126.お姉ちゃん♪…殺人(未遂)事件
迷宮の4階層のボスで詰んだらしいメイカさんたち《イシオン》withユーリさんの4人。
愚痴程度に俺に話したのだろうが、如何せん元の世界はそういう系の敵は割といるので攻略法を思い付いた限り話してしまった。
その結果、周りで話を聞いていた冒険者やスタッフたちにちょっと慄かれた。
(…多分、こうして《戦慄の天使》って言われるようになったんじゃないですかね……)
(うん、ごめん。正直俺も今回はやっちゃったなって思ってる)
(んも~……)
いやぁ~…だってそういうの大好きなんだもん……。
まぁあれこれ考えるのが好きなだけで、実際に会ったらめんどくさくて高火力で吹っ飛ばしたくなるけど……。
ちょっと後悔してる俺に、ディッグさんがやる気に溢れた声でお礼を言ってきた。
「いやぁありがとな嬢ちゃん!とりあえず明日からいろいろ試してみるわ!」
「うん、おかげでやる気が出てきたよ!ふふふ…絶対倒してやるんだから……!」
「あっいえ、お力になれたようでなによりです」
やる気が出たのは良いが、メイカさんは私怨の方が溢れてるような……。
と、今度はリオが俺に話しかけてくる。
「マーガレットってホントにいろいろ知ってんだな……」
「うん!マグはすっごい物知りなんだよっ!」
「なんでショコラが自慢気なんだよ」
「ふふん♪マグとは友達だからね!」
「それはオレもなんだけど?」
「じゃあリオも誇らしいでしょ?」
「う~ん…まぁ、すごいなぁとは思うよ」
「ふふ~ん♪」
「いやだから……まぁいいや…」
何故か代わりに答えたショコラにツッコミを入れるリオ。
うん、諦めるのは賢明な判断だと思うよ?
それ絶対ループするもん。
「ねぇねぇマギーちゃん!今度はあたしの悩みも解決してよ!」
「モノによるとしか言いようがないけど……聞くだけならいいよ?」
「あははっ!じゃあ私もマーガレットに聞いてもらおうかな~?」
「聞くだけですよ?」
「分かってるって♪」
ほんとかなぁ……?
「はいはい!じゃあ私の悩みも聞いてほしいな!」
チェルシーとユーリさんの言葉に今度はメイカさんが反応した。
(…嫌な予感がする……)
(私もです……)
「…何やらす気ですか……?」
「な、なんで分かったの……!?」
((大当たり…))
マグと共に呆れる俺。
メイカさんがテンション高めに話しかけてくるときって、大体何かお願い事がある時なんだよなぁ……。
「はぁ…それで、何をすれば良いんですか?」
「なんだかんだやってくれるマーガレットちゃん……!好き……!」
「…モノによりますからね……?」
メイカさん、やるって言わないと駄々捏ねそうだし……。
「えーっとね!私たち、さっき言ったボスに勝てずに帰ってきたでしょ?」
「はい」
「だからね?油断してたわけじゃ無いんだけど、それでもちょっと自信無くなっちゃって……」
「ふむ…」
自信が無くなった…か……。
今まで表に出ず、自分でも気付かなかった《Aランク冒険者のプライド》が傷付いた、って感じかな?
「それでね?明日また挑んで、さっきマーガレットちゃんが言った方法を1つ1つ試していこうと思うんだけど……」
「けど?」
「…それも通らなかったらって不安で……」
「あぁ…それはまぁ……そうですね……」
「…今までも割となんとかなったし、こっちに来てからもこんな事無かったから……うん、ごめん…やっぱりちょっと油断してたかも……」
「それが分かっているだけでも十分ですよ。次に活かせば良いだけなんですから」
「うん、ありがとう……」
俺がそうメイカさんを慰めると、少し柔らかい笑顔を見せてくれた。
(…なんだか意外です……。メイカさんたちは、壁にぶつかったら、むしろ燃えるタイプだと思ってました……)
(多分それで合ってるよ。でも、誰だって弱気になるときってのはあるってこと)
(今朝のように…ですか?)
(そゆこと)
傷付かない人間なんていない。
人間だけじゃなく、心を持っているものは全てそうだろう。
…そういうときに、近くに悩みを聞いてくれる人がいるかいないか、慰めてくれる人がいるかいないかでまったく違うのだ。
…そういう相手として信頼されてるのは素直に嬉しいな……。
「えっと…それでね?」
「はい」
メイカさんが話の続きをし始めたので、俺は思考を戻し、再び話を聞く態勢に入る。
「それでそのぉ…私、マーガレットちゃんがいつも「おかえり」って言ってくれると疲れが吹き飛ぶんだけど……」
「…はい」
何その特異体質?
