キューピッドさんにフォローされると死ぬ
「キューピッドさんって知ってるか?」
「…………は?」
「おかしなもの見る様な目で見んな」
学食でうどんをすすっていると友人である佐藤涼太がおかしなことを言い出した。
まぁ、おかしいのはいつもの事だけど。
「それより次の講義の課題なんだけどさ」
「おい。なかったことにすんな」
「だって興味ないし。ソシャゲかなんかのキャラ?」
「ちげーよ」
「へぇ、そうか。じゃあ次の講義の課題の話なんだけど」
「ちょっとは興味持てよ!」
ガタッと小さくない音を立てて勢いよく涼太が立ち上がる。
そのせいでちょっとスープがこぼれた。
「分かった聞くから。聞くから落ち着け」
それなりに長い付き合いだから分かる。
これは聞かないわけにはいかない感じだ。
「それで? 何の話だっけ?」
「……これ、知ってるか?」
そう言って涼太が見せてくるのはスマホの画面。
そこにはスマホを持っている人間なら入れていて当然とすら言われるほどに人気のSNSアプリのアカウントが映っていた。
「……SNSか? 知ってるだろ。俺がそういうの好きじゃないの。フォローとかフォロワーとかめんどくさそうだし。そもそも呟きたいこととかないから」
「いや、別にお前にやれって言うつもりはないから。というか俺だってお前がそういうの嫌いなのは知ってるから。俺が言ってるのはこのアカウントのことだよ」
「アカウント?」
言われてもう一度画面を確認する。
アカウントの名前はキューピッドさん。丸っこい枠の中に角を生やし背中には羽を生やした明らかに人外の女の子が真っ白のワンピースを着て弓を持ったイラストがある。これがキューピッドさんのイメージだろうか。
「可愛いけど壁だな」
「どこ見てんだよ。ここだよここ」
涼太が何も言わないので感想を述べてみたけど、どうにもお気に召さなかったらしい。
なのでここだと指さされた場所を改めて見る。
そこには自己紹介のようなものが記されていた。
「……なんだこれ」
どういう生き方してたらこんなメルヘンチックな自己紹介が書けるんだろうか。
それが最初の印象。
くどすぎて本当に日本語かどうかも怪しかった。
それでも読まないわけにはいかないから吐きそうなのを我慢しながらなんとか読み進める。
このアカウントにフォローされると恋人ができるらしい。
「…………そんなことあってたまるか」
「そう思うよな。……でも、それマジなんだよ」
「……はぁ?」
「今までフォローされた人たちみんなそのあと一月もしないうちに恋人が出来てる」
「……サクラだろ」
キューピッドさんのフォローしている人数は125人。
そうでもないと考えられない。
「俺も最初はそう思った。けど……これ」
また別のアカウントを見せられた。
「これって……明の……?」
「うん。あいつ、二週間前にキューピッドさんにフォローされてさ」
同じゼミ生の斎藤明。
そいつのアカウントだった。
涼太がスクロールしていくと出てきたのは二週間前にキューピッドさんにフォローされたと騒いでいるツイート。
「んで、先週めでたく彼女が出来ましたとさ」
「……あれ? あいつ、女が自分のこと放っておかないとか言ってなかったっけ?」
別に仲が良いわけじゃないから詳しくは知らないけど、友達の彼女寝とったとか常に三人はキープしてるとかろくな噂を聞かない奴だった気がする。
「そうだな。だから、これでキープが四人になったわけだ」
「うへぇ」
そんな男の何がいいのやら。顔か。
たしかに顔は良いから仕方ないか。
いや、でもどうなんだろう。
いくら顔がよくても他人から恨み買うのはな。
「…………まぁ、死んだんだけどな」
「改めてそういう話があったんだって聞くとやっぱりついてないな」
明は死んだ。
つい四日前の話だ。
自殺だとか。
まぁ、明を知っている者の間では、特に根拠があるわけでもなくその数日前に寝とった女の元恋人に殺されたんじゃないかなんて噂が広まっているけれど。
「俺さ。それでちょっと気になることがあって調べてみたんだ」
「ん?」
「これ。明が死んだくらいの時間帯に投稿したキューピッドさんのツイート」
これで永遠に愛し続けることができるね!やったぁ!!
見せられたのはそんな内容だった。
その十分くらい前に自分がフォローした人の恋人ができたって報告にリツイートをしていたからきっとそれに対しての祝福みたいなもんなのだろう。そのツイートに対しての返信もそういう捉え方をした人たちの返信で溢れていたし。
「別におかしなとこはないな」
「…………死ねば永遠に愛し続けることができるんじゃないか?」
「んな無茶苦茶な」
「前にも同じようなツイートがあったんだ」
二人の愛は永遠に!やったぁ!!
