13.魔法の研究…それと緊急事態
「メイカさん緊急事態です」
「ど、どうしたの?マーガレットちゃん…」
「下着の替えがありません」
「えっ!あっ!そっか!!」
ここはリビング。現在の時刻は午後6時半辺り。
あの後、脱衣所の扉の前で待ってたメイカさんが入り、現在ケランさんがお風呂に入っている。
ディッグさんは、荷物の整理中に足りないものがあったとかで買い物に出かけている。
この時間ならまだお店はギリギリ開いてるはずだと言って出て行った。
正直フラグにしか聞こえなかった。
ちなみに帰り道で何か買ってきてとメイカさんは頼んだらしい。今日はもう色々ありすぎて疲れたからもう出たくないのだそうだ。
今の俺にはとてもありがたかった。
そんなこんなで現在ここには俺とメイカさんしかいないので、俺はメイカさんにエマージェンシーしたところ、めっちゃ驚き納得した。
「えっ、じゃあマーガレットちゃん…もしかして今……」
「ノーパンノーブラです(キリッ)」
「もう振り切ることにしたんだね……」
まぁもともとブラはしてなかったんだけどね!
なんか…こう…タンクトップ?でいいのかな?そんな肌着を着てました。
そして現在まとめて洗濯機の中にございます。
そういえば洗濯機の使い方って知ってるんだろうか。
後で確認しに行こう。
「うーん…それじゃあどうしようか……洋服屋さんはもう閉まってるだろうし……」
「そうなんですか?」
「うん。洋服屋さんは大体お昼から夕方までがピークだから、6時ぐらいにはほとんど閉めちゃうの。その代わり、冒険者のために朝早くから開いてるお店もあるんだよ」
「へぇ〜、じゃあ下着は明日まで買えないと」
「そうなるね」
「やばいですね」
「やばいね」
どうしたもんか。
今着てるパジャマは下がかぼちゃパンツ型だから脱がない限りノーパンがバレることは無いが……。
「やっぱり落ち着かない?」
「はい、それはもうすごく心許ないです」
「さすがに私の下着を貸すわけには行かないし…明日ギルドに行く前に買いに行こうか」
「お願いします…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
相談が終わり、ケランさんが風呂から上がり、ディッグさんが食べ物の入ったバスケットだけを持って帰ってきた。
肝心の足りないものは買えなかったそうだ。
そんな気はした。
ディッグさんが買ってきたのはハンバーガーだった。
しかも白兎亭のマークが包み紙に描かれている。
「あそこって、持ち帰りも出来るのね」
「あぁ、あそこの料理は旨かったからな。気付いたら買っちまってたよ」
「気持ちは分かります。僕も多分買ってしまうでしょうから」
「私も多分、我慢できないなぁ」
メイカさん達がそんな話をしている横で俺はまた衝撃を受けていた。
このハンバーガーとかハンバーグとかもうあるんだ、と。
いや、あっても別におかしくはないんだけどさ?なんかこう…イメージがね?
というか白兎亭でメニュー見たときハンバーグあったっけ?
うーん……ダメだ、ウサミミとモニカちゃんと美味しかったって記憶しか出てこない。
ままままま、とりあえず食べちゃいましょ。この時間帯にこんな暴力的な匂いを嗅いでしまったら腹の虫が暴れてしまう。
「さてと、それじゃあ…」
「「「「いただきます!」」」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あぁ〜分かってたけど美味しかったぁ。
さすが白兎亭だ。この街1軒目の飲食店がこんなハイレベルじゃ、他のお店で満足できるかなぁ。難しいだろうなぁ。
夕食を食べ終え、明日ギルドに行く前に服屋に寄らせてくれと堂々と頼み込み(多分言わないと理由を求めてくるから)、今俺は自分の部屋の椅子に座り背もたれに体を預けている。
現在の時刻は8時ちょい過ぎ。
まだ眠るには早い時間だ。
だから俺はこうして、ぼんやりして時間を潰している。
…本か何か借りればよかったかなぁ。
持ってるか知らないけど、なんとなくケランさんは持ってそうな気がする。
だったら、翡翠龍討滅計画でも詰めとこうか…いや、まだ不確定要素が多すぎる。
明日ギルドに行ってから考えた方が良いな。
となると…あっ、そうだ。
魔法が使えるか試してみよう。
ケランさんもまぁ独学でもそうそう大事にはなんないはずって言ってたし。
盛大なフラグにしか聞こえないが気になってしまったものはしょうがない。
出来る限り抑えめで試してみよう。やり方は知らんけど。
さて、じゃあさっそく…何から試してみようかな?