って思ったけど、ちょっと分かっちゃう俺も特異体質なんだな……。
「今日はまだ言ってもらってないでしょ?」
「そうですねぇ……」
メイカさん突っ込んで来ましたもんねぇ。
「だからね?良かったらなんだけど……ちょっとアレンジが欲しいというか……私の疲れが吹き飛ぶような「おかえり」が欲しいの!」
「………なるほど?」
早く帰って寝た方が疲れは取れますよ?
って言ったら怒られるかな?
怒られるだろうなぁ……。
「だからお願い!マーガレットちゃん!」
「……ようはメイカさんがキュンとくる、いつもと違う「おかえり」が良いんですよね?」
「うん!お願いっ!」
「……まぁ…それぐらいなら……」
「!やった!ありがとう!」
「それじゃあちょっと考えさせてくださいね」
「うん!」
凄い浮かれっぷりのメイカさんを横目に、俺はマグと緊急会議を始める。
(どうする?)
(どうしましょう……?キュンとくるものと言われても……)
(そうさなぁ……普段のマグでもキュンキュンしてるのに、それとは違うものとなると……ふむ……)
(?何か案があるんですか?)
(うん……実はね……?)
ギャップ萌え。
普段とは違う姿や、イメージと違う行動を取るとキュンってなるあれだ。
俺は簡単にそれを説明し、マグに相談する。
(問題はそれをどう表すかだが……)
(う〜ん……普段とは違う…ですか……)
それなんだよなぁ……。
ぶっちゃけ、マグに出てもらって、ふにゃっとした笑顔で「おかえり」っと言ってもらえれば、多分喜んでくれるんだが……。
それはまぁ…マグが表に出始めた今なら、いつでも出来るっちゃ出来るので、それなら別のものの方が良いかなぁって思ってしまう。
(う〜ん……言い方を変えるとか、何かひと言足してみるとか……?)
(そうですね……あとはメイカさんが喜びそうなことをする…とか……?)
(喜びそうなこと……)
そこでふと俺は、さっきリオと話していたことを思い出す。
そして、過去にメイカさんが言って欲しいと言っていたことも思い出した。
(マグ…こんなんはどうだろう……?)
(?…ふむふむ……!絶対喜ぶと思います!)
(じゃろ?よし、じゃあ決まりで良いかな?)
(はい!)
結論が出たところで、俺はメイカさんに話しかける。
「メイカさん、お待たせしました」
「!決まったの!?」
「はい」
「やったぁ!」
「それじゃあ早速いきますよ?」
「うん!」
くっついている2人と離れ、ワクワクして待っているメイカさんに背を向ける。
「すぅ〜…ふぅ〜……」
ちょっと恥ずかしいので、1度深呼吸をして覚悟を決めると、俺は振り向きざまに一撃入れた。
「メイカお姉ちゃん!おかえりなさい♪」
『…………』
静寂が俺を襲った。
あ、あれ?
なんで他のみんなまで黙っちゃうの?
それに肝心のメイカさんも反応無いし……まさかスベった?
俺は静寂に耐えきれず、真顔になっているメイカさんに話しかける。
「あ、あの……?メイカさん……?」
「…………」
依然何も喋らないメイカさんの前で手を振ってみるも応答無し。
(ど、どうしよう……?)
(どうしましょう……?)
マグと2人、どうすればいいか分からずおろおろしていると、メイカさんがようやく口を開いた。
「……マーガレットちゃん……」
「は、はいっ!」
「……それは駄目よ……」
「(へっ?)」
駄目…とは……?
「…その首をこてんってかしげるのも駄目よ……」
「えっ?な、なんでですか……?」
「…耐えられないから……」
「(はい?)」
耐えられない……?
と、どういう意味か考えようとしたところで、メイカさんの体がぐらりと揺れ、そのまま後ろに倒れた。
「(………………は?)」
なにがどうなっているのか分からず、素っ頓狂な声を上げる俺たち。
(…え〜っと……?メイカさん倒れた……?)
(倒れましたねぇ……)
(なにゆえ倒れた……?)
(さぁ……でも、幸せそうな顔ですね……)
(だねぇ……鼻血も出てるし………あっ)
(えっ?)
(尊死したんだ)
(とうとし)
(そう、尊死)
それならメイカさんのこの惨状も頷ける。
(あの…尊死とは……?)
