99.武器確定…いと恐ろしき鍛治夫婦
なんだかんだガッカリしながらも無事に装備が決まったので、改めて杖の使い方を習う…前に…
「ねぇリオ」
「なんだ?」
「鞭とかブーメランとかってあるの?」
「あるにはあるが……あれも使うやつを選ぶからなぁ……ブーメランに関しちゃ、この街でも使えるやつはかなり少ないぞ?」
「へぇ…やっぱり難しいんだね……」
「あぁ。だからお前はまず、基本的な物が使えるようになれ」
「は〜い」
そっかぁ…まぁ使いこなせる気はさらさら無かったから別にいいけどね。
リオの言う通り、まずは基本を押さえるところからだのぅ……。
「じゃっ、マーガレットちゃん。準備は良いかい?」
「はい、いつでも」
グラズさんの質問に俺は頷く。
「じゃあ始めるよ。せっかくだし、実際に杖をメインに使ってるメイカさんにも参加してもらって良いですか?」
「もちろん。マーガレットちゃんのためだもの♡」
「ありがとうございます。それじゃあまずは基本的な杖の使い方から始めるよ」
「はい!お願いします!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「とりあえずはこんな感じかな?後で紙にまとめて渡すよ」
「ありがとうございます、グラズさん」
「う〜ん…やっぱりマーガレットちゃん物覚え良いから、私の出番が少なくて寂しかったなぁ〜……」
「メイカさんには家で見てもらって良いですか?」
「あっなるほど!うんうん、もちろん良いよ!」
とまぁそんな具合で、俺はグラズさんに、構え、足捌き、立ち回り、魔法を使うときのポイント、最終手段としての杖での近接戦闘方法など、杖使いとしての基本動作を教えてもらった。
多少疲れはしたが、これを毎日のトレーニングに加えて、自然に出来る様になろう。
幸いウチには、杖使いのメイカさんがいるので、困ったときはすぐに相談出来る。
…代わりに何か要求されるかもだけど…まぁそんなヤバいことはお願いされないだろう。
「お?なんだ、もしかして終わりか?」
「ありゃ、そうなのかい?まだお礼も出来てないのにねぇ……」
と、そこに親方さんとサワコさんがやってきた。
「親方、奥様、お疲れ様です。今ちょうど基本的なことを教え終わったところですよ」
「そうか。あー…あれだ娘っ子。また武器投げちまって悪かったな……」
「いえ、なんとなくそんな気はしてたので大丈夫ですよ」
「そ、そうか……」
「…あんた、こんな小さい子に武器投げられるのを予測されるとか、恥ずかしくないの?」
「す、すまん……」
ありゃ…フォローのつもりが、逆に追いこんじまったか?
「そ、それでだな。その詫びと言っちゃなんだが…こいつをやろうと思ってな」
「?…杖…ですか……?」
親方さんが持ってたものを俺に差し出す。
魔杖…でもこれって…
「…あの…これって訓練用とかじゃなくて…」
「あぁ、しっかりとした実用品だ」
…実用品ってことは…魔石もしっかりとしたものってことだから……!
「いやいやいやいや!?まだ基本を教えてもらっただけのひよっこにはもったいないですよ!」
というかそんな高価なもの持ちたくないんじゃけど!?
「ガキが遠慮すんな!オレがやるっつってんだから大人しくもらっときゃ良いんだよ!」
ひぇっ!?怖っ!!
「そ、そんなこと言われてもぉ…!?私冒険者じゃないですし、使う機会が……!」
「いいからもらっとけぇ!」
「は、はいぃ……!」
怖い怖い怖い怖いっ!!
「あげる側が威圧してどうすんだいこのあんぽんたん!!」
「(ごすっ!)ぐふっ!?いてぇよサワコぉ…!」
見かねた奥さんが親方さんに拳骨を喰らわせた。
…今親方さん…若干沈まなかったか……?
「ごめんねお嬢ちゃん?怖かったろう?」
「……(がたがた)」
「かわいそうに…声が出せないほど怖がって……」
「……!」
俺が無言でがたがたしていると、サワコさんは俺を気遣うように頭を撫でた。
…俺はあなたも怖いよサワコさん……。
危うく「ヒュッ」て変な声出すとこだったよ……。
「ま、まぁそういうことらしいしさ!ありがたくもらっとけって!な!」
「う、うん…じゃあお言葉に甘えて……」
同じく少し震えているリオの後押しもあり、俺は大人しく親方さんから杖をもらい、じっくりとそれを眺める。
……親方夫婦にビビってよく見てなかったが、こうして見るとなかなかかっこいいデザインをしている……。
木製…ではあるのだが…どこか普通の木とは違う材質だ。う〜ん…見た目は特に変わったところは無い普通の木なんだけどなぁ……。
杖の先に嵌め込まれている黄色い石…恐らく雷の魔石だろう。
俺の適性を教えた覚えは全くないが、俺の適性と同じ、しかもそこにある子供用の魔杖とは比べ物にならない大きさの魔石……。
…うん、やっぱこれもらうの怖いって。
普通に買ったらいくらするんだよ……?
