125.迷宮のボス…戦慄の天使の本領発揮(無自覚)
「…あっ…マーガレット、そろそろメイカたちが帰ってくるんじゃない?」
「えっ?……あっほんとだ。もうそんな時間かぁ……」
リオの手伝いもあり、武器の扱いにだいぶ慣れたころ、フルールさんが俺にそう声をかけてきた。
練習に熱が入ってたみたいだなぁ……。
まぁでも、リオにいろいろ聞けたし、かなり充実した時間だった。
それに、メリーちゃんにショコラちゃん、リオの3人が仲良くなってくれたみたいで、メリーちゃんは2人に頭を撫でられて嬉しそうにしてるし、ショコラちゃんは元気に笑っているし、リオも楽しそうに話している。
(…いいねぇ…こういうの。見てるこっちが嬉しくなるよ)
(はい…ふふ、みんな楽しそう)
(うん。と、リオに練習の切り上げを言わないと……)
マグとほっこりしたところで、俺はリオに話しかける。
「ごめんリオ。ディッグさんたちがそろそろ帰ってくる時間だから切り上げさせて」
「おぅ、分かった。んじゃあ今日はお開きだな」
「うん、今日はわざわざありがとうね」
「いいってことよ。その代わり、キッチリ勝ってもらうからな?」
「当然。負ける気はないよ」
「無傷で…だろ?」
「圧倒的な力の差というものを、矮小なる人間に見せてやろう……」
「いやお前も人間だろ」
「ナイスツッコミ」
というわけで練習を切り上げ、上のギルドホールでみんなを待つことにする。
リオが「《イシオン》のみんなに挨拶をしてから」と言い、ショコラちゃんも「マグを助けてくれたお礼が言いたい」ということで一緒に待っており、ホールに戻ってきたときにチェルシーに会いタックルハグを受けた。
そんなわけで、今俺たちは6人で邪魔にならないところでお話をして待っている。
「きゃー!可愛い子がいっぱいぃ~!」
と、そこにとても聞き覚えのある声が響き、そちらを振り向くと、予想通りメイカさんが走ってきていた。
「ギルド内でむやみに走らないでくださ~い」
「マーガレットちゃ~ん!」
「ねぇ聞いて?…うっ!」
注意してみるも効果はなく、仕方なく覚悟を決めて力を入れた…ところに飛びつかれた。
相変わらず勢い強いんよ……。
「んふ~!可愛い成分補充~♪っと、久しぶりショコラちゃん!」
「あっはい…メイカさんも相変わらずみたいで……」
俺に抱きついてパワーチャージをしていたメイカさんが、ショコラちゃんに急に話しかける。
気付いてたんなら飛びつく前に挨拶しましょうや。
ショコラちゃん引いてるじゃん。
…前でも後でも変わんないか。
「チェルシーちゃんとリオちゃんも一緒なんだね♪」
「はい!こんにちはメイカさん!」
「ど、どうも……」
「こんにちはチェルシーちゃん♪うふふ♡リオちゃん、そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
「は、はい……」
リオも引いておられる。
そりゃそうだ。メイカさんは俺を組み伏せ抱きしめながらみんなに挨拶してんだもん。
息できるからまだマシって思うのはやっぱマズい?
視界も確保できるようになった方が良い?
「おかえりメイカ」
「……おかえり」
「ただいまー!フルール、メリーちゃん!」
「そろそろマーガレットを放してあげなさい」
「えーっ!?」
「その子にくっつきたい子は他にもいるでしょ?」
フルールさんがそんなことを言う。
あ~……そうだねぇ……こんな感じで飛びついてくるお狐さんと一緒にいたはずだから……
「あっ!メイカさんずる~い!」
ほいきた、ユーリさん。
「ふふ~ん、早い者勝ちだもんね~♪」
「むぅ~……う?リオちゃんに…あっショコラちゃん!」
「あっユーリさ…んっ!?お、お久しぶりです……?」
教会で会ったことのあるショコラちゃんが引き気味な挨拶を返している。
めっちゃユーリさんの体見てるから、多分踊り子の服の際どさに戸惑ってるのだろう。
2人の挨拶を聞いたメイカさんが2人に聞いた。
「何々?2人とも知り合いだったの?」
「はい、この前マーガレットと教会に行ったときに知り合ったんです」
「ユーリさんにはいろいろお世話になったん…です……」
「へぇ~」
そうさなぁ……あのときは泣きじゃくるマグを心配してきてくれたショコラちゃんの背中を押してくれて、それで仲直り…別にケンカはしてないけど…仲を取り持ってくれたんだよな……。
俺もマグも、ユーリさんにはお世話になってるし、お礼…は多分受け取ってくれないから、思う存分甘えさせてあげよう。
マグは…甘えてあげなさい。
でもあんまりふにふにばっかしちゃ駄目だよ?