(…好きなものの過剰摂取が原因で倒れること。この場合はマグの可愛さに、満面の笑みとお姉ちゃん呼びが重なって、さらに不意打ちだったのも原因で倒れたんだろう……)
(……なるほど……)
…どことなく…引いてるな……マグ……。
俺もまさかここまでなるとは思わなかったよ……。
…俺も気を付けよ……。
「ふぅ……まぁ…でも……とりあえず、要望は叶えられたかな……?」
「そうだな……にしてもお前……よくそんなこっぱずかしいこと、ポンっと簡単にやるなぁ……」
「…やめてよ……恥ずかしいの我慢してたんだから……」
お互いのことを知ってるからこそ、こういうのは余計恥ずかしく感じる……。
うぅ……せめて家に帰ってからとかにすればよかった……。
「ね、ねぇ…マーガレット……」
「?なんですかユーリさん?」
「…私もお姉ちゃんって呼ばれたいなぁ……」
「……この惨状を見てもなお……?」
ディッグさんがメイカさんを背負い、ケランさんがメイカさんの鼻をハンカチで栓している。
…せっかくの美人が台無しなフォルムである。
それでもユーリさんはお願いしてくる。
「ね、ね?おねがぁい」
「あぅ……分かりましたよ……」
「やった♪」
そんな上目遣いで俺の顔を覗き込みながら、甘えた声で言われたら、ドキッとするじゃないですか……。
「そ、それじゃあ……こほん…」
俺は諦めて、期待でキラキラしたおめ目をしているユーリさんの顔を見て言う。
「えっと……ユーリおねえ…ちゃん……」
「~~~~っ!♡♡♡」
2回連続でやることになり、さすがに恥ずかしさが勝ってしまいながらも、どうにか言い切りユーリさんの反応を窺うと、ユーリさんはとんでもなく嬉しそうな顔をして…
「マーガレットぉ~!」
「ふえっ!?」
俺に再び抱きついてきた。
「んふ~♡お姉ちゃんだよ~♡」
「んむっ!ちょっ!?ユーリさ……!ん……!」
「照れちゃって可愛いなぁ~♡前みたいに甘えてもいいんだよぉ~?」
「んむぅー!!?」
照れてもいるけどっ!
胸がっ!ユーリさんの胸がぁぁ!
俺の呼吸器塞いどるのぉぉ!!
(ふわぁぁぁ!ふにふにぃ!)
(マグっ!?それどころじゃないんだけどっ!?今生命の危機なの分かってるっ!?)
この子は随分とまぁえっちっちになっちゃってっ!
可愛いなっ!
だがそれよりも今は……
「ぎゅう~♡」
「んぅーっ!!」
この窒息しそうな状況どうにかしないと……。
一応出来なくはない。
出来なくはないんだが……。
あまりにも心もとない上に、迷宮帰りのユーリさんの汗の香りが入ってきて……しかもちょっと甘い香りもして、頭がふわふわしてくる。
やばい…ユーリさん…昨日は汗かいてなかったのに……。
今日は昨日よりも大変だったのか、ウチでゆっくり羽を伸ばせたから、代謝が良くなったのか……。
なんにしてもこれはまずい……。
ただでさえここ最近のマグとのイチャコラとか、スキンシップ多めの女性たちにドギマギしているというに……。
…そのうえ、マグの手前、あまり言いたくはないのだが……こっちにきてからもう8日……。
健全な青少年たる俺が、女性に対する免疫がろくにない俺が。
可愛い子や綺麗な人に囲まれて、頭を撫でられたりするぐらいならまだしも、こんな風に毎日のように抱きつかれては、女性の柔らかい感触を受けていると……
…正直……ムラムラします……。
しかし今の俺はマグの体に居候している身……。
俺の心がいくらムラムラしていようが、マグの体はまだ成人どころか、半成人式を終えて久しい幼き身体……。
そんな未成熟な体で致して良いものかいや良くない。
女性でのやり方は前世の薄い本で知っているが、やるわけにはいかない。
万が一にもマグに嫌われるようなことがあれば、体から出ていく方法を知らない以上、最悪なことになる。
はぁ……男としての能力が、ただの枷になっているなんて……。
マグはフルールさんと会った時、フルールさんの話を聞いて涙を流していた。
マグがそういう行為を知っているのかまでは分からないが、どちらにしろマグにはまだ早い。
なので俺が頑張るしかない。
はぁ~……ここにきて一番の敵が煩悩とか……。
こればっかりは誰にも相談できないしなぁ……。
(コウスケさんコウスケさん!ふにふにしたいので代わってください!)
その当のマーガレットさんはユーリさんのぽいんぽいんをふにんふにんしたいと言ってきた。
…あ~……でもそうさなぁ……このままじゃやばそうだし、さっきユーリさんの好きなようにさせようって決めたばかりだし……任せちゃうかぁ……。
(マグ…)
(あっ…!ご、ごめんなさい…はしたないことを……)
(いや……行くがよい……)
(えっ!?い、いいんですか……!?)
(構わんよ……俺は少し休ませてもらうぜ……)
(は、はい!えと…じゃあ……!いってきますっ!)
(いってらー)
「ぎゅう~♡」
「ぎゅぅ~♪」
「!えへへ~♪やっと甘えてくれた~♡」
…いかん……。
外から甘い声がしてくるだけでも、今の俺にはかなり効く……。
ちょっと奥の方で素数でも数えてこよう……。
ところで、どこまでならえっちぃ表現は怒られないのかが未だによく分かってません。
…まぁ……その時になったら分かるでしょう。




