突撃!隣町のお宅
度々ご指摘いただいた第五、六話の所少し変えさせていただきました。
また自分の自己解釈的なのも活動報告に記させていただこうと思いますので、よろしくお願いしますm(_ _)m
翌日もその次の日もそのまた次の日も、俺は由紀を捕まえる事が出来なかった。瑠衣によると毎日ちゃんと来ているはずなのだが、朝はふらっと何処かへ行き、放課後は一番に帰って行くと言う。
由紀がピアノを弾けない中、音楽室に行くのも気が引け、結局音楽室にはずっと行けていない。
というか、多分矢嶋の仲間達はまだあそこを溜まり場にしているかもしれない。
彼らは矢嶋とは違い、教師からは厳重注意を受けるだけとなったからだ。
あいつらは本当に、矢嶋があんなことをするとは聞いていなかったようだ。そのくらい顔を見れば分かる。
今日、俺は映画の件の顔合わせがあり、学校は休ませてもらった。
学校側には風邪と伝えてある。
そして俺にはもう一つの任務がある。まずは顔合わせを無事に終えなければならない。
「失礼します」
ドアをノックして中に入る。
まだ人はまばらで、来ていない人が多いようだ。
最年少の俺が、出来れば一番に来たかったのだが……。しかも、お偉いさんがこんな早くに来ているではないか。何故だ?
「やあ、さらりくん!久し振りだね」
「はい。ご無沙汰してます」
そう言って俺は慇懃にお辞儀を返した。
相手は映画監督の高野監督だ。
この人の作品には一度出させてもらった事もあり、よくしてもらっている監督さんでもある。
「復帰一発目が僕の作品で嬉しいよ〜」
そう言った監督のほおは何故か紅潮している。
そう、よくしてもらっている、とはそう言う意味なのだろうが……そこは置いておこう。
「そうそう、僕はさらりくんに話があったから早くからここに来たんだよ」
「はあ、何か問題でも?」
「いや、何も問題はないよ。今回の役どころ、さらりくんも聞いてるよね?」
「ええ」
今回の俺の役は、高校入学を果たした主人公の部活友達の役で、残念ながらピアノシーンは存在しない。
何せ部活というのが、ダンス部なのだ。
主人公が、高校デビューを果たし、思い切ってダンス部に入るが、あまりの男の少なさに落胆してしまう。でも諦めずに、その少人数の男子で全国制覇を成し遂げる〜みたいなお話だ。
そのダンス部の内の一人が俺となる。
「いや〜実はね、その舞台を君の通っている高校にしようと思ってるんだが……」
「やめといた方がいいですよ。絶対」
俺は即答した。
「ええ〜っ?でももう許可頂いちゃったんだよね〜」
「ええ〜……」
「いや、別に僕は君の反応を知りたかっただけなんだけど…ダメかい?」
「だって、誰が見に来るか分かったもんじゃないですよ」
「誰一人も入れさせないつもりだよ?」
「絶対にあり得ない量のギャラリーが押し寄せますよ。高校生なんて、そういうの大好きですから」
「君も高校生だろ?」
「いや、俺はそんなの大嫌いですね」
俺はなんと言われようと嫌だの一点張りを続けるつもりだ。
自分の学校で撮影とか、知り合いがいるかもしれない時点で最悪だ。
別に、ほとんど知り合いなんていないけど。
「う〜ん、仕方ない。君にピアノシーンを与えようと思ったんだが……。あそこなら設備も完璧だし、惜しんだけどなぁ〜」
「え?何です?今ピアノって言いましたか?」
なぁんだそう言う事だったら全然オッケーですよ〜。
知り合いに会うリスクなんてピアノに勝てるわけないじゃないですか〜。
その旨のことを伝えると、監督は「そうかそうか!良かったよ!それじゃ、そう言うことでよろしく〜」と言った。
馬鹿野郎、俺の単純脳……!
〜〜〜〜〜〜〜
顔合わせも無事に終わり、いくらか連絡先が増えた俺は、部屋を出るとある所に向かった。
電車で二駅ほどの隣にある街の、一軒のボロアパートの前に立つ。
「おわぉ……。これは結構だな……」
すぐにでもガタがきそうな出で立ちだ。
そのアパートの二階のネームプレートを確認し、『弥生』の文字を見つける。
そう、ここは由紀の住む家だ。
事前に上納先生に心配だからと伝え、矢嶋先生をリンt……いや、聞いてもらって得た情報だ。
なんだかんだで甘い上納先生に感謝しよう。
俺はインターフォンを鳴らした。
……何も反応がない。
家を留守にしているのかと思うと、いきなりドアが開かれた。
「…………」
「え……律?」
「…………」
「ちょっと、どうしたのよ」
「いや、いきなり開くからびっくりして……」
「とても驚いているようには見えなかったけれど?」
「それといつのまにか呼び捨てにされてる……」
「それはそうと、どうしたのよ?どうしてここ知ってるの?」
無視された。完全に無視された。
「いや、先生に聞いて……。なんか学校であんまり見かけないし、でも来てるって言うし、あと音楽祭の事聞いて……」
「そう……。上げてあげたいのは山々だけど……その、何も出してあげるものもないし……」
「いや、勝手に押しかけてきたのは俺だし、そんなの気にしなくていいよ」
「それもそうなんだけれど……。そうね、何を見ても引かないって約束してくる……?」
「?ああ、もちろん」
「じゃ、じゃあ、どうぞ……」
なんだか見た事も無い由紀の様子を訝しみつつ、中に入れてもらう。するとそこには……
さらりが沢山いた。
というのも、壁にさらりの切り抜きやパンフレットが沢山飾られていたのだ。ここがいいとか、かっこいいとかわざわざコメント付きで。
