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おまけ。実はこの話は。

「で、その後もなんやかんやいろいろと、紆余曲折あって。ご先祖様が良善様と結ばれて。あたしたち田山家があるって話なんだ」

 ふぅ、と溜息をついている少女が一人。しかしこの少女、普通ではない。

 

 尖った獣 ーー狐の耳と、大きくてふわふわしてそうな尻尾を一本持っている。

 彼女の名前は田山つづら。今の話の通り、おこんと田山良善が結ばれた結果生まれた、人と妖怪狐のハーフ。その九代目である。

 

 

「つづら。いくら俺がちょーっとばっかし、妖怪としてこの彩化子あやかし町について興味持ち始めたっつってもさ。そんな先祖ののろけ話聞かせるのもどうなんだよ?」

 

 こちらは、話し終えて満足した疲労感ではない、純粋な疲労感ではぁと溜息一つ。緑色の、葉っぱのような団扇を手持無沙汰に仰いでいる、黒い翼を一対持つ少年。

 

 この少年の名は天狗翔也そらいぬしょうや。天狗の一族の末裔であり、去年から今年にかけてのカウントダウンイベントでこの町に対する見方を変えた少年である。

 

 

「まあまあ翔也さん。いいじゃないですか」

 そう宥めている少女には、頭に二本の角がある。鬼野おにのいかり。 年末の一件以後、いつも紅白の巫女服を着ている、見た目にとても縁起のいい鬼娘だ。

 

 ここ、田山家にお邪魔しているのには、翔也に改めてこの町について知ってもらいたいのと、翔也とお散歩デートしたかった、と言う二つの理由のためである。

 

 が、この幼馴染の二人。はっきりと恋人宣言をしているわけではなく、さりとて二人ともお互いを思っていると言う関係である。

 

 

「つづらさん。ってことはですよ?」

「どしたのおきぬちゃん?」

「ここって。昔は妖狐きつねさんばっかりだったんですか?」

 

「そうみたい。今じゃ様々いろんな妖怪が住んでるけど、昔はお狐町 なんて呼ばれもしてたみたいだよ」

「それはそれですげーよな。妖狐の集まる町ってのもさ」

 

「そうだね。それからこうして、二人も含めたいろんな妖怪が集まって今みたいな、にぎやかな妖怪町になった。奇跡の町、だよね」

 

 何度も頷きながら言うつづらに、たしかになと頷く翔也。そうですね、とうっとり言うのはおきぬちゃんこと、いかりである。

 

 

「あ、そうだ。なぁ、なんか食い物ないか? のろけ話聞いてたら腹減っちまった」

「ちょっと翔也さんっ」

 図々しいですよ、と言う意味をこめた小さな注意の声。しかし、つづらはいいよいいよと笑いながらいかりを宥めた。

 

「そうですか?」

 いまいち納得できていない、そういう表情と声で返したいかり。

 

 そしたら。

 

 グウウウウ

 

 控えめに鳴るいかりのお腹の虫。クスクス笑う翔也とつづら。

 顔どころか体中真っ赤になるいかり。

 

 それを見て、

「赤鬼だー! 赤鬼が出たぞー!」

「豆もってくるね~!」

 とからかう二人。

 

「うぅぅ、ひどいです二人とも」

 しょんぼりしてしまったいかりに、ハハハと笑うだけの翔也。そして既に豆を取りに向かったつづら。

 

「あっ、いけない。つづらさーん!」

 慌てて呼ぶ。

「なーにー?」

 

 

「あのー! お願いですから。お願いですから、大豆そのまんまはやめてくださいよー!」

「はーい!」

 と、遠距離会話した二人である。

 

「さぁて。どんな豆が来るんだろうなぁ」

 クックックと、なおも楽しそうな翔也に、

「大丈夫です。つづらさんなら、つづらさんなら絶対に」

 と右の拳を握りしめるいかりなのである。

 

「ほーい。お豆腐持って来たー」

「ほら、大丈夫じゃないですか」

「でしたねー。ちぇ、きぬに豆で大騒ぎしてもらうのは来月かー」

 

 豆腐の盛られた小鉢が置かれるのを見ながら、二人はそんな他愛のないことを言い合う。

 

「鬼って損だよねぇ。絶対に二月に豆投げつけられるんだもん。いやなものガンガン投げつけられなきゃいけないって、やだろうなぁ」

 

 そうですね、そう苦笑するいかりに、やっぱし と苦笑を返すつづら。

 

 他にもいろいろ持って来るから待ってて。そう言いおいて再びつづらは部屋を出た。

「あっ、まってください。お手伝いしますー」

 いかりも慌てて追いかける。

 

 

「え、えーっと。俺……どうしよ」

 立ち上がるタイミングを逸してしまって、翔也は一人 手持ち無沙汰に団扇で自分を仰ぐのだった。

 

 

「真冬……なんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

    ほんとにおしまい。

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