102.歓迎会…の準備
「それじゃあマギーちゃん、今日はこのぐらいにしとこうか」
「あっはい、分かりました」
相談料をもらい、明日使う部屋の予約もしてくれたところで、ララさんがそう言った。
「それじゃあまた明日ね、マギーちゃん」
「はい。お疲れ様です」
「またね〜マギーちゃん!」
「うん、またねチェルシー」
チェルシーとララさん、他のスタッフとも挨拶を済ませ、俺はメイカさんたちが待つ場所に向かう。
(お、いたいた)
(…あれ?メイカさんとユーリさんがいませんね……)
(あれ?ホントだ)
無事にディッグさんたちを発見したが、マグの言う通り女性陣の姿が無い。
俺は途中何人かの冒険者の声掛けに返事をしつつ、ディッグさんたちのもとへと向かう。
「ディッグさん、ケランさん」
「おう嬢ちゃん!」
「お疲れ、マーガレットちゃん」
「お待たせしました。メイカさんとユーリさんは?」
「ユーリ嬢ちゃんが宿の料金を今日までしか払って無いってんで、どうせなら今日はウチで泊まってかないかっつってな。ユーリ嬢ちゃんは遠慮したんだが、今までの言動で心配だったメイカが宿を見に行くって言い出してな」
「見定めに行ったんですね……」
ユーリさん、最低限の宿と食事だって言ってたし……。
「だろうなぁ……俺らも心配だったし、メイカもずっと気にしてたしな……」
「この街の宿屋はそこまで変なものは無いって聞くから大丈夫だろうとは思うけど、今日の話を聞いたら気が気でなくてね……」
「あぁ……」
この前ユーリさんと襲われた時のやつね。
うん、ごめん、ホントごめんなさい。
「だから俺らは先に帰って、フルールさんに客人が来るって伝えとけってな」
「それと歓迎会用の食事も用意しないとだから、お店で買って行かないと」
「あー…確かに。もう作り始めてるかもしれませんしね」
前世でも「そういうことは早めに言えよ」って話はよく聞いたからなぁ……。
「んじゃあ行くか。忘れもんは無いな?」
「はい、大丈夫です」
そんなわけで、俺たちは帰り道にいくつか食べ物を買いながら家に帰ることに。
「何を買いましょうか〜?」
「まずは肉だろ?んでサラダとかも買っといたほうがいいだろうし……」
「ユーリさんの好きなものを聞き忘れましたからねぇ……マーガレットちゃんは知ってる?」
「いえ、聞いて無いですね……ただ、なんでも食べるとは思います」
「あぁ…まぁ……」
「そんな気はするね……」
その後もおしゃべりをしながら買い物を続け、各々が両手に荷物を持って家に帰った。
動物用のクシもちゃんと買ったので、機会があればユーリさんのお狐様部分をもふもふなりつやつやなりする予定だ。
ついでに髪用のクシもいくつか買った。
マグの綺麗な髪をよりさらさらふわふわに整えてみたかったので買ってみた。
今夜が楽しみだ。
それと明日の魔法練習のためにノートと色ペンも買ってきた。
これにこれからの研究成果を書き記す所存だ。
そうして無事寮にたどり着いた俺たち。
1番荷物の軽い俺が玄関口で魔力を通し、スライドドアのロックを開けてリビングに向かい、再び俺が扉を開ける。
「「「ただいま〜」」」
「……おかえり」
「うん、ただいま」
相変わらず扉の前で待機しているメリーちゃんに挨拶を返しつつ、それぞれの荷物を机の上に置いていく。
「おかえり…って何その大荷物?もうご飯作り始めちゃってるんだけど?」
「今日は客が来ることになったんで買ってきた。一応保存の効くものにしたから今日じゃなくても大丈夫だぜ?」
「そういうこと言ってんじゃないの。そんなに買うなら誰か1人ぐらい帰ってきて私にひと言言ってくれればよかったんじゃないの?」
「あー…それは…すまん……」
「す、すみません……」
「ごめんなさい」
「まったくもう……」