「お~、いつも通り大変だな嬢ちゃん」
「お2人とも…ホールであんまり走ってはいけませんよ?む……?ショコラちゃん?」
「あっ!ディッグさん!ケランさん!」
あとから来たディッグさんたちとも挨拶を交わすショコラちゃん。
(ショコラちゃん…嬉しそうだねぇ)
(私とショコラとパメラは、よくメイカさんに可愛がられてましたから、ディッグさんとケランさんともよくお話してたんです)
(あぁなるほど)
それを聞きながらマグとのんびり話をする俺。
(…そろそろメイカさんどいてくれないかな……?)
(う~ん……どう…でしょうねぇ……?)
~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「とりあえず立たせてあげなさい」
そうフルールさんに言われたメイカさんが、ようやく俺を立ち上がらせてくれた……が、今度は腕に抱きつき、離れる気配がまったくない。
そして空いていたもう片方の腕にはユーリさんがくっついた。
(りょ、両側からふにふにが……!)
(マグ……耐えるんだ……!俺も今がんばって青少年の衝動を抑え込んでるから……!)
そんなアホな話をしていると、ディッグさんたちに挨拶が終わったらしいリオが、ユーリさんの腰についているものを見つけ声を上げた。
「あれ?ユーリさん、それってマジックバッグじゃないですか?」
「えっ?あ、ほんとだ」
「えへへ~♪そうなの!ディッグさんたちに昨日諦めたゴーレムを手伝ってもらった後にね?いつも行ってるっていう4階層に連れて行ってもらったんだけど、そこの宝箱から見つけたんだよ~!」
「「へぇ~!」」
嬉しそうにバッグを見せるユーリさんに、俺とリオが相槌を打つ。
「ということはユーリさん、皆さんと連携とかもバッチリだったんですか?」
「おう、凄いぜぇ?ユーリの嬢ちゃんは。俺たちの邪魔にならないように気を配ってくれるから攻撃しやすいし、嬢ちゃん自身もガンガン殴ってくれるからダメージも稼げる。しかも躍りで能力強化もしてくれる上に、鍵開けやトラップ解除の腕も高い。とんでもねぇ逸材だよ!」
「おぉ~!べた褒めじゃないですかユーリさん!」
「えへへ……そんなことないですよ…足を引っ張らないように頑張っただけですから……」
「いやいや!ユーリさんがいてくれたおかげでグッと楽になったのは確かなんですから、もっと自信を持ってください!」
「も~…ケランさんまで~…♪」
ディッグさんとケランさんに褒められ、謙遜しながらもにやけ顔が止まらない様子のユーリさん。
(やっぱりすごいですねユーリさん……)
(うん。さすが、あの試験で文句なしの合格を出した人だね)
(ですね)
ココさんも、ユーリさんのことを買っているようだし、これはイシオンがこの街でSランクになるのも時間の問題かな?
と、思っていたのだが……
「それじゃあ、4階層のボスももう倒してきたんですか?」
と、俺が聞くと、彼らは一様に「あ~…」っと気まずそうな顔をする。
「えっと……?」
「うぅ…!聞いてよマーガレットちゃ~ん!」
やや涙目になりながら話してくれたメイカさんの話を要約すると……
4階層のボスまでは楽だった。
ボスは三対の色の違う翼が生えた獅子の体に鷲の顔の魔物…合成魔獣だったそうな。
で、そのボスは常にバリアに守られていて大変だった。
しかもそのバリアの解き方が、部屋の中を調べまわってもヒントすら見つけられず、分かったのはバリアの色で通る攻撃方法が違うということと、バリアと同じ色の翼から色が抜けてバリアが張り替わるということ。
赤の時は物理攻撃が、青の時は魔法が通ったらしい。
俺はその話を聞いて、似たようなゲームあったなぁって思った。
最強の剣……あのデザインはちょっとかっこ付かないよ……製作者さん……。
それと腕輪……もうちょい育てやすくして……。
まぁでも、腕輪型の魔法補助道具はかっこいいよなぁ……。
杖と違って手が塞がらないし。
ちょっと欲しいなぁ……。
まぁそれはいいとして……。
バリアの仕組みが分かったのなら、あとは倒すだけだと思うのだが、なんとさらに黄色のバリアを張ったらしく、物理も魔法も効かず、どれだけ攻撃しても傷一つ付かず、お手上げ状態になり帰ってきた……ということらしい。
ハルキと絶対話が合うと思う。
ギョレースとか好きそう。
俺はゴルフのが好き。
むずいけど。
「う~……!物理も魔法も効かないなんて、どう攻撃すればいいのよぉ~!?」
「他の手段なんてあったか……?」
「いえ……どれだけ考えても、見当も付きません……」
「ふむ……」
メイカさんたちの嘆きに、周りもざわざわとし始める中、俺はマグと話し込む。
(どう思う?)
