98.武器のお試し…重量制限
「ただいま戻り…」
「おせぇ…」
「投げんな!」
「(ごんっ!)いてぇよサワコぉ!!」
本日2度目の来店時、グラズさんの声に反応した親方さんは、奥方サワコさんにより武器投げをキャンセルされていた。
いや、懲りろよ。
そして再び試験場に戻ってきた俺は、早速気になった武器を試してみる。
武器はグラズさんが改めて子供用の物を出してくれた。
(メインは杖とはいえ、やっぱり他のやつを試してみたいよねぇ〜)
(そうですねぇ。使い方を知ってれば、その相手と戦うとき有利になりますしね)
(そうそう)
マグも分かってるねぇ〜♪
まずは剣。
といっても種類が豊富だからな。
どれから触ろうか……。
…やはりオーソドックスな直剣を…いや、ここは長年の(ゲーム内の)友、大剣だ!
「わぁ…マーガレット、大剣持てるの?」
「持ってみてからのお楽しみですよ!」
刮目してくださいよユーリさん!
というわけで…いざ!
「ふっ!ぬぬぬ……!にゅあああぁぁぁ!!」
「……おいマーガレット……」
「はぁ…はぁ……なんだいリオ……?」
「まったく動いてないぞ」
「…………」
…なんでや……。
練習用の、しかも子供用の木剣じゃないんか……?
「あ〜…マーガレットちゃん?木製といっても、さすがに本物と違いすぎたら練習の意味が無いから、本物に限りなく近い重さにしてあるんだよ」
「…先に言ってくださいよ……」
「ごめんごめん……」
も〜……それならマグの体で持てるわけ無いじゃん……。
はぁ〜…大人しく短剣から徐々に重くしてく感じで試していくか……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
てなわけで、いろいろ試した結果…
「……扱えるもの少なすぎない……?」
「ど、どんまいマーガレット!」
「うぅ…ユーリさん、ありがとうございます……」
ユーリさんがちょくちょく声援を送ってくれたおかげでまだ悲しみは和らいでいるが……はぁ……。
剣類は短剣は当然扱えるとして、小剣で既に振り回され始め、細剣や片刃剣などは片手で持つのがやっと、直剣はもう両手でも持ち上げることが出来なかった。
まぁ大剣が微動だにしなかったのに対し、直剣はもう少しで剣先が離れそうだったので、まだマシだ。
振れないから意味は無いが。
そして刀を持ってみたが…これも予想通り、長すぎてそもそも抜くことすら覚束ず、いざ抜刀したは良いものの、刀身が長くてバランスが取りにくく、持つのがやっと。振ることは出来なかった。
「寒晩に白化粧…」とかやりたかった。
組む相手いないけど。
そもそも試合会場たる闘技場に無いそうだから結局は選ばないんだけども。
次に俺は槍類を試した。
それを見たユーリさんは嬉しそうだった。
まずは小槍。
これはその名の通り小さめの槍。
片手で扱えるため、もう片方に盾などを持つことが出来る汎用性の高い武器だ。
しかも投げやすい。
その子供用なのだから普通に使えた。
問題は次から。
槍。または長槍。
ロングな物をマグは使えない。なので無理。
薙刀。
長槍と同じぐらいか、それ以上の長さだ。
当然使えない。
それに闘技場に置いてない。
俺よりもユーリさんの方がしょんぼりした。
ハルバード。
槍と斧を合わせた武器で、普通の槍とは攻撃方法が若干異なる。
長いし重いしでそもそも持ち上がらなかった。
突撃槍。狩りゲーのあれを思い浮かべて欲しい。
砲弾撃てない方のやつ。
持てるわけがない。
というわけで槍はほぼダメだった。
続いて斧系。
まずは戦斧。
重さと頑丈な刃で敵をざっくりいく豪快な武器だ。
つまり持てない。
手斧。ハンドアックスとも呼ばれる片手斧だ。
自分で調べるまで、俺は本気で投げるもんだと思っていた。
原因は暗黒の竜と光のファルシオン。
ちなみにファルシオンとは、中世ヨーロッパ…だったかな?そのあたりで出てきた幅広の剣だ。
当然竜特攻とかは付いてないし、使えばいつか壊れる。
まぁそんなことより、片手斧といえど重さはそこそこあり、俺はそれに振り回されて若干危なかった。
なのでパス。
次は長柄斧。
ハルバードは槍と斧のハイブリッドだったのに対し、この長柄斧はその名の通り長い柄の斧。