とりあえず知ってる属性挙げてみるか。
えーと、火、水、風、土の四元素に光と闇。あと無属性なんてのもたまにあるかな。あとは…氷と雷ぐらいかなぁ。
こうして挙げてみると割と少ないな。
こんなかで気になるのは……。
「……正直全部使ってみたいなぁ」
というわけでやってみましょう。
んー…まずは魔力を感じるところから始めよう。話はそれからだ。
「魔力…魔力ねぇ……」
とりあえず精神を体に集中させる。
吸った酸素が血液と混じり、動脈を巡っていくイメージをする。
するとなんとなく何かが抜けていく感覚がする。
まずは脳。そこから心臓に抜けて、体全体に広がっていく。
まずはこれでよし。
次に右手に意識を集める。
魔力は分からないので、血液が溜まっていくイメージをする。
そして右手の掌に魔力の球が浮いている姿もイメージ。
…いや、少し難しいな……。
しかもなんとなくダメな気がする。
なんか瞬殺されそうな気がする。
導師になりそうな気がする。
ならば指だ。
指の先から火がポンっと出る感じ。
あーでもそれだけだと、万が一成功した場合せっかくの新居に傷をつけそうな気がする。
まぁさすがにそんなことにはならんと思うけどなー。
そう思いながら部屋の窓を開ける。
この部屋からはこの寮の入り口方面が見える。
なので寮の入り口前の道を窓枠に肘を立てて、頬杖を突きながらぼんやりする。
ぶっちゃけ疲れてしまった。
なんか集中することが出来ない。
「雷ちょびっとそーい」
なんて呟いて、人差し指をくるくるびしっと道に向ける。
一応青くて細い稲妻をイメージする。
が、一体何がよかったのか。
俺が指を指したところにパリッと弱めのスパークが起こった。
「……えっ?」
えっ?
…………。
ちょちょちょちょ待て待て待て待て!
なんか出た!
なんで出た!?
えっ?えっ?
待て待て落ち着け落ち着こう。
よーしよしよし…ふぅ〜……。
…さて、とりあえずなんで出来たかから考えよう……。
えーと…適当なこと呟いて、指をくるくるびしっ、して頭の中で完成予想図を思い浮かべていたらなんか出来たんだよな……。
呟いたのが詠唱代わりになった?
指を動かしたのがなんらかのトリガーになった?
イメージしたのが良かった?
力を抜いていたのが良かった?
それが元々雷の適性があった?
その全部?
うーん、詠唱とイメージは可能性が高いかなぁ…。
指を動かしたのがトリガーになるんだったら、日常生活に支障をきたしかねないから単体でどうこうなるとは考えにくい。
力を抜いていたってのもちょっとありそうなんだよなぁ。
力み過ぎず、自然体でやったから出来たって可能性。
でもそれも単体じゃ難しいかな。
適性があった、は…検査してもらってないからなんとも言えないな。
そもそも適性がなくても初歩的な魔法だったら使えるかもしれない。
うーん…となると…
「やっぱり一つ一つやってみるのが早いか……」
ならまずは…詠唱してみるか。
さっきは適当に言ったから…今度はちょっと考えて……。
「んー……。雷よ…我が声に応えよ!サンダー!」
…………。
何も起きない。
「うーん…詠唱はあんまり関係ないのか?」
よく考えたらこの世界の魔法に詠唱が必要かも分からん……。
じゃあ1回手を閉じて、開くときに、んばぁーっと電気が起きる感じを……
パリパリッ!
「おぉ!」
手を開いたとき、頭の中で思い浮かべたものよりも強めの電気が現れた。
予想より強かったのでちょっと驚いてしまう。
「ふむ…痺れた感覚は無いな…」
テレビの静電気の実験で見たような青白い電気だったが、特に手に異常は無さそうだ。
「ん…でも…なんか疲れたな……」
2回魔法を使った影響か、少し体がだるくなった気がする…。
たった2回で疲れが出るって…もしやコスパ悪い?
いや、今日の疲れが残ってるからかな……。分かんないや。
「んー…でもまぁ、今日はもう寝るかな……」
俺は窓を閉めカーテンを閉じた後、トイレの個室に取り付けられていた洗面所(これも魔道具らしい)で、歯磨き…をするための歯ブラシが無いので仕方なく口を軽く水で濯ぐ。
トイレも済ませ、手を洗って布団に入る。
いつも寝る前は色々と考えてしまうのだが、今日はすぐに目蓋が重くなっていき、眠ってしまった。
そして今、眠ったはずの俺は仄暗い空間にいた。
…もしかしてまたあの夢か……?
上等じゃねぇか…抗い倒してやるよこのヤロー。
俺は、意味があるんだか無いんだか分からない決意を固めてながら、あの夢のように辺りを見渡す。
すると俺の背後に…
「……」
「……」
俺のことを鮮やかな黄色の瞳で見つめてくる、瞳と同じ色の綺麗な髪をした少女……マーガレットがいた。
「ご、ご本人だぁーーー!!!?」
ようやくメインヒロインが、もう一人の主人公が出た……。
まさか13までかかるとは……。




