11.就職計画…そして仲直り
「ちょっ、ちょっと待て嬢ちゃん!簡単に言うがそんなやつどうやって探すんだ!?第一、そんなやつがいるとは思えねぇって!」
俺の「出来るやつがやりゃ良いじゃん」発言に待ったをかけるディッグさん。
まぁ相手は何と言っても、あの翡翠龍。
それをどうにか出来る化け物がそう簡単に見つかるとは思ってない。
…いやほんと、ゲームの主人公とか人間じゃないもんな。火やら斬撃やら受けて、元気に動き回るどころか、反撃かますもんな。
まぁそれはともかく…
「だからこそのこの街なのですよ」
「…確かに、迷宮都市には今多くの冒険者がいる。その中にはSランクの実力者だっていてもおかしくないけど……」
「でもその人たちとどうやって知り合うつもり?言っておくけど、私は冒険者をやるなんて反対だからね?」
ケランさんの言う通り、ここには多くの冒険者がいる。その中には、龍にだって対抗できるほどの実力者がいる可能性だってなくはないはずだ。
そしてその人達と知り合う方法だが…
「まぁ、冒険者になるっていうのも少しは考えたのですが…今みたいに反対されるって思いましたし、何よりそんな悠長な事をしていたらアイツの被害が計り知れなくなってしまいます」
「…じゃあどうするの?」
「こうします。ハルキさん」
「なんでしょう?」
「私がギルドで働くにはどうしたらいいですか?」
そう、冒険者になるより確実に他の冒険者と話す機会が多いギルドスタッフになれば良い。
ギルドなら様々な情報も集まるだろうし、何より冒険者達の生の声が聞こえる。
…別に冒険者を諦めたわけじゃないのだ。
ただ、ひと月ふた月で龍狩りのパーティに入れるほどになれるとは思っていないので、ならば最初から実力のある者に任せてしまえ、という結論に至ったわけだ。
「ギルド自体は慢性的な人手不足なので、頼めばすぐに採用されると思います」
「ギルドスタッフか…なるほど考えたね…」
「確かにそれなら人と知り合える、情報も集まりやすい、それらの目的を果たしながら金も貰える……なかなか合理的じゃないか」
「うーん…冒険者になられるよりは安全だし…あ、でもやっぱりダメ」
「えっ、何故ですか?」
ハルキからは良い返事が返ってきて、ケランさんとディッグさんも納得した様子だったが、メイカさんは何故か反対してくる。
「だって、ギルドスタッフって受付に立つこともあるでしょう?」
「まぁ、そうですね…それも仕事の内なので」
「そうなったら大変じゃない!」
あ、なんだろう。
なんとなく何言うか分かった気がする。
「マーガレットちゃんかわいいんだから悪い虫がいっぱい付いちゃうでしょ!?」
ほらね。
「あー…確かに女性のスタッフにいたずらする方もたまにいらっしゃいますが…」
「でしょ!だからダメ!」
「メイカさん、それ言い出したら何も出来ませんよ……?」
世の中男性のいないとこなんてどこにも…あぁでも女学園とか…いやそれでも男性教諭はいることあるか。
そんないつも通りなメイカさんにディッグさんとケランさんは「またか…」と言う顔をしている。
仕事モードで表情を崩さなかったハルキも若干苦笑いになってしまっているし、チェルシーちゃんもこれにはポカンと…ってそうか。
「チェルシーちゃん」
「え、な、なに…」
まだ引きずってるかな、これは……。
後でちゃんとお話しないとね。
まぁ今はともかく…
「チェルシーちゃんもギルドで働いてるんでしょ?」
「う、うん」
「実際に働いてる身としてはそこらへんどうなの?」
そう、ここに現役スタッフがいるのだから直接聞いてしまえばいいのだ。
「えっと、そうだね……挨拶したり、世間話をしたりするだけの人もいるけど、その…メイカさん…の言う通りそういう目で見てくる人も中にはいる…かな……」
「ほらぁ!やっぱり!!」
まさかチェルシーちゃんをそういう目で見る者がこの世界にもいるとは……。
さすが、人間の業というのはかくも恐ろしいものじゃきぃ……。
「でもそれは女性だったらそうそう避けて通れるものじゃないでしょう?だったらまだ目の届く範囲にいた方が安心出来るのではないですか?」
「うっ!それは…確かに……」
どうせ働くことになったら、女性のみの職場じゃない限りそういう目で見られるのだ。
だったら知り合いの目が届く範囲で働けば、メイカさんも少しは安心出来るし、俺も目的を果たせるしでwinーwinではないだろうか。
それはメイカさんも分かっているようで、かなりしどろもどろになっている。
よし、もう一押しだ。
「それに私だって心配なんですよ?メイカさん達が迷宮に潜っている間、私だけ何もせず部屋でぼんやりとしてろって言うんですか?」
「うっ…」
「迷宮からメイカさん達が帰ってくるまで、1人で待ってろって言うんですか?」
「うぅぅぅでもぉ……」
うーん…まだダメか。
だったら仕方ない。
…出来れば言いたくなかったけど……
「……また、私の知ってる人がいなくなるのをただ見てるのは嫌なんです……」
「! マーガレットちゃん!」
俺の言葉に、また抱きしめる力を強めるメイカさん。
というかいい加減離れてくれないだろうか。
「マーガレットちゃん…ごめんね…。私の我が儘で……」
「いえ、我が儘を最初に言ったのは私ですし……」
「うぅん、違うの……。私、マーガレットちゃんの気持ち、全然考えてなかった……」
メイカさんが瞳を潤ませながら言う。
美女のそんな顔にドキッとしてしまう彼女いない歴=年齢の俺。
アホ!今そういう雰囲気じゃないだろ俺!!
