由紀の分まで 一
昨日は更新出来ずすみません!
ざまぁのところは一日に出した方が楽しいかな……と思いまして。
という事で本日は二本投稿します!
お楽しみに!
今日、俺はカイとは別々に撮影場所に向かった。
前話した通り、カイとはただの職場仲間という事を装ってもらった。
仲が良いと、相手に警戒されてしまう。
まぁ、それに今はまだ学校仕様という事も加味してだが。
現場に着くと、また倉持さんがこちらに駆け寄ってくる。
これはお決まりになっている。
「おはよ〜」
「おはようございます」
慇懃に礼をする。これもまた俺の中ではお決まりだ。
「今日は新人が来てるから。お願いね」
倉持さんが手を合わせてウインクしてくる。
「……分かりました」
いえ、分かってません。
申し訳ないですが、
今から潰しに行きます。
すると、後ろからあの憎き声が聞こえてくる。
「あれ、お前、あの地味男じゃねぇの」
……来た。
振り向きたくないっ…が、振り向くしかない。
そ〜っと振り向くと、やはりあの憎き矢嶋がいた。
顔だけの野郎め。
「…………ども」
「え……。ちょっと、顔怖いけどどうした?」
倉持さんが俺の耳に口を近づけて心配そうに聞いてくる。
「倉持さん、こいつの前でも、俺の事律って呼んで下さい」
俺も声を潜めて言った。
「え?あぁ。同じ学校だもんね」
倉持さんはそう納得したようだけど、本当は違うんだよな……。
どっちみち後で説明する事になるので、今は取り敢えず置いておこう。
「でー?なんで地味男がこんな所にいんだよ?」
「ちょっと矢嶋くん。その態度はないんじゃない?」
「あ?うるせぇばばあだな」
「ば……っ!?わ、私はまだピッチピチの三十ですけど……!?」
相変わらずな態度に倉持さんの顔も真っ赤になる。
その後も何とか言っていたが、矢嶋は無視して向こうへ行ってしまった。
すれ違いざまに少し肩にぶつかったが、そのままずんずん歩いていく横柄ぶりは最早流石だ。
「もうっ!何なのよ〜〜!!」
もう倉持さんは怒り心頭といった様子だ。
「倉持さん。何であんな奴がこっちに来れたんですか?」
これはずっと気になっていた事だが、聞く時間が無かったために聞けないでいたのだ。
「それがね〜あの矢嶋くんのお父さんが、うちに結構出資してくれててさぁ、もう勢いも凄くて断るに断れなく……」
「あぁ。流石、金だけはあるクソティーチャー……」
「え?何それ?」
「矢嶋先生のあだ名です」
ぶっ!と吹き出す倉持さん。
そんなに面白かっただろうか……。
いや、どちらかというとさっきの腹いせに笑っているのかも知れない。
だが、これはまた好都合。
矢嶋の方が金を出して無理くりこっちに入ったのなら追い出しやすい。
「倉持さん。会社の為にも矢嶋との契約、取り消していただけませんか?」
「え……?でもあのお父さんが……」
「その事を含め、根拠と一緒に撮影が終わったらお話ししますよ」
「そう……。分かったわ」
「出来れば編集長も……」
「それは無理ね」
ピシャリと言われてしまった。
流石に無理か。
「そう言えば、今日は新田さんは?」
ふと気になったので、美扇の事を聞いてみる。
「新田さんは、今日来てないわよ。マネージャー見習いって言っても、まだ誰に付くか確定してないから」
「…そうですか」
別にいつも来ている訳ではないのか。
それより、まだ誰にも付いてない……?ちょっと嫌な予感がするぞ……。
それはそうと置いておいて、俺は専用の控え室に入った。今日だけ特別に別の部屋を用意してもらったのだ。
カイは矢嶋もいる控えなので、ちょっとだけ罪悪感だ。
心の中でカイに謝り、メイクさん、衣装さんにされるがままになる。
その後小一時間程したら、俺は控え室を出た。
まずは今日の撮影をこなさなければならない。
〜〜〜〜〜〜〜
撮影の合間に、カイが宣伝する記事を書いてくれる様に頼み込んで「土下座するからっ!」とまで言うという珍事件意外には特に何もなく、撮影は終了した。
何がカイをそこまで真剣にさせているのかは謎だが、カイなりの事情というものがあるのだろう。
そして今俺は、控え室で矢嶋を待っている。
カイや他のモデル達には早めに帰ってもらい、もうここに残っているのは俺と矢嶋、その他の関係者の方々だけだ。
すると、ドアが勢いよく開いた。
「あれ?もう誰もいねぇ……あ、お前、この前の有名人じゃん、すか」
なんだその口調。
一応「さらり」に対しては敬意を払っているのだろうか。
「お疲れ様!皆んなはもう帰っちゃったみたいだよ〜」
俺はいつもの俺とは似ても似つかない明るい声で矢嶋と接する。
俺はいつものオフの俺と、今の様な仕事中の俺では声が驚くほど違う。
もう慣れたので自然にオンとオフで声が変わってしまうのだが、初めの方は苦労した。
身バレが一番嫌だったため声を作るのをとにかく頑張った。
その努力の甲斐あり、今の状態になれたのだが、なここの友達の彩には何故か通じなかった。
いや、あれは本当に謎だ。
「ふ〜ん。そうすか。で、あんたは何でいんの?」
「俺は君の面倒を見るように!って言われてるからさー」
ここでビジネススマイル炸裂っ!
