センセイとは……??
土曜日編は次回!!
「それじゃあ、また月曜に。朝にも言ったように、テスト勉強頑張れよ」
放課後。HRが終わると、俺はいつものように音楽室へ向かうために、テキパキと教科書類を鞄に突っ込み、それを肩に掛ける。
誰よりも早く教室を出る事に成功すると、そのまま廊下へ出た。廊下の先にははまだ上納先生の姿が見える。
そういえば、昨日の今日でもあるし、由紀の件で学校側はどうなっているのだろうか。
そう思い、俺は先生の元へ近寄った。
「上納先生」
「ん?あぁ、晒か」
意外にも軽めの返事が返ってきた。
昨日でもう上納の用は済んだことだし、今は特に追いかけてくることもない。今までにない程、俺の中では平和だった。
「で、何の用だ?」
先生は足は止めず、そのままで促してきた。
「学校、大丈夫ですか?」
「……というと?」
「昨日のゆ……弥生さんの件です。対応とか、忙しくないですか?」
「あぁ、それか。まぁ自業自得だし、仕方ないよ」
電話の内容でも思い出したのか、はぁ……と上納先生はため息をついた。
やはり、大変そうだ。
「……なんで矢嶋先生はまだいるんだよ」
「聞こえてんぞー晒」
小さい声で呟いただけのはずが、きっちり上納先生には聞かれてしまった。
無駄な所で地獄耳発揮しないでほしい。
先生はポンッと俺の背中を軽く叩く。
「それ、他の先生の前では言うなよ」
「別に先生にも言ったつもりないんですけど」
「あぁそうですかそれはゴメンナサイネ」
俺のその答えに、明らかに不満げな先生。
昨日言った事を気にしているのか、先生なりの『頼れる先生』をしてくれようとしているのかもしれない。
まぁ、俺が言わんとする事とはちょっとずれているが。
「ごほん。あとだな、別に学校側の事なんて気にすんな。さっきも言った通り、自業自得な事だしな。今は矢嶋先生もおとなしいし、またすぐに何かあるとかはないだろう」
「俺はあの先生がいる事に気が食わないんですけど」
「あ、今度こそはそれ私に言っただろ!?そう言う事は他の先生には言うなよ??」
先程とは打って変わり、興奮したようにそう言ってくる。
ついガキかよと言いたくなってしまったが……ステイステイ。
「言われなくとも、先生以外に話す他の先生なんていないんですから大丈夫ですよ」
「…もうちょっとだけ積極性つけたらどうだ……?」
「これが俺の限界です」
「芸能人がよく言うよ……」
こればっかりは、中学からこんな感じだし、もうどうしようもない。
実のところ、芸能の世界に入った時も交友関係など築くつもりもなかった。それどころか自分から挨拶すらもしていなかったのだが、倉持さんに襟を引っ張って強制連行されるので、渋々最低限のコミュ力を付けたのだ。それで友達になったのがカイや瑠衣。
そんなことをした所で、根は変わっていないので、結局こんなになっているのだ。
そう、そういえばもう一つ聞きたいことがあったのだ。
「ところで先生。昨日俺が『さらり』として出たのも数値に加算されてたりとかは……」
「するに決まってるだろ」
「ですよねー……」
「また後で確認しとけよ。……ていうかなんで残念そうなんだよ」
それだけ言うと、上納先生は階下へ降りて行った。俺はその後も真っ直ぐ進んで行く。
音楽室の前。戸を開いて中に入る。
一昨日ぶりの音楽室の空気を肺いっぱいに吸い込んでおく。
……特に他の場所の空気との違いは分からないが。
「…………何してるの?」
先に来ていた由紀に冷めた目で見られてしまった。
目に光が無いよー怖いよー。
「いや、音楽室の空気って、なんかそれだけでよくない?」
「ごめん。ちょっとなに言ってるか分からないのだけれど」
「いや別に分かってもらわなくても結構なんだけど、ていうか聞いて来たのそっちだよね?」
「何かいけないもの見た気分……」
「それはゴメンネッ!」
ふんっだ!由紀はまだピアノに対する愛が足りないっ!!愛が!!!
そんな事も言えず、すーっと由紀の横を通り過ぎ、室内にある机に腰掛ける。
「今日は弾かないの?」
「んー、それよりちょっとする事が……」
由紀が不思議そうに聞いて来た。
もちろん俺のする事と言えば、さっき先生が言った事の真偽を確かめる事だ。
支給された端末を操作して、俺のページに飛ぶ。すると、確かに前見た時より順位が浮上してしまっている。もちろん、きっちり数値も上がっていた。
「あぁ〜……」
俺の掲げる目標が遠のいて行くー。目立たず、ガリ勉というポジションは確立しつつ、ひっそり学生生活を謳歌するはずが……。
なぁんで首突っ込んじゃうかなぁ〜……。ていうかなんで芸能界なんて入ったのかね〜自分。
「どうかした?」
「いや、なんでも。あぁ、そうそう。しばらくそっちの家行けないけど、ごめんな」
「いえ、いいのよ。もう私の包帯も取れてるし、生活には支障はないから」
これから映画の撮影が入る為、学校を休む日も増えてしまう。その事を先に由紀に言っておこうと思ったのだ。
だが、なんだか由紀がもじもじしている……気がする。横髪を指でくるくるするなんて、普段の由紀ならしない。
「どうした?」
「えっ?えっと…迷惑じゃなかったら、ね?たまには家に遊びに来てほしいな〜と。ほ、ほら!咲達も喜ぶと思うし……!」
由紀が上目遣いでそう言う。
あれ、由紀ってこういうキャラだったっけ?
「別に、お邪魔じゃないのならいいけど」
「そ、そう!ありがと……」
そっぽを向きつつ髪をくるくるする事は止めない由紀。心なしか頰が赤らんでいる気がする。
熱か?熱でキャラ変でも起こしているのか?
「由紀、顔赤いけど大丈夫か?」
「えっ!?そ、そう、かな……?」
そう言って両手で頰を挟んで首を傾げている。
「あれ、ほんとだ、ちょっと熱い……」
ぼそっと何か言ったようだが、よく聞き取れなかった。
「熱か?」
ピアノの前に座る由紀の方に近づいて、彼女のおでこにてを当てる。だが、由紀が後ずさってしまい、しっかり確かめられない。
「……何してんの?」
「何…してるんでしょう……?」
「いや俺に聞かれても……」
取り敢えず、由紀の熱を計るのは諦めよう。
「風邪とかではないんならいいんだけど」
「ええ。別に体調が悪いとかではないのだけれど……」
「なら良かった」
まぁ、由紀の謎行動は何も良くはないんだが。正直そっちが心配だ。
でもそれは本人に聞いた方が早いだろう。
「……なぁ、由紀ってそんなキャラだったか?」
「いや、昨日もっと人を頼れって言ったのはそっちでしょう?」
「それとこれにどう言う関係が?」
「だから、もうちょっと我が儘になってみようかと思って……ダメ?」
「いや、別にダメとは言ってないけど……」
なるほど。この謎のキャラ変は俺が原因か。我慢しすぎて前みたいになるよりはいいが、慣れないな、これは。
「まぁいっか」
「何がよ」
「こっちの話」
俺は鞄を取って席を立つ。
「俺、もう帰るけど?」
「……そうね。私も今日は帰るわ」
「そうか?じゃあ、今日は弥生家に寄ってから帰るか」
「分かった」
それから俺達は音楽室を出ると、由紀の家に向かった。
美扇ちん、なんかズレてね??ボタンは下のお星になりますん。
ツイッター沢山のフォローありがとうございます!




