映画撮影
その一。
昨日更新できず、すみませんでした……。
本日二本立てでお送り致します!!
倉持さんが椅子に座ったため、俺と美扇も倉持さんの正面側に腰を落とす。
俺の横に座った美扇は、未だにドギマギしているようだ。
できれば早く慣れてほしい……。こっちが気まずくなってしまう。
「さてさて〜。君達をここに呼んだのは美扇ちゃんのマネの件もあるけど、他でもない映画撮影があるからです!」
「ほ?」
「あぁ、あれ……」
美扇は頭にクエスチョンマークを浮かべて、首を傾げている。
倉持さんがうちの学校で映画の撮影がある事を言うと、今度もまた凄く驚いていた。
だが、さっきよりは驚きが小さくなっている。
さっきのインパクトが大き過ぎてこっちが小さく感じているのだろうか?学校で映画撮影なんて一大事だと思うのだが?
「で、撮影は来週末を利用してするんだけど……美扇ちゃん」
「はい?」
「それまではマネージャーの仕事してる事も撮影のお手伝いする事も絶対しーっだからね?」
倉持さんは口に指を当てるジェスチャーをする。
「は、はい!!……って、え!?お手伝いですかっ!?」
「そうよ〜。撮影に大きく影響しちゃうような大した事じゃなくて裏方全般だけど、これから律くんのスケジュール管理とかも覚えてもらうからね!忙しくなるよ〜〜!!」
ふんっと鼻息荒く、既にやる気満々な様子。
倉持さんは決して仕事が出来ない訳でも、嫌いな訳でもない。ただ、どうでもいい事はとことんルーズだったり、性格に難ありなだけなのだ。
「期間どれくらいになりそうですか?」
俺は倉持さんに聞いた。
「ん〜そうねぇ〜…学校のシーンが多いわけだし、それに律くん、脇役って言っても主人公と殆ど行動同じだし……早くて三ヶ月ぐらい?」
「うえ〜……」
「早くてだよ?順調に進んでNGも少なかったらだからね?」
「うぇえええ〜???」
過去、最・長。
役を演じる事すらめちゃくちゃに久しぶりだから、当たり前っちゃ当たり前なのだが。
「そしてそして、撮影が終わった後に待ち構えるのは番宣っ!!つまりバラエティー!!!!」
倉持さんは、俺に畳み掛けるようにそう言った。
律氏!ノックアウトッッッ!!!!
「はぁ〜…仕事三昧……」
「いやいや仕事がある方がありがたいんだから頑張ってよ!!」
倉持さんにそう言われる。
俺は欠席日数増えるなぁ……と思いながら机に顔を伏せた。自業自得バンザイだ。
「うぅ〜本当に晒くんがさらりくんなんだと更に実感する……!感動っ……!!」
今度は美扇が上を仰ぎ、両手で顔を隠しながら身悶えしている。
既にテンションに天と地の差があるな、この部屋。
それから現段階でのスケジュールを確認し、最後に、と倉持さんは再び美扇の方に向き直った。
「美扇ちゃんには、学校でいっちばん大事な任務をしてもらいます」
「?何ですか?」
「ズバリ!律くんのプライバシー保護!!」
「……へ??」
倉持さん、遠回しに言うの好きなんですかね?全く意味が伝わってませんよ?毎回。
「つまり、律くんの正体がバレそうになるような事があれば、全力阻止&全力フォローをするって事!」
「最初からそう言ってくれませんか?分かりづらい。毎度ためて言われるの、めんどくさいです」
どうやら美扇も倉持さんのこの言い方には苦労していたようだ。目が座ってしまっている。凄く怖い。
「あ、あはは〜!!……すみません」
「ていうか、そんな事ってあるんですかね〜?さらりくん自体ガード固かったし、律くんがさらりなんて微塵も思わなかったけど……」
倉持さんの事は完全にスルーしている新田氏。そして新田氏。それは完全なるフラグだ。
「だ、だからもしもだよ。律くんこんな風貌だし学校じゃ浮いちゃうでしょ〜?だから何か目付けられる事もあるかもしれないじゃない?律くんの近い所に律くんの事を知ってる人がいたら安心なのよ、律くん的にね」
最後、私的にはどうでもいいけど、とボソッと言ったのが聞こえた。
聞こえてますよ、倉持さん。あなた本当に俺のマネージャーですか?
