え……え???
遅い時間になりました。
「いやぁ〜今日は新発見が沢山あったよ〜」
「今日まだ終わってないけど……具体的に?」
えっとねぇ〜、と美扇が指折り数え始める。
「さっき店で言ったこともそうだし、あと服!!」
「服?これのこと?」
俺は自分の着ている服を指す。あのジャケット、シャツにジーンズというやつだ。
「うんうんそう!なんかオシャレ!似合ってる!!」
「それは男が言うものでは……」
いや、これはもしや俺に同じ事を言わせようとしているのでは……?
そういえば美扇の服には一切触れていなかった。そもそも女子と出かける事に慣れていないのだから、そう言う所は気が回らない。
今日は美扇だったから良いが (いや良くないのだろうけど) いつか誰かに怒られそう。
そう、倉持さんとか。
仕方ない。これは自分に非があるのだし、相手に乗ってやらなければ……。
「いや違うからね?多分的外れな事考えてるから」
「え?いや美扇の服も可愛いねって言おうとしたんだけど」
「ほれ見たことか。別にそういう事言って欲しかったんじゃないの!」
えぇ〜違うの?絶対そうだと思ったんだけど……。
「でも嬉しいありがと!!」
美扇はムスッとした顔で言った。
何故そんな顔をする……。
「とにかく!私が言いたいのはただ単純にオシャレだねって事!!」
「そうか?顔面部分とミスマッチ過ぎると思うけど?」
「別に私はそう思わないけど?」
「……ありがと?」
「本当だから。マジだから」
「あ、うん分かったから。ありがとう」
美扇の圧が凄い。言われている事自体は嬉しいのだが、何か責められている気分になる。
このままいくと俺の新たな部分が開拓されてしまいそうで怖い……。
「て言うか、実はこのジーンズとかカイのなんだけどな」
「えっ?カイって……あの海斗くん?」
そう、カイと俺は自分達の服を貸したり借りたりしているのだ。これで自分の負担は少なく、多くの服のレパートリーを楽しんでいる。
「多分その海斗くんで合ってると思うけど」
「そうだよねぇ。晒くんってあんまり人と話さないしねぇ……」
違うよ。友達がいないだけだよ。
「へぇ〜……いや、改めて晒くんて凄いんだね……」
「いや、とこが?」
「え、何?自覚ないの?あの海斗くんのジーンズ履けるんだよ?相当なスタイルじゃないと無理だよ?足の長さとか、細さとか。ちゃんとご飯食べてます?ていうか腰の位置どこよ。ちょっと止まって、ねぇ、ちょっ……止まれっておい!!」
美扇が怒涛の勢いで畳み掛けてくる。
怖い怖い怖い。語尾とか荒くなっちゃってるから!無意識でしょそれっ!
俺は途中から美扇を無視してズンズン進んでいった。俺の体が「あ、これやべぇ」と条件反射してしまった。それくらい今の美扇は美扇じゃない!
「ちょっ、ちょっと待って!ごめんて!!何かよく分かんないけどごめん!!だからストップ!ストォ〜ップ!!」
しばらくそのままで進んでいると、美扇が降参っ!と白旗を上げた。
いつのまにか美扇と俺との間にかなりの距離ができてしまっている。流石にこれ以上突き放す訳にもいかず、俺はその場で足を止めて、美扇を待つ事にする。
ていうかやっぱ無意識だったんですね。
それからようやく美扇が俺に追いついた。
「歩くの速い……」
「そりゃ新田さんよりは背が高いので」
「違ぇだろその足だろ」
おぉ怖い怖い。先程までの天使な美扇は何処へやら……。……いや、て言うか美扇も人の事言えないと思うのだが?スタイルいいって言うのは君の事を言うのだろう?