「別に大丈夫だけど。ま、いっか」
矢嶋はそう言うと服を着替え始めた。
俺は話しかけ続ける。
「そう言えば矢嶋さん、この前生意気な奴がいるって言ってたよね?」
「あぁ、そんな事あったすね〜」
「それってもしかして、弥生由紀だったりする?」
「……何でそれを?」
「お!ビンゴッ!!」
俺は指をパチンとして見せる。
さぁ、食いついて来た。
今からゆっくり、腹わたを引きずり出してやろう。
「実は俺も、弥生由紀にはムカつく事があってさ〜。君と俺は仲間だね」
もちろんこんな事は嘘だ。
由紀にムカつく事など一度もない。が、意外と同じ考えの奴には同調する傾向があるものだ。
「ふぅん。どんな?」
矢嶋が聞いてくる。
「俺、一回だけコンクールに出た事があるんだけどさ、その時、あいつ何て言ったと思う?」
「『貴方の演奏は全く心に響かない。ただの馬鹿が弾いただけに過ぎないわ。もう辞めたら?』って言ったんだよ。ほんと生意気だよな」
俺は表情を暗くする演技をする。
「俺も似たような事だな」
矢嶋はそう言ったが、こんなの嘘だろう。
こいつの動機なんて高が知れている。どうせ『俺を差し置いて良い賞を取りやがるなんて生意気だ』って感じだろう。
くだらない。
だが、親があれでは仕方がない。
「そうなんだね。それでそれで?弥生由紀と同じ学校なんでしょ?何やったの?もしかしたら俺も協力できるかもよ」
「どうやって?」
「君にもっと仕事を増やしてあげられる」
そう言うと、
権力や地位に溺れた鴨はーーー
やはり食いついた。
その時、元からポケット突っ込んでいた手をゴソゴソと動かしておく。
「ただピアノの蓋落としてやっただけっすよ。ま、結果直撃は失敗して、勝手にこけて怪我しやがっただけだけど」
「ふ〜ん。そっか。それはそれはーーー最低だね」
「……は?」
矢嶋は意味が分からないといった様子でこちらを見て来た。
「だから、最低だね、君は」
「……どう言う事だよ、あぁ?」
一気に口調が荒くなりだす。
ただ事実を言っただけなんだが。
「いやいや本当、貴方が馬鹿で助かりましたよ。先輩」
そう言って俺はポケットからレコーダーを取り出す。
「本当に、ありがとうございました」
満面の笑みでそう言ってやると、矢嶋は血相を変えてそれに飛びついて来た。
が、俺はそれをかわす。
「良いんですか?俺の事、怪我でもさせたら大変な事になりますよ?」
いつのまにか学校モードの俺に切り替わる。
「っ……お前っ!!あの地味男だなっ!!!」
「そうです。そんなただの地味男に騙された気分は如何程で?」
「ふ、ふざけるな!!!!!それを早くよこしやがれ!!!!!」
「嫌ですね」
俺はさらに追い討ちをかける。
「矢嶋先輩。残念ですけど、もう諦めてくださいね」
「はぁ?」
「もう……貴方に居場所なんてないんですから」
「どう言う事だよ!」
「はぁ、ギャーギャーうるさいですよ。だから……まあいいです。学校、来れるといいですね」
俺はそれだけ言うと、控え室を出て行った。
後ろからまだ何か騒ぎ立てているが、そんな事無視だ。
俺は上機嫌で倉持さんが待つ部屋まで向かった。
それにしても、由紀にあの矢嶋の顔を見せてやれなかったのは残念だ。
そして本番はまだまだここからだ。
矢嶋その一ざまぁボタンは下のお星様になりますっ♪
次はもっとざまぁ展開です。
決着の時!!
それと毎度毎度誤字報告ありがとうございます!
誤字ばっかで申し訳ないです…。