つまり持ち手が長い戦斧だ。
持てるわけがない。
続いてハンマー。
斧系というわけではないが、叩きつける、ぶん回す、などのアクションが戦斧と似ている…と思う。
なんでそう思ったかはさっきと同じ理由です。
アーマー特攻強い。
某狩りゲーにも登場するが、それを見て分かる通り重い。アホみたいに重い。
要するに、大剣と同様微動だにしませんでした。
メイス。
片手のハンマーみたいなもんで、中に魔石が入ったモデルもある。
ケランさんが持ってるのがそれだ。
こいつもそこそこ重いが、小さめなのでまぁ持てる。
だがリーチが無い。
重さを活かした攻撃力は魅力的だが……ほんとにリーチが無い。
FPSのコンバットナイフと張り合えるぐらいのリーチだ。
まぁつまり…扱いがめっさむずい。
後方支援に専念すれば?と思ったが、じゃあ別に杖でもよくない?って思った。
あと片手武器と言ったが、両手でプルプルしながら持っている。やっぱ重い無理。
なのでパス。
杖。または魔杖。
《まつえ》と読むと人名とか地名みたいになる。
メインウェポン筆頭のこいつには、前にも教えてもらった通り、魔石が組み込まれており、持ち主の魔力を高める働きをしてくれるという代物。
魔法使いなら基本的にこれをもっときゃ良いらしく、実用品にも木製の物があるコイツは、見た目よりも軽かった。
子供のとき公園で見つけた長い枝を思い出した。
ネックは魔石のコストぐらいか。
ちなみに魔石に属性はあるのかと聞いたところ、答えはYES。もちろんあるとのこと。
魔力を増幅させるだけならどの属性の魔石でも良いらしいが、それだと魔石に掛かる負荷が多くなるらしく、壊れるのが早いらしい。
だから自分の適性とあった魔石が組み込まれた魔杖なら、壊れにくく、しかもそのポテンシャルを最大限に発揮することができるので、選ぶならその辺りも気をつけなければいけないとも教えてくれた。
お金と手間の掛かる武器だ。
籠手。
両手に着ける防具を、攻撃力を上げて武器にしたもの。
パンチなどがえらい威力になるだけなので、扱いやすさならトップだろう。
ただ、物によっては取り外さないと物が持てないなどの支障をきたす物があるので注意。
その特性状、敵を殴るときはほぼゼロ距離になるため、かなり危険な武器だが、素早さで翻弄し、的確に弱点を突いていけば攻撃力はピカイチ。
1対1で輝く武器だ。
マグの体に筋力は無いし、殴ったこっちが痛くなりそうなほどの細腕なのと、闘技場には防具としての籠手しか無いとのことなのでパス。
まぁ練習用だし、防具として使ってみるのも良いとは思うが、やっぱり扱い切れないのでパス。
爪。
籠手に鉤爪を付け、打撃から斬撃タイプになった武器。
爪の分リーチが伸びたがそれでもほぼゼロ距離武器なことに変わりはない。
こちらも戦闘スタイルは籠手と同じ感じだが、籠手とは違う攻撃属性と刃の摩耗による破損には気をつける必要がある。
爪よりも籠手の方が人気で、あまり需要が無いため置いてないとのこと。
悲しいね。パス。
鎌。
これも片手用と両手用があるのだが、片手用は草刈りなどの農業中心で、武器としては大鎌が一般的らしい。
ただ、たまに農業鎌で迷宮に潜る猛者がいるとのこと。
俺も見たことある。
ちなみにその人はCランクだった。
とにかく、これは使い方がまた特殊で、ただ斬るだけではなく、引き斬るなどの技術も必要な難しい武器。
戦闘用の大鎌ともなれば、サイズと重さもなかなかな物なので扱えなかった。
お前の魂頂くよとか言いたかった。
棍。つまり棒。
もちろん戦闘用に作られた頑丈な棒である。
槍と違うのは、どこで攻撃しても大体同じこと。
たまに片方にだけ攻撃力が偏っている物もあるが、基本的には大体一緒。
勢いよく殴りつける、突くなどで相手をボコる武器だ。
上級者ともなれば、その辺の角材も立派な武器として扱えるようになると、仕事中に冒険者から聞いたことがあり、その人は昔森へとわざわざそれを実践しに行き、そして勝利したらしい。
ちなみにその人はBランクだった。
槍と同じく、長いという理由で俺は諦めた。
弓。
ファンタジーの一般的な武器の1つ。
弓道の人なら知っての通り、扱うには力が必要。
そして技も必要。