俺は再び美扇と足を揃えて歩き出した。
「まぁ、総括すると晒くんは女子力が高い!!そのピンも含めて!!」
「何だよそれ……」
〜〜〜〜〜〜〜
それからもたわいもない会話をしながら事務所に到着。
さぁ、いざ参らんっっ!!と事務所へ突入する。俺の思いもつゆ知らず、美扇はワクワクしている様子。
まず倉持さんに会って、第一にするべき事。
それはーーーー
「あの、倉持さんってどこにいますか?」
受付の人にそう尋ねると、二階の会議室に居る、という返事が返ってきた。
因みに俺は、この状態で『さらり』だと認知されているため、確認等はパスして中へ入れる。
逆になりすましなどされたら終わりな気がするが……多分大丈夫だろう。まず俺を四津さらりだとは思うまい。
それに受付といえど受付のプロだ。舐めてはいけない。はず。
俺達は二階まで階段で上がり、会議室の戸を叩く。
「どうぞ〜」
中から倉持さんの声が返ってきた。
「失礼します」
俺はバンッと戸を開け中へとズカズカと入っていく。後ろから美扇も入ってくるのを確認し、俺はそのまま倉持さんの前で止まる。
「えっと〜どうした?律くん」
「ちょっといいですか?」
「え?いいってどういう……」
「答えなくていいので取り敢えず外出ましょっか」
俺は親指でクイッと戸の方を指す。
そう。倉持さんに会ってまず第一にするべき事は、強・制・連・行☆だ。
「う〜じゃ、美扇ちゃんそこら辺適当に座っといてくれる?」
「え?あ、はい。……え?」
後ろにいる美扇は何が何だかと困惑しきっている。
「安心して、新田さん。五分で終わるから」
「え、それ本当〜?」
倉持さんが俺の方を疑わしげに見てくるが、そんな事は知らん。全ては倉持さん次第なのだから……。
「で?何故こうに至ったか経緯をどうぞ」
会議室から廊下に出た俺と倉持さん。
取り敢えず俺は倉持さんに一番気になっている事を聞く事にした。
「あは〜もう言う事分かっちゃってる感じ?」
「当たり前でしょう。こんなあからさまな呼び出し方して」
「そっか〜」
そっか〜じゃないんですけど。えらい呑気ですねぇあなた!
「ほら、早くなんで俺なのか話してくれます?流石に理由が納得できなかったらこの話は即刻パァなので」
「分かってる分かってる。コホン。私はね、美扇ちゃんに律くんを守ってもらおうと思ってるんだよ」
「守るぅ?」
おれは思いっきり首をかしげる。
なんだ?守るって。ボディガードか?実は美扇は強いのか?
「そう。守るっていっても、律くんの学生生活を、だけど。同じクラスとか、近いところに律くんの正体知ってくれてる人がいた方がいいと思うんだよ。美扇ちゃんなら律くんのいざという時に助け舟出してくれるはず!」
「はぁそうですか」
「それにこれは芸能クラスに行かなかった律くんの自業自得だからね」
「ま、まぁ…確かにそうですけど……」
う〜ん。確かに美扇ならうっかりはしなさそうだけど……。それに味方はいてもらった方が助かるけど……う〜ん。
「じゃ、律くんも承諾、というわけで!」
「え?いやまだ俺は何とも……」
「美扇ちゃ〜ん!」
倉持さんは俺の事をガン無視して会議室に戻っていってしまった。
俺も急いで中へ入るが、時すでに遅し。
「……てことで!美扇ちゃんは今日から律くん付きの見習いマネージャーです!」
「……は?」
美扇が意味が分からないといった風に反応する。
いやでしょうね!俺付きって言っちゃったらそうなるでしょ!じゃなくて倉持さんっ!!何勝手に発表してるんですかっ!!
「倉持さん……?」
「も〜いいでしょ?さっきも言ったけど律くんの自業自得だから」
「うっ……」
「あの〜話が読めないんですけど……」
美扇がそ〜っと手を挙げる。
「だから、美扇ちゃんはあの四津さらり付きの見習いマネージャーになったの!」
「へ??」
美扇が俺と丁度会議室にデデーンッと貼ってあった四津さらりのポスターを交互に見る。
「え…え……うぇえええええっ!?」
気まずい……。
俺はそっと目をそらすしかなかった。
美扇の目ん玉飛び出てポンッボタンは下のお星様でぇす。




