116.闘技場…サクサク会話術
「さて…んじゃあ次」
『えっ?良いのですか?まだステータスを見ただけで、何も対策は話していませんが……』
「そこら辺は追々…かな。その手のタイプなら模擬戦するのが手っ取り早いし。それよりもちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
『?はい、なんでしょうか?』
「…その……俺とマグの両方が表に出てこれる方法って無いかな…って……」
「「『!』」」
俺とルーク少年のステータスを比べ終わったところで、俺は今日の本題を切り出した。
『両方表に…というのはつまり……コウスケさんとマーガレットさんが、手を繋いだり、一緒にご飯を食べたり…ですか?』
「うんまぁ確かにいちゃつきたいけど……」
というか10割そのためだけど。
『う~ん……それは同じ人間として、ということですよね……?』
「いや、獣人とか他の種族でも…」
『あぁいえ、そういうことではなく……犬や猫などの動物だったり、ぬいぐるみや鎧などに憑依する、ということではないんですね?』
「あ~…そういうことか……。うん、人でお願いします」
それはそれで楽しそうではある……いや、俺がなるにしろマグがなるにしろ、かなりやばい絵面になるのではないか……?
だって犬になったとしてよ?
基本的に服はまぁ着ないだろうし…食事だって手は使えない…かな?多分使えねぇんじゃねぇかな?
まぁとにかく、なによりやばいのは……お互いの姿を知ってること…だよね……。
見た目犬でも…マグだってことは分かってるから……うん…あの~……そういうプレイにしか見えない。
パートナーを裸で連れまわしてるようにしか感じない。
これは俺の心が汚れてるからか……?
(ワンちゃんネコちゃんなコウスケさん……かわいい…けど……!そうじゃない……!)
マグも不服なようです。
『…そうなると……う~ん……一応手段が無いわけではありませんが……』
言葉に詰まるフォーマルハウト。
…あ〜……これ多分、ロクな手段じゃないな……?
「フォーマルハウト。言いにくいんなら別に言わなくても良いよ?出来れば良いなぁってだけで、今の状態も好きだし」
『う〜ん………すみません…甘えさせてもらいますね……』
俺がそう言うと、フォーマルハウトの申し訳なさそうな声が返ってくる。
「うん、大丈夫。ごめんね、悩ませちゃって……」
『いえ…こちらこそ、お力になれず申し訳ありません……』
「フォーマルハウトは悪くないよ。難しいだろうとは思ってたから」
『そう言っていただけると救われます…』
まだフォーマルハウトは引きずってるようだが、とりあえずはこれで切り上げだな。
う〜ん…しかし……やっぱり一筋縄じゃいかないかぁ……。
まぁ、これは別に今じゃなくても良いんだよな……。
むしろ、安全性が保障されてるやつじゃないと怖くて嫌だ。
ここで無茶して、魂にダメージが入ったりしたら、下手したらそのままお陀仏の可能性だってあるからなぁ……。
ここは慎重にいきたい。
「それじゃあ後は……特に無いかなぁ……そっちは?」
『はい、私からも急ぎの用件はありませんね』
「そっか、じゃあ今日はお開きで。ハルキによろしくね」
『はい、伝えておきます。フルールさんとメリーさんも、よければいつでもいらしてくださいね』
「あら、いいの?とても忙しいんじゃない?」
確かに。
フルールさんの言う通り、ダンジョンマスターのナビって忙しそうだけど……。
『いえ、基本的にダンジョンの管理などで数字とにらめっこしてることが多いので、むしろ来てくださった方がありがたいです』
あっお疲れ様です。
「そういうこと。分かったわ」
『ありがとうございます。ではまた』
「えぇ、また」
「……またね」
そう言うと、向こうからの通信が切れた。
「さてと…お待たせしました、フルールさん、メリーちゃん。行きましょうか」
「えぇ」
「……(こくり)」
ホワイトボードに書いたステータス表を消し、俺たちは通信室を後にした。
運動するのにちょうどいい服のことを聞くのは完全に忘れていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おぉぉ~!!」
「…凄いわね……!」
「……!!(こくこく)」
「ふふふ…♫そうでしょう?」
ララさんに案内してもらい、迷宮1階層の闘技場に来た俺たちは、その外観に圧倒されていた。
その外観は、まるでローマにある本物のコロッセオのような重厚感があった。
本物をテレビや本以外で見たことはないが。
得意げなララさんが言うには、「街作りに闘技場はお約束だよね!」と言い出したハルキが、徹夜してまで作り上げた自慢の建物なのだそうだ。
ダンジョンマスターの力で建物とかも割とポンポン作れるようではあるが……まぁ、こういうものを作るのも趣味の一環なんだろう。
楽しそうで何よりです。はい。
そうこうしてるうちに闘技場の内部へ入る。
「向こうに練習をするための小部屋があるの。着いてきて」
そう言って歩き出すララさんを追いながら、俺は周囲を見渡してみる。
冒険者、冒険者、冒険者……。
ここにいるのはみんな冒険者…いや、あれは商人か?