でもなぁ…またごねたら今度はサワコさんも怒鳴りそうだからなぁ……。
……しょうがないかぁ……。
「本当にいいんですよね……?」
「おう、店にあったもんだが、娘っ子にゃ迷惑ばっかかけたからな」
「むしろ迷惑しかかけてないもんな」
「うっせぇリオ!…ともかく、娘っ子は雷が適性だろう?」
「は、はい…でもなんで……?」
「俺たちこの間ハルキの坊主と話すことがあってな。そんときに教えてもらった」
「あぁ、なるほど」
ハルキか、ならしゃあない。
…ん?ということは俺のことも知ってるのか?
「オレもあの坊主とはたまに会うが、あいつがあんなに嬉しそうに話したのは初めてだぜ?」
「へぇ…ハルキさんが……」
ハルキ……同じ世界の話が出来るのが嬉しいのはよく分かるが、そのテンションでうっかりいらんこと口にしたりしてないよな……?
俺がそんなことを考えていると、リオがボソッと呟いたのが聞こえた。
「ハルキさんかぁ……オレあの人苦手なんだよなぁ……」
「えっそうなの?」
「あぁ…あんまり話したことは無いんだけど…なんていうか、そりが合わない気がするんだよなぁ……」
「へぇ…」
なんとも抽象的な感想だなぁ……。
でもなんとなく分かるかも。
あ〜…こいつ苦手なタイプだなぁ…って思うことって割とあるからな。
「俺もそうだなぁ…」
「えっ?グラズさんもですか?」
「うん、苦手だね。多分だけど、あの人とは考え方が違うんだと思う」
「考え方…ですか…?」
リオがグラズさんに問うと、グラズさんは頷いてこう続ける。
「あぁ……彼はどちらかというと、知略で戦うタイプだと思うんだ。だから、実際に戦う人が持つための武器を作ってる俺らとは根本的に考え方が違うんじゃないかなぁ……?あくまで俺の推測だけどね」
「なるほど……」
グラズさんの答えにリオは納得した様子で頷いている。
…いや、鋭いなグラズさん……。
ハルキはダンジョンマスターだから、そもそも兵士とかも自分で生み出せる立場だ。
そして魔法が使えないとのことなので、身体能力がバカ高いとかじゃ無い限り、直接戦闘になればまず負けるだろう。
だからそもそも戦わない。
トラップや魔物、それを使った戦術や謀略で戦闘行為すら極力起こさせないようにする。
そのための迷宮都市。
この街が人々にとって有益である限り、その主たるダンジョンマスターのハルキが表舞台で殺されることはまず無い。
そして領土的には王国領、その王国ともある程度国交があるので、他の国が仮に戦争を仕掛けようとしたら、それは王国にもケンカを売ることになる。
迷宮都市と王国の連合を相手取るには、例え大国である…なんだっけな?なんちゃら帝国となんたら共和国だろうと簡単なことでは無い。
その2カ国で連合を組むことも考えられるが…ハルキはその大国3つに手紙を送れる程度の立場にはいるようだし、そんな大事になるとしても、事前に知ることが出来るだろう。
そんな謀略男と、戦場で使う武器を作ったりメンテしたりする鍛治職人のグラズさんやリオとはそりが合わないのも無理はないかもしれない。
…俺もどっちかって言ったら罠とかごりごり頼るタイプなんじゃが……。
神視点であれやこれやするゲームとかやったことあるし……。
でも俺には普通に接してくれてるよなぁ……?
…まさか営業スマイル……?
くっ…俺の人を見る目もまだまだということか……!?
「マーガレット?何をそんなに悔しがってるんだ?」
「…私もまだまだだなって……」
「えっ待って?理由が分かんなかったのそんな悔しい?」
いや、そのあとの個人的な問題だから気にしないで。
「あぁそうだ。親方、杖をあげるなら、ベルトも必要じゃないですか?」
「おぉそうだな!それも持ってこよう!」
「ちょっ!?」
俺がリオと話してる間に物増やさないで!?
「待って…待ってください……!元々ここには練習用の武器を買いに来ただけですし、冒険者になるわけでは無いですから……!」
「お、じゃあ練習用の武器もやるか!」
「やぶ!ヘビ!」
貰いもんが増えちまった……!
やめてぇ…これ以上もらうと逆にプレッシャーだからやめてぇ……!
「…マーガレット」
「な、なんですかユーリさん……?」
慌てる俺にひっそりと話しかけてくるユーリさん。
なんだかちょっと嬉しそうな顔をしている……?