あと集中力も必要で、その上こちらの世界だと、周りへの警戒も怠らないようにしないといけない。
狙撃に夢中で横からドーンされることが多いらしい。
やっぱり力が足りず断念。
ちょっと気になってたんだけどなぁ……。
そんな人たちへの短弓。
さっきの弓はいわゆる大弓。
こちらは動きやすくコンパクトになっており、洞窟などの狭い場所でも取り扱いやすいので、斥候やシーフのような素早さと間合いを保って安全性を求める人にもってこいの武器だそうだ。
俺もこれならギリギリ使えた。
ホントにギリギリで、だが……。
大盾。
デカイ盾だ。そりゃそうだ。
これは最前線で敵の攻撃を受け止める盾役の武器…武器?だ。
これも種類が多く、逆三角形で地面に突き立てられるタイプの物から、ラウンドシールドタイプの物まで様々だ。
言うまでもなく、とても頑丈な作りをしているため重量がえげつなく、俺が持てるわけがなかった。
バックラー。
腕や肩などに着ける軽い盾で、大体は防御力を高めるための傾斜がついている。
手に持つ普通の盾もあるが、さっき述べたように、腕や肩に装着できる物もあり、そちらの方が何かと便利だと言う人もいて好評らしい。
俺もそれを着けるか…悩ましいところだ。
とまぁ全26種の武器を試した結果、扱えそうなのがギリギリなものも入れて僅か6種類ほどだった。
いくらなんでも少な過ぎる……。
「これならやっぱり杖…かなぁ……」
「うん、そもそも武器が持てないんじゃお話にならないし、またある程度重い物が持てるようになってから他の武器を持ってみたら?」
「はい…そうします……」
あ〜あ……せっかくいろいろあるのに、試すことすら満足に出来ないなんて……。
(ごめんなさいコウスケさん……私が日頃からトレーニングをしておけばもっと楽しめたのに……)
(マグは悪くないよ……というか俺ももやしっ子だから人のこと言えないよ……)
仮に俺が現界したとしても、俺自身の筋力も貧弱なので多分似たような結果になると思う。
ははは……もっと鍛えときゃよかった……。
(まぁ持てないものはしょうがない……予定通り杖を持つとして…バックラーどうしようか?)
(う〜ん……杖も杖でそこそこ大きさありますからねぇ……)
(そうなんだよなぁ……)
魔杖はおそらく1mほどの長さがあり、マグの体のおよそ肩ほどの長さを持っている。
このことから、おそらくマグの身長は130ほど。
10歳の女の子の平均は知らないが、メリーちゃんの少し上、モニカちゃんとは同等、リオ…はドワーフという低身長の種族なのでいいとして…チェルシーは明らかに上、ショコラちゃん…も上だな、確か。
…もしかしてマグってちんまい部類か……?
…まぁとにかく、杖は元から木などが素材として使われてるのか、このサイズでも剣やメイスよりも軽い。
だから片手でも持てるのだが、それでもこのサイズはなかなかだ。
振り回す必要がある槍や棍などとは違い、特にそういうことが必要ないからいいが、取り回しに関しては悪い部類に入ってしまう。
…なおさら接近戦は避けなきゃいけないな……。
で、それを少しは補えるバックラーを持つかどうかなのだが……。
もちろんデメリットもあるわけで。
まず重い。
そりゃそうだ、相手の攻撃を受け止めるのだから頑丈でなくてはならない。
だからそこそこ重い。
そして重さによるデメリットが痛い。
動きが鈍くなる、疲れやすくなる等の問題があり、それはルークとの体力差、ならびに運動能力の差を広げる物になる。
防御力を高めるために素早さを捨てるか、素早さのために防御を諦めるか……難しいところだ。
(ふ〜む…とりあえず1回持ってみてから決めるか)
(はい、やっぱりそれが1番早いですね)
とゆーことで。
「グラズさん、これはどう着けるんですか?」
「あぁ、これはね…」
俺はグラズさんに手伝ってもらって、俺はバックラーを着けてもらう。
…うん、この時点でダメだ。
これ俺だけじゃ着けらんねぇし外せねぇ。
しかもやっぱり重い。常に筋トレ状態。
腕だるんだるんになるわ。
「……取ろうか?」
「…お願いします……」
俺の様子を見たグラズさんに早速バックラーを取ってもらう。
…大人しく杖使いとして頑張ろう……。