3人してフルールさんに怒られ、それが至極真っ当な理由なので大人しく謝る俺たち。
「それで?そのお客さんってのはどんな人なの?」
「はい、ユーリさんというキツネの獣人で、15歳の女の子です」
「キツネの獣人…それってオーラが見える子?」
「あっはい、そうです。知ってるんですか?」
「獣人としての特徴はね。まぁ人間じゃないならいいわ」
あっそっか……。
フルールさん、今は明るくなったけど、人間嫌いだった……。
これは迂闊だったな……。
ユーリさんなら大丈夫だって信用してたけど、身内の方の考えが疎かになってた……。
気をつけないと……。
「あの…フルールさん…ごめんなさい……」
「ん?別に良いわよ。あなたが許したってことは、信用してるってことでしょう?」
「はい…ユーリさんは素敵な人です……」
「じゃあ良いわよ。そのかわり、何かあったらちゃんと責任は取りなさい?」
「はい……」
うぅ…やっぱりちょっと怒ってる……。
(ごめんなさいコウスケさん……私もすっかり忘れてて……)
(いや、マグは悪くないよ……というか俺も人のこと言えないし……)
(とにかく、なんとかフルールさんにお詫びを……)
「ただいま〜!」
「お、お邪魔しま〜す……」
俺が落ち込みつつもマグとプランを練っていると、非常に間の悪いことに、メイカさんたちが帰ってきた。
やばいやばい…どうしよう……。
「ほら、何やってんの?暇なら準備を手伝ってちょうだい?」
「あっ…は、はい」
結局何も案が浮かばないまま、俺はフルールさんに呼ばれ、歓迎会の準備をする。
「おかえりメイカ。まずは体を洗ってらっしゃい」
「は〜い!」
「そっちの…ユーリって子も、遠慮しないで入ってっちゃいなさい」
「えっ!?で、でも……」
「ほらほら、ユーリちゃん。ここのお風呂は凄いんだから!マーガレットちゃんも…」
「マーガレットには今手伝いを頼んでるから、後でね」
「えぇ〜!」
「いいから行きなさい。お客を待たせないの」
「は〜い……。しょうがない、私たちだけで入っちゃおう。こっちだよぉユーリちゃん」
「えっ?いやまだ入るって言ってないですよっ!?」
フルールさんに促され、メイカさんがユーリさんわ引きずってお風呂に向かう。
未だ考えがまとまらず、その光景をぼーっと見ていた俺にフルールさんが話しかける。
「はぁ…マーガレット」
「は、はい…!」
「まったく…良い?私はあなたが私たちのことを忘れてたことはどうでもいいの」
「えっと…でも……」
「でもじゃないの」
「!(びくっ)」
「でもじゃない」…嫌いな言葉だ……。
何かしらあったときに、事情を聞いたらそれ以降一切聞かずに言いたいことだけ言って一方的に怒っていく大人が使う言葉だ……。
それが誤解だって分かったら分かったで、相手が子供だからって軽い口調で舐め腐った謝罪をしたり、言われなきゃバレないだろ精神で何も言わなかったり……。
…そんなんの背中を見て育つ子供のことをまったく考えないクソ大人が……
「聞いてる?」
「あっ…ご、ごめんなさい……」
しまった…フルールさんに怒られてる途中なのに、昔のバイト先のこと思い出しちゃった……。
今回は明らかに俺が悪いのに、思考が完全にヤバめな方に向かってた……。
危ない危ない……。
クールに行こうぜ俺ぇ……。
「ふぅ……あなたって本当に繊細な人よね……私の方が気を遣っちゃうわ」
「ご、ごめんなさい……」
「良いわ。…あなたにもいろいろあるってことを今思い出したし……」
「えっと……」
いろいろって言っても……バイト先とか学校とかの人間関係が上手くいかなかったぐらいだから、こっちの世界で物理的にもえらい目に遭ってるフルールさんに謝られるようなことは……。
「あんまり納得してないわね?」
「うっ……」
本日2回目。
そんなに顔に出てるんだろうか……?