「フォローされている人同士で付き合ってるパターンがないか探した。一組だけ、キューピッドさんのこのツイートのあとどちらもアカウントが動いていないカップルが居た」
「…………」
「その人達の過去のツイート漁ったりしてどこら辺に住んでるのか、どんな仕事をしてるのか、どんな生活送ってるのか、とにかく集められそうな情報はできるだけ集めた。二人とも頻繁に呟いてくれてたおかげで結構色々分かったよ。写真なんかがあると尚更特定しやすいし」
「怖っ。ストーカーじゃん」
どんだけ時間費やしたらそんなこと分かるんだよ。
「俺は知らない人たちだったけど、俺達と同じ大学の学生だった」
「……」
「二人とも同じ時間に同じ場所で死んでた」
「……」
「自殺だってさ」
新聞記事の切り抜き。
極々小さい欄ではあったが、それについて書かれていた。
「……偶然だと思うけどな」
「まだ、調べがついていないだけで他のツイートも人の死と関係しているかもしれない」
「……」
「…………俺も、フォローされてるんだ」
「……っ」
「俺は……死にたくない……っ」
「……」
偶然だ。常識的に考えてそうに違いない。
でも、それを言ったところで本人は納得しないだろう。
蚊帳の外の人間に言われたところで納得なんてできるはずもない。
「……まぁ、あれだ。相談くらいはのってやる」
だから、そんなことしか言えなかった。
◇◆◇◆◇
「……」
「……これはえぐいな」
一週間も過ぎるころには涼太も落ち着くと思っていた。
なんならキューピッドさんの事も忘れてると。
涼太が落ち着くどころか、キューピッドさんの真相を解明したとかいう仰々しいツイートがバズっていた。
その内容は大まかには涼太が俺に話したような内容と一緒。
ただ一つ違うのはキューピッドさんは『死神』に違いないということが追加されている点。
返信欄を用いてつらつらと説明がされている。
俺の見た感じだとこじつけにこじつけをこじつけたといった感じで根拠のある話にはとても見えなかったけれど、返信欄を見た感じだと賛同している奴が多い。
実際に人が死んでいるというのはやはり説得力があるのだろうか。
そのツイートの他にもちょくちょくキューピッドさん関連のツイートが出てきているようだし。
「俺……」
「んな顔するなって。そもそもこのツイートが本当なんて保証はどこにもないんだから」
「でも……また、死んだんだ」
「世界規模で見たら一日に何人死んでると思ってんだ? たまたまその内の一人がキュービッドさんにフォローされてたってだけの話だろ」
今回死んだ人は自殺ではなかったらしい。
不幸な事故にあったとかいう真偽の判断のつかない情報が出回っていた。
「キューピッドさんにフォローされてる人が偶然事故にあって、事故にあった頃に意味深なツイートがされるのがたまたま?」
「…………たまたまだよ。……たまたま」
偶然が重なったというのはたしかにある。
けど、所詮は偶然だ。悪い偶然だ。
だから、放っておけばいつかは治まる……はずだ。
◇◆◇◆◇
キューピッドさんのことを涼太から聞いてから一カ月。
キューピッドさんのことがニュースになった。
呪われたアカウントだとかなんとか。オカルトを面白おかしく紹介してるといった感じだった。
ただ、その間にもやっぱり死人は増えていた。
その数は十人。多い少ないの話になると個人の主観の問題になるとは思うが、その誰もが事故死や自殺だった。
時が経てば経つほどに涼太はやつれていっている。
たぶん眠れていないし食事もまともに取れていない。
そんなに不安ならいっそキューピッドさんのアカウントをブロックしてみてはどうかと提案したが撥ね退けられた。
キューピッドさんがある時期からフォローする人間を増やし始めた。
その頃にはキューピッドさんの正体についての考察のようなツイートも増えていて、キューピッドさんのことを知っている人はそれ以前と比較するとかなり増えていた。
その中の一人が考えた。キューピッドさんをブロックすればフォローされなくなるんじゃないかと。
結果は失敗だった。
ブロックしようとしたその瞬間、その人はフォローされてしまったのだ。
それでもブロックを試みようとして音信不通になった。
その話はSNS上で瞬く間に広がり、今ではキューピッドさんをブロックしようとする人なんて一人もいない。
だから、そんなことはできない。
そう涼太に撥ね退けられた。
その三日後、涼太から連絡がきた。
「もう大丈夫になった」
たしかに声は元気だった。
でも、たかが三日で何がそこまで彼を変えたのだろうか。
答えは会ってみてわかった。
「キューピッドさんから守ってくれるお守りなんだってさ」
涼太が言うには、そういう胡散臭い物はいくつも売られているらしい。
ただ、その中でも涼太が買ったそれはどこよりも最初にお守りを売り始めていてその品質も数量を限定するほどたしかなものらしい。
