は、きちんとコウスケさんが守ってあげてくださいよ)
(えっ)
マグからの意外な言葉に思わず驚いてしまった。
(い、いやいや待て待て…恋人が他の女の子とお風呂に入るんだよ?普通止めない?)
(そりゃあまぁ…コウスケさんが誰かといちゃいちゃしたら嫌ですけど……でも、ユーリさんならいいかなぁって……)
えぇ……?
そういうもんなの……?
「ぐすっ…!うぅ……!」
「って!?な、なんでユーリさん泣いてるんですかっ!?」
「だ、だってぇぇ!うえぇぇ……!」
「あぁ~…えっとぉ……どうすれば……!?」
「……(ぽん)」
「?メリーちゃん……?」
泣き続けるユーリさんにどう接していいか分からずにうろたえる俺の背中に、メリーちゃんがぽんと手を乗せた。
そしてそのまま背中を押した。
「へっ?」
「わっ!」
ポフッとユーリさんにダイブしてしまった。
「んっ…しょっ…と、メリーちゃん?」
「……(ぐっ)」
「!」
ユーリさんのお山から抜け出し、メリーちゃんを振り返ると、メリーちゃんは親指を立てて俺に突き付けていた。
それで意図を察した。
俺はユーリさんに向き直ると、驚いたことで泣き止んだが、まだ顔に涙が付いているユーリさんの顔を見る。
…ん~……やっぱり泣き顔ってのはなぁ……。
笑いすぎて涙出るとかならいいんだけど……。
「ユーリさん」
「?」
「…どうぞ」
「!」
俺はユーリさんに向かって両手を広げる。
「~~~っ!マーガレットぉ……!」
「はいはい」
彼女は驚いたのち、再び泣き出しながら俺の胸に飛び込んできた。
それを俺は抱きとめる。
…今度は勢いはなく、体を預けるようにゆっくりとした動きだった。
「ぐすっ…ごめんねぇ…!ごめんねぇ……!」
「はいはい。しっかり謝れるユーリさんは偉いですよぉ。立派ですよぉ」
「うえぇぇぇ…!」
「もっといっぱい泣いて、ぜ~んぶ出し切っちゃって、すっきりしちゃいましょう?それまでず~っと、こうやってぎゅう~ってしてあげますからね?」
「すんっ……!ひっく……!マーガレットぉぉ……!」
「はい、ここにいますよ~」
ユーリさんの背中をぽんぽんしながら、俺はユーリさんを慰める。
「…マーガレットちゃん、先上がるね?」
「あっ、はい。…なんか、巻き込んじゃったみたいですみません……」
「くすっ…大丈夫だよ。メリーちゃん、私と一緒に行こ?」
「……うん。……マーガレット、がんばれ」
「ん、ありがと」
気を利かせてくれたのか、メイカさんとメリーちゃんがお風呂からあがっていく。
残った俺は、未だ泣き続けるユーリさんが泣き止むまでずっと抱きしめて慰め続けた。
…ところで、言わずもがなここは風呂場である。
しかも湯船に浸かった状態である。
そんな状態で抱き合って長いこと浸かっていたらどうなるか。
「うぅ~ん……まぁこうなるなぁ……」
「あ、あたまがぼ~っとするぅ……」
「2人とも大丈夫?」
「「生きてはいま~す……」」
「……大丈夫そう」
このように、気を利かせて一足先にあがっていたメイカさんとメリーちゃんに心配される程度にはのぼせます。
ユーリさんが落ち着いてきた頃にはもうお互い危険域だったので、ユーリさんと共に出てきたのだが……やばかったぁ……!
はぁ……ユーリさんとの仲が悪くならなかった…むしろ深まったのはいいけど、今日もゆっくりお風呂に入れなかったなぁ……。
昨日ギリギリかもって書きましたが…思ったより健全な内容でしたね。(主観)
期待していた皆様には申し訳ないことをしてしまいました……。