「なるほど……尽力します!」
美扇はそう言うと、ビシッと敬礼をした。
俺もフラグをへし折ることに尽力しようか……。
「さ、今日の話はこれで終わりよ」
倉持さんが立ちあがる。俺達も後に続いて立ち上がった。
「次会うのは水曜日。読み合わせの時ね。金曜には午後から学校で撮影だから、忘れないように!」
「「はい」」
「じゃあまたね〜」
倉持さんは手を振りながら会議室を出て、行ってしまった。
残された俺達もバッグを取って部屋を出た。
「なんか今日は、予想外な展開が多かったな……」
事務所を出て、駅まで向かっている途中、美扇がそう言った。
「そうか?……でも、俺のこととか、そんなに驚いてなかったように思うけど?」
「えっ!?いやいや驚きだったよ!!本当に!!」
手をバタバタさせながらそう訴えている。
「いや、確かに発狂はすごかったけど……」
逆に飲み込みが早過ぎたというか、それからもドギマギしつつ、倉持さんとは安定して会話ができていた。
ただ俺にそんな興味がなかったからかもしれないが……それはちょっと寂しい。
「いや……マジ本当に驚いたから。さらりくん=晒くんならもう今晒くんが推しって状態なんだよ?今推しと隣歩いてる感覚分かる?分からないでしょ?」
そう言えばさっきから少し距離を空けて美扇は横を歩いている。昼の時はこんなんではなかったはずだ。
まぁ、推しが隣を歩いている……か。
「俺の推しって二次元と瑠衣だし……二次元は不可能だけど、瑠衣とはよく一緒にいるから……そうか、俺は推しと一緒に過ごしていたのか……」
「何それ嫌味?そもそも推しが隣にいることが普通だったと?そんなやつどこを探してもいないでしょ」
「それもそうか」
「納得しなくていいんだけど?」
先程まで空いていた隙間がいつのまにか詰められている。
何なの?俺推しじゃなかったの?
「それはそうと……新田さん」
「美扇っっっ!!!!」
「……は?」
「これからお願いだから美扇って呼んで!推しに名前呼んでもらえるとかこの上ない幸せだから!!」
あ、俺ってやっぱ推しなんだ。推し感ゼロだけど。
ていうか既に美扇の方が言いやすくて俺の中では美扇だったけど……俺、痛し。
「じゃあ…ん〜…美扇さん?」
「呼び捨て」
「え〜……」
それだと美扇親衛隊の方に反感買いそう……。まぁ、とは言えないので、本人に言われてしまったなら仕方ない。
「美扇」
「うぅ〜ありがとう……」
「名前呼んだだけだけど……」
「『だけ』じゃないよ。私にとっては今人生のピークだから」
「まだ十五年しか生きてないだろ……」
「じゃあ私は晒くんの事なんて呼ぼうかな〜……あだ名とか、ない?」
あだ名……。あるにはあるなぁ……。
「……軍曹」
「知ってる」
「……りっつん」
「ほうほう」
「……りっちゃん」
「え、誰から言われてるの?」
「部屋が同じやつ」
「へぇ〜可愛い……」
美扇はしばらくの間思案すると、顔を上げた。
「さらちゃん」
「女子じゃん」
「りっちゃんも女子じゃん」
「他に何かない?」
「え〜?じゃありっつー?」
「……さらちゃんの方が良いかも」
「どっちやねん」
ビシッと美扇の手が飛んでくる。
「じゃあさらちゃんって呼ぶ」
「あぁ」
「で、さっきなんて言おうとしてたの?」
「あぁ、テスト勉強大丈夫か?って言おうとしたんだけど……」
「え?あっ……」
「大丈夫じゃなさそうだな」
みるみるうちに美扇の顔から血の気が引いていく。今の今まで綺麗サッパリ忘れていたようだ。
「そ、そっちこそどうなの?私知ってるんだからね!いっつも授業中寝てる事!!」
「え……今まで気づかれた事なかったのに……」
「ペン持って構えたまま寝るとか器用すぎでしょ!!つまり!さらちゃんも私と同類だぁ!!」
「いや、その前になんでそんな事知ってるの?俺の方見てたわけ?授業中?」
「はっ……!!……いやいや別に前髪の隙間から見える寝顔に見惚れてたとか楽しみにしてたとかそんなんじゃないし……」
何だかブツブツ言っている……。相当追い詰められているのだろうか……。
「とにかく!明日!!明日頑張るから!!うん!!さらちゃんこそ寝てたんだから私よりもっと頑張んなきゃだよ!!」
「あぁーうん」
「くぅ……余裕だな……。いや、開き直ってるのか。私、さらちゃんには負けないんで」
「うん。頑張れ」
「やっぱ余裕!!!」
その後、俺達は駅で別れて、俺は寮に向かった。
そう。ボッチ君の元へ……。
さらちゃんってあだ名可愛いねって方は下のお星様押しちゃってくださいー。
あだ名考えるの、簡単だけど難しい……。