(ハルキさんが攻略不可能なものを作るとは思えません。絶対に何か解決策があると思います)
(同感。となると攻撃手段だけど……)
(何か…)
「何かないかな……?マーガレット……」
「ん……」
マグとユーリさんの声が被り、俺は意識を戻す。
そしてユーリさんの問いに答える。
「…とりあえず思いつくのは……」
「思いつくのは?」
「まずは投げ物」
「なげもの?」
「弓矢でも石ころでもいいので、何らかの間接攻撃のことですね」
「!なるほど……」
「…確かにウチにはいないな……」
メイカさんとディッグさんが考え始める。
俺もそんな感じで考えていったので、多分いつか思いつくとは思っていたけど、聞かれたので言う。
「次に…何らかの属性攻撃」
「ん…試したのは、私の風と土、ケランの光、ユーリちゃんの炎だけね……」
「あとは水と氷、雷に闇……そして無属性…ですね」
「この場合、私は無属性だと思います」
「?なんで?」
分かりやすくキョトンとした顔で聞いてくるユーリさんと、真面目な顔で続きを待つディッグさんたち。
他の人たちも、俺たちの話を静かに聞いている。
「無属性はいわば魔力そのもの。ゆえに、魔法が使える人ならば、大半は使うことが出来ます」
「…僕は火と水も使えるけど、それも実戦に使えるようなものじゃない。ましてや無属性なんて、ボール1つ作れるぐらいだよ?」
「じゃあそのボールを投げましょう。それで無属性攻撃です」
無属性に関してはこれで解決だと思ったのだが、ケランさんたちの顔はまだ硬い。
「…それでいいのかな……?」
「というと?」
「言ってなくて申し訳ないけど、バリアを張り替えるまでの頻度が違ったんだ。多分、与えたダメージ量で変わるんだと僕たちは思ってる。だから……」
「なるほど……」
(…それじゃあ、あまりにも時間がかかりますね……)
(そうなるとまた別のやつか…………)
(コウスケさん?)
(…もしかしたら、ここで冒険者を振るいにかけてるのかなって思ってさ……)
(……ダンジョンマスターの脅威を減らすために……?)
(うん……)
ありえない話じゃない。
安全を確保するにはいい手段だ。
だが……
(…ハルキさんがそんなことをするとは思えません……)
(…同感。じゃあやっぱ、何かあるんだろうな……)
マグとそう結論付け、俺はまた話し始める。
「…では別の案。攻撃力が関係している」
「…?どういうことだ……?」
「単純に、この攻撃力以下は無効とか、逆にこれ以上の攻撃力は無効、とかですね」
「……そういう考えもあるか……」
「属性が決まっているって話よりはありえそうね……」
ワンパン対策としてはまぁ…あれだけど、中々面倒ながらも、仕組みが分かればどうにかなるだけまだマシ…という感じだな。
属性はなぁ……かなり限られるからなぁ……。
攻撃力なら、まだ鍛えればいけるし、手加減すれば下もいける…はず……。
…まぁどっちも、条件の合う人を連れて行けばいいだけなんだよな。
フレンドさん最強なんだよな。
「あとは毒とかの状態異常にかける、どこかに隠れてる心臓を壊す、バリアごと圧し潰す、窒息させる、餓死させる、乗り物で引き飛ばす…とかあたりですかね?」
「…マーガレット……」
「はい、なんですか?ユーリさん」
「なんでそんなにポンポン殺す方法が出てくるの……?」
周りを見ると、他の冒険者やスタッフたちも、どこか慄いた表情をしてこちらを見ている。
なんでかって言われると……
「まぁ……思いついちゃったので……」
「どういうことっ!?」
前世にはやたらそういう知識転がってるもんで……。




