106.歓迎会…の終わりの方
「マーガレットぉ!」
「はいはいったい!」
相変わらず突撃してくるユーリさん。
これは1回、しっかりとお話をしないといけないかな?どうかな?
それはともかく、無事に踊り終えたユーリさんを俺は抱きしめ撫で始める。
「えへへぇ♪」
お耳と尻尾がぴこぴこぴこぴこ。あら可愛い。
ユーリさんの踊りはとても素晴らしかった。
お米があるというヤマト出身ということで、もしかしたら日本の能とかかもと思ったのだが、ユーリさんの踊りはアイドルのようなポップなダンス。
明るく元気なユーリさんにぴったりな、見てるこっちまで元気になれるようなダンスだった。
心なしか、体が軽くなった気もする。
テンション上がったからかな?
「ユーリちゃ〜ん!良かったよぉ〜!」
「見事なもんだ!なぁ!」
「えぇ!とても素晴らしかったです!」
「なかなか見応えのある踊りだったわよ」
「……きれいだった!(キラキラ)」
「!…えへへ、ありがとうございます!」
みんなからの拍手と賛辞の言葉に、ユーリさんは照れながらも嬉しそうな顔でお礼を返す。
実際、ユーリさんが踊っている間、みんなユーリさんから目が離せなかった。
それほど見事な踊りだった。
メリーちゃんが目を輝かせて興奮するのも無理は無い。
と、そんなことを考えている俺に、ユーリさんが顔を向ける。
「…ねぇねぇ、マーガレットぉ……」
「?どうしました?」
「……マーガレットはどうだった……?」
「はい、とても綺麗で素晴らしかったです!」
「ほんと?やったー!」
俺が本心を口にすると、ユーリさんは嬉しそうな声を上げ俺に顔をぐりぐりと擦り付ける。
ぴこぴこ動いていたキツネ耳とキツネ尻尾が、より勢いよくぶんぶんと動き始める。
…ユーリさんってこんな甘えたがりだったっけ?
んー…でもまぁ…故郷を離れて1人で旅してきたんだもんねぇ……。
誰かに甘えたくなっても仕方ないかもねぇ……。
甘えられる人がいるってのは良いことだよ、うん。
あとお酒がちょっとだけ入ってるからだろうな。
素面っぽかったけど、少しだけお酒の匂いがしたからな。
明日覚えてたらめっちゃ恥ずかしくなるんだろうな。
うん、見たいな。
そう考えた俺は、約束通り…いや、予定よりももっと甘やかすことにした。
「よしよし…頑張りましたね……凄く綺麗でしたよ?」
「んふふ…♪ありがとう〜♩」
「いっぱい踊って喉渇いてませんか?お水飲みます?」
「ん〜…もうちょっと〜…」
「くすっ…はい、良いですよ。お好きなように…ね?」
「んぅ〜……♡」
あらら…凄くぼんやりしてる……おねむかな……?
そうだねぇ…ユーリさんも昼からずーっと一緒にあっちゃこっちゃ行ったもんねぇ……。
しかもお酒飲んでるっぽいもんねぇ。
「ほら…ユーリさん。ここで寝てはダメですよ?」
「ん〜…もっとぉ〜……」
「ふふふ…それなら……ほぅら…こっちへおいで……?」
「んゅ〜……」
「そう…ゆっくり…ゆっくり……私の手をしっかり握って……?」
「うん……」
眠気でふわふわしているユーリさんの手を取り、ゆっくりとリビングへと誘う。
「そこ、段差ありますよ〜…気をつけてくださ〜い…」
「ん〜……」
「いいですよ〜…はい、よく出来ました。もう少しですよ〜」
「んへぇ…♪」
俺に褒められたのが嬉しかったのか顔がにやけるユーリさん。
かぁいいねぇ、よしよ〜し♩
(コ、コウスケさん……)
おっといけない。
さっきの今でマグがヤキモチ焼きだということを失念してしまった。
(そ、その……えっと……そ、それ……)
(それ?どれ?)
