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再会 二 (side美扇)

 理由は分からなかった。

 さして仲良くもなかったし、話す事も無かった上、クラスも違ったから。


 彼を見る事もめっきり減って、たまに見かけると目で追いかけちゃったりして、そしていつのまにか転校、だった。

 周りの友達にそんな他クラスの子の事なんて聞けず、結局分からず終い。


 男子だからって話さないでいた事が悔やまれた。

 転校するほんの少し前に話せた事は、私にとっては不幸中の幸いだった。だけど、その時は全く、転校するそぶりは無かった。それに、その時にはもう私の事は、朧げにしか記憶されていなかった。


 そして気になったのは、その時に見た笑顔が前に見た時とは何か違った事。


 でも、それが何なのか分からなくて、気のせいだと思うことにした。


 私は、晒くんが転校してからも幾度となく彼の事を思い出した。


 名前も忘れなかった。むしろ忘れないために紙に書いておいたぐらいだ。


 そしてまたいつか会える事ができたなら、その時の事を聞こうと、心に決めた。そして今度こそは、もっと彼とお話しして、仲良くなろうと、そう思った。



 それからの私は、一年の時に見た彼をお手本に、少しずつ、男子とも積極的に話すようになった。

 別に仲良くもなかった子とも話すようになって、友達も増えた。


 そうして笑顔を武器に、明るく社交性のある女子生徒になれたと思う。



 中学に上がるとどんどん環境も変わって、皆の意識も変わっていき、男子に告白される回数も増えていった。別にそこは望んだ事ではなかったけれど。


 もちろん、その中学にも晒律はおらず、早くも中学入学と同時に、私の中学に対する希望なんてものは潰えていた。



 だけど、高校へ入学して、奇跡が起こった。



「おはよ〜!」

「あ、美扇おは〜」


 私は学校が同じになった友達と一緒に登校していた。

 友達ではあるし、話もするが、特段仲良くはない子だ。


「いや〜でも美扇もここ受かって良かったぁ〜!直前まで冷や冷やしてたんだから〜」

「えへへぇ〜確かにギリギリでした……」

「まぁでも受かった事には違いないしね!また同じクラスだといいね〜」

「そうだね〜」


 などと適当に雑談をしていた。

 他の受かった子と同じクラスになれるかとか、どんな子がクラスにいるのかとか、最近のコスメの話とか。


 学校も見えてきて、生徒の姿も増えてきた頃、その友達と来栖高校特有の「芸能クラス」についての話になった。


「あとうちの高校って芸能クラスがあるんだよね?」


 そう友達が言った。


「あ、そういえばそうだね!芸能人を間近で見られるのかぁ〜……!!やっぱ勉強頑張って良かった!!」

「ね!噂によるとあのカイトくんもこの学校らしいよ〜」

「えっ!?じゃあ…さらりくんもっ!?」

「いや、それは知らないな〜。さらりくんはそういうとこガード固いし、情報漏れないんだよ〜」

「そっかぁ〜」


 四津さらり。

 突如芸能界に現れた、期待の新人俳優だ。私とタメで、雑誌『グローバー』の専属モデルをしている。俳優業は休止中だったが、私は彼が初めて出演したドラマを見てから、ファンになってしまった。さらりくんの雰囲気に、一気に惹かれてしまったのだ。


 あと、何よりカッコいい。カッコいいというか美しい。

 背が高いのも最高。細身なのも最高。マジご馳走様です。


「それでもカイトくんを拝めるだけいいでしょ〜。それにまださらりくんがいないと決まったわけでもないしね!元気だよ!美扇!!」

「うおっしゃああああああ!!!!元気出していくぞぉおおおおお!!!!」

「おぉ〜すごい。さすが美扇ゴリラ」

「なぁんだってぇ〜〜??」

「いや、何でも」



 なんて軽口を叩気合いながらふと前を向くと、少し手前の方に異様に浮いた生徒を見つけた。


 猫背気味で髪はボッサボサ。前髪も目までかかっていてその上眼鏡。だけど猫背でも中々の高身長と足の長さというミスマッチ感が拭いきれない出で立ちだ。


 それになぜかその生徒の周りだけ空間ができており、一人だけポツンとしている。


(もったいないな〜せっかくスタイルいいのに……)


 あんなんでは浮いてしまうに決まっている。まぁ、ああしているのも本人の意思なのだろうが。


「どうした?美扇」

「ううん、何でもない。さっクラス分けはどうなるかな〜?」


 さっきの男子生徒は頭から追いやり、私達は校門をくぐり抜けた。




(まじか……っ!)


 クラスに入って第一の感想がこれだった。


(あのボサ髪男子がいる……!!)


 先程見かけた浮いた男子生徒がクラスにいたのだ。


(そして席隣ぃいいいいい!!!!)


 番号順にいくと私は彼の隣の席になる。


 ああいう人種は恐らく私みたいなタイプの事を嫌うタイプだ。

 もちろん、人を偏見で決めつけるのは良くないので、こういう場合、私はまずは話しかけてみる事にしている。

 それで案外イメージと違ったりもする。

 だが、本当にそうだった場合はうまくやっていける自信がない。


 すると、突然例の彼が大きなため息を吐いた。


(これは……話しかけるチャンス!!)


