121.魔法研究…天使で小悪魔な妹分
マグと交代したのち、未だお耳真っ赤なメリーちゃんを撫でながら、俺はマグに実験の詳細を話す。
(とりあえずマグに手伝ってもらいたいことは2つ。まずは1つ目なんだけど…マグはさ、今俺がこの視界の中で注目して見てるものって何か分かる?)
(へっ?えーっと……メリーちゃんの頭…ですか……?)
(正解)
さっきマグにお礼を言って耳まで真っ赤だったメリーちゃんは、俺が頭を撫で始めマグに質問をしたこのわずかな時間の間に、俺の胸にその頭を擦り付けてきている。
…俺だと判断してのことだろうけど……凄いな、よく分かるな。
でもマグのときとの差が激しくない?
マグにはあんな照れ照れだったのに、俺になった途端に甘えまくりじゃない?
それだけ懐かれてるってこと…で、良いんだよな……?
悪い気はしないよ、もちろん。
でも俺にももうちょっと照れというものをくれたりはしないの?
う〜ん……マグとは同じぐらいだから、同年代の子に甘えてしまったっていう照れはある。
だけど俺は年上のお兄さんだから、甘えるのには抵抗が無い……と。
しかも俺…メイカさんやユーリさん…チェルシーやモニカちゃんにも甘えられてるし……。
みんなに甘えられてるから自分も、ってことなのかな……?
う〜ん……ホントなんでみんな俺に甘えるんだろう……?
(コウスケさん?)
(ん?あぁごめんごめん…ちょっと思考が飛んでたわ……)
(大丈夫ですか?もう少し休んだ方が……)
(いや、それは大丈夫。それに今眠気無いし)
(そうですか?無理はしないでくださいね?)
(は~い)
いかんいかん……マグに心配をかけてしまった。
でも確かに、さっきはいきなり眠気が襲ってきたもんな……。
それだけ疲れが溜まってたってわけか……気を付けよう……。
(さてと…話を戻すけど、今俺はメリーちゃんの頭を撫でてるからメリーちゃんに焦点を合わせてるけど、視界の中には他にもいろいろ映ってるでしょ?)
(そう…ですね……?)
(んで、俺らは視界を共有してるわけだろ?だから、片方がこうして集中して、もう片方が周りを見れば、見落としとかが少なくなっていいんじゃない?って思ったのよ)
(あっなるほど!確かに今までも、私が分からないことをコウスケさんが、コウスケさんが分からないことを私が教えてきましたものね!)
(そうそう、そんな感じで補えれば、探し物も見落としにくくなるし、戦うときだって相手の行動や周囲の状況にいち早く気付けるんじゃないかなって思ったんだよ)
(おぉ~!いいですねぇ!やってみましょう!)
(おー!)
よし…そうと決まれば早速試してみよう!
(んじゃあマグ。俺はこのままメリーちゃんを撫で続けるから、俺が注目してないところを見てくれ)
(はい!)
というわけでなでなで続行!
いや~…実験しながらメリーちゃんを愛でられるとは、いいですなぁ~……!
が、そんなうまい話がそうそうあるはずも無く……
(コウスケさ~ん……!どう頑張ってもメリーちゃんから目が離せませ~ん……!)
(むぅ…やっぱりそう簡単にはいかないか……。目が離せないってどういう感じ?)
(う~ん…なんでしょう……?こう…他のところを見ようとしても、ぼんやり全体を見ようとしてもダメで……)
(ふむ……)
ん~…なんでだろ……?
…そういえば俺も、今まで意識してなかったけど、マグが表に出てるときはいつもマグが今見てるものが分かる……。
その見てるものにピントが合ってるからだ。
…………ピント……?
(あ~…もしかしてだけど……)
(?)
(…目ってさ。見たものに焦点を合わせる働きがあるんだけど……多分その働きも入っちゃってるんじゃないかなぁ~……って……)
(えっと……それじゃあ私たちが見てるものは……)
(まるっきり同じってことだね)
う~ん……そうかぁ……体の働きを忘れてたなぁ……。
てかそうか……味覚とか触覚とかやんわり感じるんだし、魂は別でもその辺りはしっかり共有されてるか……。
(あ~…考えたらもう答えが出てることじゃん……駄目だぁ…まだ疲れてんのかなぁ……?)