ちょっと遠くて商品までは見えないけど……でも確かに、冒険者だらけのここなら薬とかバンバン売れそう。
向こうには…魔物……?
あっ、テイマーか。いや、サモナーか?
未だに見分けがつかないんだよな。
前聞いた時は、慣れたら分かるよ、ってララさんは言ってたけど、そんな気が全くしない。
でもあれだ。多分、キャベツとレタスみたいなもんだ。
分かる人には簡単に分かるけど、分かんない人にはピンと来ないあいつだ。
見分けつかないんだ、って言ったら、え〜!?分かるよ〜!って返された時はシンプルにウザって思った。
分かるやつには分かんねぇやつの気持ちが分からないんだ。
何事もそうなんだ。
だから俺は聞かれたら出来る限り答えようと頑張ろうって思ったんだ。
まぁそれはさておき、あっちには……うおっ!すげぇ重装甲の人がいる!重そう!
これから練習だろうか?
簡素な防具を身に纏った若者5人と共に奥に進んでいった。
う〜ん……!
冒険者ギルドよりは少ないけど、それでも結構な数の人がいるぞ。
しかも迷宮内、それも闘技場だということもあってか、雰囲気が違う。
血の気が多そうな感じがひしひしと伝わってくる。
…これが冒険者か……。
「ん…?おぉ!マーガレットちゃんじゃないか!」
俺が好奇心のままに辺りを見渡していると、ギルドホールで話したことのある冒険者の男の人が俺に気づき声をかけてきた。
俺がそれに答えようと顔を向けたところで…
「あっほんとだ!」
「おーっす!マーガレットちゃん!仕事かい?」
騒ぎになった。
まぁ何回か同じようなことがあったので少しは耐性が出来ている。
ここは落ち着いて…
「ララさんもこんにちは〜!」
「おっ?見たことない美人がいる!?」
「な、なんだあの美女は……!?マーガレットちゃんの知り合いか……?」
「きゃあぁぁ!あの子可愛いぃ!マーガレットちゃんと手ぇ繋いでるぅ!」
「あっ!隠れたぞ!お前らうるさすぎるんだよっ!」
「お前もなっ!」
落ち着けねぇ。
冒険者1人1人が好きなように喋るから収拾がつかない、いつものやーつ。
とりあえず、この冒険者たちのノリにビビってしまったメリーちゃんを守りつつ、場を収めるためにご挨拶っと。
「皆さんこんにちは。今日はお休みなので仕事ではないんです。それでこちらはフルールさんとメリーちゃん。2人は親子で、訳あって今は私と同じところで暮らしてるんですよ」
『お、親子ぉぉぉ!!?』
その場にいた人たちの驚きの声を聞きつつ、俺はこっからどうまとめるかを考える。
簡単な紹介と用件は済んだから…パパッと離脱するか。
早く練習したいし。
「なんでか私1人で練習は駄目だって言われたので、今回付き添いで来てくれたんです」
「そ、そうなんだ……いや、それよりもその2人が親子って……」
「意外ですか?」
「あ、あぁ……とてもそのぐらいの子供がいるとは思えねぇほどの別嬪さんだからよぉ……」
「でしょう?」
「それにその首輪……もしかして……」
「はい、奴隷です。しかも非公認の奴隷商の。あぁ、私が買った訳じゃないですよ。ギルドの関係者が購入したんです。だから多分、もうその商人は……」
「しょ、商人は……?」
「…(ニコッ!)ま、とにかく、私たちはそろそろ行きますね」
「えっ!?お、おう…そっか……分かった……」
「はい!ではでは〜!さ、行きましょ!」
話しかけてきた冒険者の人との会話をサクサク終わらせた俺は、フルールさんの背中を押し、メリーちゃんの手を引き、ララさんを促しその場を後にする。
(さすがです、コウスケさん)
(凄い力技だったけどね……)
(いいじゃないですか。それに、フルールさんたちのためにも、あの人たちのためにも、あの場は素早く切り上げるのが一番でしたよ)
(ははは、ありがと、マグ。そう言ってくれると嬉しいよ)
