音楽祭
日間ランキング9位!!
夢の10位台に入りました!!ありがとうございます!!!
今日も今日とてカイと一緒に登校してきた俺だが、今日は自分の席が見知らぬ女子に座られていた。
あるよね〜こう言うの。
もちろん見知らぬ、と言ってもクラスメイトなのだが、俺には話しかける勇気など更々無かった。
大人しく、通学鞄を横に置くと、俺は教室から退散した。
俺は購買に向かうと、昼に買う予定だった昼食を取り敢えず買う事にした。
何にしようか悩んでいると、横から由紀が顔を見せた。
「どうした?こんな早くに」
「そっちこそ」
「俺は席が女子に座られてたから、する事もないしこっちに来ただけ」
「ふぅん……」
「お前は?」
「……朝ご飯。食べてないのよ。ついでに昼ご飯も買おうと思って」
由紀は黙々と食べ物を選ぶ。
だが、手に取ったのはおにぎり二つだけだった。
「それだけか?」
「少食なのよ。悪い?」
「いや、別に悪かないけど……」
俺は視線を陳列棚に戻し、手にサンドイッチとホットドッグを取った。
ついでにペットボトルのお茶と、缶コーヒーを買った。
その内、缶コーヒーは由紀に渡す。
「朝はコーヒーに限るだろ。目、それで覚ませよ」
「っ!!」
由紀の目の下には大きな隈があった。何が理由かは分からないが、恐らく夜遅くまで起きて、そのせいで朝食べる時間がなかったと言うところだろう。
「……ありがとう」
「貧血とか、栄養失調で倒れんなよ」
「……気をつけるわ」
本来なら気をつけるも何も、飯を食って寝ればいい話なのだが……言い方から察するに、そうせざるを得ない訳があるのだろう。
ま、人それぞれの事情ってものがあるしな。
深く関わっても、悪影響を与えるかもしれないし、それ以上は何もしなかった。
でもこの時、もしかしたら無理矢理にでも関わっておくべきだったのかもしれない。
教室に戻ってくると、あの女子はもういなくなっていた。
安心して席に座ると、ほぼ同時に上納先生が入ってきた。
ギリギリセーフ。
「今日はお前らに大事な知らせがある」
上納先生は、教壇に立つと開口一番にそう言った。
「我が校は、今年度からの新しい指針によって、様々な能力を披露する場が必要であると考えた。よって、今年から新しく、行事を増やす事が決定した」
すると、上納先生はチョークを取り、黒板にスラスラと数字や文字を書いていく。
五月二十七日、音楽祭
七月二十一日、体育祭(例年通り)
九月三十日、来栖祭(例年通り)
十一月十八日、文化大会
三月八日、全校一斉テスト
「このように、既存の行事から新たに三つの行事が加わった。体育祭、来栖祭も今年度から少し内容は変わるが、大した差はない。今、お前達に大事なのは、来月末にある『音楽祭』だ」
先生はそう言うと、音楽祭の説明を始めた。
「音楽祭とは、その名の通り、音楽のイベントだ。音楽を嗜んでいる者が主な対象となる。一クラス一つずつ合唱、合奏、その他、何かは出してもらう。そしてもう一つ。音楽を嗜む者は、それを披露してもらう場もある。もちろん参加は任意だ。だが、その演奏いかんによっては数値も高く付く事もある。逆を言えば低くなってしまう可能性もあると言う事だがな。音楽の腕に余程の自信があるのなら、出るのが得策だろう。さて、ここまでで質問は?」
すると今回も志々田が手を挙げた。
今のところ、こいつがクラスのリーダー的な役割だろう。
「何だ?」
「先生がおっしゃったクラスでの出し物には、僕達のそれぞれの数値に影響はないのですか?」
「いいや出ない。だが、伴奏者と指揮者や、クラスをまとめるリーダーには影響は出るかもしれないな」
「ありがとうございます。ではもう一つ。伴奏者、指揮者は必ず必要なのですか?」
「いや、必ずではない。そんなに都合良く毎クラスにいるとは思えんからな。だがその場合アカペラか他の方法を探すしかないだろうな」
「そうですか。ありがとうございました」
志々田が着席する。
「他は?」
俺は手を挙げる。
「……何だ?」
先生。そんな嫌そうな顔しないでください。
「これって、個人有志の方は任意なんですよね?」
「ああ、そうだ」
「それはもちろん、弥生さんも例外じゃないですよね?」
「……弥生、とは弥生由紀の事か?」
「はい」
上納先生はふぅ……と一息つくと、
「……いや、彼女はこの音楽祭の余興として演奏する事になっている。もちろん、指の怪我の事は知っている。だが、病院側によると全治二週間で済むそうだ」