「…何があったか、その規模が大きいにせよ小さいにせよ、その人が心に傷を負ったことに変わりは無いわ。だから…あまり私たちに遠慮しないで。そうされる方が気になってしまうわ」
「……はい」
傷つけてしまったかと思っていたフルールさんに、逆に慰められてしまった……。
…フルールさんにそんなこと言われたら、気にしてなんかいられないじゃないか……。
「分かったらテキパキ準備して?」
「はい」
「そのあとメリーをお風呂に入れてね」
「了解です」
「私も一緒に入るから」
「はい………えっ?」
今流れでとんでもないこと言わなかった?
「聞こえなかった?」
「ちょっとまだぼーっとしてたみたいで……。もう一度言ってもらえますか?」
「私も一緒に入るって言ったのよ」
「難聴じゃなかった……」
えっ?つまり俺は今日、メリーちゃんとフルールさんと一緒にお風呂ってこと?
待とう?フルールさんちょっと待とう?
「いやいや待ってくださいや」
「くださいや?」
「フルールさん、俺のこと知ってるでしょ?」
「えぇ、コウスケよね?」
「俺の性別は?」
「男でしょ?」
「じゃあなぜお風呂一緒なん?」
「大丈夫よ。コウスケだもの」
いやいや、昨日はメイカさんと一緒に入るのを止めてくれたじゃないですか。
なんで急に……ハッ!?もしやっ!?
これは暗に、マグと入りたいって言っているのか!?
つまり「俺だから大丈夫」は、「俺なら気を利かせてマグと代わるから大丈夫」ってこと!?
信用されてるのは良いけど、男としてはちょっと悲しい感じなんじゃが!?
代わらなかったらどうするつもりだ!?
まぁ代わるけど!
「…そうですね……。落ち着いたら一緒に入りましょう……」
「……あなたまた変なこと考えてなかった?」
「ちょっと……格闘してました……」
「えぇ……?」
なんか昨日もメイカさん相手に似たようなこと言われたような……。
…俺ってそんなに男らしくないかなぁ……。
心にひっそりとまた傷を負った俺はその後、ただ黙々と準備を進めていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(さて…こんなもんかな?)
(いいですねぇ…いろんな料理が並んでますねぇ……美味しそう…じゅる…)
(食べる時は交代する?)
(それだとコウスケさんが食べられないじゃないですか)
(それはまぁ……)
(だから交代交代で食べましょ?)
(んー…分かった。じゃあ食べたいものがあったら言う感じで)
(は〜い♪)
買ってきた物を並べていたディッグさんとケランさんを手伝い、乗り切らなかったり長く保ちそうな物を棚にしまったりしながら、机の上を整理。
「ただいま〜!」
「お、お先にいただきました……!」
メイカさんとユーリさんが上がったので、ディッグさんたちに(フルールさんが)先にお風呂を譲り、その間女性陣だけで会話をすることになった。
「それじゃあ初めまして、私はフルール。ここの寮母のような者よ」
「は、はい初めまして!ユーリと言います!」
「えぇ、お話は聞いたわ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
まずはフルールさんがユーリと挨拶を交わした。
そのあとフルールさんは、自分の後ろに隠れて様子を窺っているメリーちゃんを紹介する。
「こっちは娘のメリーよ。ほら、挨拶しなさい」
「……よろしく」
「うん、よろしくね!……娘?」
メリーちゃんとも挨拶を交わしたユーリさんだったが、そこでフルールさんの私の娘発言に疑問を持ったようだ。
「娘…って……えっ?娘?」
「そうよ?」
「えっ?だってフルールさんのオーラ……!」
「ん?」
「!」
ん?なんかユーリさんが黙っちゃったけど……。
どったん?
「どうしたのユーリちゃん?」
「えっあっいえ!なんでもないです!」
「(「?」)」
「……?」
メイカさんと一緒に首を傾げる俺。
メリーちゃんも不思議そうにユーリさんを眺めている。
娘って言われて驚いて…ユーリさんはオーラで年齢まで見えるらしいから……
「マーガレット」
「!」
えっなんか怖いんだけど?
静かな圧を感じるんだけど?
「女の子同士でも駄目なものはある…でしょ?」
「はい、すみませんでした!」
どこの世界も女性に歳の話は考えるだけでも駄目なんだな!
てか何故バレたし!?