心の中で自分を戒めているとは思ってもいないメイカさんは、そんな俺に…
「分かった…マーガレットちゃんがギルドで働くの、応援するよ」
「メイカさん……」
すごく罪悪感がヤバイよ……。
後半全く集中してなかったのに、そんなキラキラした目で見られたら俺すごく困る。
そんな自業自得な俺を置いて、メイカさんはハルキに話しかける。
「ハルキ…貴方のこと、まだ完全に信用したわけじゃないけど…マーガレットちゃんのこと、よろしくお願いします」
「…えぇ、もちろんです」
メイカさんがハルキに頭を下げてお願いする。ハルキもいつもの貼り付けた笑顔じゃなく、自然な微笑みをして返事を返している。
どうやら俺のギルド就職はみんな応援してくれることになったみたいだ。
……うん、あれだな……。
集中力を鍛える為に、瞑想でも始めてみようかな……。
大事な場面だというのに全く集中して無かったからな。俺が中心のはずなのにな。
まぁとにかく、無事にみんなの了解は得たことだし、後は明日ギルドマスターに聞いてみるだけだな。
というわけで…
「チェルシーちゃんや」
「ど、どうしたの?」
「ちょいと私とお話しない?」
「…!う、うん……」
俺はチェルシーちゃんと仲良くなるべくお話を提案したわけだが…ミスったかもしれない。
めっちゃ萎縮してるもん。
震えとるもん。
言い方悪かったかな?ただのお話だよ?
あ、うんごめん悪い気がする。
お話なんて言わないで、普通に「私と話さない?」って聞きゃよかった。
やっちまった。
「マーガレットちゃん……」
俺が後悔してると、チェルシーちゃんの方から話しかけてくれた。
よしゃこい、少女よ。
この自責と後悔の念がやたら多いお兄さんに何か聞きたいことはあるかな?
ってなんか泣きそうな顔してない?
「ごめんなさいっ!」
「うぇっ!?」
チェルシーちゃんの急な謝罪に、変な声が出てしまう俺。
いやいや待て待てどうした少女よ、って聞くまでもなく原因分かってるけど。
「えーっと、別にあの事はそんなに気にしてないって言ったでしょ?だから大丈夫だよ」
「ウソよ…あんなに取り乱して、泣き叫んぶほどだったのに……」
うーん、なるほど。
俺が夢に落ちてる間のこの子を見てしまったから、いまいち俺の言葉を信用できないのか……。
うーん…どうしたもんか…。
「そうだなぁ…うん、確かに全く気にしてないと言えば嘘かもしれない」
「……」
「でも感謝してるって言ったのは本当」
「…ウソよ……」
「ホントだよ。確かに怖かったよ?あの夢が現実とは思いたくない。今だってそう。でもね…」
「忘れたままなのはもっとイヤ」
「あんなやつのためだけに、お父さんやお母さんのことを忘れるなんて…イヤ。だからきっかけを作ってくれたチェルシーちゃんを恨んでなんかないの。まぁ、それでも自分が許さないって言うなら…」
「私と友達になってよ」
これは偽らざる本心だ。
でも本人のじゃない。
もしこの子が彼女のことを本当は恨んでいるのなら大変なことになってしまう。
…やっぱり、この子と話がしたい。
この子の本心が聞きたい。
なんか致命的なことやらかしそうで恐いから。
「……本当に、いいの……?」
おずおずとチェルシーちゃんが聞いてくる。
それに俺は笑顔で答える。
「もちろん!よろしくね!」
その答えに彼女も今日一番のとびきりの笑顔を返してくれた。
「うん!よろしく!」