(ま、まぁまぁコウスケさん。そんなに落ち込まないで……ほら!もう1つ試したいことがあるって言っていたじゃないですか!)
(あ~…あれな……マグが魔法使えるようになったって聞いたから、俺とマグでそれぞれ使えないかなって思ったんだけど……)
体の機能は完全共有って感じだし、魔力も駄目だろうなぁ……。
(なるほど……そうなれば攻撃力も上がりますし、コウスケさんが出した魔法を私が動かせれば、余裕の出来たコウスケさんは、また別の魔法を唱えたり、他のことに集中できますもんね……)
(おぉ!たったあれだけの提案からそこまで考えるなんて!さすがマグ、頭いい!)
(!そ、そんなことは……えへへ……♪)
いや~やっぱりマグは頭いいよ。
しっかりと勉強したら、絶対俺よりも知力高いよ?
現状ですでに危ういからな。
(んでまぁそういうわけで試したかったんだけど、さっきの結果的に難しそうだからどうすっかな~ってね)
(う~ん…一応試してみませんか?やってみないと分かりませんから)
(それはまぁ…正論です。んじゃあ早速……)
くいくい
「ん…?」
「……(ぷく~)」
マグと相談していると服を引っ張られたので意識を戻すと、メリーちゃんが頬を膨らませて俺をじっと見つめていた。
「ど、どうしたのメリーちゃん……?」
「……もっとちゃんとなでて…」
「えっ?」
「あなた、手は動いてたけど、上の空って感じだったから拗ねちゃったのよ。大方マーガレットとずっと話してたんじゃないの?」
「おぉぅ…なるほど……」
それを察知してこうしてむくれてるのか……。
可愛い奴め。
「……むぅ~(ぐりぐり)」
「あっやめてメリーちゃん。胸に頭をぐりぐり押し付けるのはやめて。つぶれちゃう」
「……つぶれなくても同じぐらいだから大丈夫」
ひょ~……!メリーちゃんなんちゅうことをっ!?
それは多くの女性が気にしてることだってどっかで聞いたぞ!?
(…メリーちゃん……?)
…………寒気がする……。
北の海から、マーガレットの悪魔が来たみたいだ……。
どっちかっつったら、爆弾発言をしたメリーちゃんの方が悪魔っぽいけど。
吸血鬼だし。
「……それにコウスケは小さい方が好き。だから感謝してほしい」
「メリーちゃん?」
何を言ってるのこの子は?
確かに最近、大きなお胸が原因で死にかけてることが多々あったけども。
マグの慎ましやかながら、きちんと存在しているふくらみにドギマギしたり、メリーちゃんやチェルシー、ショコラちゃんやモニカちゃんに抱きつかれたとき、少し意識しちゃってドキッとしましたけども。
あっ駄目だこれ。
「そもそもマグとお付き合いしてる時点で何言っても説得力無かったわ。そうです。私はロリコンです。お巡りさん私です」
「別に責めては無いと思うわよ…?」
「えっ」
「……小さい方が好き。ならわたしのも好き。だからコウスケはわたしが好き」
「極論キタコレ」
フルールさんの弁護により更なる混沌へと足を踏み入れた現場。
(ま、まさか……!?メリーちゃんもしかしてそういうことなの……!?)
マグもなんか戦慄してるし、俺が何言っても意味なさそうだし、いったいこの場をどーまとめればいいんでしょーか?
コンコン
と、そこで部屋の扉がノックされた。
誰だか知らんがナイスタイミング!
「……(じー)」
「…フルールさんお願いします……」
「はいはい」
メリーちゃんが一向に離れようとしないで、ただただ見つめてくるので諦めてフルールさんにお願いする。
ホント、なんでこんな懐かれてんだろ……?
それ自体は別に嬉しいことだから良いんだけど……こんなベッタリされるほどのことをした覚えが無いんだよなぁ……。
…そんなにあの「幸せにする」宣言が嬉しかったのかな……?