「先生は、ピアニストは三週間で曲を完璧にする事ができるとお思いですか……?ましてや彼女は怪我をしたばかりです。いくら腕の立つピアニストだとは言っても、曲一つ完成させるには長い時間を要するんですよ?それを三週間でしろと?」
「残念だが、これは学校側の決定なんだ。変更は認められない」
「……彼女に無理はさせられません」
あの目の隈。ピアノ以外に家庭の事情か何かが関わっていると俺は見ている。
「ならお前が出るか?」
「は?」
「ピアノ、やってるんだろ?ならお前が弥生の代わりに出ればいいだろう。余興となりうるだけの腕があるとは思えんがな」
「いやいや、ご冗談を。俺は出ませんよ」
「……全く。あんな大口を叩いておいてそれとは。無責任なやつだな」
「…………わかってますよ。そんな事は。まあ、話は分かりました。ありがとうございます」
「では、他に質問はないな?」
その問いかけに、誰も手を挙げる者はいなかった。
「じゃあ、これでSHRを終わる」
先生がクラスから出ていくと、まずすぐに美扇が声を掛けてきた。
「晒くん、弥生さんって?」
「Ⅰ組の弥生由紀。ピアノ界では有名なピアニストだよ」
「へぇ〜そんな人がいるんだ〜。晒くんって何気に人脈広い?」
そうだな。意外と広い方なのかもしれない。
なんて、そんな事は言えないが。
「怪我してるの?心配だね……」
美扇は本当に心配そうな顔をしてそう言った。この子は本当にいい子だな。
「あぁ。学校は何も分かってない。ピアニストが指を怪我しただけで一大事なのに……」
それを二週間の治療を終えた後、残りたった二週間で曲を仕上げろという。
滅茶苦茶だ。
「…………」
美扇はそれきり黙りこくってしまった。
何か不安げな表情を滲ませながら。
放課後、俺はⅠ組に向かった。正直、一般生がⅠ組に向かうのはかなりの勇気がいる事だった。
俺もちっさい心臓が押しつぶされそうだったが、カイと俺がよく一緒にいるのは周知の事実だったので、まだ気楽に向かう事が出来た。
クラスに着くと、手前にいた奴に声を掛けた。
「なぁ、ちょっといいか?」
「あ、もしかして海斗?かいとーーーーーーっ!!!」
「あ、ごめん違う。弥生さん呼んで」
「そうなの?もう海斗来ちゃってるけど……」
なんだこいつ。整った顔して天然じゃねぇか。
相変わらず可愛い性格だなっ。
「やほーーっりつ。帰るか!」
「……」
「えと……ごめんね。違ったみたい」
「えっ……まあ、瑠衣に免じて許してやるよ……」
「あぁ、いいよ別にいても。で、由紀呼んでくれる?瑠衣でも、カイでもいいから」
「おおっ…!?僕をいきなり呼び捨てかい…??」
と、言った彼はラリエダ瑠衣。彼は人気ダンスグループの一員だ。可愛らしい顔に栗色のくるくるヘアーをしているため、よく女の子と間違われると言う。
だが、顔とは裏腹にダンスは激しい動きが多く、男子特有のダンスだ。
そのギャップに萌える人が続出。一気に人気を集めた。
俺も仕事が一緒になった時に友達になり、俺の推しでもあるのだが……
「お前っwそんな落ち込むなよww」
カイが笑いながら俺の背中をバシバシ叩く。
全然慰める気ないだろ、お前。
「落ち込むわ……推しに存在すら認めてられてないとか……落ち込むわ……」
「え、何何?僕何かした??」
「いやwお前の変装は一人前だよ、『さらり』ww」
「……え?うぇっ!?君、さらりくんっ!?」
「ばばばか!!声でかい!!!」
慌てて静止したが時既に遅く、クラス中に瑠衣の声が伝播してしまった。
「え、今さらりって聞こえたんだけど……」
「私も……」
クラス中の視線が集まる中、瑠衣が導き出した突破口とは……
「い、いやぁ〜君の髪本っ当にさらりさら〜りしてるねぇ〜〜……」
古典的な方法だった。
「なんだぁ、髪の話か」
「てっきりさらりくんが居たのかと……」
「ね、私さらりさんと共演するの夢なんだ〜」
意外となんとかなったらしい。
いや、流石瑠衣様だ。
「はぁ〜びっくりしたよぉ〜さらりくんだなんて思わなかった」
「こっちが一番びっくりしたけどな」
「あっそうそう、弥生さんだったよね。残念だけど、弥生さんもう帰ったみたいだよ」
「え、じゃあ今までの何だったの?」
「律帰ろ〜」
俺は仕方なくカイの緩んだ声に従うことにした。
推しに会えたので結構満足できたし、よしとしよう。明日朝また来ればいいだろう。
律くんドンマイ!ボタンは下のお星様になります
ブクマ、評価励みになります!!
いつもありがとうございます!!!
感想も待ってます〜!