(その…今ユーリさんにしてるような、すごく甘えさせてくれるのに…その…なんだかちょっと危ないような……)
(危ない?)
えっ?これ危ない?
ただソファーに連れて行こうとしてるだけだよ?
(えっと…甘えたら最後、そのまま戻って来れなさそうな感じがして……)
(そ、そうなのか……)
そんな人攫いみたいな雰囲気出てたんか……。
(マジか…気をつけないと……)
(えと、そうじゃなくてですね…!)
(ん?)
(あ、あの……そ、それを…わ、私にもしてほしいなぁ…って……)
(えっ?)
応じたら戻って来れなさそうなやつを?
正気?
「マーガレットぉ…」
「ん?あぁ、はいはいすみませんユーリさん。はい、このソファーにどうぞ」
ユーリさんの声でマグとの会話を中断した俺は、ユーリさんをソファーに座らせる。
「……マーガレットは…?」
「くすっ…少し待ってくださいな?」
寝ぼけながらも俺に甘えた声をかけるユーリさんが可愛くてつい笑みがこぼれてしまった。
俺はユーリさんとは少し間を空けて座る。
それにユーリさんは少し寂しそうな顔を浮かべるが、俺はそんなユーリさんに優しく微笑みかけて膝をぽんぽんと叩き彼女を呼ぶ。
「はい、どうぞ」
「!…んふふふふ…♪」
ユーリさんは顔をにやけさせながら耳をぴこぴこ動かし、そのまま俺の膝の上に頭を乗せ、俺の顔を嬉しそうに見つめてくる。
俺もそれに答えるように見つめ返しながら、頭を撫でる。
「ふわぁ……!マーガレットちゃんが天使に見える……!」
「……!(こくこく)」
未だ窓際で夜風に当たっているメイカさんとメリーちゃんがなんか言ってる。
そうなぁ…その「天使」って部分だけ二つ名になれば良かったのになぁ……。
「マーガレットちゃん、何か食べるかい?」
「そうですね…それじゃあ一通りもらっても良いですか?まだそんなに食べてないんです」
「忙しそうだったもんね。分かったよ、ちょっと待っててね」
「ありがとうございます」
メリーちゃん甘やかして、マグを宥めて、メイカさんとフルールさんの酔っぱらい組に注意を払いつつ、ユーリさんの踊りを見て、そのままユーリさんを甘やかして……。
あぁ〜……お腹すいた……。
今俺の腹の中には、踊りの前にケランさんにもらった水しか入ってないぜ……。
机の上には水とお酒以外にも、いろんな果物のジュースがあるというのに……。
悲しい……。
「マーガレットぉ〜……!」
「…あっすみません」
俺が机の上の品々を見てお腹を空かせていると、その影響でなでなでが中断されたユーリさんからの催促が飛んできた。
んも〜…このキツネっ子は……可愛らしいことをしおってからに……。
「ユーリさ〜ん……いい子いい子〜…」
「♪〜」
さてさて…このままひと眠り…って、そうだ。
「ディッグさ〜ん…」
「ん?…おっと…どうしたんだ嬢ちゃん…?」
俺が小声でディッグさんを呼び、呼ばれたディッグさんも寝かけてるユーリさんに気づいて小声で答えてくれる。
「ユーリさんは今日お泊まりですよね…?」
「あぁ…そうだと思うが……メイカ?」
「んぅ〜…可愛い子ばかりで幸せぇ〜……♡」
「メイカも寝てんのか……。まぁ寝てるのを起こすのも悪いし、空いてる部屋に寝かせるか…」
「はい、お願いします…」
この寮10部屋あるのに、使ってるの半分だけだからな…有効活用有効活用っと。
というかメイカさん寝るの早っ。
「お待たせマーガレットちゃん」
「ありがとうございます、ケランさん」
「どういたしまして。それとこの空いてる椅子を机代わりにどうぞ」
「わぁ…重ね重ねご迷惑を…」
「いやいや…メイカさんが何事も…無いわけではないけど…比較的大人しめに眠ってくれたからね……」
何したのメイカさん……?