もしそうなら多少のわがままは…すでに許容してると思うから……もっと甘やかそう、そうしよう。
それしか出てこねぇ。
「あら?ララじゃない早いわね」
フルールさんが扉の覗き穴から外の様子を窺い、ララさんだと分かると扉を開けた。
…ララさんさっき穴覗かずに出たよな……。
ダニエルさんだったからよかったけど、不審者とかだったらどうするつもりだったんだろう……?
「ララ、早いわね…って、その子は?」
「マギーちゃんのお客様だよ」
「えっ?呼びました?」
さすがに俺への客人までを放ってまで、メリーちゃんを撫でるわけにはいかない。
それはメリーちゃんも分かっているはずだか、まったく動く気配がない。
可愛いから許す。
それで?俺の客人とは誰ぞや?
「お、お邪魔しま~す…」
「あれ?ショコラ?」
「あっマグぅ!久しぶ…り……」
現れたのはロッサ村からのマグのお友達、犬系獣人のショコラちゃんだった。
ショコラちゃんは俺が声をかけると嬉しそうにこちらに振り向いたのだが、何故か段々と声が萎んでいった。
…まぁ…友達が知らない子に抱きつかれてたら戸惑うよな。
「久しぶり、ショコラ」
「う、うん……。えっと…それよりも…その子は……?」
「この子はメリー、そちらのフルールさんの娘さんだよ」
「そうなんだ……えっ娘?うそっ!?こんなに若いのにっ!?」
「若くても娘は出来るんだよ」
「そ、そうなんだ……!」
よし、2人の紹介も済んだし、本題に切り出そう。
これ以上ショコラちゃんに適当な知識を与える前に。
「それで、今日はどうしたの?まさか教会で何かあった?」
「あ…ううん、違うよ。マグに会いたかったから来たの」
「そっか。隣座る?」
「うん!」
ショコラちゃんを隣に呼んだ俺は、彼女がこちらに歩いてくる間にマグに話しかける。
(マグ、どうする?変わる?)
(…そうですね……前はゆっくり話せなかったので、久しぶりにショコラとお話ししたいです)
(了解)
マグと交代したタイミングでショコラちゃんが隣に座った。
「…えへへ…久しぶり、ショコラ」
「うん…って、さっき言ったでしょ~」
「ふふふ…そうだね」
…マグとショコラちゃんは一応3日前に会ってるのだが、あの時はマグの精神状態が不安定だったからな……。
こうして話すのは…え~っと…?
この街に来て8日目だから…少なくとももう1週間以上も前なのか……。
それじゃあ話したいことがいっぱいありそうだなぁ。
「ねぇマグ。マグは今、この街でできた友だちのために修行してるって聞いたよ?」
「うん、モニカちゃんっていう、兎人族の女の子でね?《白兎亭》っていうお料理屋さんの子なの」
そっか。獣人獣人言ってきたけど、そういえば《兎人族》って門番さん言ってたわ。
てことは、ショコラちゃんやユーリさんの種族名も、犬人族や狐人族って言うのかな?
「へぇ~……。でもマグって体動かすのは苦手だよね?大丈夫なの?」
「あはは…まぁそれはそうなんだけど……でも最近は運動してるし、ちょっとは体力も付いたから……」
「え~?ほんとかな~?」
「ほ、ほんとだよ~!」
ははは、言っても本当にちょっとだけどな。
おっと…メリーちゃんが……。
「……」
「あっ…そのままでも大丈夫だよ。ショコラが後から来たんだし……」
多分気を遣って移動しようとしたメリーちゃんに、ショコラちゃんが声をかけ止める。
まぁ…旧交を温めてるとこで、それを気にせず抱きついてるってのは落ち着かないやな……。
「マーガレット、ご歓談中のところ悪いけど、その子を紹介してくれない?」
「あっ、そうですね。この子はショコラって言って、村にいたころからの私の友達なんです!」
「そうなの。初めまして、私はフルール、その子は娘のメリーよ。よろしくね」
「は、はい!よろしくお願いします!……本当に子どもがいたんですね……」
うん、まだ引っかかってたのね。




