泣けない死神
長い睫毛に一滴、雫が伝うのを見て綺麗だと思った。
ぽろぽろと溢れるそれを拭うこともせず、目を伏せ泣いている君が、羨ましいとさえ思った。
君に触れたいのに、指一本動かない。
君と話したいのに、唇だけでなく表情筋さえ仕事をしない。
君と共に在りたいのに、それは叶わない。
激しく打ちのめされるような想いが僕の中をぐるぐると駆け巡り、どろどろと浸食していった。
こんな気持ちは知らない。知りたくなかった。
物語が終わりを迎えれば、本は閉じられ本棚に仕舞われる。
もう開かれることはない。
それでいい。
哀しいとはなんだろう。辛いとはなんだろう。
僕のこの気持ちはどこへいくのだろう。
ただ君は、ただ君だけは。
瞼が重くなっていく中、君にこれから訪れるであろう幸福を、遥か先の未来を、ただただ想った。