「いつもは酔っ払ってその辺の可愛い子に絡んでは、僕とディッグさんで引き剥がして謝るってしてたから……」
あっお疲れ様です。
「今日はマーガレットちゃんがメリーちゃんやユーリさんのお世話をしているところを見て気絶してくれたから良かったよ」
「あっ寝たわけじゃないんですね」
「うん、気絶だね。さっきから小さい声で「尊い……!」って言ってたから」
「あぁ……」
そりゃ気絶だな。
というか全然気づかなかった。
集中しすぎたな……。
くいくい
「ん?メリーちゃん、どうしたの?」
「……(じー)」
「?……あ、もしかして……」
服の裾を引っ張ってじっと見つめてきたメリーちゃんに、俺はこれかな?っと空いてる手でおいでおいでとしてみる。
「……♪」
「ふふ……メリーちゃんもいい子いい子…」
どうやら正解だったようで、メリーちゃんは俺隣に座り、頭を撫でられ嬉しそうにしている。
(…いいなぁ……)
…さすがにマグを撫でるのは今は無理だなぁ……。
かといってこのままほっとくのは駄目だし……でも、「マグはまた後でね」って言うのは…う〜ん……。
だったら…
(マグ)
(?)
(…何してほしいか考えてて。後で……ね?)
(!はい!えへへ〜…♪なにをお願いしようかなぁ〜♡)
うん、よかった。楽しそうに考え始めた。
…まぁ…何頼まれるか分からんけど、多分精神力が試されるから覚悟決めとかないと……。
あっ…そういえば、メイカさんとぐびぐびいってたフルールさんは……?
「フルールさん…ここで寝たら風邪を引きますよ…?」
「ん〜……じゃあ毛布を持ってきてくれる……?」
「いえあの……ここだと日光直撃しますよ……?部屋に戻りましょう……?」
「ん〜…じゃあお願いね…」
「えっ?」
「そんなに言うなら運んで頂戴……?」
「えっ!?あの…それは……!」
「おー、ケラン。俺はメイカを運ぶから、フルールさんは任せたぞ〜」
「えっ!?ディッグさっ…ちょっ!まっ…!」
「それともやっぱり吸血鬼なんて触りたくないって言うのぉ〜……?」
「そ、そんなことはありません!分かりました!運びます!」
「ん…お願いね………す〜……」
「あっ…もう寝たんですか……!?…ど、どうしよう……でも運ぶって言っちゃったし………部屋に運ぶだけ…部屋に運ぶだけ……!…すぅ〜…はぁ〜……よし…!し、失礼します……!」
ん…大丈夫そう…かな?
まぁ、据え膳食わぬは…とも言うけど、寝込み襲うのは普通に駄目だよ?
「…メリーちゃん、今日は一緒に寝る?」
「……うん♪」
一応メリーちゃんを近づかせないようにしとくけどね?
単純に酔っぱらいだってのもあるし。
と、そこにディッグさんが戻ってきた。
「嬢ちゃん、ユーリ嬢ちゃんは?」
「もうぐっすりですよ」
「そうかい。んじゃあ運んじまうか?」
「はい、お願いします」
「あいよ」
そう言ってディッグさんがユーリさんを抱え上げようとするが…
「…ガッツリ掴んでますねぇ……」
「う〜ん…これは簡単には離れそうにねぇなぁ……」
「じゃあ一応毛布を持ってきてもらっていいですか?一応起こしてみますけど、最悪ここでそのまま寝ますから」
「それだと2人とも風邪引いちまうし、嬢ちゃんも休めねぇだろ?後で呼んでくれりゃあ、ユーリ嬢ちゃんを運ぶからよ」
ふむ…つまり…
「それに私はついていけばいいんですね?」
「そういうこった。引き剥がすのが無理そうならそこで一緒に寝りゃあ良い」
「なるほど…それじゃあお願いしても良いですか?」
「おう」
ディッグさんにお願いし、俺はユーリさんが寝たことで空いた手で料理をつまむ。
くいくい
「……あ〜」
「……」
…ケランさんに取ってもらった料理の半分はメリーちゃんのお腹に入った。