「…この間の私の気持ち、分かった?」
この間……?
…ローズさんのお店で服を買った…というかもらったときのことか……。
「いえ、それはそれ、これはこれです」
「あれぇっ!?」
ユーリさんはそうしないとヤバいほどの緊急性があったけど、今回のは別に用意してもらわなくても良いもんだし、何よりこれ以上もらうのは申し訳なさすぎて辛い。
「なんでよぉ!?私も自分より小さい子にお世話になりっぱなしなのずっと気にしてたんだよぉ!?」
「だってユーリさん…そうしないと無茶を無茶だと思わないじゃないですか……」
「あれ…気のせいかな……?なんだかマーガレットちゃんが私を見る目に、呆れが入ってる気がする……」
うん、なんというか…手のかかる姉みたいな感じです。
厳密には俺の方が年上だけどさ。
(…今度、ユーリさんが泊まってる宿も見といた方が良い気がします……)
ほら、マグにも心配されてるよ?
(そうだねぇ……そこら辺、ハルキも対策してると思うけど……見といた方が良いやなぁ……)
セキュリティガバガバだったり、違法すれすれのグレーな宿だったりしないかチェックしとかないとすごく心配……。
「そうねぇ…ユーリちゃん、後であなたの泊まってる宿について行っても良い?」
「えっ!?メイカさんも!?そんなに私危ないですか!?」
「(「危ない」)」
「あれぇぇっ!?」
マグとメイカさんと口を揃えて言うと、ユーリさんは凄く驚いたのち、1人でぶつぶつと何か呟きだした。
「…そ、そんなに危ないの……?いやいや、だって今までは大丈夫だったし……そういうのが来てもみんな返り討ちにしたし……」
…まず返り討ちにする必要が無い環境に行くことを考えてほしい……。
あと、いくらユーリさんの五感が鋭いからって、それにずっと頼っているとどっかで足もとを掬われるよ……?
慢心、駄目、絶対。
「えーっと…本当にもらって良いんだよな?」
「おう、だからそう言ってるだろう!」
「だってなぁ……?」
「えぇ…あまりにも高価といいますか……まさか武器を投げた人全員に……?」
「んなわきゃねぇだろ!他のやつはバカみてぇな注文よこしてきたりしたから正当防衛みたいなもんだ!」
俺たちがユーリさんと話している横で、ディッグさんとケランさんが親方と話し始めた。
過剰防衛だと思うよ。
まぁそんぐらいしないと聞かないやつもいるんだろうけどさ。
「いや待ってください。私2回とも別の理由で投げられた気がするんですけど?」
1回目はとばっちりにしても、2回目は完全に無関係だよね?
扉の前で準備してたら投げられたんだもの。
「あんだかなぁ…娘っ子はなんか投げちまうんだよなぁ……」
「…それもう私、ここ来ない方が良いじゃないですか……」
「いや、待て!さすがにもう娘っ子の雰囲気は覚えた!だからもう投げるこたぁねぇはずだ!」
「…信じますからね?」
「おう!男に二言はねぇ!」
「…投げたら奥さんに言って良いんですね?」
「お、おう……!ももも問題ねぇ……!」
「任せなお嬢ちゃん!」
サワコさんのことを言った瞬間にガクブル震えだす親方さん。
それでもどうにか言い切った青い顔の親方さん。
そしてグッと親指を立てて、頼もしいことを言ってくれるサワコさん。
それにさらに顔色が悪くなり、もはや真っ白な親方さん。
…これなら大丈夫…かな?
「んじゃあそろそろ行くか?」
「あ、そうですね。結構長居してしまいましたし……」
「俺の剣も用意したしな。明日から素振りも入れるぞ?」
「…よろしくお願いします」
…正直今日のやつだけでも満身創痍だったんじゃが……。
でも文句を言ってる場合じゃない……。
モニカちゃんとチェルシーのためにも、絶対に勝たないといけないからな!
「それじゃあね、リオ」
「おう!またな!」
「うん。親方さんとサワコさんも、お世話になりました」
「おう!また来いよ!」
「今度は普通に遊びに来な!歓迎するよ!」
「はい、ありがとうございます。グラズさんも、いろいろ相談に乗ってくれてありがとうございます」
「あぁ、あれぐらいならお安い御用さ。武器のことで困ったら、またいつでも相談しにおいで」
「はい!」
そんなわけで、鍛治ギルドから出立……
「ユーリさん」
「うん?」
「武器は?」
「……あっ」
する前にユーリさんの武器を見繕うことになった。
そして案の定、「試し斬り!」とか言って迷宮に潜ってくると言い出したユーリさんをメイカさんたちと一緒に止めた。
…行動力の塊みたいな人だよホント……。