まさか由紀までとは……。いや、ありがたいんだけどね?どこにそんなに惹かれるのかが分からん。俺のどこがいいんだよ、皆。
「ひ、引いた……?引いたわよね?こんな壁一面に貼っつけて……。うち、家族全員さらりくんファンなのよ……」
「い、いや。引きはしないけどその……結構意外というか。ほら、お前って結構クールだし……」
「クールなんかじゃないわよ。ただ猫被ってるだけ」
「猫被ってんのか……」
「そう。だからクラスでさらりくんの話題が出ても混ざりに行けないのよね……。猫被ってたのバレるの、恥ずかしいし」
まあ、その気持ちは分からなくない。俺も自分の部屋には瑠衣のポスターとか貼ってたし、アニメキャラのフィギュアとかも置いていた。
正直、誰も入れたくはない。
妹にもちょっと引かれてた。それでも「別にいいんじゃない?」と言ってくれるから、あいつは本当に優しい。
「……何ぼーっとしてるのよ?」
「いや、ちょっと回想に浸ってただけだ。すまん」
「よく分からないけれど……。それじゃあその台の近くにでも座っててくれる?お茶ぐらいならあるから」
「ああ」
お言葉に甘えて、中央に置いてあったちゃぶ台の近くに座らせてもらう。
すると、ひょっこりと隣の部屋から顔を覗かせている子達に気が付く。一人はまだ小学生低学年ぐらいの女の子で、もう一人は制服を着た男の子だ。恐らく中学生だろう。
「……どうした?」
俺はその子達に声を掛けた。
「…………」
「……お前、ねぇちゃんの何?」
黙っている妹の代わりに弟の方が聞いてきた。
妹の方もコクコクと頷く。
「……いや、多分君達の思ってるような事は無いよ」
「本当か?」
「……?」
兄妹は揃って首を傾けた。
なんだろう。結構和むなぁ……。と、表情筋が緩みかけた所で、由紀が戻ってきた。
お盆を持つ右手には、痛々しい包帯で中指と薬指が包まれている。
その姿を見てギョッとした俺は、すかさず
「俺が持つ」と言ったのだが、あっさり断られてしまった。
「こら。咲、花、向こうの部屋に入ってなさい」
「何だよ。ねぇちゃんに彼氏でもできたのかと思ってどんな奴か確認してやろうと思ったんだよ。ま、こんな奴がねぇちゃんの彼氏なんてあり得ないか」
「……花もそう思う」
「な、何言ってるのよ!?そんなわけないでしょう!?」
ようやく妹が喋った。相変わらずコクコクと頷いているが。
「それと、それは律に失礼よ。謝りなさい」
「ぷー……ごめん、律」
「ごめんなさぁい……りつ」
「あ、いや別にいいよ。こっちこそごめんな、こんな奴がねぇちゃんと一緒にいて」
「……いや、別に律は悪い奴ではなさそうだし」
「ふんふん」
「そうか?ありがとな」
そう言って頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
「……あなた、今すごく変な顔してるわよ」
「ごめん。表情筋が耐えられなかった」
「あなた…もしかして子供好き?」
「うーんそんな事ないと思うけど、妹がいるからかなぁ……?」
「へぇ、意外ね。妹さんがいるの?」
「ああ、中三のな。咲と花は何歳だ?」
「俺は十二」
「……八さい」
そう言って花は指を四本ずつ立てて見せた。
うん、可愛い。
「二人とも、そろそろ向こう行ってて。私達お話があるのよ」
「はーい」
「はぁい」
咲と花はまたさっきの部屋に戻っていった。
「大変だな。下の子が二人もいて」
「咲はもう大きくなったし、今はそんな事ないわよ」
今は、という事は前からずっと面倒を見ているのか。
「親御さんは?」
「母は夜まで仕事。父はもう亡くなったわ」
「そうか。ごめん、こんな事聞いて」
「いえ、大丈夫よ。で、何?ここまで来てどうしたの?」
「先生から音楽祭にお前が強制参加だって聞いて。大丈夫なのか?あいつらの世話もあるんだろ?」
「仕方ないのよ。私、他の子達と違って入学金も毎月の学費も少なくしてもらってるから。こんな事断っちゃ、多分、学費も払えなくなるし」
「そうか?少なくとも理事長はちゃんとしてると思うぞ?お前も聞いただろ?矢嶋先輩の処分。結構矢嶋先生と揉めたらしいけど……て、もしかして、矢嶋先生か?」
「うん。勝手にいいって返事しちゃったみたい。断れないでしょ?一度引き受けてしまったんだから」
「だからって……」
「私が嫌なの。ちゃんとやりたいのよ。ピアノも知り合いのお家でタダで弾かせてもらえるし、あの子達の世話もできるから。だから、大丈夫」
「……お前、今日倒れたんだろ?」
「っ…………ええ」
そう言って由紀は視線を逸らした。
まさか俺が知っているとは思わなかったのだろう。
そう。今日由紀の家に来たのは、瑠衣から由紀が倒れたという連絡がきたからだ。
ついでにカイからもきていた。
「全然大丈夫じゃないだろ」
「でも……」
「取り敢えず、明日は気分転換にでもどこか出かけようぜ」
「え、でも咲と花は?」
「一緒に来ればいいだろ?」
「そ、そっか……」
「それに、これから毎日放課後はここ来て咲と花の面倒見てやるよ。だから、お前は安静にしてろ」
「……ありがとう……」
「おう。今日も面倒見てくから。料理とか腕には自信あるしな」
「そう、それまた意外だわ……」
「お前、俺を何だと思ってるんだよ」
「ふふふっ。ごめん」
その時。俺は初めて由紀の笑った顔を見ることができた。
由紀ちゃん頭わしゃわしゃボタンは下のお星様になります〜
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