そんなものが効くわけないとは思うけど、キューピッドさん対策のお守りはあちこちで売れているらしい。
それにこういうのは信じる心って奴が大事なのだろう。
涼太の落ち着いた顔を見ていると心底そう思う。
ひとまず、これで俺の周りのキューピッドさん騒ぎは収束しそうだ。
◇◆◇◆◇
キューピッドさんの中の人は誰か。
呪いだとか悪魔だとか死神だとか。そんな話よりもよほど可能性のある話。
キューピッドさんの中の人は誰か。
もし、最初から俺が乗り気で涼太の話を真面目に聞いていて涼太がお守りになんて頼らなくてもいいくらいの精神状態で居られたならこうならなかったかもしれないという仮定の話。
キューピッドさんの中の人が死んだ。
名前は前田蓮。同じ大学の奴で去年は同じゼミだった。
アカウントを動かしていることがバレて追い詰められて自殺したらしい。
だから、実際のところキューピッドさんの呪いとやらがどこまで本当なのかは分からずじまいだ。
けど、そんなのは俺にとってはどうでもいい。
何度か話したことはあるけど、常に人を見下しているというのが漏れ出ているような嫌な奴だった。
そんな奴が死んだところで特に何か思うことがあるわけでもない。
それよりもよほど重要なことがある。
涼太が死にかけた。
呪いとか不運な事故とか、そんな胡散臭いものではない。
人間に殺されかけた。
キューピッドさん対策のお守りを奪うために。
涼太を襲った奴はすでに捕まっていて、ずっとお守りを握っていたらしい。
あとから分かったことだとそいつはキューピッドさんにフォローされていて、お守りを買おうとしたけど手に入らなかったとか。
だから、手に入れた涼太から奪うことにした。
…………こんなことになるなんて思わなかった。
ちょっとした好奇心で、ちょっとした小遣い稼ぎができればそれでいいと思っていた。
そもそも、成功するはずがないと思っていた。
きっかけはちょっとした妄想。
ガラクタを金塊に変えるにはどうすればいいか。
ガラクタに価値を持たせてやればいい。
ただの布切れを呪いから身を守るお守りにすればいい。
呪いを作ろうと思った。
内緒で使ってるSNSにフォローすると恋人ができるというアカウントがあった。
これは使えると思った。
こちらからフォローしてそいつらに恋人ができれば信憑性を持たせることができると思った。
恋人のできそうな奴を狙ってフォローすればいい。
大学内でそういう話を聞く奴、SNS上で情報を垂れ流している奴。
目星はいくらかついていた。
恨みを買っている奴も呪いを作るには必要だった。
そいつが死んで、大体その時間帯に意味深なツイートをしておけばやがては誰かが気付くだろう。
そして、都合よく解釈するためにあれこれ理由づけを勝手にしてくれる。
推理小説や自殺に見せかけた殺人の話。
酷似した状況を作り上げて犯人役となる恨みを持った人間にトリックと恨みが殺意に変わるような言葉を与える。
例えば、彼女を寝取られた奴に「あいつ、もう飽きて別の子狙ってるらしいぞ」とか。
そんな風にして呪いを作る。
机上の空論だしうまくいくなんて初めから思っていなかった。
人が人の事をこんなに簡単に殺すなんて思ってなかった。
俺が実際に行ったのは、実行犯になるのは勘弁だったので前田に世間を騙して遊ばないかと持ち掛けてアカウントを作らせたこと、最初の十数人のフォローする相手の選別、それから犯人役になるかもしれない何人かの人間におあつらえ向きなトリックと背中を押す言葉をかけるといったことだけ。
こんな騒ぎになるなんて思ってもみなかった。
怖かった。
でも、同じくらい楽しくて仕方なかった。
俺は何もしていないのに勝手に盛り上がって勝手に無責任にキューピッドさんの考察が進んでいった。
俺の想像していた以上に呪いは強力な呪いになってしまった。
それが嬉しくて楽しくて仕方なかった。
だから。やめられなかった。
お守りも「このくらいの金額になったらなぁ」なんてありえない皮算用をしていた何倍もの値段で売れた。
誰よりも早くに売り始めて、数を限定したのも効果があった。
ただ、人を殺してでも欲しいと思うほどの価値が生まれるなんて思ってもなかった。
「……ごめん」
今は後悔しかない。
俺がもっと早くにやめていればこうはならなかった。
せめて涼太にだけは話しておくべきだった。
『~~♪』
通知が鳴った。
普段使わない方の、SNSを入れている方のスマホの通知が鳴った。
病院の中だからマナーモードにしてるつもりだったのだけど。
《キューピッドさんにフォローされました》
「…………は?」
今は後悔しかない。
やめておけばよかった。
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今は後悔しかない。
俺は一体、何を作ってしまったのだろうか。
ツギハアナタのバンだヨ!!ヤッタぁ!
展開が二転三転するホラーが書きたかったんですけど、難しいですね。