あの場を素早く切り上げた理由。
俺が早く魔法の練習をしたいからというのもあったが、それよりも重要なことがある。
フルールさんは人間が嫌いだということだ。
今は落ち着いているが、出会った当初は敵意むき出しで、ダニエルさんやローズさんに怒られるほどだったフルールさん。
今や優しい美人寮母さんになってはいるが、それは俺がイレギュラーな存在なのと、その周りの人達がそれを理解しているから。
俺というイレギュラーを受け入れているという前例があるから、フルールさんも安心してメイカさんたちと暮らしているんだろうし、友人にもなれたのだと思う。
…いやほんと。
行き当たりばったりで行動しすぎだよな……。
しょうがないやん……。
ゲームじゃあるまいし、イベントがいつくるかなんて分かんないんだから。
その場その場で最善だろうことをするしかないやん。
かなり危ない橋ばっかりだけどな。
まぁとにかくそういうわけだから。
あとメリーちゃんも怯えてたし。
怖いよね、そりゃあ。
フルールさんと一緒にいたんだもんね。
人間がやべぇ生き物だってことは十分知ってるんだもの。
それに冒険者って厳つい人多いもんね。
女性も戦士の人とか筋肉凄いもんね。
この前触らせてもらう機会があったけど、硬かったよ……凄く硬かった。
パンチしたら俺の手が砕けそうなぐらいだった。
もはや凶器。
兎にも角にも、そんな理由でサクサク切り上げました。
…まったく……もうちょい早く思い出すべきだったよ……。
そうすりゃそれを理由に……いや、無理か。
それを承知でフルールさんは付き添ってくれたんだ。
…だったら、それを後悔させないようにする。それが一番大事だろう。
「…マーガレット」
「はい、どうしました?」
あれやこれや考える俺に、フルールさんが話しかけてきた。
「…ありがとね」
「…なんのことやら」
「くすっ…」
俺が言ってみたかった誤魔化しを口にすると、フルールさんは少し吹き出した。
…そんなにおかしかった?
ちょっとクサいセリフだとは思うけどさ……。
きゅっ
「……♫」
メリーちゃんは、繋いでいる俺の手を強く握り、上機嫌で俺に寄ってくる。
俺はそれに手を握り返して答える。
あ、満面の笑み。
とても可愛らしいですな。
頑張ってよかった。
と、そこで、前を歩いているララさんが話しかけてくる。
「う~ん…やっぱりマーガレットちゃんと仲良くなれてよかったよ」
「?なんでですか?」
「マーガレットちゃん、詐欺師になれそうだから」
「酷くないです?」
ならんよ?そんなん。
大体、本物の詐欺師はこんな小手先の話術じゃないからね?
会ったことないけど。
「そうねぇ……あぁはならないと思うけど……やめときなさいよ?」
「なりませんて」
フルールさんまでなんてことを。
あぁはならないって……もしかしてフルールさんたちを売ってた商人のことか?
おぉ~なんねぇなんねぇあんなもん。
マグにあんなことさせる気も無ぇし。
「……めっ」
「いやだからならんて。そんななりそうなの?私」
酷くない?さすがに酷くない?
そこまで言われると「ちょっとなってやろうか」とか思っちゃうアマノジャッキーですよ?私。
「あっ、今日使う部屋はあそこの13号室だよ」
先を歩くララさんがそう言う。
いつの間にやら練習用の小部屋が立ち並ぶエリアに入っていたようだ。
てか待て。13号室て。
大丈夫?中にチェーンソー持った人スタンバってない?
S級のハッカーとかサムライとかだったらバッチ来いなんだけど。
あっ、コンセントレートみたいな魔法あるかな?
あ~でも、自分で魔力を編めるこの世界なら必要無いか……?
ん~…その辺も考えてみるか……。
このあとの特訓でやりたいことを考えつつ、俺はその13号室へと足を踏み入れた。