 私は意気揚々と彼のため息に、そう、ため息に割って入った。


「どうしたの?」

「いや、一番前とか最悪……え?」


 突然割って入った私に、彼は不思議そうにこちらを見てきた。


 案外すっと答えてくれた事に安堵し、私は自分の名前を名乗った。


「あぁ、ゴメンね?私、新田 美扇(にった みおう)。お隣、よろしくね!」

「はあ。」


 気の抜けた返事が返ってくる。

 声のトーンはすこぶる低いが、声自体はカッコいいと思われる。ますますもったいない!!


「君は?」

「晒 律。まあ、よろしくな」

「うん!」


(うん……?いや待てよ?普通に返事しちゃったけどね?晒 律……?さらし…………りつぅううううううううううう!!??)


 内心で大発狂をぶちかましつつ、平静を装って席に着く。


(あれ??クラス表に晒律なんていた??いや、正直こんな所にいるわけないと思ってたしちゃんと見てなかったぁああああああああ!!!!!!)


 思考が停止する。隣!今隣に憧れのあの晒律がいる……!


(もったいないとか思ってすみませんでした……)


 案の定、私の事は忘れられていたようだが、それでもいい。小学校の頃は彼との大した思い出がないのだから、大事なのはこれからだ。


 だが、彼のあまりの変わりようには驚くしかない。何故、あんな顔面凶器を所持していながらそんな隠すような事をしているのか……。


 もう既に彼は机に突っ伏してしまっていて、周りと話すような気配もない。


 私の見た限りでは、小学校の頃は間違いなくクラスの中心人物だったはずだ。それなのにクラスの輪に入ろうともしない。


 一体彼に何があったのだろうか……。




 結局、晒くんに同小な事は伝えず、向こうは私の事は綺麗さっぱり忘れているので、初めましての振りをし続けた。


 その後、新たな晒情報として、足が速い事、ピアノがどちゃくそ上手い事、バイト先が同じ事、なんとカイトくんの幼馴染だという事は分かった。


 だけど肝心な転校の理由と、キャラ変の理由は何も分かっていない。


 それどころかお隣さんポジションに収まりつつある……!!私は君の友人になりたいんだぁあああああああ!!!!!!そうしてもう一度だけあの時みたいに笑ってくれぇええええええええええっ!!!!!!

 と、思っていた矢先。好都合にも、倉持さんから召集がかかった。それも晒くんと一緒に……。


 〜〜〜〜〜〜〜


 ここで回想終了。


 本日は大量の収穫がありました……。

 だけどそれら全てが行き着く先は晒律=四津さらりという事でした……。


 モデルさんなんだからスタイルいいのもオシャレなのも当然。流行に敏感なのも仕事柄。写メ撮ってたのも『四津さらり』のSNSの垢に上げるため。ノリがいいのは恐らく前から!天性のもの!!


 そんでもって多分カイトくんと幼馴染とか言うのは嘘!!ただ仕事場で仲良くなったってこと!!


「はぁ〜。追いかけてた人物と推しが同一人物だなんて、この先一生絶対ない事だよぉ〜……」

「何だって?」

「何でもないわいっ!!この…この〜〜ミステリー多過ぎポンコツイケメンがぁあああああああああっ!!!!!」

「いや何なのそれ……」


 もうこちとら大混乱ですわ!!四津さらりって言われてこちらとしては信憑性高すぎて困りますわ!!


 そういえば、信憑性は既に非常に高いが、彼の素顔を未だに見れてはいないではないか、と思い出す。

 それと推しと一緒に仕事が出来る事を喜んでいないっ!!


「バンザーイッ!!!!」

「えぇ?何?情緒不安定?」


 ひとしきりバンザイをし終えてから、晒くんの方に向き直る。


「晒くんっ!いいえ、さらりくん!!是非前髪を上げてそのお顔を拝ませて頂きたいっ!!!」

「怖っ。え、何怖っ!!」


 さぁ!さぁ!と私は晒くんに迫っていく。

 晒くんも私が迫る度後ずさっていき、遂には壁まで追いやり、逃げ場を無くすことに成功した。


「いや、分かったから!だからその指の動きやめて!!」


 指をわきゃわきゃさせていた私は、仕方なく、それをストップし晒くんの前から少し離れた。


 それを見た晒くんはふぅっと息を吐き、メガネを取って前髪を掻き上げる。


「これで満足?」

「は、はひ……」


 ぺたんと床に崩れ落ちる。


 そこにあったのは紛れもなく、さらりの顔面だった。知ってたけど。


「あの……良ければ私も噂の腹筋タッチしていいでしょうか……」

「無理」

「じゃあ満面の笑みをお願いします……」

「……それも無理。というか出来ない」

「何それ意味深」


 なんだよ、突然ミステリアス律モードに入っちゃって。


「でもビジネススマイルなら出来るよ?」

「自分でビジネス言うなや」


 でも……出来ない?あの時は正真正銘のビッグスマイルだった。いつからだろう?


「多分、小学校ぐらいから笑ってないと思う。そういえばって感じだけど」

「なんでそんな軽そうなのさ!!」

「さてと!そろそろ説明とかに入っていいかしら??」


 突然、今の今まで場外にいた倉持さんが割って入った。


 あと少しで小学校の時の話が聞けそうだったのにぃ……。

倉持さんの出番増えるよボタンは下のお星様っ☆


回想書くの楽しいですね()

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